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Scene 42
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マサシさんの高速運転で、車は午前十時過ぎには寒河江のインターチェンジをくぐった。
「早めについだす、家さよって荷物おいでぐべ」
車は旧道と言われる道を走る。並走する線路をディーゼルカーがすれ違う。
「うわ、二輌だよ電車」
ミギが目を丸くする。田舎をまったく知らない東京人のミギには驚きだろう。
「いや、電車じゃないし。ディーゼル。ウチの田舎だってこんなもんだ」
長野の出身であるキタが俺のかわりに答えた。
「まぁ、俺の田舎のほうがまだ都会だけど、ここよか」
寡黙なキタにしては珍しく、大笑いしている。
「田んぼばっか。でもコンビニはあるな。北海道のじいちゃんちのあたり、コンビニもなかった」
リョータローは窓の外を凝視している。
「塚本さんはご出身どちらでしたっけ」
五兵衛さんが塚本社長に問いかける。
「私は横浜ですね。両親も横浜生まれ育ち。バンドでツアーに出るまで横浜から出たことなかった。東京にさえ行かなかったなぁ」
「横浜の人ってそうですよね」
石川分家でありながら真の東京人である五兵衛さんが相槌を打つ。
車は石川家南門の前についた。マサシさんがクラクションを鳴らす。
「おい、何だよこれ。家ってこれかよ」
ミギが愕然としている。
「門って、これ、お城とかのやつ?」
キタはまじめな顔である。
「そうらしい。山形城のヤツを、明治のはじめに移設したそうだわ」
俺がそう答えると、門がゆっくりと開いた。車が石川家の敷地へと入っていく。
「広!」
リョータローが大声を上げた。
「重要文化財だろ、家ってよりは」
さすがの塚本社長も口をあんぐりとさせる。
「まぁ、中はいろいろ改築してるけど、外観はほとんどそのままらしいね、江戸時代末期から」
五兵衛さんが解説する。俺たちにあてがわれている離れは、昭和初期の建築らしい。
玄関前に車を停めて降りると、雪江が玄関から飛び出してきた。
「みんな、ごぶさた!」
雪江がまずミギとハイタッチし、キタ、リョータローと続く。
「キモノ以来ですね」
コトブキには少しかしこまった。
「アイの後釜、しっかりやってますよ」
コトブキがにっこり笑って雪江にハイタッチを求め、雪江もそれに応えた。
「はじめまして、石川雪江でございます。塚本社長様のお話は主人からよく聞いておりました」
雪江は塚本社長に丁寧に挨拶する。
「あれ?俺初対面だっけか?雪江ちゃんのことはアイにしょっちゅう聞いてたから、初対面じゃないみたい。いやー美人だねー、アイが羨ましいわ」
塚本社長は明るく笑った。雪江も笑う。
「とりあえず、荷物を部屋に入れちゃってくださーい」
雪江は皆を家に招き入れた。
居間に入ると、父と祖母が待ち構えていた。
「アニキ、世話になりますよ」
「五兵衛、ごぐろうさまなっす」
「遠いとこ悪かったねぇ」
五兵衛さんが挨拶し、父と祖母がそれに返す。
「このたびはどうもお迎えまでしていただきまして」
塚本社長が父に名刺を差し出す。父も名刺を渡し、皆に座って座ってと呼びかける。
「愛郎、この人らが、お前の昔のバンドながまが?」
「おやじさん、昔じゃないっす。アイはずっとうちのメンバーですよ」
ミギが笑って父に言った。
しばしの談笑のあと荷物を部屋に置き、近くの蕎麦屋で昼食をとって、俺達は学院へやって来た。
「さて、こっから俺は教師になるから」
「そういや、おまえ迎えに来た時から背広にネクタイだったな」
「おまえたちがプロのミュージシャンになったんだ、俺もプロの教師になるさ」
「ちげえねえや。アイのそういうとこ好きなんだよ俺」
塚本社長と五兵衛さんにはVIP用の来客用スリッパを出し、ミギたちには普通の来客用を出す。
「では、先立って理事長にご挨拶をお願いいたします」
「理事長の時の姉さんもイケてるよね」
五兵衛さんが茶々を入れるが、俺は学院の教師モードに入っており、それは受け流した。
「失礼致します。東京より塚本社長さまご一行、お着きになりました」
