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2章3部 魔法使いの少女
トワとキノコ
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「みてみてー、いっぱいとれたよー!」
アルダの森での戦闘終了後、茂みの奥から飛び出してきたトワ。彼女は袋一杯に詰め込んだ薬草を、はしゃぎながら見せてくれる。
「おぉ、まさかあの間にここまで集めるなんて、やるなトワ」
「ほんと、トワ、すごいじゃない! これだけあれば、きっと依頼主も大満足よ」
今回、活発化した魔物退治の依頼と、さらに薬草集めの依頼も平行してこなしていたのだ。そしてトワが戦闘に参加していなかったのは、役割を分担していたから。先ほどの魔物はシンヤとレティシアで十分倒せる相手だったので、彼女には薬草集めに専念してもらっていたという。
「えへへ、あっちの茂みの奥にいっぱい生えてたんだよ!」
「こんなにとるのを大変だったでしょ?」
「ううん、ぜんぜん苦には思わなかったよ。むしろ楽しくて楽しくて、ついつい熱中しちゃった!」
トワは両腕を胸元近くでブンブン振り、満面の笑顔を。
「ふふっ、トワは採取系の依頼の才能があるのね! アタシこういうちまちま集めるの苦手だから、すごく助かる!」
「ははは、オレもレティシアと同じタイプだ。これはもうトワにがんばってもらうしかないな」
「えへへ、任せてほしいんだよ! こうやってアイテム集めるの楽しいから、無限にできちゃうよ! もう四六時中、ずっとやっていたいぐらい!」
胸をポンっとたたき、自信満々に宣言するトワ。
「なんて頼もしいんだ。ただ勇者としては、少しどうなんだって話だが……」
「――うっ……、だって、だって、わたしゲームは攻略するより、アイテムや素材を集めまくるのが好きなタイプなんだもん! だからいざ実際に冒険すると、その血が騒いでしかたないんだよ!」
シンヤのダメ出しに、トワが必死にうったえてきた。
「まあ、それならしかたないか」
「だよね! あ、そうだ! これみて! さっきレティシアさんに教えてもらった食べられるキノコも、ついでに集めといたんだ!」
トワが別の袋を見せてくれる。そこにはおいしそうなキノコがいっぱい入っていた。
「ほんとだ! しかもどれも立派で食べごろのやつばかり! さっすがトワね!」
「えへへ、あとね!」
なにやらもったいぶった笑みを浮かべながら、茂みの奥へ入っていくトワ。
「――じゃじゃーん! ほかにもきれいでおいしそうなのも集めといたよ!」
そして彼女は両腕いっぱいにキノコを抱えて、戻ってきた。
そのキノコはきれいな水色だったり、オレンジ色やピンク色だったり。どれもあざやかでとても立派な代物である。
「あれ、トワ、これ食べたらやばいやつ」
レティシアがトワの抱えているキノコを一つ取り、さらっと伝える。
「え?」
「あとこれも、これも、これも」
それからレティシアが次々に別のキノコを指さし、仕分けを。
これにはだんだん顔色が青ざめていくトワ。
「え? え? じゃあ、もしかしてここにあるの全部……」
「残念だけど、やめといたほうがいいよ」
「ウソ!? 絶対レアものだって、張りきって集めたのに!?」
トワは膝をついて、がっくりうなだれてしまう。
よほど食べるのを楽しみにしていたのか、ショックの勢いがすごかった。
「確かにおいしそうには見えるんだけど、毒とか副作用あるやつばっかりだから。冒険者が現地調達したキノコを食べて、大変な目にあったって事例が多いから気を付けてね。街に戻ったら植物図鑑貸してあげるから、それで勉強しよっか」
レティシアはトワの肩に手をおき、やさしく笑いかけた。
「――う、うん……」
「そうだ! せっかくトワがとってきてくれたことだし、さっそく食べましょうか! 調理するからちょっと待っててね!」
シュンとするトワに、レティシアが励まそうと粋な提案を。
「わー、いい香りー、レティシアさん、まだ? まだー?」
トワが焚き火の前で、今か今かと待ちわびている。火の中には串に刺されたキノコと干し肉があり、いい香りをただよわせていた。
