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第1章 転生
35話 暴走
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見つかると色々と面倒臭いので転移してベルンハルトを追いかけていたふりをしたジンはベルンハルトに追いついたふりをして先ほどまでいた場所に到着した。その場を確認していたベルンハルトはというと、倒れた馬や男たちの様子を不思議そうに見ていた。
「あれ、もう終わったんですか?」
「ジンか。お前追いかけてきたのか?」
「捕まえたのは俺じゃないぞ、来た時にはすでにこの状態で人馬ともにこの状態だ」
ベルンハルトは倒れている人馬を顎で刺した。
「少し手前で何か威圧のようなものを感じたが、ここにいた奴は俺の気配を感じて姿を眩ました」
「一体誰なんでしょうか?」
「さあな、国の暗部かなんかだろ、そうじゃなきゃ姿を消す意味がわからん。
ところでジン、【身体強化】した俺にさほど遅れないということはお前も【身体強化】を使えるのか?」
「まだレベルは低いですけど、スキルは持ってますよ。それより、今のうちにこいつらを縛りませんか?」
そう言いながらマジックバッグに入れていたロープを取り出すと身ぐるみをはがして身動きが取れないようにぐるぐる巻きにした。
「俺の思っている通りならこいつらがラージカミカゼアントを誘導して町を襲わせていたに違いない。自殺できないように猿轡を噛ませとけよ。大事な情報を喋ってもらわないといけないから死なれちゃかなわん」
「大丈夫です。身ぐるみはがして縛り上げてズボンで猿轡しましたから、奥歯に自殺用の仕掛けをしていたとしても使えませんよ」
「確かにそれだけしっかり縛っときゃ身動きできそうにないな」
そう言いながらベルンハルトは馬を起こして道端の木に繋ぐと鞍にぶら下がっている大きな袋を外して中を確認しはじめた。
「やはりな」
赤と黄色の縞模様がついている腹の部分が真ん中から半分に切り分けられた物が入っていて袋がぐっしょりと濡れていた。
「クイーンの匂いを追いかけて奴らは暴走しているな。殺されてるのを知らずに助けようと必死に追いかけているんだろうな」
「止める方法はないんですか?」
「ラージカミカゼアントのクイーンが死んでいるとなると無いな。クイーンが出す特殊なフェロモンで止まるらしいが死んでしまうとダメだろう。だからこれも早く燃やしてしまった方がいい」
ベルンハルトは周囲に薪が落ちていないか探し始めた。
「ベルンハルトさん、火の魔法なら使えますから俺が燃やしましょうか?」
「お前、剣士じゃなかったのか?」
「簡単な火の魔法は使えますので大丈夫です」
掌を向け地面に置いた袋に向かって50センチくらいの真っ青な火の玉をぶつけた。
一気に燃え上がったかと思うとアリの死体が入った袋はあっという間に灰になった。
「青炎が出せるのか、ちょっとした魔法じゃないじゃないか。Aクラスの冒険者でも使える者がいるかどうかだぞ。お前の剣士風の風貌に騙されていたが本当は魔法使いだったのか。
でもまてよ、シルバーバックは斬り殺されていたということは剣も普通以上に使えるんだよな。それに【身体強化】も使えるとなると魔法剣士か?」
ジン自身何がメインの冒険者なのか分かっていないのだから他人がわかるはずもない。
「魔法は練習不足で実戦で使ったことはないですよ、剣というか刀がメインです」
「まあいい、魔法も使えるのがわかった。必要な時は頼むぞ。急いで戻ろう」
ベルンハルトはそう言うと木に繋いだ馬に乗って捕まえた男を後ろに乗せて戻り始めた。
ジンはというと、手に持っていた手綱を引いてベルンハルトの後ろを追い始める。