理事長室のドアをノックし、大きめの声で告げる。
「お入りなさい」
理事長の声がひびき、俺はドアを開ける。理事長が立ち上がって、ソファの方へ歩いてきた。室内に入り、塚本社長が名刺を差し出す。
「はじめまして、株式会社BBミュージックの塚本と申します。この度は、貴校の生徒様を面接させていただけるということでおじゃまさせて頂きました。よろしくお願いいたします」
理事長は名刺を受け取り、自分の名刺を塚本社長に渡して皆に着席を勧める。社長と五兵衛さんと俺がソファに座り、ミギたちは着席を固辞して塚本社長の傍らに立つ。ミギは昔からこういうところがよくわかっている。
「東京石川の五兵衛から塚本社長のお話は伺っておりますわ」
「姉さん、いや理事長、BBミュージックはやはりすごい。塚本さんは音楽的センスと経営的センスのバランスが調和してる。彼が手がけるミュージシャンは、どれも大成功だ。愛郎くん、いや石川先生が在籍していたこのバンドも、ブレイク寸前だから」
ご兵衛さんの言葉に理事長はにっこり笑った。
「あなたが出資するんだもの、間違いのあろうはずがないわ。塚本社長、うちの生徒もこの石川が推すくらいなので間違いはないと思います。どうぞよろしく」
理事長が塚本社長に頭を下げるタイミングにあわせ、俺も深々と礼をした。
「では、早速ですが、面接会場の方へ。音楽室へお願いいたします」
俺は立ち上がり、一行を音楽室へ導く。ドアを開けると、緊張に顔をこわばらせた坊主頭の西川が座っている。そして当然のように大泉もいる。
「あれ、面接は二人だっけ」
塚本社長が笑う。
「わ、私は付き添いで」
大泉にしては珍しく緊張しているようだ。
「オッケーオッケー、気にしない」
塚本社長はフランクに言って、西川の前に用意された椅子に腰掛けた。五兵衛さんや理事長、ミギたちはその周りに座る。
「彼が西川富士男です。こちらが履歴書と成績表、理事長の推薦状です」
塚本社長は履歴書にしっかり目を通し、成績表には目もくれず、推薦状をまたしっかり読んだ。
「最初写真見た時は金髪だったけど、切ったんだ」
「履歴書の写真に金髪では、スジが違うと思いまして」
「でも茶髪だ」
「すいません、これは生まれつきだっす」
「金髪のままでも構わないけどね、こいつら最初からこんな頭だし、アイ先生も去年まで金髪よ」
「今の自分はただの高校生だっす。たしかにいきがって金髪にはしったっけげっと、社長さんに初めてお会いするのに金髪では失礼だと思たっす」
「質問いいかな、西川くん」
「は、はいっす」
塚本社長が笑い、西川の緊張が少しほぐれる。
「なんで、プロになりたいと思ったの」
西川は考えこむでもなく、すぐに口を開いた。
「じいちゃんとばあちゃんに、自分の得意なことで飯が食えるようになったって、見せてやりたいっす」
西川は訛りをなるべく抑えようとして話す。
「それと、実の母親と父親にも、見せてやりたいっす」
西川は履歴書に自分の出生に関してのことを簡潔に記している。理事長の推薦状にもその件について記述がある。
「あど、こんな田舎だげっと、俺、JET BLACKが大好きで聴いでました。石川先生がアイだったなんて信じらねことがあって、今日ミギさんたちがいて。夢見でるみたいっす」
ミギたちが照れくさそうに笑う。
「社長、俺、給料なのいらねがら、JETの下働きさせでください。お願いします!」
「お願いします!」
立ち上がって深々と頭を下げる西川にあわせて、大泉も頭を下げた。
「まぁまぁ、給料の話はおいといて。ちょっと、弾いてみて」
塚本社長はにこにこして続ける。西川が素早くギターの側へ行き、アンプにシールドを挿す。大泉もベーアンにシールドを挿した。
「ギ、ギターだけだと西川くんがやりにくいかな、って」
大泉はそう釈明しながらも、なめらかな動きで弾き始める。キタが興味深げに大泉を観察し、小さな声でミギと話している。ベースラインは、STRAIGHT FLASHだ。ミギたちが一斉に驚嘆の声を上げる。
「ワンツートゥイーフォー」
西川がリョータローの発音で言うと、俺達にはなじみのフレーズが炸裂した。曲をやり始めたら西川も大泉も一気に緊張がほぐれたと見え、いつものペースで弾いている。大泉は小さな身体で軽快にステップを踏んで踊り、西川は直立不動である。塚本社長はミギと目で会話しているようだ。ふたりとも頷き合う。