彼女の先ほどの落ち込みようは、レティシアのフォローにより無事解消されたらしい。あれからレティシアが慣れた手つきで焚き火を用意し、調理してくれているという。
「ちょっと待ってね。うん! そろそろいいかも! はい、キノコと干し肉の串焼き! 熱いうちに食べて!」
レティシアがいい出来だと満足げにうなずき、シンヤたちへ勧めてくれる。
料理はトワが取ったキノコと持ってきていた干し肉を使った、串焼きだ。
「わぁー、おいしーい!」
「おぉ、うまいな。レティシアもサクリみたいに、料理できるんだな」
キノコの串焼きをトワと堪能する。
味は素材を生かした見事な一品。さらに自然いっぱいの中で食べることもあり、よりおいしさを感じられる。これならいくらでも腹に入りそうだ。
「ありがと。でもこれなんて素材を串に刺して、調味料かけて焼いただけよ。だれだってできるサバイバル料理だし、そこまで威張れるものじゃないから」
「いやいや、作ってるときの手際、すごくよかったぞ。味つけも絶妙だし、十分誇っていいって」
「そ、そう? ふふっ、ありがと!」
レティシアがテレくさそうにほおを緩める。
「それに焚き火とかもさくっと作ってさ。見ていてすごく勉強になったよ。やっぱ冒険するなら、こういうサバイバル技術は会得しとくべきだよな」
「確かに覚えといて損はないよ。冒険がすごく快適になるし、なによりいろいろやれて楽しいひとときを過ごせる。冒険者の中にはそういった自然の中を満喫するのが醍醐味って人も、けっこういるしね!」
「ちなみにレティシアは?」
「ふふっ、わりとそっち系かも! だからアタシと冒険するときは、外でしか味わえないステキな体験をいっぱいさせてあげる!」
レティシアが手を差し出し、得意げにウィンクを。
「わぁー! すごく興味あるー!」
「ははは、オレたちのパーティに、ぜひとも入ってほしい人材だ」
楽しい冒険ができると、トワと一緒に目を輝かせる。
「ふふっ、なんだか乗り気で、うれしい限りね! うーん、もし時間に余裕があるなら。川で魚を釣って、その場で焼いて食べたりとかしたいんだけどねー」
「おぉ、魚釣りとは定番だな」
「一回、やってみたかったやつだー!」
「自分たちで釣った魚を、新鮮なうちに食べるのは格別よ! ちなみに釣りはアタシの得意分野の一つだから、レクチャーは任せといてね!」
レティシアがガッツポーズして、頼もしい宣言を。
「そのときはリアちゃんも参加させてあげないとだね!」
「そうだな。きっと喜ぶと思う」
「リアちゃん?」
「うん、実はわたしたちのパーティにリアちゃんっていう、10歳の女の子がいるんだ」
「今はちょっと別件で離れてるんだが、教会の方が落ち着いたらこっちにも顔を出せるようになるはずだ。たぶん協力者として、手伝ってもらう形になるだろうな」
「あっ、シンヤたちが絡まれたときにいた子ね! その子は冒険者にならないの?」
「ちょっと立場的な問題で、正式な冒険者にはなれなさそうなんだよな」
リア自身は乗り気だったのだが、教会側に止められてしまったという。
「リアちゃんはすごいんだよ! なんたってあの封印の巫女なんだから!」
「封印の巫女って、邪神の眷属の封印を守ってるあの? すごい大物じゃない!? さすが勇者のパーティね……」
リアの素性を知り、畏怖の念を抱くレティシア。
「リアちゃんはあかるくて、とってもいい子なんだ! しかもかわいくてかわいくてたまらない、ステキな女の子なの! レティシアさんにも早く会わせてあげたいなー」
「あのときちらっとみたけど、確かにすごくかわいらしい子だった! あんな子をぎゅーと抱きしめて愛でれたら、ふふっ……」
トワの熱弁を聞いて、レティシアがなにやら悶え始める。
「おいおい、もしかしてレティシアもそっち系の……」
「はっ!? どういうの想像してるか知らないけど、アタシはいたって健全なやつだから! 女の子どうしのスキンシップよ、スキンシップ! ね、トワ」
レティシアは必死に抗議を。それからトワを後ろからぎゅーと抱きしめた。
「――そ、そうだね」
これにはテレくさそうにうなずくトワ。
「ふふっ、会うのがすごく楽しみになってきた! よーし、その子もふくめ、みんなを楽しませるプランをいっぱい考えておかないとね!」
