R18 この非王道学園の日常は、絶対にフィクションです。

高等部一年生秋

8.伊藤 宗壱（理宇✕宗壱）

「二人とも個人特定は済んでるんだよ」

　名前はオレにも公開はできない。
　受け君は熱心な運動部員だ、と勝手に予想。左右の筋肉が均等じゃないから、テニスとかバトミントン系統っぽい。
　ぐでオレは、ヤリ動画を観ても、ぐでオレのままだ。ノゾキがオレの性癖に刺さらないからか、理宇みたいなバランスいい美しい筋肉の映像じゃないからか。

　ちょっと目をつむって、理宇を撮ることを想像する。
　オレを下から突き上げる野生的な理宇。挿入の力が入った瞬間に、割れが強調される腹筋。興奮に粒立つ乳首。オレを支える腕の筋肉の陰影。伝う汗。シーツから浮く腰骨のライン。うん、無音動画でもなかなかクル！
　まあ、クラウドでもローカルでもデータが残れば、流出のリスクが発生する。だから、撮らない。撮らせない。ゼロがイチになって危険が生まれるなら、ゼロのままがベスト。後々株価に影響したら大問題だ。


　ノゾキイイ発言の恋人に視線を戻すと、あれ？　なぜか理宇のリウが、ぐでリウになってる。
　そういえば、今日の理宇は少しおかしい。普段より甘噛みが多いし強い。オレが気持ちいいから、さらっと差異を受け流してしまってた。

「あっただろ、何か」

「うん、まあ……今の風紀委員長の池田先輩に、ね……『風紀で選挙出ないか』って推された」

　悪い話じゃないのに、理宇本体もぐでんとオレの左腿に戻って丸まる。
　理宇は広報の委員長選挙には出馬するつもりはない。『広報はやり尽くしたから』は、本人の弁。
　風紀委員は何しろサイバー対策に片寄っている。目立つ長に就きたい人材は、生粋の風紀だと稀だ。優秀なコミュ強の理宇を、外様だとしても引き抜きたいんだろう。


「会長副会長、ペア出馬は……」

　言い淀む理宇。
　サブカル研の理宇✕オレ本の効果で、受け配役のオレには親衛隊が存在する。出馬を決めかねるオレをすっ飛ばして、親衛隊が直接強引に、理宇を会長に推したのかもしれない。

「……宗壱と俺がペアで出た場合、落選する。宗壱は会長にはなれない」

　……ん？　親衛隊の件は邪推だったか。
　理宇の垂れた可愛い眉が、更に下がる。

「表では何もないフリして、本音では同性愛者に嫌悪感持ってる生徒は、まだまだ多いんだよ。役に立ててないや。宗壱、ごめん」

　理宇に『そんなこと気にすんな』とは言えない。あちこち手伝ったり、顔を売ったり努力してるのは、オレたち二人が周囲から浮かないように心を砕いてるからだ。同性に恋して男体同士でセックスしてるのは、どうあがこうとマイノリティだから。

　学園内はまだマシ。差別的発言は己のマイナスだと律してくれる理性派がほとんどだ。今後社会に出れば、感情で排斥される機会はもっと増えるだろう。
　オレだって、クラスメイトが『幼稚園児を愛してる』とか『ドールにしか勃たない』って言い出したら、ドン引きするかも。こういうのは、本能的で生理的な感覚だからしょうがない。

　全部冷静に理解してる上での、理宇の諦めない行動力。カッコイイけど、真面目だからツラいよな……

「理宇……」


「ヨシ、風呂にしよ、宗壱」

　おっと、切り替えが早い。唐突なお姫様抱っこ。気持ちが一瞬ついていけない。
　こういうところが、理宇が攻め配役で描かれる理由なんだろうな。三回戦で弱ったオレの足腰を、ひょいっと軽々とスパダリ完全介護だ。身長も体重もほぼ同じなのに！