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第1章 転生

36話 アラバスタ

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 南の方角から次々と押し寄せてくるのラージカミカゼアントに追われる領軍の兵士達。
指揮官を失った兵士達は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うばかりで、それに見かねたジンは残った擁壁の上に転移し炎の槍を放つ。

『ファイヤージャベリン』

青白い炎の槍は兵士とラージカミカゼアントの間に落ち、爆風でアントの進撃スピードが少し鈍る。
そうやって開いたスペースに続けて超高温の炎の竜巻をイメージして魔法を放った。

『ファイヤートルネード』

ゴォワーーーーーーーッ!

真っ白な高温の火の玉が現れ回転し始めたかと思った次の瞬間炎の竜巻になって前方に向かって飛んでいった。
一瞬で灰にするほどの熱量を持つ炎の渦が町に侵入しようとしていたラージカミカゼアントを次々に巻き込み千匹以上を一瞬で灰にした。
正面からの進撃は食い止めていたが、周りの擁壁が吹き飛ばされ穴の空いた場所からは次々と侵入しはじめていた。
侵入した奴らが後方へ抜けるとまずいので町の中央のバリケード付近に転移し、ベルンハルトを探すと馬車の御者席に立ってメイン道路の南側を見ていた。

「あの音と火柱からすると門はやられたか、領軍はどうなった?」

「わずかに撤退できた兵もいますが指揮官が死亡した後は軍としては機能していません」

「やっぱりそうか、無能な指揮官の下につくと不幸だな」

「そうですね、僕もラージカミカゼアントを千匹くらい燃やして被害を少なくしようとしたんですけど追いつかないので連絡に戻ってきました」

「横から回り込まれないように魔法障壁が使える高ランクの冒険者たちで時間稼ぎをしている。
そう長くもたないだろうが、あいつらだったら危なくなったらさっさと引き上げてくるだろう」

「正面からもうすぐ来ますよ。どうしますか?」

「そうだな少し時間稼ぎをしたいから足止めをしに行くか」

「いいですよ、行きましょう。どれくらい時間を稼げばいいですか?」

「弓職と魔法職で後方を守りながら住民を移動するから少しでも時間を稼ぎたい」

そう言いながらもベルンハルトは走り出していた。

  (そういえば・・・)

魔法障壁が使えるようになっていた事を思い出し、ベルンハルトの後を追いながら声をかけた。

「ベルさん、魔法障壁があったほうが良いですか?」

「手持ちに障壁のアイテムでもあるのか?」

「あの・・・ 俺、張れます」

ベルンハルトは目が点になっていた。

「お前を常識的な目で見る事はやめた、好きにしろ。メインの通路を直進してくる奴を止めてくれ、回り込んだり破壊したりしてくるだろうが、何もしないよりは時間が稼げるだろう」

「わかりました、できるだけ長い時間止めます」

そう言ってジンが前に通路の幅の障壁を出すと向かって来たラージカミカゼアントが目に見えない壁にぶつかり後続に潰された奴が自爆し始めた。

「ジン、この障壁どれくらい維持できるる?」

「まだ大丈夫ですが少し下がりますか?」

「そろそろ横から来そうだ下がろう」

「下がるとこの辺りは破壊されちゃうと思うんですけど、この区画ってもう無くなっても大丈夫なんですか?」

「どっちにしても吹っ飛んで無くなる区画だ、燃やそうが吹っ飛ばそうが問題ない」

とベルンハルトが言うので、門で使った魔法をここでも使うことにした。

「少し後ろに下がってください」

横から来る影も見えたので気合を入れて交差点の真ん中に青白い超高温の炎の渦を出す。

ゴォオォオォオォオォーーーーーーーッ!

交差点の中心より少し北にズレた位置に、南門で出した炎の渦より大きな青白色の火災旋風ができた。

ビューーー!バキンバキバキ!と物凄い音をたてて周りの建物を巻き込みはじめているが、炎を維持させる為に魔力の供給を続ける。

「うぉ、あちち。ジン!なんだこりゃぁ」ベルンハルトが大きな声で聞いてきた。

魔力操作で炎の状態を維持するのに神経を使っているので返事をする余裕など無かった。
交差点に集まるラージカミカゼアントが吸い込まれ次々に灰になっていき、交差点に近い建物も耐えきれずに被害が出はじめる。
吸い込んでいく瓦礫やラージカミカゼアントで巨大な火災旋風がどうにか安定したので魔力の供給を一旦やめて自分たちの前に障壁を張った。

