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4. 初顔合わせ
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数日後。
私はお父様に言われたとおり、王太子殿下との顔合わせのため、緊張で胸をぎゅっと縮めながら王宮を訪問していた。
そして王宮の応接室で、私たちの顔合わせは始まった。
「ロキシード殿下、お初にお目にかかります。ハルスタイン侯爵の娘、アディルナでございます」
「うん。アディルナ嬢、よろしくね。楽にして良いよ」
毛足の長い豪華な絨毯の上で、私は緊張しながらも深々とお辞儀をし、殿下の返事を待って顔を上げた。
そして――息を呑んだ。
(なんて……綺麗な男の子なんだろう……)
この時に初めてロキシード殿下のお顔を拝見した私は、殿下の容姿に思わず目を奪われてしまった。
私より一つ年上のロキシード殿下は、整ったお顔立ちをしていて、陽の光に当たってキラキラと輝く金の髪に、深い海のような蒼い瞳がとても美しかったのだ。
(お兄様も見目麗しい方だと思ってたけど……殿下の前だとお兄様も霞むわね……)
思わずお兄様に対して随分失礼な事を考えながら、目の前の殿下に、私の胸はずっとドキドキしていた。
「至らなぬところもあると思いますが、よろしくお願いいたします」
形式に則って私がもう一度深々と頭を下げると、殿下は穏やかに微笑んでくださった。
その余裕ある振る舞いは、十一歳とは思えないほど堂々としていた。
「ハルスタイン侯爵、親睦を図る為にアディルナ嬢をお茶の席に誘いたいのだが良いだろうか?」
「勿論でございます」
お父様と殿下のやり取りを聞きながら、私は心臓が破裂しそうなほどドキドキしていた。
(こんな格好良い人とお茶会が出来るの?!)
想像しただけで、胸が勝手に跳ね上がっていた。
「アディルナ嬢をお借りする間、侯爵はこちらの部屋で自由に過ごしてください」
「お気遣い有難うございます。では、そうさせていただきます」
殿下はお父様と数言交わしたあと、私の前に歩み寄り、柔らかく微笑んで右手を差し出された。その瞬間、心臓が本当に止まるかと思った。
「アディルナ嬢、貴女と話がしてみたい。良ければ庭園のガゼボに用意したお茶の席へ案内したいのだが、いいかな?」
「はい!もちろん!喜んで!!」
食い気味に返答した私の態度に、お父様が苦い顔をしたのが視界の端に見えた。
お兄様がこの場にいたら、きっと同じ顔をしていただろう。淑女として振舞うように言われていたのに、そんなの吹っ飛んでしまうくらい、私は舞い上がった。
(だって……こんな素敵な方のお誘い、断る訳ないわ!)
それでも一応は貴族としてのマナーは礼儀は心得ている。
王族に触れるのは本来ご法度なのだ。だから差し出された手に触れるのは一瞬ためらったけれど――
(……でも、差し出された手を取らない方が失礼よね!)
私はそっと自分の手を重ね、はにかみながら微笑んだ。
殿下は一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐに優しい声で言った。
「それじゃあ行こうか、アディルナ嬢」
そのまま手を引かれ、私たちは応接室を後にした。
殿下に手を引かれて、私は連れられるがまま歩いた。だって王宮に来たのは初めてだから、殿下に身を委ねるしかないのだ。
今ここで一人になったら絶対迷子になる自信があった。
(それにしても、本当に綺麗だわ……)
丁度回廊の窓から陽光が差し込み、殿下の金の髪の輝きが増していた。とても神々しくて、私はその横顔に見惚れてしまい何も話せなかった。
(……こんな素敵な人の婚約者候補に選ばれたなんて、私はなんて幸運なんだろう……)
ぼんやりとそんな事を考えていた。
だって、ロキシード殿下は正に物語に出てくる理想の王子様そのものだったから。……まぁ、実際本当に王子様だしね。
「アディルナ嬢、これから行く場所はね、とっておきの場所なんだ。きっと君も気に入るよ」
「まぁ、楽しみです!」
「歩く速度は速くないかな?大丈夫かい?」
「はい、問題ありませんわ」
私が緊張で黙り込んでいると、様子を察して殿下の方から話しかけてくださった。
スマートなエスコートに、こちらを気遣う優しさ。殿下の対応は本当に完璧で、そのお心遣いが嬉しくて、私はすっかり殿下の虜になっていた。
(私……絶対に殿下の婚約者に選ばれたい!!)