捕まえた男を乗せた馬を引くのは大変だったが他に方法がなかった。
なぜならジンは実は馬に乗ったことがなかったのだ。
しばらく走るとベルンハルトは馬を休憩させるために川の横で止まる。そして後ろを振り返ると手綱を引いて走ってくるジンの姿が見えた。
「おいジン、お前もしかして・・・」
「はい、馬に乗ったことがありません。ですので、乗ると多分落馬すると思います」
「今までどうしていたんだ?まさかずっと自分の足で移動か?」
「そうですよ、おかげで足腰が鍛えられて走るのが速くなりました」
「まったく」
ベルンハルトはあきれ顔になった。
「馬に乗る練習をしないといけないな、俺とお前が追い付いたくらいじゃ状況は変わらんだろう。
あっちはシズラーとソフィーに任せて乗馬の練習をしながら行くとするか。
それから俺のことはベルって呼べ。俺の名前は長ったらしいからな」
「わかりましたベルさん」
ジンは馬に乗せられると、練習しながらゆっくりと進んだ。
歩き始めの合図や止めかた、左右に曲がる操作を教わり少しずつスピードを上げる事が出来るようになっていき、到着する頃にはなんとか自分の思うように走らせることが出来るようになっていた。
「お前の覚えが早いから思ったより早く到着できたな。静かなところをみるとラージカミカゼアントはまだ町に達していようだな」
「僕は普段使わない筋肉を使ったから、筋肉痛になりそうですよ」
町の防壁を見るとマール市のものに比べて低く厚さも半分くらいしかない。
門は閉ざされていたが2匹爆発すれば吹き飛んでしまう程度の強度しかないらしい。
先に出た冒険者の部隊に到着するとベルンハルトはシズラーとソフィーの乗る馬車を見つけて状況の確認を始めた。
「シズラー、町の人はどうしている?」
「南側の住民は全員町の真ん中に作ったバリケードの北側に避難させた。
町から出て避難することを勧めたが外の魔獣が怖いと言って動いちゃくれなかったよ」
「そうか、町の外には避難してくれなかったか、領軍はどうしている?」
「町の南側にバリケードを作っている最中さ、あんな貧弱な柵じゃあっという間に突破されるだろうけどね」
「領軍の様子を見に行ってくるから俺が間に合わない場合、ギルドメンバーは防御壁の中から攻撃するようにしてくれ。
接近戦はさせるな、遠距離攻撃で応戦して絶対に近づかせるな、噛み付かれたらドカーンだからな。
それじゃあジン、領軍の所に行くぞ」
二人は馬にまたがると南門に向かった。
南門の中には領軍の指揮官と思われる男が椅子に座り部下に指示を出していたが馬で近づくジンたちに気がついた。
「冒険者ギルドの者がここで何をしている、アリンコの退治くらい領軍で十分に事足りる。
お前らは後ろで飴でも咥えて見ていろ。邪魔だからうろちょろするなよ」
「門を閉めてラージカミカゼアントをやり過ごすことはできないのか」
ベルンハルトがいきなり攻撃するのではなくて門を閉めてやり過ごす案を出すのだが、敵の生態をよく知らない上に自信過剰な指揮官は聞く耳を持たず話にもならなかった。
「何も知らない奴が口を挟むな、それにやり過ごすなんてのは臆病者のやることだ。
勇敢な領軍には臆病者はいない、従って敵は殲滅するのみだ、わかったか」
(あ~だめだこいつ、肩書きばかりのダメ士官の見本みたいな奴だ。部下が無駄死にしないと良いんだけど、無理だろうな~)
かわいそうな部下達だと思いながらベルンハルトと一緒にそこを離れた。
「ベルさん、あの士官どう思います?」
「論外だ、領軍500人が全滅しないといいけどな。自分たちの数十倍の自爆テロリストが向かってきているのに迎え撃とうなんて言うのは愚の骨頂だ」
そう言い放つとベルンハルトは門から少し離れた擁壁を登り始めた。