「オッケー!ふたりとも採用決定!」
塚本社長が立ち上がって拍手をし、大声で言った。JET BLACKのメンバーも立ち上がって拍手する。理事長と五兵衛さんもスタンディングオベーションだ。西川と大泉が演奏を止め、俺は放心したように座っている。
「アイ先生、えらい逸材を紹介してくれた!俺の頭ン中に、これで売れなきゃおかしいだろってユニットの構想が浮かんだわ」
塚本社長が俺の肩を叩き、ようやく我に返って立ち上がり、深々と頭を下げる。
「塚本社長、ありがとうございます!」
「あ、あ、ありがとうございます!」
西川は泣いていた。大泉に至っては座り込んで号泣している。
「おいおい、なんかえらいことになってるな」
塚本社長が苦笑した。
「私からも心からお礼申し上げますわ社長」
「理事長、お礼を言うのはこっちです。将来のメシの種が見つかったんですからね。腹いっぱい食わせてもらえそうだこれは」
「大泉、あ、女の子のほうは西川をバックアップしたい一心で同席したんですけどねぇ」
「いやむしろ彼女とセットじゃないと、彼は輝かないな」
「一応本人と両親に確認はしますけど、あの子なら家出してでも西川についていくわね」
「うわラブラブなんだやっぱ」
「子供の頃から、あの容姿でいじめられてた西川をかばってたんですわ。このへんでは知らぬ者のないくらいのカップル」
「それもいいエピソードだなー。よ~し三年以内にものにするぞ」
「塚本さん、火が付いた」
五兵衛さんが笑った。
「社長、富士男さー、夏休みでしょ、ツアーのボーヤさせよっか」
ミギが西川の履歴書と推薦状を読みながら塚本社長に言った。もう富士男よばわりである。
「富士男はお前らにまかせるから、徹底的に鍛えろ」
塚本社長も同じく、もう身内扱いだ。
「ちっこい彼女どうすんの」
「ま、ありゃまだお前らに預けられんわな。リョータローに食われちまう」
「まだ来るか決まってないのに?」
ミギと塚本社長はタメ口で会話している。
「大泉の件はお任せください」
理事長が二人の会話に割って入り、にっこり笑った。
「やっぱ雪江ちゃんそっくり…」
ミギが苦笑した。
「早めについだす、家さよって荷物おいでぐべ」
車は旧道と言われる道を走る。並走する線路をディーゼルカーがすれ違う。
「うわ、二輌だよ電車」
ミギが目を丸くする。田舎をまったく知らない東京人のミギには驚きだろう。
「いや、電車じゃないし。ディーゼル。ウチの田舎だってこんなもんだ」
長野の出身であるキタが俺のかわりに答えた。
「まぁ、俺の田舎のほうがまだ都会だけど、ここよか」
寡黙なキタにしては珍しく、大笑いしている。
「田んぼばっか。でもコンビニはあるな。北海道のじいちゃんちのあたり、コンビニもなかった」
リョータローは窓の外を凝視している。
「塚本さんはご出身どちらでしたっけ」
五兵衛さんが塚本社長に問いかける。
「私は横浜ですね。両親も横浜生まれ育ち。バンドでツアーに出るまで横浜から出たことなかった。東京にさえ行かなかったなぁ」
「横浜の人ってそうですよね」
石川分家でありながら真の東京人である五兵衛さんが相槌を打つ。
車は石川家南門の前についた。マサシさんがクラクションを鳴らす。
「おい、何だよこれ。家ってこれかよ」
ミギが愕然としている。
「門って、これ、お城とかのやつ?」
キタはまじめな顔である。
「そうらしい。山形城のヤツを、明治のはじめに移設したそうだわ」
俺がそう答えると、門がゆっくりと開いた。車が石川家の敷地へと入っていく。
「広!」
リョータローが大声を上げた。
「重要文化財だろ、家ってよりは」
さすがの塚本社長も口をあんぐりとさせる。
「まぁ、中はいろいろ改築してるけど、外観はほとんどそのままらしいね、江戸時代末期から」
五兵衛さんが解説する。俺たちにあてがわれている離れは、昭和初期の建築らしい。
玄関前に車を停めて降りると、雪江が玄関から飛び出してきた。
「みんな、ごぶさた!」
雪江がまずミギとハイタッチし、キタ、リョータローと続く。
