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Crush on you
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愛していると言葉に出すことに何の意味がある。
初めて出逢った日の鮮烈な印象を今でもはっきりと憶えている。
美しい男だった。
誰もが目を奪われるような容貌、華々しい経歴、完成された頭脳、何もかもがあの年にして持ち得るとは到底思えない精度で、密度で、あの美しい男の中に詰め込まれていた。
なのに想像とは違って、どこか他人に対して怯えるように線を引く姿は可愛らしくすらあって、ひとつとはいえ年下であることを妙に意識した。とはいえ同級生同士、浪人の俺はひとつ上ではあったがそんなこと気にする理由もなく、当たり前のように仲良くなっていった。
専攻も全然違うのに妙にウマが合った。何をしていても楽しかったし何もしなくても楽しかった。誰よりも近くにいて、いつでも一緒にいた。
その頃から徐々にではあったが、おかしな方向に人生が向かっていくのを感じていた。
俺が他の友人と話しているとスッと近づいてきてチョイチョイと手招きをする。輪には加わらず俺を誘い出すと、大して重要とも言えないような用事を口実に連れ出されてしまう。
俺が学食でメシを食っていると当然のように向かいの席に座り、黙々と食事を始める。先に食べ終わった俺が立ち上がれば、当然のようにそれを制して自分が終わりまで待つように要求する。
飲み会の約束をどこかから聞きつけてきては、何やかんやと理由をつけて自分も参加しようとする。登場しただけで話題をかっさらってしまうイケメンの有名人なんて誰が参加してもらいたがるだろうか。結局俺ともども、参加は丁重にお断りされてしまう。
一緒に買い物に出かければ、これが似合う、あれはダメだ、と細かに服装まで指図される。せっかくこんなにスタイルがいいんだから勿体ないだろ、と言われれば悪い気はしない。
家に帰ろうとすれば、一緒に試験勉強をしようだの、見たいテレビがあるだの、実家に帰るのは面倒だの、あれこれと言いくるめられて俺の部屋に上がり込んでしまう。あまつさえ暫く居ついたりして、段々と部屋にヤツの荷物が増えていく。
お前たちってニコイチだよな、なんて冗談めかして言われるくらいに常に傍にアイツがいた。人見知りで穏やかな性格であるアイツにとっては有名人扱いはしんどいのだろうし、体のいい風除けくらいに俺を使っているんだろうと思っていた。
年下になつかれるのは悪い気はしないし、長男気質の俺にとっては全く世話のかからない弟がひとり増えたくらいの気持ちでいた。
それまでは仲の良い友人、あるいは親友、と言ってもいいくらいのポジションだった。あの運命の夜までは。
いつものように俺の部屋に我が物顔で居座って、少しダボつく俺の部屋着を着ている風呂上がりのアイツの髪をドライヤーで乾かしてやっていた。鬱陶し気に目にかかるストレートの前髪を指先で散らしながら風を当てる。意外と雑な性格のコイツは放っておくとタオルでバサバサっと拭いただけで終わらせてしまうので、先に風呂に入って寝る準備を済ませておいた俺がドライヤー係を買って出るのはいつものルーティーンだった。
白いうなじに熱風が当たらないように気をつけながらドライヤーを揺らす。まだしっとりと水気を含んだ艶のある肌を惜しげもなく曝け出しているのも、男同士で気のおけない間柄だから。首の大きく開いた白いロンTの袖が手の甲まで隠している、いわゆる萌え袖なんだがどうせなら推しアイドルにやって欲しい。グレーのスウェットは大分くたびれていて、ズリズリと引き摺ってしまうから腰の紐をきゅっときつく結ばないとすぐにウェストの位置が落ちてしまう。まあ、隙だらけの格好だけれどいつものことだ。こいつのファンからしたら大金積んででも見たい光景に違いないが、うちではこれが通常営業。
