2 / 44
Scene 01
しおりを挟む
「アイ、どうするか、今日は決めてもらうぞ」
タバコの煙と落書きに彩られたバラックの部屋で、ミギが話し掛けてきた。この三年間不法占拠してきた「ジャズ研究会」の部室だ。大学に入って最初に知り合ったミギ~右田義春~と意気投合し、部員がいなかった「ジャズ研究会」を発見し、勝手に入部してその部室を乗っ取った。その部室を根城に音楽活動を開始したのがちょうど三年前だった。ミギがヴォーカル、俺がギター。
入学時の集会で「ベースギターできるやつ!」と大声で叫んだミギに、はいよと手を挙げて応えたキタ~大北一樹~がベーシスト、ミギの後輩のリョータロー~山崎良太郎~をドラマーとして学外から迎え、その年の学園祭で俺たちの「JET BLACK」はデビューした。
実際、ミギには才能があった。バンドの曲のほとんどを書き、ヴォーカルにしても非凡だった。そして何より、フロントマンとしての押しの強さは学園祭バンドのそれをはるかに凌駕していた。そして、俺たちの「JET BLACK」は確実に学園祭バンドからライブハウスのレギュラーへと進化していった。
「おまえは確かにバンドやりながらも最低限授業は出てたもんな。単位も大体あるんだろう?それもわかるけどよ、俺は、おまえと一緒にやりたいんだよ」
「JET BLACK」はミギのカリスマとしっかりした楽曲で、東京郊外のライブハウスではちょっとした人気バンドになっていった。深夜番組ながら、二回ほどテレビ出演したこともある。インディーズバンド紹介を看板にしていた音楽雑誌ではもはや常連で、「ミギ・アイ・キタ・リョータロー」というメンバーそれぞれのバンドネームはすっかり有名になっていた。
俺が雪江に出会ったのはその頃、一年半くらい前。
「知ってるだろう、BBミュージックから話がきてんだ。デビューできるんだよ、一年で。おまえも言ってたろ、いつまでも学祭バンドじゃ、ライブハウスバンドじゃ、ってよ」
我ながらギターは巧いと思っていた。それにミギには及ばないながらも曲も書ける。俺たちの代表曲、「Straight Flash」は俺が書いた。何より「JET BLACK」はミギと俺のバンドだという意識は強かった。
ステージアクトの旺盛なミギと静かなステージングの俺は、いいコントラストだったと思っている。音楽雑誌の紹介では動のミギ、静のアイと書かれていた。
「徳永愛郎二十二歳、大学四年、就職いまだ決まらず」
ミギが茶化した。もう六月になっている。このご時世に大学四年生になってまで髪を金色に染めてバンドに熱中しているやつを入社させてくれる奇特な会社など存在するわけがない。たいていの学生は大学三年の夏には就職が決まっているものだ。
しかし俺は生来の優柔不断で、バンドを取るか、どこかの会社にでも就職する普通の生活を取るか、答えを決めかねていたのだ。
「永久就職って手があるさ」
俺は無理やり笑って答える。だが、大事にしなければならない。雪江のことを。
タバコの煙と落書きに彩られたバラックの部屋で、ミギが話し掛けてきた。この三年間不法占拠してきた「ジャズ研究会」の部室だ。大学に入って最初に知り合ったミギ~右田義春~と意気投合し、部員がいなかった「ジャズ研究会」を発見し、勝手に入部してその部室を乗っ取った。その部室を根城に音楽活動を開始したのがちょうど三年前だった。ミギがヴォーカル、俺がギター。
入学時の集会で「ベースギターできるやつ!」と大声で叫んだミギに、はいよと手を挙げて応えたキタ~大北一樹~がベーシスト、ミギの後輩のリョータロー~山崎良太郎~をドラマーとして学外から迎え、その年の学園祭で俺たちの「JET BLACK」はデビューした。
実際、ミギには才能があった。バンドの曲のほとんどを書き、ヴォーカルにしても非凡だった。そして何より、フロントマンとしての押しの強さは学園祭バンドのそれをはるかに凌駕していた。そして、俺たちの「JET BLACK」は確実に学園祭バンドからライブハウスのレギュラーへと進化していった。
「おまえは確かにバンドやりながらも最低限授業は出てたもんな。単位も大体あるんだろう?それもわかるけどよ、俺は、おまえと一緒にやりたいんだよ」
「JET BLACK」はミギのカリスマとしっかりした楽曲で、東京郊外のライブハウスではちょっとした人気バンドになっていった。深夜番組ながら、二回ほどテレビ出演したこともある。インディーズバンド紹介を看板にしていた音楽雑誌ではもはや常連で、「ミギ・アイ・キタ・リョータロー」というメンバーそれぞれのバンドネームはすっかり有名になっていた。
俺が雪江に出会ったのはその頃、一年半くらい前。
「知ってるだろう、BBミュージックから話がきてんだ。デビューできるんだよ、一年で。おまえも言ってたろ、いつまでも学祭バンドじゃ、ライブハウスバンドじゃ、ってよ」
我ながらギターは巧いと思っていた。それにミギには及ばないながらも曲も書ける。俺たちの代表曲、「Straight Flash」は俺が書いた。何より「JET BLACK」はミギと俺のバンドだという意識は強かった。
ステージアクトの旺盛なミギと静かなステージングの俺は、いいコントラストだったと思っている。音楽雑誌の紹介では動のミギ、静のアイと書かれていた。
「徳永愛郎二十二歳、大学四年、就職いまだ決まらず」
ミギが茶化した。もう六月になっている。このご時世に大学四年生になってまで髪を金色に染めてバンドに熱中しているやつを入社させてくれる奇特な会社など存在するわけがない。たいていの学生は大学三年の夏には就職が決まっているものだ。
しかし俺は生来の優柔不断で、バンドを取るか、どこかの会社にでも就職する普通の生活を取るか、答えを決めかねていたのだ。
「永久就職って手があるさ」
俺は無理やり笑って答える。だが、大事にしなければならない。雪江のことを。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる