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三年生
卒業
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私は、意識を取り戻した。
倒れた後で、「誰かー。誰かー……」という叫び声が聞こえて、その後の記憶がない。
周りをぐるりと見回した。
どうやら、ここは、病院らしい。
私は、病院に運び込まれたの?
しばらくして、お母さんが病室にきた。
目を覚ました私にお母さんが涙ながらに話しかけた。
「華恋。あなた、3日間、眠ったままだったのよ……良かった……良かった……本当に良かった……」
お母さんは、シクシクと泣き出した。
「お母さん。まぁ、落ち着いて。早く、お医者さんに伝えないと」
お母さんは、いつも朗らかで私は、自分のことより、泣いてしまったことに動揺した。
お母さんがナースコールで呼んで、お医者さんと看護婦さんが来た。
お医者さんは、私の瞳を灯りを照らして確認したり、脈拍を確認したりすると、お医者さんが口を開いた。
「佐々木華恋さん。倒れた時の外傷や脳へのダメージは、なかったようです。倒れた場所が良かったようですね。でも、お母さんから話を聞いて少し気になる部分もありますので、しばらく、ここの病院に入院してもらって、精密検査しましょう。よろしいですね」
「はい。お願いします」
「今、目覚めたばかりだから、明日から色々と検査しましょう。それまで、ゆっくり休んでください」
「はい。わかりました」
お医者さん達は、その後、病室を出ていった。
そう言ったものの私は、学校のことや弓ちゃんのことが気になった。
私は、お母さんに訊いた。
「お母さん。学校に報告したの? 弓ちゃんには、連絡したの?」
「うん。学校には、お母さんもまだ華恋の状態がよくわからなかったから、風邪だって言ってあるわよ。弓ちゃんにも、心配かけないように風邪だって言っておいたわ。お大事にって。熱は、どれくらいあるかとか、お見舞いに行っていいかとか色々訊かれたわよ。でも、移しちゃいけないからって断っておいたわよ。あなたもそんなこと気にしてないで目を瞑って寝てなさい。疲れちゃうでしょ」
私は、ホッとした。
そして、思わず、笑みを浮かべた。
お母さんは、私の表情を見て笑った。
「フフッ! 何がそんなに嬉しいのよ。まったく、こんな時に、華恋たら」
「だって、なんか安心した。学校にも迷惑かかるし、一番は、弓ちゃんに心配かけたくなかったの。今は、弓ちゃん、大切な時だから」
あーくんとの愛を深めるのに大切な時だからね、と私は、心の中で呟いた。
お母さんは、首を傾げた。
「大切な時? 何の事?」
私は、慌てて言った。
「ほら、受験のための勉強とかね……」
お母さんは、まだ不思議そうな顔をしていたけど、お父さんに連絡をするため、病室を出ていった。
私は、弓ちゃんとあーくんのことで頭がいっぱいになっていた。
今頃、2人どうしてるかな。
もしかして、キスとかしたのかな。
キャーッ!