壁の上に登ると門の200メートルほど南側に作られているバリケードとその後ろに待機している領軍が見えた。
「あんなバリケードなんか役に立たねえな。投石機も用意していないし、弓隊の数も少ない、魔法使いが数人いるようだが冒険者で言えば良くてもBランクだろうな、相手の数が多すぎるからあの人数だとすぐ魔力切れを起こしてしまうぞ」
遠くの方に土煙が見え始めた。どうやらラージカミカゼアントの大群が進撃してきたようだ。
「ラージカミカゼアントって1つのコロニーにどれくらいの数がいるんですか?」
「そうだな、俺が前に見た大群は4万匹以上だったかな。その時の被害は1万人住んでいた町が2日で荒野になったな。
ゲイズ子爵領にあったトレバスって町だったが、生き残ったのは1000人もいなかったよ」
「数の暴力ってやつですね」
「ああ。その町は鉄壁の擁壁だから逃げなくて良いと言う馬鹿な指揮官の言葉を鵜呑みにして防衛したんだが四方八方から擁壁が破壊され、なだれ込んだ奴らが町中に溢れて次々に自爆したんだ。逃げ場所はどこにもなかったよ。
俺たち避難した者達はかろうじて王立騎士団に助けられて生き延びたが町に残った者は全滅した。
今はゾンビ、グール、レイス、リッチ他にもスケルトンやら色々な死霊系の住処になって誰も近づかない荒地になっているよ。
今だからわかるが、あの時は近くにできてしまったコロニーを攻撃をせずに壁でも作って静観していればあそこまでの被害を出すこともなかったのさ。
何も知らない領軍の将校、あの時の将校は領主の息子だったんだが、そいつがいきなりコロニーに攻撃してしまったから敵とみなされて町が襲われたってのが事実なんだがな」
「4万匹以上って凄すぎません?早く逃げなきゃ。ここの指揮官はそれを知らないんですか?」
「トレバスでの出来事はその場所にいた者しか知らない、領主の息子が指揮官だったから証拠隠滅したのさ。
領主の息子はケタール王国に大使として駐在しているが、ほとぼりが冷めるまでは戻ってこないだろう。
王に対してはラージカミカゼアントを使って町の住民が独立しようとして立てこもったが、失敗したので自爆したことになっている。
どう考えても無理な話なんだが、領主の根回しが早くて一般住民の言う言葉は王様まで伝わらなかったようだ。
だから王立騎士団の中や他の領ではたかがアリンコの襲撃程度という考えになっているんだろう」
「住民を逃がしましょう、言うことを聞いてくれないのなら町の代表者を集めて、ここから領軍がボコボコにされる様子を見せればきっと納得してくれますよ」
「俺が戻って代表者を連れてくるからここで見ていてくれ。俺が戻ってくる前に門が破られたら中央の通りを通って戻ってこい。すれ違うとまずいからな」
「わかりました。気をつけます」
ベルンハルトは擁壁より飛び降りて走っていった。
前方を確認すると大群はバリケードの500メートル手前に達していた。1メートル以上もあるラージカミカゼアントの進む速さは1秒間に5メートル。集団の先頭のは1分も経たずに領軍の射程圏内に入ってきた。
「弓隊、撃ち方はじめ!」
その言葉で矢が打たれ始めた。距離があるため水平に狙うのではなく斜め上を狙い放物線を描くように飛ばした矢は400メートル先の標的に当たるが威力が足りずにラージカミカゼアントの装甲を貫通できない。
距離が近くなると矢の威力も上がり、100メートルまで近づくとやっと矢が装甲を傷つけはじめ、貫通し始めたのは50メートルを切ってからだった。
しかし、致命傷でないラージカミカゼアント達はそのまま向かってくる。
魔法使いが打つ魔法も範囲が狭く全体を止めるには至らず、続々と迫り来る後続に魔法使いの魔力が尽きると先頭がついにバリケードに取り付いた。
ドゴォォーーン!ドッガァーーン!