「キモノ以来ですね」
コトブキには少しかしこまった。
「アイの後釜、しっかりやってますよ」
コトブキがにっこり笑って雪江にハイタッチを求め、雪江もそれに応えた。
「はじめまして、石川雪江でございます。塚本社長様のお話は主人からよく聞いておりました」
雪江は塚本社長に丁寧に挨拶する。
「あれ?俺初対面だっけか?雪江ちゃんのことはアイにしょっちゅう聞いてたから、初対面じゃないみたい。いやー美人だねー、アイが羨ましいわ」
塚本社長は明るく笑った。雪江も笑う。
「とりあえず、荷物を部屋に入れちゃってくださーい」
雪江は皆を家に招き入れた。
居間に入ると、父と祖母が待ち構えていた。
「アニキ、世話になりますよ」
「五兵衛、ごぐろうさまなっす」
「遠いとこ悪かったねぇ」
五兵衛さんが挨拶し、父と祖母がそれに返す。
「このたびはどうもお迎えまでしていただきまして」
塚本社長が父に名刺を差し出す。父も名刺を渡し、皆に座って座ってと呼びかける。
「愛郎、この人らが、お前の昔のバンドながまが?」
「おやじさん、昔じゃないっす。アイはずっとうちのメンバーですよ」
ミギが笑って父に言った。
しばしの談笑のあと荷物を部屋に置き、近くの蕎麦屋で昼食をとって、俺達は学院へやって来た。
「さて、こっから俺は教師になるから」
「そういや、おまえ迎えに来た時から背広にネクタイだったな」
「おまえたちがプロのミュージシャンになったんだ、俺もプロの教師になるさ」
「ちげえねえや。アイのそういうとこ好きなんだよ俺」
塚本社長と五兵衛さんにはVIP用の来客用スリッパを出し、ミギたちには普通の来客用を出す。
「では、先立って理事長にご挨拶をお願いいたします」
「理事長の時の姉さんもイケてるよね」
五兵衛さんが茶々を入れるが、俺は学院の教師モードに入っており、それは受け流した。
「失礼致します。東京より塚本社長さまご一行、お着きになりました」
理事長室のドアをノックし、大きめの声で告げる。
「お入りなさい」
理事長の声がひびき、俺はドアを開ける。理事長が立ち上がって、ソファの方へ歩いてきた。室内に入り、塚本社長が名刺を差し出す。
「はじめまして、株式会社BBミュージックの塚本と申します。この度は、貴校の生徒様を面接させていただけるということでおじゃまさせて頂きました。よろしくお願いいたします」
理事長は名刺を受け取り、自分の名刺を塚本社長に渡して皆に着席を勧める。社長と五兵衛さんと俺がソファに座り、ミギたちは着席を固辞して塚本社長の傍らに立つ。ミギは昔からこういうところがよくわかっている。
「東京石川の五兵衛から塚本社長のお話は伺っておりますわ」
「姉さん、いや理事長、BBミュージックはやはりすごい。塚本さんは音楽的センスと経営的センスのバランスが調和してる。彼が手がけるミュージシャンは、どれも大成功だ。愛郎くん、いや石川先生が在籍していたこのバンドも、ブレイク寸前だから」
ご兵衛さんの言葉に理事長はにっこり笑った。
「あなたが出資するんだもの、間違いのあろうはずがないわ。塚本社長、うちの生徒もこの石川が推すくらいなので間違いはないと思います。どうぞよろしく」
理事長が塚本社長に頭を下げるタイミングにあわせ、俺も深々と礼をした。
「では、早速ですが、面接会場の方へ。音楽室へお願いいたします」
俺は立ち上がり、一行を音楽室へ導く。ドアを開けると、緊張に顔をこわばらせた坊主頭の西川が座っている。そして当然のように大泉もいる。
「あれ、面接は二人だっけ」
塚本社長が笑う。
「わ、私は付き添いで」
大泉にしては珍しく緊張しているようだ。
「オッケーオッケー、気にしない」
塚本社長はフランクに言って、西川の前に用意された椅子に腰掛けた。五兵衛さんや理事長、ミギたちはその周りに座る。
「彼が西川富士男です。こちらが履歴書と成績表、理事長の推薦状です」
塚本社長は履歴書にしっかり目を通し、成績表には目もくれず、推薦状をまたしっかり読んだ。
「最初写真見た時は金髪だったけど、切ったんだ」
「履歴書の写真に金髪では、スジが違うと思いまして」
「でも茶髪だ」
「すいません、これは生まれつきだっす」