私は、勝手に想像して盛り上がって、顔を赤らめた。
次の日から、私は、ありとあらゆる検査をした。
毎日、検査、検査でヘトヘトになった。
私は、時々、看護婦さん達の噂話をそっと聞いて、それだけが唯一の楽しみになった。
私の周りの患者さんは、意志疎通が取れない人がほとんどだったから。
それにしても、弓ちゃんから連絡が来たってお母さんから言われないな。
少し気になったけど、毎日の検査の疲れと2人がそれだけ、きっと盛り上がってるんだって自分を誤魔化した。
しばらく経って、お母さんと話していると、看護婦さんに診察室に来るようにとお母さんだけが呼ばれた。
「私は?」
「華恋さんは、病室で待っててね。すぐ終わるから大丈夫よ」
「はい……」
はいって言ったけど、気にならないはずがない。
お母さんだけが呼ばれるなんておかしい。
私は、固まった足をヨタヨタと動かしてこっそり2人の後を付けていった。
私は、診察室の近くの長イスに腰掛けて、お母さんが出てくるのを待っていた。
とても、待っている時間が長く感じた。
やっと、お母さんが出てきて神妙な面持ちでお医者さんに向かって、頭を下げているのが見れた。
扉を閉めたお母さんは、肩を揺すってポロポロと涙を流してた。
私は、小さく言いかけて止めた。
「おかあ……」
間に合わなかった。
お母さんは、私の方に驚いた顔をして、振り返った。
私に駆け寄ると、私の事を抱きしめて言った。
「華恋。こんな体に産んでごめんね……」
「ううん。お母さんのせいじゃないよ……」
私は、悟った。
お母さんは、静かにゆっくりと私の病について説明してくれた。
私がちゃんと話して欲しいって頼んだから。
このまま、病気のことを詳しく知らない方が辛い。
でも、聞いていくうちにはっきり言って、聞かない方が良かったかもって思ったんだ。
私は、数日経ってから、学校に久しぶりに行った。
入院していた間に、だいぶ足が固まってしまって、通学の間の行き交う人々の視線とか同級生達の視線とかが痛いほどに私に刺さってきた。
でも、弓ちゃんは、違った。
今まで通り、接してくれた。
私は、それが、何より嬉しかった。
彼女に、彼との事をあれこれ質問攻めした。
「どこかあれから、デートした?」
彼女は、笑って応えた。
「ハハッ! もう、さっちゃんたら。そんなわけないでしょ。もう受験だよ。そんな暇ないって」
私は、唐突に訊いてしまった。
「そっか? じゃあ、キスした?」
彼女は、耳まで真っ赤になって言い淀んだ。
「そ、それは……」
私は、悪戯っぽく笑って言った。
「こりゃ、したな。ふぇーっ!!」
「ふぇーっじゃないよ。まったく!」
「ごめん。ごめん」
私達は、他愛もない話を続けた。
彼女といると自分の病気のことを忘れられる。
なんか幸せだ。
私が、ある日、学校に行くと、彼女が人気のない廊下に私を呼び出した。
彼女の顔が沈んでいたから、私は、すぐに察した。
「あの……もしかしたら……」
彼女は、静かに頷いた。
「うん。別れた……」
私は、わざと明るく振る舞った。
「まぁ、聞くよ。今日、うち来る?」
「ううん。受験の勉強あるし……」
「そっか。話すの辛いって時もあるしね。じゃあ、教室戻ろう」
私がそう言って、教室に向かおうとすると、彼女が私のブレザーの腕の部分を掴んだ。
彼女は、申し訳なさそうな顔をした。
「わかった。わかった。ここで聞いて欲しいんでしょ。任せとき!」
「う、うん。ありがとう。あのね、彼がいきなり別れようって言い出して、今まで、そんな感じじゃなかったら、どうしてって訊いたの。そしたら、彼に強引にグイグイくる女の子がいるらしくって余りの勢いに付き合うことOKしちゃったんだって」
「えっ? それってあーくんは、彼女のこと好きなのかな。押し切られただけなんじゃ」
「それがさ……私に対して、少し冷めてきてしまったみたい。実は、私も……勉強の方が気になりだして、彼への気持ち、冷めてきてしまったかもと思って、その事を聞いた時は、わかったって言ったんだけど、後になって、彼の存在が大きかったことに気づいてさ」
私は、ドラマと漫画の知識しかないのに、偉そうに腕組みしながら、言った。
「確かにねー。勉学と乙女心。学生にとっては、難しいところだね」
私は、段々、学校に通えなくなった。
