【完結】スズラン

越知鷹 けい

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 桜月は携帯電話に掛かってきた番号を見ておどろいた。そこには『TV電話』と表示されていたからだ。運転席で待機している相勤あいきんの佐藤と目配めくばせをした。車内の空気が張り詰める。

 過去の捜査でも私生活でも、一度も『TV電話』なんてものを使ったことがない桜月としては、これに応えるべきか戸惑いがあった。相手の思惑もわからない。しかし、出ないわけにもいかない。ごくり、とつばみこみ通話を押した。

「もしもし?」と声がしたので、思わず耳元にスマホを当てようとしたところを佐藤に止められた。「先輩、それじゃ相手の顔が見えないです」とたしなめられた。

「あの。どなたでしょうか?」画面の向こうの側の女性は怪訝けげんそうに訊ねてきた。
「突然のご連絡失礼いたします。道警の桜月と申します」懐から警察手帳をみせた。

 隣で佐藤が安倍あべ 彩蘭あやかの写真をスマホで開いてみせた。桜月はちらりと顔を確認する。スマホの中の写真は高校生の頃のようだ。

「昨夜、安倍さん宅へ伺ったのですがご不在でしたので、こちらの携帯にお電話をさせて頂いております」そう言いつつも、彼女の顔色と背景を確認していた。

「今、どちらにいらっしゃいますか?」

「宮城の、主人の実家へ向かう途中のサービスエリアです。
 あの? 主人が見つかったのでしょうか?」

 桜月は迷った。まさか、捜査会議であなたの旦那さんが西木野にしきの 美希みき誘拐の嫌疑けんぎが掛けられています、とは言えない。

「どこかでお会いして、お話しできないでしょうか?」 桜月は、関係者を先に確保しておきたいという気持ちを優先して切り出した。


「ふざけないで――!」 ヒステリックな声が響き、通話が切断された。

「……」佐藤が呆れた顔で桜月をみる。

「……え? なによ、その顔。
 私は悪くないわよ。あっちが切ったんだから」

「ないわぁ~」 目が笑っていない。

 桜月は佐藤の肩を小突こづき、彩蘭に電話を掛け直した。


――現在電源が入っていないか、電波が入らないところにいます――


 私はもう一度、佐藤の肩を小突いた。

「先輩。タントラム コントロールを進言します。
 物理的なパワハラ以前の問題っす」 痛そうな顔で肩を撫でていた。

 桜月は植物園の駐車場から白い建物をみた。朱鈴あかりに会うべきか、彩蘭あやかに会いに宮城県に向かうべきか――

「一度、署に戻って安倍あべ 敬文たかふみの調査報告書を読み返す」
「ゴンベン、取れてましたっけ?」 佐藤の返答に桜月は舌打ちをした。

「無くても、実家の住所くらいなら閲覧できるでわよ。もし逃走を図っているなら安倍彩蘭がホンボシとみて、間違いないわね」 桜月はにやにやしながら言った。

「先輩の頭の中では、今回の失踪はどういうストーリーになっているんですか?」

「聞きたい? 私の完璧な筋書きは――」桜月の言葉は突然にさえぎられてしまった。


―――緊急入電。北海道警察本部から(パトカーの識別信号)へ。

 札幌市南区にて男性の死体が発見された。現場で通報者に会い事象を把握せよ――


 その無線を聞き、桜月は目を伏せた。

 桜月さつきは現場に急行した。佐藤は札幌駅で降ろし、宮城県へ向かってもらった。安倍あべ 彩蘭あやかの行方を追うために宮城へ向かってもらうのだ。

 ◇
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