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第1章 転生

26話 災害級?

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 ジンは南門に到着すると衛兵にギルドタグを見せ捕まえた盗賊を犯罪奴隷として引き渡した。

「随分盗賊とやりあったみたいだね、怪我は大丈夫かい?」

衛兵はボロボロで血が染みてドス黒くなった服のジンを見て心配してくれているのだが、どうやら盗賊との戦闘でボロボロになってしまったと勘違いしているようだ。

「これは盗賊じゃなくてホワイトバックベアにやられた時のですね。盗賊は後ろから殴って気絶させたから怪我なんてしてないですよ」

右手を握ってポカリと殴る仕草をしてみせる。

「そ、そうか。盗賊を捕まえてきてくれるのは町にとってとてもありがたいよ、減れば減るだけ治安は良くなるからな。ホワイトベアにやられたにしてはピンピンしてるようだが」

「傷はポーションを飲みましたので大丈夫ですが装備はボロボロですね。一張羅なので替えを持ってないんですよ」

「6人も連れてきているから服は領主様からの報奨金で十分買い直せると思うぞ、冒険者ギルドですぐに受け取れるようにしてあげるからすぐに行くといい」

 話によると犯罪奴隷は通常の奴隷の半額ほどの金額で領主が買い上げて報奨金にプラスして支払われるそうで、その後は鉱山へ送られほとんどの奴隷は暗い坑道の中で一生働かされるらしい。
領主は安く奴隷を手に入れられ、冒険者は収入が増える、そして商人や市民は治安が良くなるという仕組みだ。
報奨金はギルドから受け取れるようになっていたので手続きはギルドタグを見せて衛兵の詰所でサインするだけであった。
門での手続きが終わったので、薬屋のエチューさんに店の場所を聞くとそこで別れてジンは冒険者ギルドへ向かった。
ギルドに着いて誰も並んでいないカウンターでギルドタグを出すとボロボロになったジンの格好を見たソフィーが心配そうにタグを受け取り機械に差し込んだ。

「また無茶なことをしてきたみたいね、そんなにボロボロになるまで何処で何を獲ってきたの?」

「獲れたのはポイズンスパイダー、ゴブリン、ホーンラビット、ウルフそれとホワイトバックベアです。ホワイトバックベアって強いですね、なんとか仕留めることができたけど危うく死にかけました」

「嘘でしょ、ホワイトバックを本当に倒しちゃったの?!」

その声が聞こえたのか、オフィスのドアが開いてベルンハルトさんが顔をのぞかせた。

「大きな声を出してどうした」

俺の顔を見ると

「お、帰ってきたな。
ソフィーからCランクの依頼を受けて出て行ったと聞いて心配していたんだが、無事なようだな。
しかしボロボロだな、生きて戻ってきたところをみると冒険者としては合格だがな」

俺のズタボロになった服を見ればのは誰が見てもやばかったのは一目瞭然であった。

「危うく死にかけましたが、何とか倒せました。次からはもっと慎重に狩をします」

「ふん、何を狩ってきたんだ?」そう言って機械を覗き込んだベルンハルトは目を大きく見開いた。

「狩ってきたやつはまだ持っているのか?」

「まだバッグの中ですよ」

「俺とこい、あっちで確認しよう」

そう言って素材買い取りカウンターの後ろの部屋に連れて行かれた。

「ここに獲物を出してくれ」

俺は獲物を順番に出した。

「ポイズンスパイダー3匹、ホーンラビット7匹、ゴブリン6匹、ウルフ5頭
それとこいつが今日一番大変だったホワイトバックベア2頭」

そう言って今回の獲物を取り出し、最後に一番でかいホワイトバックベアを取り出した。

「最後のやつはホワイトバックじゃないな」

「え、違うんですか?
こいつは死にそうになりながらやっと倒した奴なんですけど・・・」

「こっちのやつはホワイトバックベアで間違いない。獲りたてで新鮮だし血抜きもできているから依頼完了でいいだろう」

「じゃあ、こっちのでかいのは?」

「こっちのでかいやつはホワイトバックじゃないと言ったが、全くの別種ってわけじゃないぞ。
こいつはシルバーバックベアというやっつだ、ギルドタグの狩猟履歴にも出ていたから間違いない。
ホワイトバックベアが年を経て上位種になったAランクの魔獣で決してDランクの冒険者が一人で獲ってこれるような奴じゃない」