最初のうちは、週の半分くらい。
学校に行けない日は、家で1人で勉強していた。
弓ちゃんが塾の休みの日は、まとめて授業のノートを見せてくれて、私は、自分のノートに写させてもらった。
本当は、彼女ともっと話したかった。
でも、彼女には、大学受験が待っていたから。
ついに、私達は、3年生になった。
彼女にとっては、正念場の時だ。
一方、私は、病気の症状が悪化していた。
足だけでは、なく、首にも違和感が出てきた。
足は、以前より固まるようになり、家では、ほぼ、車椅子で移動するようになった。
お父さんは、自分の残業を増やしてお母さんが私の近くにいてくれるようにしてくれた。
食事をする時は、お母さんが常に横にいてくれて、私が食べ物が喉に詰まらせないように気を配ってくれた。
私が上手く飲み込めなくて、咳き込むと心配そうに背中を擦ってくれた。
トイレに行く時も介助が必要で、便座に移動する時は、お母さんに掴まらなければならなかった。
何回も失敗して、漏らしてしまうことも、しばしばだった。
私は、それでも、週1回は、学校に通っていた。
学校では、弓ちゃんが面倒を見てくれた。
細心の注意を払って、私の移動を手伝ってくれた。
相変わらず、彼女とのお昼休みの食事は、楽しい。
「あ……サヤエンドウ炒め……食べて……いい」
そう私は、普通に喋ることも出来なくなっていた。
「うん。食べて。食べて。その代わり、その混ぜご飯ちょうだい」
「フフッ……どうぞ」
私は、食べ終わると合格祈願の御守りを彼女に渡した。
「えっ? いいの? 嬉しい」
「うん……私も……お揃いの……持ってるの……受験日には、私も……握って……応援する……からね」
彼女は、私の後ろに回ると強く抱き締めてくれた。
「ありがとうー。さっちゃん」
「弓ちゃん……痛い……」
「あ、ごめん。ごめん」
私は、3年生の後半は、学校には、通えなくなっていた。
彼女が、家にノートを持って来てくれる日も徐々に、少なくなってきて、とうとう来なくなってしまった。
最近、一番、心配な事は、目の前が暗く見えることで、薄い黒いサングラスを掛けているような見え方になった。
この頃になると、情緒不安定もなってきて
「怖い……怖い……怖い……怖い!」
と、出ない声を振り絞って、夜中に泣き叫ぶことがしばしばあった。
お母さんが私の声を聞きつけてくれて、両手を落ち着くまで握ってくれた。
「大丈夫。大丈夫だからね」
私は、精神科にもお世話になることになった。
今日は、彼女の初めての大学受験の日だ。
私は、学校に行っていた時に、彼女の受験日を全てメモっていた。
今日は、国立の法学部を狙っていたので、すべり止めのところだが、私は、彼女が緊張しているだろうと思って、合格祈願の御守りを握って、何度も祈った。
上手くいきますように。上手くいきますように……。
卒業式の日、私は、式には、参加できなかった。
担任の先生が来て、私に卒業証書を渡してくれた。
頑張って、レポートを提出したりした努力が認められて、特別に、卒業扱いにしてくれた。
私は、卒業証書を見て、涙を流した。
良かった。
私も、卒業できた……。
彼女の本命の合格発表の日、彼女の連絡を今か今かと待っていた。
随分、遅いな。
大丈夫だったかな。
家のチャイムがいきなり鳴った。
お母さんが急いで、出ていくと、外で弓ちゃんの声が聞こえた。
彼女は、嬉しそうに弾んだ声で言った。
「さっちゃん! 受かったよ!!」
「うん……おめでとう……弓ちゃんなら……受かると思ってた」
彼女は、今度は、モジモジしながら言った。
「あのね。実はね……」
あれ? この感じは、もしや。
「塾でずっと一緒だった子から、告白されたの。私が受かるの待ってたみたい。私ね、その子と付き合うことになったの」
私は、笑って、2回目のお祝いを言った。
「良かったねー……おめ……でとう……」
その後、私は、彼女の前でさっきまでの表情とがらりと変わって、真面目な顔をした。
「あの……あのね……今度は……私の……方から……」
彼女は、頷いた。
「聞くよ。さっちゃんの告白!!」
倒れた後で、「誰かー。誰かー……」という叫び声が聞こえて、その後の記憶がない。
周りをぐるりと見回した。
どうやら、ここは、病院らしい。
私は、病院に運び込まれたの?
