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高等部一年生秋

1.原 理宇

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 この話はフィクションだからね。絶対前提を忘れないでよ。


 宗壱の指は滑らかだ。細くて長くてやわやわと動く、指。四年間ほぼ毎日繋いでいるけれど、その手に飽きることはない。
 そう、読んでくれている皆さんに真っ先に紹介したいのは、小学生時代の塾友で、一緒に日本屈指の男子校に合格してくれた親友で、俺の一番大事な人。恋人。彼氏。
 今もこの文章を片手で打ちながら、もう片方で感触を楽しんでいる。あー幸せ。

 高等部一年ではクラスが分かれたので、まだ夏の日差しが入り込む廊下で、恋人繋ぎでにぎにぎ。休み時間が短くて、ちょっと辛い。
 クラス分けが成績順だったなら、授業中も一緒にいられたはず。ランダム分けだなんて残念だ。俺も宗壱も、毎回学年三十位前後を仲良くうろうろしている。
 なお、上位二十位固定は頭脳お化けだから。頭が良すぎて、頭がオカシイから。張り合ったら駄目な奴らだから。俺たち、割と優秀だからね。大人に文句を付けさせないぐらいには。

「おふたりさーん、二限始まるよー」

 うちの学園はノーチャイム。気づいたクラスメイトが声を掛けてくれた。中等部入学当初から交際していて、周りの生徒はらっぶらぶの日常に慣れている。
 公言してお付き合いしているのは、一学年に二組程度いるのかな。うちの男子校。先輩後輩の組み合わせも考慮すると、もう少し増えるか。内緒で愛を育むカップルも存在するのかもしれない。

 高偏差値学校の特性で、同性ということが原因での表立つ差別やイジメはない。心内で嫌悪している人はいるのかもしれない。けれど、まあ皆忙しいからね。他人の性癖に構っている暇はないのだろう。
 ちなみに、標準制服をスカート型に改造して登校する男の娘は、現在二人在校。LGBTQに寛容で無関心な学園に進学できて、俺たちは至極順調だ。

「次の休み時間、教室移動で会えないや」
 宗壱が俺の指をにぎにぎ。

「昼休みにね」
 にぎにぎ。

「理宇、ごめん。昼も放課後も生徒会だ」

 あ、ここで皆さんに残念な情報です。現年度生徒会のメンバーの中で、彼氏持ちなのは書記を拝命している俺の宗壱だけ。高等部二年生の会長も副会長も、彼女がいるはず。確か風紀委員長も。現実はそんなものだよね。
 中学生から東大受験専門の塾に通うと、青田買いしやすいよ。いや、青田狩りか。異性交遊したい友はたくさんおりますので、ぜひ狩ってあげて下さい。学園祭でナンパ可能な輩は、軽めの上澄みだけ。慎ましやかな肉食女子にこそ、専門塾がおすすめです。

「全部終えたら、帰りは華道部に迎えに行く」
 宗壱はにぎにぎして、俺の手の甲にちゅっとして、指を離す。
 キャー宗壱様、男前! 今日の放課後は抱いてもらおう。絶対。
 俺は負けじと、さらさらな横髪を一房摘んで唇を落とした。

 柔和な顔にふわりと微笑を浮かべ、ひらりと手を振って、背を向けて別の教室へと歩んで行く。俺より少しだけ華奢で、少しだけ身長が高くて、少しだけ長髪の後ろ姿。
 俺がね、好きなのを知っているから。宗壱の黒髪を掻き上げて、引っ掛かりのない指通りのままに項までまとめて掴んで、引き寄せて深いキスするのが、好き。だから、宗壱は毎回少し長めに美容院でカットしてきてくれる。
 いいだろー優しいだろ。学園祭でミス学園の称号を掻っ攫うぐらいアジアンビューティーだし、声変わりしたらイケボだし。自慢させてくれ。
 あー本当に今直ぐちゅーしたい。
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