「え? シルバーバックですか、初めて聞きました」

言われてみれば背中のたてがみの色はホワイトバックベアに比べて透き通っていて見る角度によっては銀色に見えた。
ジンは勝手に大きなホワイトバックベアーだと勘違いしていたのだ。
ゴブリンファイターに比べれば、その異常な強さはCランクでないことぐらいは分かりそうなものであるが、突然現れて格闘が始まってしまったとはいえ確かに間が抜けている。

「そうだろうな、こいつはシルバーバックベア、ランクで言えばAランク、通称災害級と言われている魔獣だ。
それもこの大きさになると通常はAランクのパーティが2組はいないと倒せないはずなんだがな」

シルバーバックベアの周囲を回りながら確認していたベルンハルトは違和感を感じた。
再生し始めていた片足が目に入ったのだ。

 (ん! こいつの後ろ足、さっきは昔受けた傷だと思ったんだが、
  ここに後ろ足が2つあるということは今回の戦闘で受けた傷なのか。
  ということは、再生スキル持ちの魔獣・・Sランクに達していたのか)

ジンの顔を見て話を続ける。

「生きて帰っただけならまだしも倒して帰るなんて全くなんて奴だ、非常識にも程がある」

「はあ、すみません」

「お前は嫁さんの恩人なんだからもっと注意してくれ、もし何かあったらカレンに何を言われるか分かったもんじゃない」

  (そこかい!)

思わず声に出して突っ込みたくなってしまったが、どの世界も嫁さんが強いのは変わらないようである。

「これからは気をつけます」

「本当に頼むぞ。しかし、ギルドタグにも討伐記録が残っているからお前が単独で倒したのは確かだが、どうやってこいつを倒した?
不意打ちしようにもこいつは勘がいいから物陰に隠れていても見つかるだろうし、傷口を見ても罠にかけたんじゃないみたいだしな、正面からやりあったっていうのか・・・
逃げて帰った冒険者達からもソロの冒険者に助けられたと聞いていたから、Sランクの冒険者が運良くいたんだと思っていたんだが、それがお前だったとはな」

ニヤッと笑って俺を見て言葉を続けた。

「ギルドタグには詳しいステータスが出ないから分からないが、本当はどこぞの国の高ランクの冒険者なんじゃないのか?」

「鑑定持ちの人に見てもらえば分かりますが、偽名も使ってないしそんなに高レベルでないですよ」

そう言ってはみたが実は今のレベルは本人もわかっていなかったのである。途中何度かレベルアップしたが忙しくて見ていなかったのだ。

「そうか、まあ無事に帰ってきた事だし今後はもっと慎重にやれよ。お前はここの期待のルーキーだからな。
俺からみんなに面倒見てやれと言ってあるから困ったことがあったら助けてもらえ」

いつのまにかギルドマスターお墨付きのルーキーになっていたようだ。
俺の知らないところで何ということを・・・

「それで、これは全部買取りに出すのか?」

「はい、全部お願いします」

そんなやりとりをしているとシズラー婆さんが部屋に入ってきた。

「こりゃ久しぶりの大物だね、このサイズのシルバーバックはここじゃ初めてじゃないかい」

「いいシルバーバックだろ、俺も久しぶりに見た。ジンもういいぞ」

「それじゃあ、お願いします」と言って受付カウンターに向かった。

カウンターに行くとソフィーさんが待っていた。

「今回達成した依頼は

 ホワイトバックベア1体 報酬: 大金貨2枚
 ポイズンスパイダー3体 報酬: 金貨6枚
 ゴブリンの討伐  6体 報酬: 金貨3枚
それからマスターに言われた事後承認の依頼達成が1件あるのよね

依頼レベルA 討伐依頼 シルバーバックベア 場所:マール市南部森林地帯
  報酬: 白金貨3枚

こんなのどうやったらDランクが倒せるの?私は一応Cランクだけどシルバーバックなんて怖くて近づけないわよ。
まあいいわ、前回の素材と装備の買い取りの分が大金貨9枚それと今回分を合わせた分ね」

