Straight Flash

市川 電蔵

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Scene 22

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翌日、宅急便で手配しておいた荷物が届く。ギターアンプや服、そして少ないながらも教科書やノートのたぐいだ。それらを俺にあてがわれた部屋に運び込む。年代物の重厚な机の隣に4本のギターが並び、アンプが添えられた。そして壁には俺のステージ衣装、黒いマオカラースーツを吊るす。肩まで伸ばした金髪、白のレスポール、黒いマオカラースーツが俺のステージでの定番だった。
「カッコ良かったよね」
いつの間にか部屋に来ていた雪江が、壁のスーツと俺を見比べて微笑んだ。
「弾いてみてよ、久しぶりに聴きたい、あーくんのギター」
実は俺も、久しぶりにケースから出したギターを見て、弾きたくなっていたのだ。マーシャルのアンプにシールドを突っ込み、電源を入れる。むぅん、とマーシャルが軽くハウる。シャランと小さく弦を弾いてみたが、チューニングはあらかた合っているようだ。ステージで1曲目に演奏する「JET STREAM」のリフを弾いてみる。コードを押さえる左指は半年前の解散ライブの時とまったく変わらず正確に動いているしカッティングは正確だ。左右の指に目をやることもない。
「ぜんぜん衰えてないねぇ」
雪江が嬉しそうに俺を見ている。
「やっぱギタリストのほうが良かったかしら」
義母が部屋に入ってきたので俺はあわててカッティングをやめる。
「あら、構わないのよ?敷地だけは広いから、いくら音を出しても隣近所には迷惑はかからないし」
義母が含みを持たせた言い方をしてニヤっと笑う。年が明けてからこっち、雪江とはセックスしていないのだが。
「それにしても、やっぱりプロなのね。私みたいな素人でもわかるわ」
義母は壁に吊るしたマオカラースーツに目をやる。
「これがステージ衣装?」
「はは。お恥ずかしい」
俺は頭をかく。
「素敵じゃない?白いギターと黒いスーツ」
「ついでに肩まで伸ばした金髪」
雪江がキャーと叫んで俺に抱きついた。
「披露宴のお色直しの衣装は決定ね」
義母が娘の様子に苦笑しながら言うと、雪江がまたキャーうれしーと叫んでまた抱きつく。
「そ、そういや俺がいたバンドのデビューDVD、明日発売でしたわ」
「奇遇ね、明日はあなたらの結婚記念日」
雪江のキャーキャーが止まらなくなった。
「十文字屋さ50枚ばがりよやぐしったさげ」
今度は義父がぬっと現れる。
「十文字屋に?お父さん、マジ?」
雪江が俺に抱きついたまま義父に問いかける。あとで知ったが十文字屋というのは、山形市では老舗の書店兼レコードショップで、本もレコードも田舎のショップと馬鹿にできない品揃えを誇る。山形市というのは人口の割に映画館も多く、文化的にはかなり洗練された街だ。
「東京の大先生ど、後援会ど、事務所ど…ほうぼうさ配っさげな、おらえの婿うづったがらつて」
義父が指を折りながら言う。
「菅野さん、何も聞いてこなかったけどちゃんと調べたんだ」
雪江が感心している。
「あーくんは三味線もすぐおぼえそうだねぇ、今度教えるよぅ」
しまいには義祖母もやってきた。
「ばあちゃんは三味線を?」
「東京に住んでる頃、うちの人について行って深川の料亭に行ったときね、芸者の姐さんと意気投合して、教えてもらったのさ」
俺はベースも一応弾けるし、弦を弾くものには興味があったので即答した。
「願ってもないです、ぜひ教えて下さい」
石川家が俺に微笑みを向けた。
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