バリケードが吹き飛び始めた。南門から出てきた指揮官が何かを叫んでいるが周囲の爆音で聞き取れない。500人いたはずの兵士たちは数えるほどしか残っておらずバリケードも次々と破壊され、その間を抜けた大群がついに門に達した。
門の横には足と首筋を噛み付かれた指揮官の姿があったが、数秒後に門を巻き込んだ爆風で吹き飛ばされてしまった。その音で呼び寄せられたのか周りにいたラージカミカゼアントが門のあった場所に次々と押し寄せてくる。ジンの目に入った光景は、まるで決壊したダムから溢れ出す水のようであった。
「あれ、もう終わったんですか?」
「ジンか。お前追いかけてきたのか?」
「捕まえたのは俺じゃないぞ、来た時にはすでにこの状態で人馬ともにこの状態だ」
ベルンハルトは倒れている人馬を顎で刺した。
「少し手前で何か威圧のようなものを感じたが、ここにいた奴は俺の気配を感じて姿を眩ました」
「一体誰なんでしょうか?」
「さあな、国の暗部かなんかだろ、そうじゃなきゃ姿を消す意味がわからん。
ところでジン、【身体強化】した俺にさほど遅れないということはお前も【身体強化】を使えるのか?」
「まだレベルは低いですけど、スキルは持ってますよ。それより、今のうちにこいつらを縛りませんか?」
そう言いながらマジックバッグに入れていたロープを取り出すと身ぐるみをはがして身動きが取れないようにぐるぐる巻きにした。
「俺の思っている通りならこいつらがラージカミカゼアントを誘導して町を襲わせていたに違いない。自殺できないように猿轡を噛ませとけよ。大事な情報を喋ってもらわないといけないから死なれちゃかなわん」
「大丈夫です。身ぐるみはがして縛り上げてズボンで猿轡しましたから、奥歯に自殺用の仕掛けをしていたとしても使えませんよ」
「確かにそれだけしっかり縛っときゃ身動きできそうにないな」
そう言いながらベルンハルトは馬を起こして道端の木に繋ぐと鞍にぶら下がっている大きな袋を外して中を確認しはじめた。
「やはりな」
赤と黄色の縞模様がついている腹の部分が真ん中から半分に切り分けられた物が入っていて袋がぐっしょりと濡れていた。
「クイーンの匂いを追いかけて奴らは暴走しているな。殺されてるのを知らずに助けようと必死に追いかけているんだろうな」
「止める方法はないんですか?」
「ラージカミカゼアントのクイーンが死んでいるとなると無いな。クイーンが出す特殊なフェロモンで止まるらしいが死んでしまうとダメだろう。だからこれも早く燃やしてしまった方がいい」
ベルンハルトは周囲に薪が落ちていないか探し始めた。
「ベルンハルトさん、火の魔法なら使えますから俺が燃やしましょうか?」
「お前、剣士じゃなかったのか?」
「簡単な火の魔法は使えますので大丈夫です」
掌を向け地面に置いた袋に向かって50センチくらいの真っ青な火の玉をぶつけた。
一気に燃え上がったかと思うとアリの死体が入った袋はあっという間に灰になった。
「青炎が出せるのか、ちょっとした魔法じゃないじゃないか。Aクラスの冒険者でも使える者がいるかどうかだぞ。お前の剣士風の風貌に騙されていたが本当は魔法使いだったのか。
でもまてよ、シルバーバックは斬り殺されていたということは剣も普通以上に使えるんだよな。それに【身体強化】も使えるとなると魔法剣士か?」
ジン自身何がメインの冒険者なのか分かっていないのだから他人がわかるはずもない。
「魔法は練習不足で実戦で使ったことはないですよ、剣というか刀がメインです」
「まあいい、魔法も使えるのがわかった。必要な時は頼むぞ。急いで戻ろう」
ベルンハルトはそう言うと木に繋いだ馬に乗って捕まえた男を後ろに乗せて戻り始めた。
ジンはというと、手に持っていた手綱を引いてベルンハルトの後ろを追い始める。
捕まえた男を乗せた馬を引くのは大変だったが他に方法がなかった。
なぜならジンは実は馬に乗ったことがなかったのだ。