ちょっと、いや男にしては大分距離感の近い奴だったけれど何もコイツだけが特別じゃない。いつまで経っても独り立ちできない幼い弟みたいに、ちょっと甘えたなだけ。そう思っていたのに。
出来たよ、と乾いてサラサラになった髪を軽く撫でてやり、手早くドライヤーを片す。今夜は見たいテレビも特にないし、明日は週末で予定もない。いつもならアニメを見たりゲームをしたりで夜更かしすることもあったが、今日は帰りがけに買ってきたチューハイを飲んでしまったからか、やけに眠気に襲われる。さっさと寝ようと一応声をかけた。
「俺眠いからもうオチるわ。お前は?」
「俺も寝る」
「ん、じゃ電気消すぞ」
電気を消して枕元にある小さなスタンドライトの豆電球だけをつけておく。淡いオレンジ色の光の中、布団に潜り込んで大きく欠伸をした。並べて敷いた布団に同じように身体を滑り込ませるのを見届けて、おやすみ、と小さく呟いた。
目を閉じると、ぱたんと幕を下ろすように眠気がやってきて、深い闇の中へと連れ去られてしまった。
目が醒めたのは下半身に妙な違和感を覚えたからだった。尿意だろうか、酒の飲み過ぎでトイレに行きたくなったのかもしれない。覚醒しきらない目蓋を何とか抉じ開けて数回瞬きをしてから気づいた。
視界が真っ暗だった。
暗い中で眠るのが苦手な俺にあわせて、ライトはつけたまま寝てくれていたはずなのに、何度瞬きを繰り返しても明かりが見えない。上下する眉の動きに合わせてようやく異変に気づく。視界が奪われている。
頭を左右に動かしてみれば後頭部に引きつるような圧迫感。目隠し、だろうか。
声を出そうとして同じように圧迫感に気づく。急速に意識が覚醒する、目隠しに猿轡?何が、起きている?真っ先に浮かんだのは強盗か何かに寝込みを襲われて縛り上げられている情景だった。背後に回された手を動かそうとしてやっぱり感じる引き攣れ。これはどうやら決定らしい、今俺は誰かに拘束されている。
アイツは?アイツは無事なんだろうか?声を出しても大丈夫なのか?俺が覚醒していることに気づかれたらアイツの命が危ない、なんてことになったら。もどかしい、恐ろしい、気持ちが昂っている。腰が重い。
ああ、そうだった。腰が、と思い出した瞬間、何か生温かいものに包まれてぬめる感触に背中がエビのように反った。
夜気を感じる剥き出しの下半身が粟立つ。素肌に当たるシーツの感触に血の気が引く。え?なんで。何が起こってるの。
くちゅり、と厭らしい水音が耳に届く。そして急速に始まる強烈な刺激。咥えているのは口なのか、温かな空洞に迎え入れられる度に添わされる舌の動きに思わず呻いた。内股に力が入って閉じようとするのを、強い力でこじ開けられている。なんで、まさか、違うよな、だって。
「抵抗、してみる?」
足下から流れてきた声は、聞き間違えるわけがない。
アイツの声だった。
初めて出逢った日の鮮烈な印象を今でもはっきりと憶えている。
美しい男だった。
誰もが目を奪われるような容貌、華々しい経歴、完成された頭脳、何もかもがあの年にして持ち得るとは到底思えない精度で、密度で、あの美しい男の中に詰め込まれていた。
なのに想像とは違って、どこか他人に対して怯えるように線を引く姿は可愛らしくすらあって、ひとつとはいえ年下であることを妙に意識した。とはいえ同級生同士、浪人の俺はひとつ上ではあったがそんなこと気にする理由もなく、当たり前のように仲良くなっていった。
専攻も全然違うのに妙にウマが合った。何をしていても楽しかったし何もしなくても楽しかった。誰よりも近くにいて、いつでも一緒にいた。
その頃から徐々にではあったが、おかしな方向に人生が向かっていくのを感じていた。
俺が他の友人と話しているとスッと近づいてきてチョイチョイと手招きをする。輪には加わらず俺を誘い出すと、大して重要とも言えないような用事を口実に連れ出されてしまう。
俺が学食でメシを食っていると当然のように向かいの席に座り、黙々と食事を始める。先に食べ終わった俺が立ち上がれば、当然のようにそれを制して自分が終わりまで待つように要求する。