「金髪のままでも構わないけどね、こいつら最初からこんな頭だし、アイ先生も去年まで金髪よ」
「今の自分はただの高校生だっす。たしかにいきがって金髪にはしったっけげっと、社長さんに初めてお会いするのに金髪では失礼だと思たっす」
「質問いいかな、西川くん」
「は、はいっす」
塚本社長が笑い、西川の緊張が少しほぐれる。
「なんで、プロになりたいと思ったの」
西川は考えこむでもなく、すぐに口を開いた。
「じいちゃんとばあちゃんに、自分の得意なことで飯が食えるようになったって、見せてやりたいっす」
西川は訛りをなるべく抑えようとして話す。
「それと、実の母親と父親にも、見せてやりたいっす」
西川は履歴書に自分の出生に関してのことを簡潔に記している。理事長の推薦状にもその件について記述がある。
「あど、こんな田舎だげっと、俺、JET BLACKが大好きで聴いでました。石川先生がアイだったなんて信じらねことがあって、今日ミギさんたちがいて。夢見でるみたいっす」
ミギたちが照れくさそうに笑う。
「社長、俺、給料なのいらねがら、JETの下働きさせでください。お願いします!」
「お願いします!」
立ち上がって深々と頭を下げる西川にあわせて、大泉も頭を下げた。
「まぁまぁ、給料の話はおいといて。ちょっと、弾いてみて」
塚本社長はにこにこして続ける。西川が素早くギターの側へ行き、アンプにシールドを挿す。大泉もベーアンにシールドを挿した。
「ギ、ギターだけだと西川くんがやりにくいかな、って」
大泉はそう釈明しながらも、なめらかな動きで弾き始める。キタが興味深げに大泉を観察し、小さな声でミギと話している。ベースラインは、STRAIGHT FLASHだ。ミギたちが一斉に驚嘆の声を上げる。
「ワンツートゥイーフォー」
西川がリョータローの発音で言うと、俺達にはなじみのフレーズが炸裂した。曲をやり始めたら西川も大泉も一気に緊張がほぐれたと見え、いつものペースで弾いている。大泉は小さな身体で軽快にステップを踏んで踊り、西川は直立不動である。塚本社長はミギと目で会話しているようだ。ふたりとも頷き合う。
「オッケー!ふたりとも採用決定!」
塚本社長が立ち上がって拍手をし、大声で言った。JET BLACKのメンバーも立ち上がって拍手する。理事長と五兵衛さんもスタンディングオベーションだ。西川と大泉が演奏を止め、俺は放心したように座っている。
「アイ先生、えらい逸材を紹介してくれた!俺の頭ン中に、これで売れなきゃおかしいだろってユニットの構想が浮かんだわ」
塚本社長が俺の肩を叩き、ようやく我に返って立ち上がり、深々と頭を下げる。
「塚本社長、ありがとうございます!」
「あ、あ、ありがとうございます!」
西川は泣いていた。大泉に至っては座り込んで号泣している。
「おいおい、なんかえらいことになってるな」
塚本社長が苦笑した。
「私からも心からお礼申し上げますわ社長」
「理事長、お礼を言うのはこっちです。将来のメシの種が見つかったんですからね。腹いっぱい食わせてもらえそうだこれは」
「大泉、あ、女の子のほうは西川をバックアップしたい一心で同席したんですけどねぇ」
「いやむしろ彼女とセットじゃないと、彼は輝かないな」
「一応本人と両親に確認はしますけど、あの子なら家出してでも西川についていくわね」
「うわラブラブなんだやっぱ」
「子供の頃から、あの容姿でいじめられてた西川をかばってたんですわ。このへんでは知らぬ者のないくらいのカップル」
「それもいいエピソードだなー。よ~し三年以内にものにするぞ」
「塚本さん、火が付いた」
五兵衛さんが笑った。
「社長、富士男さー、夏休みでしょ、ツアーのボーヤさせよっか」
ミギが西川の履歴書と推薦状を読みながら塚本社長に言った。もう富士男よばわりである。
「富士男はお前らにまかせるから、徹底的に鍛えろ」
塚本社長も同じく、もう身内扱いだ。
「ちっこい彼女どうすんの」
「ま、ありゃまだお前らに預けられんわな。リョータローに食われちまう」
「まだ来るか決まってないのに?」
ミギと塚本社長はタメ口で会話している。
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