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   2章3部 魔法使いの少女

不思議な魔法使いの少女

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 シンヤたちは休憩後、アルダの森の出口にたどりついていた。しかしアドルフは今だ見つけられないまま。なのでもう一度Uターンし、アドルフを捜索しつつアルスタリアへ戻っていたという。

「直感的には、そろそろ会える気がするんだが」

 そして現在、シンヤはレティシアとトワとは別行動中。というのもなかなかアドルフが見つからない。なのでここはかつて牢屋から抜け出したトワを見つけたときのように、予知のスキルの直感を頼ってみることにしたのである。するとちょっとした手ごたえが。トワの時ほど確信めいたものはなかったが、とある方向へ進めばいい気がしてきたのである。とはいえその方向は出口側。なので再び戻らないといけなかった。しかも道沿いを外れ、木々の中をかきわけていく必要も。そしてここに来るまでにトワが結構疲れているのと、このまま寄り道してると陽が落ちる前にアルスタリアへ戻れない可能性が。それらのことを考慮し、シンヤだけで向かえばいいと判断。最悪徒労に終わろうとも、二人を巻き込まなければ問題ないだろうと。

「おっ、ここは……」

 木々をかき分け進んでいると、開けた場所にでる。
 そこは木漏こもれ日が降りそそぐ、ちょっとした花畑。そよ風が花木を揺らし、差し込む陽の光のおかげでとてもぽかぽか。こんなところで日向ひなたぼっこしたら、きっと最高だろう。

「うん? なにかある?」

 進もうとするが、ふと足を止めた。
 というのもすぐ目の前に、なにか違和感を感じ取ったから。どうやら予知のスキルによる危機察知能力に、なにかが引っ掛かったみたいだ。

「魔法によるトラップ? いや、だけどとくに危害はなさそうだけど」

 意識を集中し、直感を頼りにどういうものなのか見極めようとする。
 するとなんとなくだが、奥に進んでもとくに害がなさそうなのがわかった。

「結界とかなのかな。とりあえず先に進んでみるか」

 先ほどまでの直感。さらにこの先になにかあるかもしれないという好奇心もあり、シンヤは進むことにした。

「おっ、あそこにいるのはアドルフさんじゃ……、ないよな」

 開けた場所に入っていくと、人影が。一瞬アドルフかと思いきや、視界の先には女の子が花畑のところで横たわっていたという。
 
「寝てるだけだよな?」

 もしかして倒れているのかもと心配になるが、ケガはない様子。スヤスヤと気持ちよさそうに寝ているみたいだ。
 そんな少女はトワと同い年ぐらいだろうか。あわいピンク色の髪をした、あどけない顔立ちの女の子である。あと小柄こがらながらも出るところは出ており、かなり立派なものをお持ちという。リアに負けず劣らず、愛くるしい少女であった。

「一人みたいだし、とりあえず起こしとくべきか」

 辺りを見渡しても誰もおらず、彼女は一人みたいだ。このまま放っておいたら危ない目にあうかもしれないので、起こしてあげることに。

「おーい、キミ、こんなところで寝てると、危ないぞ」
「――すぅ……、――すぅ……」

 声をかけるが、起きる気配がまったくない。

「おーい、お嬢ちゃん」

 こんどは身体を揺さぶりながら起こそうと。

「うーん、あと5分ー」

 するとむにゃむにゃと、お決まりの言葉が返ってきた。

「これ5分後に起きないやつだ……。――はぁ……、なんか今朝みたいなことになってきたな」

 今朝のトワを起こしにいったときのような展開に、肩をすくめてしまう。

(にしてもまたえらくかわいい女の子だな。しかもスヤスヤとこんな無防備に寝てるなんて……)

 少女が熟睡していることをいいことに、思わずじろじろ見てしまう。小柄ながらなかなか大きい胸だったり、スカートのすぐ下のふとももの部分だったり。今ならなにをやってもいいのではという、よこしまな感情まで湧き出てくる始末。

(いかん!? いかん!? なに考えてるんだ!?)

 首をかぶり振り、煩悩ぼんのうを振り払う。

(とりあえずほおをつんつんして……、いや、見ず知らずの相手にそれはダメだろ!? 落ち着けオレ!)