「なになになに? なんなのこれ、魔法なの?」

後ろから現れたソフィーが、周りの物を見境なく吸い込んで燃やし尽くしている青白い火災旋風を見て声をあげた。

「ジンの魔法だ。町の方はどうなった?」

「町の住人は外に避難させました」

「よし、俺たちも脱出しよう。ジン、行けるか?」

「大丈夫です、もう少し威力を上げて逃げますから先に行ってください。
自分以外の人を気にする余裕がないので先にどうぞ」

威力を上げた時に自分だけなら転移で逃げられるが他の人が巻き込まれたら助けられないので先に脱出してもらえるようにお願いしたのだ。

「先に行く、ソフィー出発だ」

「ジン君無茶しないでね。先に行って待っているからね」

二人が離れたのを確認して炎の渦に魔力をさらに注入して威力を上げていく。
後ろに後退りながらどんどん魔力を増やしていき幅50mくらいになった時に熱さに耐えられなくなってきたので追加の魔力を加え、吸い込まれる前に後方へ転移してベルンハルト達のいる方向へ走り出した。

最後に与えられた魔力で火災旋風は成長し、自爆により破壊されて薪と化した建物や絶え間なく進撃してくるラージカミカゼアントが燃料となることによって全てを燃やし尽くすまで消えることは無かった。

途中に作られたバリケードに到着して南の方を見ると上空数百メートルにまで成長した物凄い炎の渦が見えた。
バリケードの近くには人影は無くもちろんアントの姿も無い。
他の門の周りも被害がないのを確認すると北門から避難した人たちを追いはじめ、町を出て5キロほど走ると最後尾にいたベルンハルトの姿を見つけた。

「ベルさん、やっと追いつきました」

「無事だったか、町はどうなってる? 物凄い炎の竜巻が見えるが、全滅か?」

「魔法を撃ったあたりは周囲が自爆攻撃でなにも無くなりましたが、ラージカミカゼアントが火柱にどんどん向かって行ったみたいで南門からバリケードまでの間以外は無事なようでした」

「と言うことは北側半分は無傷か?」

「俺が最後に確認した時は全く被害が出ていないように見えましたよ」

「ちょっと先頭まで行ってくる、馬車でゆっくりしていてくれ」

ジンが馬車の中に入ると捕まえた二人が猿轡を咬まされたまま縛り上げられていた。
ベルンハルトはというと、先頭に行き避難住民達を止めて冒険者達に昼食の準備を始めさせ、そして偵察部隊を編成して人員を北門に配置した。

 1時間ごとに交代しながら炎が消えるまで監視したがアントの姿を誰も見なかったので50人の市街探索部隊で街中を偵察させた。
アントは1匹もいないとの報告があったのでアラバスタの市長と話し合った結果、住民を連れて町に戻ることになった。
冒険者達が先に北門から町に入り安全を確認しながら住民を先導していく。
町の南側半分にはp建物は何も無く、溶けてガラス化してしまった直径300mの真っ平らな地面とその周囲には真っ白な灰、それとわずかな石材だけが残っていた。

「こりゃすげえな、何も残ってねえ。どうやったらこんなことになるんだ?」

同行していた冒険者達が驚嘆した。
ジンとベルンハルトは顔を見合わせたが何も言わずに状況確認を始めていく。

 魔法を使った交差点から半径200mと南門までの間の建物は全て無くなっていた。
東西の擁壁はそれほど被害が出ていなかったが南側の擁壁はことごとく破壊され、無くなっていた。
破壊された地域は商業地で住居が少なかった事もあり、寝る場所を無くした人は500人程度で親類や友人の家、それから空き家や宿屋を使う事で野宿生活をする人は0にできた。

 今回の件は災害認定され国からの補助が出ることになったので町の復興も早いことだろう。
住人と共に町に戻った二日後には王立騎士団の兵士がアラバスタの確認にやってきた。
クロスロードの被害状況は領軍183名死亡、王立騎士団337名死亡、市民2316名死亡、冒険者107名死亡、南部外郭地域が壊滅、擁壁と門が半壊以上と大被害であったそうだ。
アラバスタの被害はというと町が4分の1壊滅、南門と擁壁の損壊、領軍403名死亡、その他死亡者無し。
最初に偵察に出た王立騎士団兵士の報告によるとラージカミカゼアントの総数は3万7千匹で、そのうちアラバスタに向かった数が1万8千匹、クロスロードに向かった数が1万9千匹でほぼ同じだったらしい。
アラバスタの被害の少なさにびっくりしていている兵士に、捕まえた男達を引き渡すと急いで王都に連行していった。きっと拷問されて情報を引き出されるのだろう。
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