そして拳をぐっとにぎりしめ、やる気に満ちあふれるレティシアなのであった。
アルダの森での戦闘終了後、茂みの奥から飛び出してきたトワ。彼女は袋一杯に詰め込んだ薬草を、はしゃぎながら見せてくれる。
「おぉ、まさかあの間にここまで集めるなんて、やるなトワ」
「ほんと、トワ、すごいじゃない! これだけあれば、きっと依頼主も大満足よ」
今回、活発化した魔物退治の依頼と、さらに薬草集めの依頼も平行してこなしていたのだ。そしてトワが戦闘に参加していなかったのは、役割を分担していたから。先ほどの魔物はシンヤとレティシアで十分倒せる相手だったので、彼女には薬草集めに専念してもらっていたという。
「えへへ、あっちの茂みの奥にいっぱい生えてたんだよ!」
「こんなにとるのを大変だったでしょ?」
「ううん、ぜんぜん苦には思わなかったよ。むしろ楽しくて楽しくて、ついつい熱中しちゃった!」
トワは両腕を胸元近くでブンブン振り、満面の笑顔を。
「ふふっ、トワは採取系の依頼の才能があるのね! アタシこういうちまちま集めるの苦手だから、すごく助かる!」
「ははは、オレもレティシアと同じタイプだ。これはもうトワにがんばってもらうしかないな」
「えへへ、任せてほしいんだよ! こうやってアイテム集めるの楽しいから、無限にできちゃうよ! もう四六時中、ずっとやっていたいぐらい!」
胸をポンっとたたき、自信満々に宣言するトワ。
「なんて頼もしいんだ。ただ勇者としては、少しどうなんだって話だが……」
「――うっ……、だって、だって、わたしゲームは攻略するより、アイテムや素材を集めまくるのが好きなタイプなんだもん! だからいざ実際に冒険すると、その血が騒いでしかたないんだよ!」
シンヤのダメ出しに、トワが必死にうったえてきた。
「まあ、それならしかたないか」
「だよね! あ、そうだ! これみて! さっきレティシアさんに教えてもらった食べられるキノコも、ついでに集めといたんだ!」
トワが別の袋を見せてくれる。そこにはおいしそうなキノコがいっぱい入っていた。
「ほんとだ! しかもどれも立派で食べごろのやつばかり! さっすがトワね!」
「えへへ、あとね!」
なにやらもったいぶった笑みを浮かべながら、茂みの奥へ入っていくトワ。
「――じゃじゃーん! ほかにもきれいでおいしそうなのも集めといたよ!」
そして彼女は両腕いっぱいにキノコを抱えて、戻ってきた。
そのキノコはきれいな水色だったり、オレンジ色やピンク色だったり。どれもあざやかでとても立派な代物である。
「あれ、トワ、これ食べたらやばいやつ」
レティシアがトワの抱えているキノコを一つ取り、さらっと伝える。
「え?」
「あとこれも、これも、これも」
それからレティシアが次々に別のキノコを指さし、仕分けを。
これにはだんだん顔色が青ざめていくトワ。
「え? え? じゃあ、もしかしてここにあるの全部……」
「残念だけど、やめといたほうがいいよ」
「ウソ!? 絶対レアものだって、張りきって集めたのに!?」
トワは膝をついて、がっくりうなだれてしまう。
よほど食べるのを楽しみにしていたのか、ショックの勢いがすごかった。
「確かにおいしそうには見えるんだけど、毒とか副作用あるやつばっかりだから。冒険者が現地調達したキノコを食べて、大変な目にあったって事例が多いから気を付けてね。街に戻ったら植物図鑑貸してあげるから、それで勉強しよっか」
レティシアはトワの肩に手をおき、やさしく笑いかけた。
「――う、うん……」
「そうだ! せっかくトワがとってきてくれたことだし、さっそく食べましょうか! 調理するからちょっと待っててね!」
シュンとするトワに、レティシアが励まそうと粋な提案を。
「わー、いい香りー、レティシアさん、まだ? まだー?」
トワが焚き火の前で、今か今かと待ちわびている。火の中には串に刺されたキノコと干し肉があり、いい香りをただよわせていた。
彼女の先ほどの落ち込みようは、レティシアのフォローにより無事解消されたらしい。あれからレティシアが慣れた手つきで焚き火を用意し、調理してくれているという。
「ちょっと待ってね。うん! そろそろいいかも! はい、キノコと干し肉の串焼き! 熱いうちに食べて!」
