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44. 出発
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「ロキシード様!」
準備が終わりいよいよ出立という時に、今度は殿下のもう一人の婚約者候補であるフローゼル家のローゼリア様が、凛とした声で殿下の名を呼び、気品ある立ち振る舞いで堂々と殿下の元へ歩み寄ってきたのだった。
「やぁ、ローゼリア嬢。見送りに来てくれたのかい?」
「はい。出来ることなら私もロキシード様に付いて行きたいですが、急な申し出でお手間を煩わせてしまう訳にはいきませんものね。私は、ここで殿下の無事をお祈りしていますわ」
ローゼリア様は美しく微笑まれると、殿下の横にいるリリエラ様をわざとらしく見ながらそう言った。それはとても、分かりやすい嫌味だった。
しかし、したたかさではリリエラ様も負けていないようだった。何食わぬ顔でローゼリア様に余裕の微笑みを返した。
「まぁ、ローゼリア様。私が一緒に行きますのよ。万が一に殿下が怪我を負われても私が直ぐに治しますから、ご安心ください。」
「あら、リリエラ様。なんでも先ほど急に殿下の遠征に付いて行くと申し出たそうですわね。私にはそのような強引な行動出来ませんもの、尊敬いたしますわ」
二人はお互いに表面上は穏やかに微笑んでいるのだが、内心では激しく牽制し合っているのが手に取るように分かった。
私の横で、リオルはすっかり怯えてしまっていた。
「……それにしてもハルスタイン家のアディルナ様はいらっしゃらないのですね。意外と薄情なんですのね」
急に話題に出されて、私は思わず身構えてしまった。一瞬ローゼリア様がこちらを見たような気もして、もしかしたらバレてしまったのではないかと焦った。
けれどもそれは杞憂で、令嬢たちは他人事のように話題を弄んでいるだけで、私がすぐそばにいるとは夢にも思っていないようだった。
「いいじゃない。ライバルが一人減るんだから」
「……果たして、ライバルなのかしら」
(そうよね……魔力なしの私じゃ、お二人のライバルにもなれないものね……)
お二人の会話に、ちょっとだけ悲しくなったけど、私は気にせず前を向いた。
だって、これから私は殿下と黒龍討伐に行くのだから。弱気になんてなってられない。私は気合を入れなおしてその時を待った。
「それでは、今から黒龍討伐に出発する!皆の者は、私の帰還を楽しみに待っていてくれ!」
こうして、ロキシード様の宣言に集まった民衆が沸く中で、私たちは盛大に見送られて黒龍討伐へ出発したのだった。
*****
黒龍が封印されている山は、王都から五日程かかる場所にあった。
整備された街道を行くので、道中に危険な魔物に会う可能性も殆どなく、私たちは一日の大半を、とにかく移動に費やしていた。
私たち一般兵には馬も馬車も用意されていないから、とにかく歩いて、歩いて、一日中歩いて……さすがの私でも少しくたくただった。そんな中、やっと今日の目標地点に到着して、今は各々野営の準備をしているのだった。
「なんか……移動しかしてなくて、思ってたより地味だよな」
「この辺りの街道は整備されていて魔物も盗賊も殆どでませんからね。でも油断はなりませんわ」
退屈そうにリオルが大きなあくびをしながら芋を剥いている。
この遠征は殆どが城の兵士なので、私たちは自然と二人で居ることが多かった。
そしてもう一人……
「アルナ!二人で何をしているんだい?ボクも混ぜてよ!」
王宮魔導士のエルレイン様。このお方も何故か、私たちにやたらと話しかけてくるのだった。
「エルレイン様。夕飯の下ごしらえで芋を剝いておりました。ご一緒にやりますか?」
「あ……そういうのは、間に合ってます……」
私がナイフと芋を渡すと、エルレイン様は分かりやすく大人しくなった。
すらりとした中世的な美人の外見とは似使わず、エルレイン様は随分と子供じみたところがある謎めいた方だった。そもそも、一人称をボクと言っているが、性別がどちらかさえも分からなかった。
「ところでさ、前から気になってたんだけど、アルナはなんで仮面を付けてんだ?」
私たちは三人で芋を剥きながら雑談を続けた。そんな中で、ついにリオルが私の仮面について触れたのだった。
「……知りたいですか?」
「ん……ま、まぁ。あ、でも言いたくないのなら言わなくてもいいぞ?」
リオルはそうは言ってくれたものの、やはりこの仮面は気になるに違いない。
私は旅の仲間に隠し事は良くないと思い、自分の事情を明かした。
「実は私、正体を知られる訳にはいかなくて、それで仮面で顔を隠してるんです」
「それは見れば分かるけど……バレたらどうなるんだ?」
「……怒られます」
「は?」
私の答えに、リオルは間の抜けた声を上げた。どうやら困惑しているみたいだったが、私は構わずに説明を続けた。
「もしも私の正体がバレたら……怒られます……それはもう、爽やかな笑顔でズバズバと、こちらのぐうの音も出ないほどの正論で叱られます……」
「なんなんだそれは……」
「でも私は、それでも殿下のお役に立ちたいんです!だから変装して参加してるんです!!」
私が勢いよく自分の想いを熱弁すると、リオルとエルレイン様は顔を見合わせ、どう反応すべきか分からない様子だった。
「まぁ、良く分からないけど……それだけ真剣なんだな」
「えぇ、勿論です!生半可な気持ちで遠征についてきてるわけありませんわ!」