 少女のやわらかそうなほおへ、無意識に伸ばそうとしていた手を必死に止めた。
 トワはまだ親しい間柄あいだがらゆえ、ちょっとしたいたずらといった感じで済ませられる。しかし相手が見ず知らずの女の子となると、さすがにアウトな気が。あと今朝レティシアにしかられたこともあり、ギリギリ踏みとどまれたという。

「まあ、ムリに起こす必要はないか。こんな幸せそうに寝てるのに、起こすなんてかわいそうだ」

 その場に座り込み、見張り役を買ってでることにする。
 もしなにかあった場合、シンヤがなんとかしてやればいい話。彼女には気が済むまで寝てもらおう。きっとそのうち起きるはずだ。

「――はぁぁ……、ここお昼寝するにはもってこいの場所だな。気持ちよすぎて、オレまで眠たくなってきた」

 木漏れ日に目を細め、あくびしてしまう。
 あまりのぽかぽか陽気に、頭がぼーっとしてきた。

「ふむ」

 そして気づけば少女の髪をやさしくなでてしまっていた。というのも寝ている少女があまりに愛くるしかったから。

「ふふ」

 すると少女はくすぐったそうにほほえむ。
 気持ち良さそうなのでもう少しなでることに。彼女の髪はすごくサラサラしていて、いつまでもさわっていたいほどだった。

「――うぅ……」

 そこへふと少女の目が少し開く。

「おっと」

 これには起こしてしまったと、手をひっこめる。
 だが少女は寝ぼけているのか、瞳が開いたり閉じたり。まだ意識がはっきりしていない様子。

「むぅ……」

 そして少女が瞳を閉じ切ったと思うと、不服そうにシンヤのズボンをくいくい引っ張ってきた。

「なんだ? あ、もしかして」

 彼女の頭を再びやさしくなでてあげる。
 すると少女は満足げにほおをゆるめ、眠りにつき始めた。
 さっきのはなでてほしいという催促さいそくだったみたいだ。どうやらシンヤのなでなでがお気に召してくれたらしい。

「ああ、なんか幸せな時間だなー」

 日向ぼっこしながら、寝ている美少女の頭をなでるというシチュエーション。この幸福な時間をかみしめずにはいられなかった。

(あれ? まぶたが……)

 そこへだんだん瞼が重くなり、うとうとしだす。
 そして気づいたころには、シンヤも眠りについてしまっていた。







「――うっ……、あれ……、オレは……」

 身体に少し違和感を感じながらも、目を開ける。どうやら少女のお昼寝を見守っている内に、シンヤも寝てしまったらしい。現在仰向あおむけの態勢で、寝ころんでいた。

「じー」

 そこでふとじっと見られていることに気づき、顔を視線のほうへ向ける。
 すると先ほど寝ていた少女が、座りながらシンヤを興味津々といった感じに見つめていた。

「――えっと……」
「よく眠れたー?」

 少女はかわいらしく小首をかしげ、たずねてくる。

「――ああ、ここすごく心地よくて、つい眠ってしまったみたいだ」
「わかるー。ここ日向ぼっこにも、お昼寝にも絶好のスポットー。ちょうどいい感じの木漏れ日に、吹き抜けるすがすがしい風ー。そこにお花畑のきれいな外観といい香りが加わり、日が暮れるまでずっといたいぐらいー。くす、しばらくここに泊まり込んで、存分に味わいつくさないとー」

 少女は瞳を閉じ、ぽかぽか陽気とほおをくすぐる風を肌で感じながら、どこかはずんだ声でかたりだす。

「気持ちはわからんでもないが、泊まり込むまでいくのか……」
「いおにとって、日向ぼっこはライフスタイルだからー。そうだー。あなたもいっしょにどー?」

 イオは寝転がっているシンヤの顔をのぞき込みながら、目を輝かせて問うてきた。

「――ははは……、ステキなお誘いだが、さすがに遠慮しとくよ」
「――そう……」

 彼女はシュンと肩を落としてしまう。
 その残念がりようから、よほど付き合ってほしかったみたいだ。

「ところでお嬢ちゃん、一つ聞きたいんだが……」
「お嬢ちゃんじゃないー。いお」

 問おうとすると、イオがまっすぐにシンヤを見つめげてきた。

「ああ、イオか。オレはシンヤだ、よろしくな」
「うん、よろしくー、しんや」

 満足そうにうなずき、ほほえんでくれるイオ。

「じゃあ、イオ、オレ今、もしかしてつかまってるのか?」

 実はさっきからずっとこの状態について、聞きたかったのだ。そう、シンヤは今だ仰向けに寝ころんだまま。それもそのはず現在シンヤは、魔法で作られたロープのようなもので上半身をぐるぐる巻きにされていたのだから。

「うん、いおがつかまえたー」

 対してイオはむふんと鼻をならし、得意げに答える。

「そうか、ちなみに解放してくれたりとかは……」
「むりー」
「――ははは……、で、ですよねー……」

 あまりの迷いのない即答っぷりに、もはや笑うしかなかった。
 おそらく今、不審者みたいに思われているのだろう。このままだと立場が危ないため、必死に弁解することに。

「――えっとだな。起きたらすぐそばに見知らぬ男が寝てて、不信がるのはわかる。だけどオレは怪しい者じゃないし、ちかってイオに変なことはしていない! ただオレはこんなところで女の子が一人寝てるのは危ないと思って、見張ろうとしてただけなんだ!」
「うん、知ってるー。しんやがいおの頭をなでて、見守ってくれてたのをー」
「そうなのか? じゃあ、この拘束こうそくを解いてくれても」
「でもだめー」