レティシアがいい出来だと満足げにうなずき、シンヤたちへ勧めてくれる。
料理はトワが取ったキノコと持ってきていた干し肉を使った、串焼きだ。
「わぁー、おいしーい!」
「おぉ、うまいな。レティシアもサクリみたいに、料理できるんだな」
キノコの串焼きをトワと堪能する。
味は素材を生かした見事な一品。さらに自然いっぱいの中で食べることもあり、よりおいしさを感じられる。これならいくらでも腹に入りそうだ。
「ありがと。でもこれなんて素材を串に刺して、調味料かけて焼いただけよ。だれだってできるサバイバル料理だし、そこまで威張れるものじゃないから」
「いやいや、作ってるときの手際、すごくよかったぞ。味つけも絶妙だし、十分誇っていいって」
「そ、そう? ふふっ、ありがと!」
レティシアがテレくさそうにほおを緩める。
「それに焚き火とかもさくっと作ってさ。見ていてすごく勉強になったよ。やっぱ冒険するなら、こういうサバイバル技術は会得しとくべきだよな」
「確かに覚えといて損はないよ。冒険がすごく快適になるし、なによりいろいろやれて楽しいひとときを過ごせる。冒険者の中にはそういった自然の中を満喫するのが醍醐味って人も、けっこういるしね!」
「ちなみにレティシアは?」
「ふふっ、わりとそっち系かも! だからアタシと冒険するときは、外でしか味わえないステキな体験をいっぱいさせてあげる!」
レティシアが手を差し出し、得意げにウィンクを。
「わぁー! すごく興味あるー!」
「ははは、オレたちのパーティに、ぜひとも入ってほしい人材だ」
楽しい冒険ができると、トワと一緒に目を輝かせる。
「ふふっ、なんだか乗り気で、うれしい限りね! うーん、もし時間に余裕があるなら。川で魚を釣って、その場で焼いて食べたりとかしたいんだけどねー」
「おぉ、魚釣りとは定番だな」
「一回、やってみたかったやつだー!」
「自分たちで釣った魚を、新鮮なうちに食べるのは格別よ! ちなみに釣りはアタシの得意分野の一つだから、レクチャーは任せといてね!」
レティシアがガッツポーズして、頼もしい宣言を。
「そのときはリアちゃんも参加させてあげないとだね!」
「そうだな。きっと喜ぶと思う」
「リアちゃん?」
「うん、実はわたしたちのパーティにリアちゃんっていう、10歳の女の子がいるんだ」
「今はちょっと別件で離れてるんだが、教会の方が落ち着いたらこっちにも顔を出せるようになるはずだ。たぶん協力者として、手伝ってもらう形になるだろうな」
「あっ、シンヤたちが絡まれたときにいた子ね! その子は冒険者にならないの?」
「ちょっと立場的な問題で、正式な冒険者にはなれなさそうなんだよな」
リア自身は乗り気だったのだが、教会側に止められてしまったという。
「リアちゃんはすごいんだよ! なんたってあの封印の巫女なんだから!」
「封印の巫女って、邪神の眷属の封印を守ってるあの? すごい大物じゃない!? さすが勇者のパーティね……」
リアの素性を知り、畏怖の念を抱くレティシア。
「リアちゃんはあかるくて、とってもいい子なんだ! しかもかわいくてかわいくてたまらない、ステキな女の子なの! レティシアさんにも早く会わせてあげたいなー」
「あのときちらっとみたけど、確かにすごくかわいらしい子だった! あんな子をぎゅーと抱きしめて愛でれたら、ふふっ……」
トワの熱弁を聞いて、レティシアがなにやら悶え始める。
「おいおい、もしかしてレティシアもそっち系の……」
「はっ!? どういうの想像してるか知らないけど、アタシはいたって健全なやつだから! 女の子どうしのスキンシップよ、スキンシップ! ね、トワ」
レティシアは必死に抗議を。それからトワを後ろからぎゅーと抱きしめた。
「――そ、そうだね」
これにはテレくさそうにうなずくトワ。
「ふふっ、会うのがすごく楽しみになってきた! よーし、その子もふくめ、みんなを楽しませるプランをいっぱい考えておかないとね!」
そして拳をぐっとにぎりしめ、やる気に満ちあふれるレティシアなのであった。
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