Straight Flash

市川 電蔵

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Scene 13

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福山の書いた記事が、翌々月の音楽雑誌に載った。俺たちのステージレビューが見開きで載っている。BBミュージックと契約、来春にこのライブを納めたDVDをデビューシングルがわりに出して全国ツアーに出発、来秋にはファーストアルバムを出すということだ。福山との約束どおり、俺の脱退が最後に書き加えられ、コトブキの加入も報じられていた。
秋風が木枯らしに変わる頃、ミギが大学を自主退学したことを篠沢教授に聞いた。
キタは俺以上にまじめに講義に出て、単位は完全に取得していたのだが、卒論に手をつけられる状態ではないらしく、休学だという。自主退学して推薦元の母校に迷惑を掛けたくないのだろう。
こっちは携帯電話の番号もメールアドレスも変えていないのに、何の連絡もくれないことに少し腹を立てたが、もう住む世界が違うのだとミギが言っているような気がして、腹立ちを収めた。俺は篠沢教授が感心するほどの変わりようで、熱心にゼミに通っていた。超法規的措置の教育実習も何とかこなし、あとは卒論だけなのだ。
ミギたちが大学を辞めてバンドに専念したということは、生きていく意味を探るためのスタートを切ったことだと思った。俺も、雪江とともに生き、石川の家に入る決心をした以上、それに向かって全力を出さなければいけない。俺は、ロックンロールに代わる目的を見出した。
「あーくん、今度の土日、時間ある?」
夕食のあと、雪江が尋ねた。
「バイトが入ってるな、土曜日」
俺は東洋史のレポートを広げながら答えた。バイト先の居酒屋は年末に入り忙しくなっている。
「バイト代わってもらって」
雪江の声が、「石川家モード」に入っている。断れる状況ではない。
「わかった」
「山形に行くからね」
背筋が伸びた。
「一回、床屋に行かなきゃね」
雪江が俺の髪をなでながらつぶやく。俺の髪は何とも言いようのない形に仕上がっていた。夏に坊主にしてから、この季節までただ伸ばし放題の髪だ。マッシュルームがへたったような形になっている。おまけに高校時代に使っていた何の変哲もない銀ぶち眼鏡を常にかけているため、ひきこもりのオタクそのままの容姿だ。
「JETのアイもかたなしだね」
雪江が優しく笑う。
「石川家に婿入りするのに、バカ丸出しじゃお前が肩身狭いだろ」
「たしかに勉強してるよね」
雪江の部屋では、食事用の小さなテーブルが俺の勉強机だ。その周りにはレポートの資料となる分厚い本が山積みになっている。
「バカな先生じゃ、生徒になめられる」
雪江が俺の頬をペろりと舐める。
「あたしはいっつも舐めてるけど」
俺は笑って雪江を組み敷く。雪江は俺の下で笑った。
「山形へ行って、あーくんを正式に紹介する日が決まったよ」
「ついにか」
「親戚も来るけど、もうお父さんもお母さんも認めてる事だから、挨拶程度ね」
雪江の言葉を唇でふさぎ、手を胸に這わせる。雪江の息遣いがたちまち荒くなってきた。
「まだ、妊娠はダメよ」
雪江が俺のめがねを下から外す。
「ちゃんとつけてね、そこだけはうるさいから」
「了解」
久しぶりに3回やった。
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