 シンヤのうったえに、イオは首を横に振る。
 もはや意味がわからない。不審者としての誤解が解けているのなら、これ以上つかまえている必要はないはず。ほかにどんな理由があるのだろうか。

「――ど、どうしてだ?」
「頭なでてくれてたでしょー。あれすごく夢心地で、やみ付きになるほどだったのー。あんなふうにだれかにやさしくされるのも、わるくないなーってー。だからしんやをつかまえて、飼うことにしたのー」

 イオが無邪気な子供のように目を爛々らんらんとさせ、興奮気味にかたってくる。そして不敵な笑みを浮かべ宣言を。

「ちょっと待って、イオ。前半はわかるんだが、後半が理解できないんだけど……」

 人に対して聞きなれない物騒な言葉に、困惑せずにはいられない。一体どこまで本気なのだろうか。

「うゆ? だからしんやには、いおのお世話をいっぱいしてもらうつもりなのー」
「えっと、こういうのって普通、飼う側がお世話するんじゃないのか?」
「そっかー。じゃあ、しんやにいおを飼ってもらうー。いっぱいかわいがってねー」

 イオは両腕を迎え入れるように差し出し、期待に満ちたまなざしを向けてきた。

「なんか頭が痛くなってきた」
「頭が痛いのー? よしよーし、いたいのいたいのー、とんでけー」

 軽く顔をしかめていると、イオがシンヤの頭をなでて心配してくれる。

「――あ、ありがとう」
「むふん」

 褒められて、誇らしげに胸を張るイオ。

「えーと、じゃあ、お世話するためにもこの拘束を外してもらわないといけないな」
「わかったー、今解くー」

 冗談のつもりでお願いすると、彼女は素直にうなずき拘束を解いてくれた。

「ほら、しんや、頭なでてー、なでてー」

 上体を起こしていると、イオが頭を差し出してくる。

「――あ、ああ……」
「くす」

 頭をなでてやると、イオはくすぐったそうに目を細め堪能たんのうし始めた。
 気恥ずかしさをごまかすためにも、なでながら質問を。

「イオは一人なのか?」
「そうだよー」
「それ、大丈夫なのか? もし寝てるところを魔物にでも襲われでもしたら」
「ここら周辺に対魔物用の探知結界を張ってたー。だからもし近くに魔物が来たとしても、すぐに気づけたよー」

 先ほどここに来るとき感じたのは、イオが用意した対魔物用の探知結界だったということ。用心はちゃんとしていたみたいなので、安心する。

「そっか。ところでイオはこの森には、なにをしに来たんだ?」

「アルスタリアに向かう途中ー」
「おっ、それはちょうどいいな。オレもこれからアルスタリアに戻るつもりなんだ。せっかくだし一緒にいこうか」

 立ち上がり、彼女へ手を差し出しながら提案する。
 イオをこのまま一人にさせるのは、なんだかいろいろ危なっかしくてみてられなかったという。

「わかったー、しんやについていくー」

 すると彼女はシンヤの手をつかんで立ち上がりながら、うれしそうにりそってきた。

「よし決まりだな」
「れっつごー」

 こうしてイオと交易都市アルスタリアへ向かうことに。
 ただここで少し思うところが。

「――うーん、とはいえ……」
「どうしたのー?」
「いや、あまりに素直について来ようとしたからさ。ちょっと、心配になってきた。いいか、イオ、世の中には悪い人もいるから、むやみに知らない人についていっちゃだめだぞ」

 イオに視線を合わせながら、子供に言い聞かせるようにやさしく注意する。

「しんやは悪い人なの?」

 かわいらしく小首をかしげてくるイオ。

「いや、オレは一応いい人だと思うけど」
「ならいいー。どうせしんや以外には、ついていかないからー」

 そして彼女はシンヤの上着をぎゅっとつかみ、さぞ当然のように答えてくれた。

「なんかえらく信頼されてるな」
「だっていおの飼い主だしー」
「ははは、イオはほんと、面白い子だな。よしよし」

 信頼されて悪い気はしない。あといじらしいなつきように、思わず彼女の頭をなでていた。

「くす、くすぐったいー」

 対してイオは気持ちよさそうに目を細める。
 そんなほんわかしたやりとりをしながら、アルダの森を出ようとするシンヤたちなのであった。
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