ソフィーが出したお金とギルドタグを受け取って帰ろうとした時に買い取りカウンターの中からベルンハルトさんの声がした。

「ソフィー、ジンにもう少し待ってもらえ」

「待てだってさ、ジン君」

「なんですかねぇ?」

「なんだろうね~」

ドアが開きベルンハルトがやってきた。

「待たせたな、ギルドタグをちょっと出せ」

手を広げて出された掌の上に、おとなしくDランクのギルドタグを載せた。
ベルンハルトは受け取ったタグを機械に挿し込み、そしてもう1枚のギルドタグを横に挿し込んだ。

「災害級を単独討伐するような奴をDランクになんてしておけないから俺の権限で上げておく。ギルドからの招集も義務になるが、よろしく頼むぞ」

そう言ってしばらくすると、新しいギルドタグが出来上がった。

「ほら新しいギルドタグだ」

渡されたギルドタグはシルバーにゴールドのラインが入ったBランクの物であった。

「え、Bランクですか?」

「ああ、ポイントは既にBランクに達成していたからなんの問題もないぞ。
推薦と承認は俺だけで大丈夫だしな」

「確かCランク以上になれば降格は無いんでしたよね」

「ああ、心配しなくても降格はないぞ」

「ふぅ、降格が無くなったと聞いて気が楽になりました」

俺の方を見てニヤリとしながらベルンハルトは会話を続ける。

「でもな、下手なことをすると除名ってのがあるから気をつけろ、お前は危なっかしい気がするからな。
俺をヒヤヒヤさせるんじゃないぞ」

「そういえば、今日森から出た場所で盗賊を見つけたので捕まえて門番に突き出しましたので後からギルドに連絡があると思います」

「何?!お前は対人戦もできるのか、それは良いことを聞いた」

なぜベルンハルトが対人戦ができるのに驚いたのかというと、低ランクの若い冒険者の中には魔獣や死霊などと違い対人戦闘を好まないというか出来ない者達が少なからずもいたからだ。

「そういえば、商隊護衛の依頼があるからそれを受けてみないか?王都観光もできるし暇だったら行ってみろ」

「王都にはあまり興味がないし、人の護衛は疲れるので結構です。
それより同行者を探しているまともなパーティーがあれば紹介してください、パーティーを組んだことがないので今のうちに練習しておきたいんです」

「俺はよく分からんからソフィーに探してもらったらいい。
ソフィー、適当な奴らがいたらうまく話してやれ」

「条件が合いそうでまともなパーティーがいたら聞いてみます」

「それじゃあよろしくお願いします」

そう言いながら後ろに昨日の娘がいないかホールを見たが残念ながら今はいなかった、非常に残念である。
振り返ってカウンターの中のベルンハルトにちょっとしたお願いをすることにした。

「すみません、お願いがあるんですけど」

「なんだ?」

「知り合いに防具を作ってくれる良い工房があれば紹介してもらえませんか?」

以前、魔狼に左腕を食いちぎられかけた時も思っていたのだが今回の件で必要性が身にしみて分かったので、防具を必要だと感じていた。
しかし出来合いのものを買うにしてもオーダーするにしても良い工房を知らなかったのでギルドマスターであるベルンハルトに紹介してもらえれば助かると思ったのだ。

「工房か、欲しいのはアーマーか?それとも防御系の魔法が付与された服か?」

「どちらも欲しいので両方紹介してもらえれば助かります」

「それならいい店がある。
今、暇か?今だったら俺も時間が取れるから連れて行ってやるぞ」

「そんな、悪いですよ。
教えてもらえれば僕1人で行きます」

「その店は一見様お断りでな、俺が一緒に行かないと相手にしてもらえないぞ」

ベルンハルトの馴染みの店らしいが、一見様お断りの店という事で一緒にきてもらうことにする。

「そうなんですか、それではお願いします。
もう二度も痛い目を見たから次は三度目の正直ってやつで本当にやばいと思いますから」

「よし、それならすぐに出よう。
ソフィー、後は頼んだぞ、俺は用事が済み次第帰ってくる」

そう言ってカウンターを出たベルンハルトの後を追うようにしてジンも店を出るのであった。
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