明るい歌

七星北斗

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4.言葉違い

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 授業中だというのに、保健室のベッドに寝そべった少女、マンガ雑誌を読む。

 そんな少女へ、養護教諭は問う。

「今日も、不純異性交友が起きたよ。何故人は、子作りをするんだろうね」

 芦乃よしのは苦笑いをしながら、その問いに答える。

「その答えは単純だよ。愛などではなく、ただの性欲でしょ?」

「興味深い答えだけど、人はそれを尊いものと呼ぶものよ」

「それは論点のすり替えにすぎない。人の誕生は、奇跡などではなく、授かり物ではない。人間は、汚い結果で生まれるんだ」

「根も葉もないことを言うんだね」

「世の中は、いつだってグレーじゃないか」

「なら、問題の定義を変えてみようか」

「変えてどうするんだい?」

「矛盾を作るんだよ」

 会話の方向性を考え、眉を潜めた。

「子作りが汚い行為なら、生まれてくる子供は汚いものかい?」

 言葉の意味を理解して、私は苦虫を噛み潰す。

「その問いは、ちょっとズルくないかい?子供は色を持たないよ」

「そうだね、確かにその通りだ。色を持たないからこそ、何ものにもなれる。汚くも、美しくも」

「美しい人間は、見たことがないな」

 髪を弄りながら、芦乃は嘯く。

「君は、井の中の蛙大海を知らずってね」

 養護教諭は、そう言って笑った。

 私は、養護教諭を睨み付けると、何かを言いかけて飲み込むように口を閉じた。

「もう、寝る」

「はーい、お休みなさい」

 シャーッとカーテンを閉め、ベッドで目を閉じる。

 子供が天使だなんて、幻想じゃん。

 私は遠い夢を見る。

 仲の良かった両親、私が壊したんだ。

 もう昔の話、忘れようと思ったんだけど。

 全て壊れたんだ、私のせいで。

 全部間違っていたのかな?私、生まれなきゃ良かった。

「芦乃君、あなたは自由でいいんだよ」

 養護教諭は、一人言を呟く。返ってくる言葉は、ないと知りながら。

 ずいぶんと寝つきがいいものだ、さっきからずっと寝息が聞こえている。

 寝る子は育つというものか。

 しかし最近の高校生は、発育が良いね。羨ましい限りだよ。

 派手な下着を履かないのは、清純というか?真面目というか?とにかく良いことだ。

 だけど、この部屋には、私しかいないとはいえ、無用心というものだ。

 ベッドで脚を開いて寝そべりゃ、そりゃ見えるわな。

 学年一位の優等生も、ストレス貯まってるのかね?そりゃ人間なのだから、ストレスも貯まるわな。

 私も酒のまにゃ、こんな仕事やってられんがね。

 結局、愛だの、恋だのを知るには、人間は若すぎる。だから私たちは、歩くんだろうね。

 人生という旅路を、正誤せんろを歩きながら。
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