この時は、本気でそう思っていた。
暫く歩いて案内されたのは、王宮の奥にある小さな庭園だった。
白い石造りのテーブルに椅子が置かれ、周囲には色とりどりの花々が咲き誇り、小鳥のさえずりが響き、まるでおとぎ話の中に迷い込んだような情景だった。
「ここは僕のお気に入りの場所なんだ。花壇がとても綺麗だろう?君にも見せたかったんだ」
柔らかな声で殿下はこの場所を紹介してくださった。それなのに私は、夢のような風景にウットリし、何も言わずにぼぅっと佇んでいた。王族の話に言葉を返さないなんてありえない事をしでかしていたのだ。
……が、不意にお兄様の言葉が頭に過ぎり、私の窮地を救ったのだった。
『完璧な淑女を演じるんだよ』
その言葉にハッとして、私は慌てて殿下に向き直り、深く頭を下げた。
「ロキシード殿下、このような素敵な席を設けていただき、誠に有難うございます」
(危なかったわ……ほとんど忘れていたけど、私は淑女なんだった。それらしく振舞わなくちゃ!)
私は礼の姿勢で静止したまま、心の中でお兄様に感謝していた。あのままだったら、私は目の前の光景に心を奪われて、殿下にお礼を言い忘れるという、前代未聞な不敬令嬢になるところだった。
「うん、アディルナ嬢。楽にしていいよ。」
お声がかかり安堵しながら私が顔を上げると、パチリと殿下と目が合った。
殿下は、相変わらず優しい笑みを携えられているので、私も負けじとにっこりとほほ笑んで見せた。微笑には微笑を。私は家で沢山練習した”淑女らしく嫋やかに微笑む”を実践し、殿下に微笑を返したのだ。
(お兄様相手に、淑女の練習をしてきて良かったですわ。でも……このお顔が目の前にあるのは心臓に悪すぎますわ……!)
冷静に振舞ってはいるが、内心は心臓がバクバクだった。それでも、お兄様による特訓のお陰で、こうして立派な淑女を演じることが出来ている。
ここまでは順調だった。
格好良い王子様にエスコートされて、絵画のような庭園で過ごす。夢のような展開に、私はこの上ない程の幸せを感じていた。
……ここまでは。
私はお父様に言われたとおり、王太子殿下との顔合わせのため、緊張で胸をぎゅっと縮めながら王宮を訪問していた。
そして王宮の応接室で、私たちの顔合わせは始まった。
「ロキシード殿下、お初にお目にかかります。ハルスタイン侯爵の娘、アディルナでございます」
「うん。アディルナ嬢、よろしくね。楽にして良いよ」
毛足の長い豪華な絨毯の上で、私は緊張しながらも深々とお辞儀をし、殿下の返事を待って顔を上げた。
そして――息を呑んだ。
(なんて……綺麗な男の子なんだろう……)
この時に初めてロキシード殿下のお顔を拝見した私は、殿下の容姿に思わず目を奪われてしまった。
私より一つ年上のロキシード殿下は、整ったお顔立ちをしていて、陽の光に当たってキラキラと輝く金の髪に、深い海のような蒼い瞳がとても美しかったのだ。
(お兄様も見目麗しい方だと思ってたけど……殿下の前だとお兄様も霞むわね……)
思わずお兄様に対して随分失礼な事を考えながら、目の前の殿下に、私の胸はずっとドキドキしていた。
「至らなぬところもあると思いますが、よろしくお願いいたします」
形式に則って私がもう一度深々と頭を下げると、殿下は穏やかに微笑んでくださった。
その余裕ある振る舞いは、十一歳とは思えないほど堂々としていた。
「ハルスタイン侯爵、親睦を図る為にアディルナ嬢をお茶の席に誘いたいのだが良いだろうか?」
「勿論でございます」
お父様と殿下のやり取りを聞きながら、私は心臓が破裂しそうなほどドキドキしていた。
(こんな格好良い人とお茶会が出来るの?!)
想像しただけで、胸が勝手に跳ね上がっていた。
「アディルナ嬢をお借りする間、侯爵はこちらの部屋で自由に過ごしてください」
「お気遣い有難うございます。では、そうさせていただきます」
殿下はお父様と数言交わしたあと、私の前に歩み寄り、柔らかく微笑んで右手を差し出された。その瞬間、心臓が本当に止まるかと思った。
「アディルナ嬢、貴女と話がしてみたい。良ければ庭園のガゼボに用意したお茶の席へ案内したいのだが、いいかな?」
「はい!もちろん!喜んで!!」
食い気味に返答した私の態度に、お父様が苦い顔をしたのが視界の端に見えた。
お兄様がこの場にいたら、きっと同じ顔をしていただろう。淑女として振舞うように言われていたのに、そんなの吹っ飛んでしまうくらい、私は舞い上がった。
(だって……こんな素敵な方のお誘い、断る訳ないわ!)