そんな私の意気込みに、リオルはどこか言葉を選びながら無難な相槌を返し、エルレイン様は何も言わず、妙に生暖かい視線だけを私に向けたのだった。
準備が終わりいよいよ出立という時に、今度は殿下のもう一人の婚約者候補であるフローゼル家のローゼリア様が、凛とした声で殿下の名を呼び、気品ある立ち振る舞いで堂々と殿下の元へ歩み寄ってきたのだった。
「やぁ、ローゼリア嬢。見送りに来てくれたのかい?」
「はい。出来ることなら私もロキシード様に付いて行きたいですが、急な申し出でお手間を煩わせてしまう訳にはいきませんものね。私は、ここで殿下の無事をお祈りしていますわ」
ローゼリア様は美しく微笑まれると、殿下の横にいるリリエラ様をわざとらしく見ながらそう言った。それはとても、分かりやすい嫌味だった。
しかし、したたかさではリリエラ様も負けていないようだった。何食わぬ顔でローゼリア様に余裕の微笑みを返した。
「まぁ、ローゼリア様。私が一緒に行きますのよ。万が一に殿下が怪我を負われても私が直ぐに治しますから、ご安心ください。」
「あら、リリエラ様。なんでも先ほど急に殿下の遠征に付いて行くと申し出たそうですわね。私にはそのような強引な行動出来ませんもの、尊敬いたしますわ」
二人はお互いに表面上は穏やかに微笑んでいるのだが、内心では激しく牽制し合っているのが手に取るように分かった。
私の横で、リオルはすっかり怯えてしまっていた。
「……それにしてもハルスタイン家のアディルナ様はいらっしゃらないのですね。意外と薄情なんですのね」
急に話題に出されて、私は思わず身構えてしまった。一瞬ローゼリア様がこちらを見たような気もして、もしかしたらバレてしまったのではないかと焦った。
けれどもそれは杞憂で、令嬢たちは他人事のように話題を弄んでいるだけで、私がすぐそばにいるとは夢にも思っていないようだった。
「いいじゃない。ライバルが一人減るんだから」
「……果たして、ライバルなのかしら」
(そうよね……魔力なしの私じゃ、お二人のライバルにもなれないものね……)
お二人の会話に、ちょっとだけ悲しくなったけど、私は気にせず前を向いた。
だって、これから私は殿下と黒龍討伐に行くのだから。弱気になんてなってられない。私は気合を入れなおしてその時を待った。
「それでは、今から黒龍討伐に出発する!皆の者は、私の帰還を楽しみに待っていてくれ!」
こうして、ロキシード様の宣言に集まった民衆が沸く中で、私たちは盛大に見送られて黒龍討伐へ出発したのだった。
*****
黒龍が封印されている山は、王都から五日程かかる場所にあった。
整備された街道を行くので、道中に危険な魔物に会う可能性も殆どなく、私たちは一日の大半を、とにかく移動に費やしていた。
私たち一般兵には馬も馬車も用意されていないから、とにかく歩いて、歩いて、一日中歩いて……さすがの私でも少しくたくただった。そんな中、やっと今日の目標地点に到着して、今は各々野営の準備をしているのだった。
「なんか……移動しかしてなくて、思ってたより地味だよな」
「この辺りの街道は整備されていて魔物も盗賊も殆どでませんからね。でも油断はなりませんわ」
退屈そうにリオルが大きなあくびをしながら芋を剥いている。
この遠征は殆どが城の兵士なので、私たちは自然と二人で居ることが多かった。
そしてもう一人……
「アルナ!二人で何をしているんだい?ボクも混ぜてよ!」
王宮魔導士のエルレイン様。このお方も何故か、私たちにやたらと話しかけてくるのだった。
「エルレイン様。夕飯の下ごしらえで芋を剝いておりました。ご一緒にやりますか?」
「あ……そういうのは、間に合ってます……」
私がナイフと芋を渡すと、エルレイン様は分かりやすく大人しくなった。
すらりとした中世的な美人の外見とは似使わず、エルレイン様は随分と子供じみたところがある謎めいた方だった。そもそも、一人称をボクと言っているが、性別がどちらかさえも分からなかった。
「ところでさ、前から気になってたんだけど、アルナはなんで仮面を付けてんだ?」
私たちは三人で芋を剥きながら雑談を続けた。そんな中で、ついにリオルが私の仮面について触れたのだった。
「……知りたいですか?」
「ん……ま、まぁ。あ、でも言いたくないのなら言わなくてもいいぞ?」
リオルはそうは言ってくれたものの、やはりこの仮面は気になるに違いない。
私は旅の仲間に隠し事は良くないと思い、自分の事情を明かした。
「実は私、正体を知られる訳にはいかなくて、それで仮面で顔を隠してるんです」
「それは見れば分かるけど……バレたらどうなるんだ?」
「……怒られます」
「は?」
私の答えに、リオルは間の抜けた声を上げた。どうやら困惑しているみたいだったが、私は構わずに説明を続けた。
「もしも私の正体がバレたら……怒られます……それはもう、爽やかな笑顔でズバズバと、こちらのぐうの音も出ないほどの正論で叱られます……」
「なんなんだそれは……」
「でも私は、それでも殿下のお役に立ちたいんです!だから変装して参加してるんです!!」
私が勢いよく自分の想いを熱弁すると、リオルとエルレイン様は顔を見合わせ、どう反応すべきか分からない様子だった。
「まぁ、良く分からないけど……それだけ真剣なんだな」
「えぇ、勿論です!生半可な気持ちで遠征についてきてるわけありませんわ!」
そんな私の意気込みに、リオルはどこか言葉を選びながら無難な相槌を返し、エルレイン様は何も言わず、妙に生暖かい視線だけを私に向けたのだった。
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