しばらくして、お母さんが病室にきた。
目を覚ました私にお母さんが涙ながらに話しかけた。
「華恋。あなた、3日間、眠ったままだったのよ……良かった……良かった……本当に良かった……」
お母さんは、シクシクと泣き出した。
「お母さん。まぁ、落ち着いて。早く、お医者さんに伝えないと」
お母さんは、いつも朗らかで私は、自分のことより、泣いてしまったことに動揺した。
お母さんがナースコールで呼んで、お医者さんと看護婦さんが来た。
お医者さんは、私の瞳を灯りを照らして確認したり、脈拍を確認したりすると、お医者さんが口を開いた。
「佐々木華恋さん。倒れた時の外傷や脳へのダメージは、なかったようです。倒れた場所が良かったようですね。でも、お母さんから話を聞いて少し気になる部分もありますので、しばらく、ここの病院に入院してもらって、精密検査しましょう。よろしいですね」
「はい。お願いします」
「今、目覚めたばかりだから、明日から色々と検査しましょう。それまで、ゆっくり休んでください」
「はい。わかりました」
お医者さん達は、その後、病室を出ていった。
そう言ったものの私は、学校のことや弓ちゃんのことが気になった。
私は、お母さんに訊いた。
「お母さん。学校に報告したの? 弓ちゃんには、連絡したの?」
「うん。学校には、お母さんもまだ華恋の状態がよくわからなかったから、風邪だって言ってあるわよ。弓ちゃんにも、心配かけないように風邪だって言っておいたわ。お大事にって。熱は、どれくらいあるかとか、お見舞いに行っていいかとか色々訊かれたわよ。でも、移しちゃいけないからって断っておいたわよ。あなたもそんなこと気にしてないで目を瞑って寝てなさい。疲れちゃうでしょ」
私は、ホッとした。
そして、思わず、笑みを浮かべた。
お母さんは、私の表情を見て笑った。
「フフッ! 何がそんなに嬉しいのよ。まったく、こんな時に、華恋たら」
「だって、なんか安心した。学校にも迷惑かかるし、一番は、弓ちゃんに心配かけたくなかったの。今は、弓ちゃん、大切な時だから」
あーくんとの愛を深めるのに大切な時だからね、と私は、心の中で呟いた。
お母さんは、首を傾げた。
「大切な時? 何の事?」
私は、慌てて言った。
「ほら、受験のための勉強とかね……」
お母さんは、まだ不思議そうな顔をしていたけど、お父さんに連絡をするため、病室を出ていった。
私は、弓ちゃんとあーくんのことで頭がいっぱいになっていた。
今頃、2人どうしてるかな。
もしかして、キスとかしたのかな。
キャーッ!