しばらく走るとベルンハルトは馬を休憩させるために川の横で止まる。そして後ろを振り返ると手綱を引いて走ってくるジンの姿が見えた。
「おいジン、お前もしかして・・・」
「はい、馬に乗ったことがありません。ですので、乗ると多分落馬すると思います」
「今までどうしていたんだ?まさかずっと自分の足で移動か?」
「そうですよ、おかげで足腰が鍛えられて走るのが速くなりました」
「まったく」
ベルンハルトはあきれ顔になった。
「馬に乗る練習をしないといけないな、俺とお前が追い付いたくらいじゃ状況は変わらんだろう。
あっちはシズラーとソフィーに任せて乗馬の練習をしながら行くとするか。
それから俺のことはベルって呼べ。俺の名前は長ったらしいからな」
「わかりましたベルさん」
ジンは馬に乗せられると、練習しながらゆっくりと進んだ。
歩き始めの合図や止めかた、左右に曲がる操作を教わり少しずつスピードを上げる事が出来るようになっていき、到着する頃にはなんとか自分の思うように走らせることが出来るようになっていた。
「お前の覚えが早いから思ったより早く到着できたな。静かなところをみるとラージカミカゼアントはまだ町に達していようだな」
「僕は普段使わない筋肉を使ったから、筋肉痛になりそうですよ」
町の防壁を見るとマール市のものに比べて低く厚さも半分くらいしかない。
門は閉ざされていたが2匹爆発すれば吹き飛んでしまう程度の強度しかないらしい。
先に出た冒険者の部隊に到着するとベルンハルトはシズラーとソフィーの乗る馬車を見つけて状況の確認を始めた。
「シズラー、町の人はどうしている?」
「南側の住民は全員町の真ん中に作ったバリケードの北側に避難させた。
町から出て避難することを勧めたが外の魔獣が怖いと言って動いちゃくれなかったよ」
「そうか、町の外には避難してくれなかったか、領軍はどうしている?」
「町の南側にバリケードを作っている最中さ、あんな貧弱な柵じゃあっという間に突破されるだろうけどね」
「領軍の様子を見に行ってくるから俺が間に合わない場合、ギルドメンバーは防御壁の中から攻撃するようにしてくれ。
接近戦はさせるな、遠距離攻撃で応戦して絶対に近づかせるな、噛み付かれたらドカーンだからな。
それじゃあジン、領軍の所に行くぞ」
二人は馬にまたがると南門に向かった。
南門の中には領軍の指揮官と思われる男が椅子に座り部下に指示を出していたが馬で近づくジンたちに気がついた。
「冒険者ギルドの者がここで何をしている、アリンコの退治くらい領軍で十分に事足りる。
お前らは後ろで飴でも咥えて見ていろ。邪魔だからうろちょろするなよ」
「門を閉めてラージカミカゼアントをやり過ごすことはできないのか」
ベルンハルトがいきなり攻撃するのではなくて門を閉めてやり過ごす案を出すのだが、敵の生態をよく知らない上に自信過剰な指揮官は聞く耳を持たず話にもならなかった。
「何も知らない奴が口を挟むな、それにやり過ごすなんてのは臆病者のやることだ。
勇敢な領軍には臆病者はいない、従って敵は殲滅するのみだ、わかったか」
(あ~だめだこいつ、肩書きばかりのダメ士官の見本みたいな奴だ。部下が無駄死にしないと良いんだけど、無理だろうな~)
かわいそうな部下達だと思いながらベルンハルトと一緒にそこを離れた。
「ベルさん、あの士官どう思います?」
「論外だ、領軍500人が全滅しないといいけどな。自分たちの数十倍の自爆テロリストが向かってきているのに迎え撃とうなんて言うのは愚の骨頂だ」
そう言い放つとベルンハルトは門から少し離れた擁壁を登り始めた。
壁の上に登ると門の200メートルほど南側に作られているバリケードとその後ろに待機している領軍が見えた。
「あんなバリケードなんか役に立たねえな。投石機も用意していないし、弓隊の数も少ない、魔法使いが数人いるようだが冒険者で言えば良くてもBランクだろうな、相手の数が多すぎるからあの人数だとすぐ魔力切れを起こしてしまうぞ」