それでも一応は貴族としてのマナーは礼儀は心得ている。
王族に触れるのは本来ご法度なのだ。だから差し出された手に触れるのは一瞬ためらったけれど――
(……でも、差し出された手を取らない方が失礼よね!)
私はそっと自分の手を重ね、はにかみながら微笑んだ。
殿下は一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐに優しい声で言った。
「それじゃあ行こうか、アディルナ嬢」
そのまま手を引かれ、私たちは応接室を後にした。
殿下に手を引かれて、私は連れられるがまま歩いた。だって王宮に来たのは初めてだから、殿下に身を委ねるしかないのだ。
今ここで一人になったら絶対迷子になる自信があった。
(それにしても、本当に綺麗だわ……)
丁度回廊の窓から陽光が差し込み、殿下の金の髪の輝きが増していた。とても神々しくて、私はその横顔に見惚れてしまい何も話せなかった。
(……こんな素敵な人の婚約者候補に選ばれたなんて、私はなんて幸運なんだろう……)
ぼんやりとそんな事を考えていた。
だって、ロキシード殿下は正に物語に出てくる理想の王子様そのものだったから。……まぁ、実際本当に王子様だしね。
「アディルナ嬢、これから行く場所はね、とっておきの場所なんだ。きっと君も気に入るよ」
「まぁ、楽しみです!」
「歩く速度は速くないかな?大丈夫かい?」
「はい、問題ありませんわ」
私が緊張で黙り込んでいると、様子を察して殿下の方から話しかけてくださった。
スマートなエスコートに、こちらを気遣う優しさ。殿下の対応は本当に完璧で、そのお心遣いが嬉しくて、私はすっかり殿下の虜になっていた。
(私……絶対に殿下の婚約者に選ばれたい!!)
この時は、本気でそう思っていた。
暫く歩いて案内されたのは、王宮の奥にある小さな庭園だった。
白い石造りのテーブルに椅子が置かれ、周囲には色とりどりの花々が咲き誇り、小鳥のさえずりが響き、まるでおとぎ話の中に迷い込んだような情景だった。
「ここは僕のお気に入りの場所なんだ。花壇がとても綺麗だろう?君にも見せたかったんだ」
柔らかな声で殿下はこの場所を紹介してくださった。それなのに私は、夢のような風景にウットリし、何も言わずにぼぅっと佇んでいた。王族の話に言葉を返さないなんてありえない事をしでかしていたのだ。
……が、不意にお兄様の言葉が頭に過ぎり、私の窮地を救ったのだった。
『完璧な淑女を演じるんだよ』
その言葉にハッとして、私は慌てて殿下に向き直り、深く頭を下げた。
「ロキシード殿下、このような素敵な席を設けていただき、誠に有難うございます」
(危なかったわ……ほとんど忘れていたけど、私は淑女なんだった。それらしく振舞わなくちゃ!)
私は礼の姿勢で静止したまま、心の中でお兄様に感謝していた。あのままだったら、私は目の前の光景に心を奪われて、殿下にお礼を言い忘れるという、前代未聞な不敬令嬢になるところだった。
「うん、アディルナ嬢。楽にしていいよ。」
お声がかかり安堵しながら私が顔を上げると、パチリと殿下と目が合った。
殿下は、相変わらず優しい笑みを携えられているので、私も負けじとにっこりとほほ笑んで見せた。微笑には微笑を。私は家で沢山練習した”淑女らしく嫋やかに微笑む”を実践し、殿下に微笑を返したのだ。
(お兄様相手に、淑女の練習をしてきて良かったですわ。でも……このお顔が目の前にあるのは心臓に悪すぎますわ……!)
冷静に振舞ってはいるが、内心は心臓がバクバクだった。それでも、お兄様による特訓のお陰で、こうして立派な淑女を演じることが出来ている。
ここまでは順調だった。
格好良い王子様にエスコートされて、絵画のような庭園で過ごす。夢のような展開に、私はこの上ない程の幸せを感じていた。
……ここまでは。
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