私は、勝手に想像して盛り上がって、顔を赤らめた。
次の日から、私は、ありとあらゆる検査をした。
毎日、検査、検査でヘトヘトになった。
私は、時々、看護婦さん達の噂話をそっと聞いて、それだけが唯一の楽しみになった。
私の周りの患者さんは、意志疎通が取れない人がほとんどだったから。
それにしても、弓ちゃんから連絡が来たってお母さんから言われないな。
少し気になったけど、毎日の検査の疲れと2人がそれだけ、きっと盛り上がってるんだって自分を誤魔化した。
しばらく経って、お母さんと話していると、看護婦さんに診察室に来るようにとお母さんだけが呼ばれた。
「私は?」
「華恋さんは、病室で待っててね。すぐ終わるから大丈夫よ」
「はい……」
はいって言ったけど、気にならないはずがない。
お母さんだけが呼ばれるなんておかしい。
私は、固まった足をヨタヨタと動かしてこっそり2人の後を付けていった。
私は、診察室の近くの長イスに腰掛けて、お母さんが出てくるのを待っていた。
とても、待っている時間が長く感じた。
やっと、お母さんが出てきて神妙な面持ちでお医者さんに向かって、頭を下げているのが見れた。
扉を閉めたお母さんは、肩を揺すってポロポロと涙を流してた。
私は、小さく言いかけて止めた。
「おかあ……」
間に合わなかった。
お母さんは、私の方に驚いた顔をして、振り返った。
私に駆け寄ると、私の事を抱きしめて言った。
「華恋。こんな体に産んでごめんね……」
「ううん。お母さんのせいじゃないよ……」
私は、悟った。
お母さんは、静かにゆっくりと私の病について説明してくれた。
私がちゃんと話して欲しいって頼んだから。
このまま、病気のことを詳しく知らない方が辛い。
でも、聞いていくうちにはっきり言って、聞かない方が良かったかもって思ったんだ。
私は、数日経ってから、学校に久しぶりに行った。
入院していた間に、だいぶ足が固まってしまって、通学の間の行き交う人々の視線とか同級生達の視線とかが痛いほどに私に刺さってきた。
でも、弓ちゃんは、違った。
今まで通り、接してくれた。
私は、それが、何より嬉しかった。
彼女に、彼との事をあれこれ質問攻めした。
「どこかあれから、デートした?」
彼女は、笑って応えた。
「ハハッ! もう、さっちゃんたら。そんなわけないでしょ。もう受験だよ。そんな暇ないって」
私は、唐突に訊いてしまった。
「そっか? じゃあ、キスした?」
彼女は、耳まで真っ赤になって言い淀んだ。
「そ、それは……」
私は、悪戯っぽく笑って言った。
「こりゃ、したな。ふぇーっ!!」
「ふぇーっじゃないよ。まったく!」
「ごめん。ごめん」
私達は、他愛もない話を続けた。
彼女といると自分の病気のことを忘れられる。
なんか幸せだ。
私が、ある日、学校に行くと、彼女が人気のない廊下に私を呼び出した。
彼女の顔が沈んでいたから、私は、すぐに察した。
「あの……もしかしたら……」
彼女は、静かに頷いた。
「うん。別れた……」
私は、わざと明るく振る舞った。
「まぁ、聞くよ。今日、うち来る?」
「ううん。受験の勉強あるし……」
「そっか。話すの辛いって時もあるしね。じゃあ、教室戻ろう」
私がそう言って、教室に向かおうとすると、彼女が私のブレザーの腕の部分を掴んだ。
彼女は、申し訳なさそうな顔をした。
「わかった。わかった。ここで聞いて欲しいんでしょ。任せとき!」
「う、うん。ありがとう。あのね、彼がいきなり別れようって言い出して、今まで、そんな感じじゃなかったら、どうしてって訊いたの。そしたら、彼に強引にグイグイくる女の子がいるらしくって余りの勢いに付き合うことOKしちゃったんだって」
「えっ? それってあーくんは、彼女のこと好きなのかな。押し切られただけなんじゃ」
「それがさ……私に対して、少し冷めてきてしまったみたい。実は、私も……勉強の方が気になりだして、彼への気持ち、冷めてきてしまったかもと思って、その事を聞いた時は、わかったって言ったんだけど、後になって、彼の存在が大きかったことに気づいてさ」
私は、ドラマと漫画の知識しかないのに、偉そうに腕組みしながら、言った。
