電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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6章 第2部 レーシスの秘密

242話 レーシスへの疑惑

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「あのビルにアランさんがいるらしいな。アリス、さっそく話を聞きにいくぞ」
「ええ」

 光と別れ、レイジたちはイベント会場の奥へと向かっていた。そしてしばらく歩いていると、イベント運営本部のビルが見えてくる。アランはあそこでイベントの指揮しきをとっているらしい。

「うん? あれって?」

 そこでふと気づく。目的のビルの入口から見知った人物が出てきたのだから。

「レーシス?」

 見かけたのはなんとレーシス。彼は狩猟兵団側の人間と思わしき男と話しながら、外にでてきたという。
 だがそれもつかの間、彼は男と別れレイジたちとは反対の方向へと歩いていってしまう。

「これはアリスさんにレイジさん」

 そしてレイジたちがビルにたどり着くと、さっきレーシスと話していた見るからにごつい体系の男が声をかけてきた。彼はたしかアランの側近の一人で、凄ウデのデュエルアバター使いだったはず。
 そんな人物とレーシスは、いったいなにを話していたのだろうか。

「アランさんに会いに来たんだね。申しわけない。あの人は新規者の熱に当てられたのか、突然彼らのレクチャーに行ってしまったんだ」
「ははは、アランさんらしいですね」
「だからもう少ししてから、再度来てもらえないだろうか?」
「わかりました。ちなみにさっきの少年とは、どんな話をしてたんですか?」
「――ああ……、ちょっと込み入った話をだね……。おっと、そろそろ戻らなくては」

 レイジの質問に彼は言葉をにごす。そして追及する前に、ビルのほうへと戻ってしまった。

「アランさん、いなかったのね。これからどうするのレージ。ひと暴れしに行く?」
「いかねーよ。それよりレーシスを追おう」
「彼を?」
「ちょっといろいろ聞きたいことがあるからな」

 昨日データを回収しに来たこと。そしてさっきなぜアランの側近と話していたのか。レーシスの怪しい行動を見るに、もはやなにかあるのは明白。この機会に問いただしておきたかった。
 こうしてレイジたちはレーシスを探すことに。
 



「レーシスのやつ、どこにいったんだ?」

 辺りを見渡すが、レーシスの姿は見つからない。
 イベントには多くの人々が参加しているため、特定の人物を見つけ出すのにはなかなか骨が折れそうだ。

那由多なゆたの言ってた話からすると、もしかしたらあいつは……)

 昨日の夜、那由多に通話で報告したことを思い出す。


「ということがあったんだ」

 ターミナルデバイスで那由多に報告する。
 現在レイジはアリスを家に残し、マンションすぐ近くの公園へ。夜のため利用している人はおらず、込み入った話をするのにはもってこいであった。

「レーシスがレイジに危害を加えようとしてまで、そのデータとやらを?」
「ああ、しかもあのときのレーシス、いつもと様子が違ってた。やけにマジだったというか」

 いつもヘラヘラしているレーシスだが、運搬していたデータを要求してきたときの彼は完全にマジモード。目的のためなら容赦ようしゃしないという、冷酷な雰囲気をまとっていたのである。

「なにやら怪しいですね。執行機関側にもそのようなデータを確保するような命令、きていませんでした。なのでレーシスの独断ということになります。ふむ……」

 那由多は思考をめぐらせる。

「――レイジ、一つ伝えておきたいことがあります。レーシスの素性すじょうについて」
「聞かせてくれ」
「レーシスが巫女派についたとき、一度くわしく調べたことがあったんです。そのとき発覚したのは、レーシスがアラン・ライザバレットとなにかしらの関係があるということでした」
「なんだって!? アランさんと?」

 その情報は完全に初耳。そもそもレーシスの過去について、レイジはなにも知らなかったのだ。聞いてもいつもはぐらかされ、ずっと謎のままだったという。

「はい、執行機関に入る前、彼の元で仕事をしていたようです」
「そのことをカノンは?」
「すべてを知った上で、レーシスが仲間に加わることを了承したみたいなんですよ。なんでもそのとき二人の間で、密約みつやくを結んだとか」
「密約? 内容は?」
「それが教えてくれなかったんですよねー。一応、お互いの利に叶ったものらしいんですが……」
「その密約については気になるが、今はレーシスの怪しい行動だよな」
「とりあえずそっちの件は、わたしの方でも調べておきますね」
「頼む。こっちもなにかあったら連絡するよ」

 これが昨日の夜の出来事。ちなみにこのあとアリスのことについて聞かれたが、ホテルに追い返したと嘘をついて、なんとか納得してもらえたのであった。




(もしレーシスが裏切って、カノンに仇をなしたりしたら、そのときは……)

 レーシスの怪しい行動。アランとのつながり。もしかすると彼は今、アランの命令で動いている可能性がでてきた。そうなった場合、レイジはレーシスを斬ることになるかもしれない。そのことを改めて覚悟する。

「レージ、あれあなたが探してる彼じゃないかしら」

 アリスが指さした先に、レーシスの後ろ姿が。
 しかし見つけたと思いきや、彼はすぐに路地裏へと入っていってしまう。

「よく見つけた! 見失う前に、追いかけるぞ!」

 二人でレーシスが入った路地裏へと駆け込む。すると奥の方で彼の後ろ姿が。

「よし、あとはこのまま、ッ!?」

 ダッシュで詰め寄ろうとしたまさにそのとき。

「なんだおまえらは!?」

 なんとレイジたちの前方と後方に第二世代の少年、少女たちが、飛び込んできたのだ。
 後方に三人、前方に四人。全員武器をかまえ、臨戦態勢を。

「あら、やる気満々の様子ね」

 突然の敵に、アリスは待ってましたと太刀を取り出して、さぞ楽しげにほほえむ。

「邪魔する気か?」

 このタイミングで来たということは、レーシスを追わせないのが狙いなのか。とにかく相手側はただで通してくれそうにないのは明白。やり合うしかないみたいだ。
 ここで問題なのは、敵がそこらのデュエルアバター使いでないこと。その身のこなし、構えからして全員相当の手練てだれなのがわかる。きっと苦戦はまのがれないだろう。

「いきなりすみません。黒い双翼の刃のレイジさんとアリスさんですよね?」

 リーダー格の少年がたずねてくる。

「だとしたらどうするんだ?」
「アランさんが我々に、後学のためにもお二人に相手してもらってきたらいいと、言われまして。なのでお手合わせ願います!」
「こんなときに!」

 まさかアランの差し金だったとは。これも偶然か、レーシスの件で狙ってやったのかは知らないが、戦わなければならないらしい。
 よってレイジも刀に手をかけた。

「フフフ、やるわよ! レージ!」
「こうなったらしかたない! 存分にオレたちの力を見せてやるよ! かかってこい!」

 そしてレイジたちと彼らとの戦闘が開始された。

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