遠くの方に土煙が見え始めた。どうやらラージカミカゼアントの大群が進撃してきたようだ。
「ラージカミカゼアントって1つのコロニーにどれくらいの数がいるんですか?」
「そうだな、俺が前に見た大群は4万匹以上だったかな。その時の被害は1万人住んでいた町が2日で荒野になったな。
ゲイズ子爵領にあったトレバスって町だったが、生き残ったのは1000人もいなかったよ」
「数の暴力ってやつですね」
「ああ。その町は鉄壁の擁壁だから逃げなくて良いと言う馬鹿な指揮官の言葉を鵜呑みにして防衛したんだが四方八方から擁壁が破壊され、なだれ込んだ奴らが町中に溢れて次々に自爆したんだ。逃げ場所はどこにもなかったよ。
俺たち避難した者達はかろうじて王立騎士団に助けられて生き延びたが町に残った者は全滅した。
今はゾンビ、グール、レイス、リッチ他にもスケルトンやら色々な死霊系の住処になって誰も近づかない荒地になっているよ。
今だからわかるが、あの時は近くにできてしまったコロニーを攻撃をせずに壁でも作って静観していればあそこまでの被害を出すこともなかったのさ。
何も知らない領軍の将校、あの時の将校は領主の息子だったんだが、そいつがいきなりコロニーに攻撃してしまったから敵とみなされて町が襲われたってのが事実なんだがな」
「4万匹以上って凄すぎません?早く逃げなきゃ。ここの指揮官はそれを知らないんですか?」
「トレバスでの出来事はその場所にいた者しか知らない、領主の息子が指揮官だったから証拠隠滅したのさ。
領主の息子はケタール王国に大使として駐在しているが、ほとぼりが冷めるまでは戻ってこないだろう。
王に対してはラージカミカゼアントを使って町の住民が独立しようとして立てこもったが、失敗したので自爆したことになっている。
どう考えても無理な話なんだが、領主の根回しが早くて一般住民の言う言葉は王様まで伝わらなかったようだ。
だから王立騎士団の中や他の領ではたかがアリンコの襲撃程度という考えになっているんだろう」
「住民を逃がしましょう、言うことを聞いてくれないのなら町の代表者を集めて、ここから領軍がボコボコにされる様子を見せればきっと納得してくれますよ」
「俺が戻って代表者を連れてくるからここで見ていてくれ。俺が戻ってくる前に門が破られたら中央の通りを通って戻ってこい。すれ違うとまずいからな」
「わかりました。気をつけます」
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「弓隊、撃ち方はじめ!」
その言葉で矢が打たれ始めた。距離があるため水平に狙うのではなく斜め上を狙い放物線を描くように飛ばした矢は400メートル先の標的に当たるが威力が足りずにラージカミカゼアントの装甲を貫通できない。
距離が近くなると矢の威力も上がり、100メートルまで近づくとやっと矢が装甲を傷つけはじめ、貫通し始めたのは50メートルを切ってからだった。
しかし、致命傷でないラージカミカゼアント達はそのまま向かってくる。
魔法使いが打つ魔法も範囲が狭く全体を止めるには至らず、続々と迫り来る後続に魔法使いの魔力が尽きると先頭がついにバリケードに取り付いた。
ドゴォォーーン!ドッガァーーン!
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門の横には足と首筋を噛み付かれた指揮官の姿があったが、数秒後に門を巻き込んだ爆風で吹き飛ばされてしまった。その音で呼び寄せられたのか周りにいたラージカミカゼアントが門のあった場所に次々と押し寄せてくる。ジンの目に入った光景は、まるで決壊したダムから溢れ出す水のようであった。
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