「確かにねー。勉学と乙女心。学生にとっては、難しいところだね」
私は、段々、学校に通えなくなった。
最初のうちは、週の半分くらい。
学校に行けない日は、家で1人で勉強していた。
弓ちゃんが塾の休みの日は、まとめて授業のノートを見せてくれて、私は、自分のノートに写させてもらった。
本当は、彼女ともっと話したかった。
でも、彼女には、大学受験が待っていたから。
ついに、私達は、3年生になった。
彼女にとっては、正念場の時だ。
一方、私は、病気の症状が悪化していた。
足だけでは、なく、首にも違和感が出てきた。
足は、以前より固まるようになり、家では、ほぼ、車椅子で移動するようになった。
お父さんは、自分の残業を増やしてお母さんが私の近くにいてくれるようにしてくれた。
食事をする時は、お母さんが常に横にいてくれて、私が食べ物が喉に詰まらせないように気を配ってくれた。
私が上手く飲み込めなくて、咳き込むと心配そうに背中を擦ってくれた。
トイレに行く時も介助が必要で、便座に移動する時は、お母さんに掴まらなければならなかった。
何回も失敗して、漏らしてしまうことも、しばしばだった。
私は、それでも、週1回は、学校に通っていた。
学校では、弓ちゃんが面倒を見てくれた。
細心の注意を払って、私の移動を手伝ってくれた。
相変わらず、彼女とのお昼休みの食事は、楽しい。
「あ……サヤエンドウ炒め……食べて……いい」
そう私は、普通に喋ることも出来なくなっていた。
「うん。食べて。食べて。その代わり、その混ぜご飯ちょうだい」
「フフッ……どうぞ」
私は、食べ終わると合格祈願の御守りを彼女に渡した。
「えっ? いいの? 嬉しい」
「うん……私も……お揃いの……持ってるの……受験日には、私も……握って……応援する……からね」
彼女は、私の後ろに回ると強く抱き締めてくれた。
「ありがとうー。さっちゃん」
「弓ちゃん……痛い……」
「あ、ごめん。ごめん」
私は、3年生の後半は、学校には、通えなくなっていた。
彼女が、家にノートを持って来てくれる日も徐々に、少なくなってきて、とうとう来なくなってしまった。
最近、一番、心配な事は、目の前が暗く見えることで、薄い黒いサングラスを掛けているような見え方になった。
この頃になると、情緒不安定もなってきて
「怖い……怖い……怖い……怖い!」
と、出ない声を振り絞って、夜中に泣き叫ぶことがしばしばあった。
お母さんが私の声を聞きつけてくれて、両手を落ち着くまで握ってくれた。
「大丈夫。大丈夫だからね」
私は、精神科にもお世話になることになった。
今日は、彼女の初めての大学受験の日だ。
私は、学校に行っていた時に、彼女の受験日を全てメモっていた。
今日は、国立の法学部を狙っていたので、すべり止めのところだが、私は、彼女が緊張しているだろうと思って、合格祈願の御守りを握って、何度も祈った。
上手くいきますように。上手くいきますように……。
卒業式の日、私は、式には、参加できなかった。
担任の先生が来て、私に卒業証書を渡してくれた。
頑張って、レポートを提出したりした努力が認められて、特別に、卒業扱いにしてくれた。
私は、卒業証書を見て、涙を流した。
良かった。
私も、卒業できた……。
彼女の本命の合格発表の日、彼女の連絡を今か今かと待っていた。
随分、遅いな。
大丈夫だったかな。
家のチャイムがいきなり鳴った。
お母さんが急いで、出ていくと、外で弓ちゃんの声が聞こえた。
彼女は、嬉しそうに弾んだ声で言った。
「さっちゃん! 受かったよ!!」
「うん……おめでとう……弓ちゃんなら……受かると思ってた」
彼女は、今度は、モジモジしながら言った。
「あのね。実はね……」
あれ? この感じは、もしや。
「塾でずっと一緒だった子から、告白されたの。私が受かるの待ってたみたい。私ね、その子と付き合うことになったの」
私は、笑って、2回目のお祝いを言った。
「良かったねー……おめ……でとう……」
その後、私は、彼女の前でさっきまでの表情とがらりと変わって、真面目な顔をした。
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