飲み会の約束をどこかから聞きつけてきては、何やかんやと理由をつけて自分も参加しようとする。登場しただけで話題をかっさらってしまうイケメンの有名人なんて誰が参加してもらいたがるだろうか。結局俺ともども、参加は丁重にお断りされてしまう。
一緒に買い物に出かければ、これが似合う、あれはダメだ、と細かに服装まで指図される。せっかくこんなにスタイルがいいんだから勿体ないだろ、と言われれば悪い気はしない。
家に帰ろうとすれば、一緒に試験勉強をしようだの、見たいテレビがあるだの、実家に帰るのは面倒だの、あれこれと言いくるめられて俺の部屋に上がり込んでしまう。あまつさえ暫く居ついたりして、段々と部屋にヤツの荷物が増えていく。
お前たちってニコイチだよな、なんて冗談めかして言われるくらいに常に傍にアイツがいた。人見知りで穏やかな性格であるアイツにとっては有名人扱いはしんどいのだろうし、体のいい風除けくらいに俺を使っているんだろうと思っていた。
年下になつかれるのは悪い気はしないし、長男気質の俺にとっては全く世話のかからない弟がひとり増えたくらいの気持ちでいた。
それまでは仲の良い友人、あるいは親友、と言ってもいいくらいのポジションだった。あの運命の夜までは。
いつものように俺の部屋に我が物顔で居座って、少しダボつく俺の部屋着を着ている風呂上がりのアイツの髪をドライヤーで乾かしてやっていた。鬱陶し気に目にかかるストレートの前髪を指先で散らしながら風を当てる。意外と雑な性格のコイツは放っておくとタオルでバサバサっと拭いただけで終わらせてしまうので、先に風呂に入って寝る準備を済ませておいた俺がドライヤー係を買って出るのはいつものルーティーンだった。
白いうなじに熱風が当たらないように気をつけながらドライヤーを揺らす。まだしっとりと水気を含んだ艶のある肌を惜しげもなく曝け出しているのも、男同士で気のおけない間柄だから。首の大きく開いた白いロンTの袖が手の甲まで隠している、いわゆる萌え袖なんだがどうせなら推しアイドルにやって欲しい。グレーのスウェットは大分くたびれていて、ズリズリと引き摺ってしまうから腰の紐をきゅっときつく結ばないとすぐにウェストの位置が落ちてしまう。まあ、隙だらけの格好だけれどいつものことだ。こいつのファンからしたら大金積んででも見たい光景に違いないが、うちではこれが通常営業。
ちょっと、いや男にしては大分距離感の近い奴だったけれど何もコイツだけが特別じゃない。いつまで経っても独り立ちできない幼い弟みたいに、ちょっと甘えたなだけ。そう思っていたのに。
出来たよ、と乾いてサラサラになった髪を軽く撫でてやり、手早くドライヤーを片す。今夜は見たいテレビも特にないし、明日は週末で予定もない。いつもならアニメを見たりゲームをしたりで夜更かしすることもあったが、今日は帰りがけに買ってきたチューハイを飲んでしまったからか、やけに眠気に襲われる。さっさと寝ようと一応声をかけた。
「俺眠いからもうオチるわ。お前は?」
「俺も寝る」
「ん、じゃ電気消すぞ」
電気を消して枕元にある小さなスタンドライトの豆電球だけをつけておく。淡いオレンジ色の光の中、布団に潜り込んで大きく欠伸をした。並べて敷いた布団に同じように身体を滑り込ませるのを見届けて、おやすみ、と小さく呟いた。
目を閉じると、ぱたんと幕を下ろすように眠気がやってきて、深い闇の中へと連れ去られてしまった。
目が醒めたのは下半身に妙な違和感を覚えたからだった。尿意だろうか、酒の飲み過ぎでトイレに行きたくなったのかもしれない。覚醒しきらない目蓋を何とか抉じ開けて数回瞬きをしてから気づいた。
視界が真っ暗だった。
暗い中で眠るのが苦手な俺にあわせて、ライトはつけたまま寝てくれていたはずなのに、何度瞬きを繰り返しても明かりが見えない。上下する眉の動きに合わせてようやく異変に気づく。視界が奪われている。
頭を左右に動かしてみれば後頭部に引きつるような圧迫感。目隠し、だろうか。
声を出そうとして同じように圧迫感に気づく。急速に意識が覚醒する、目隠しに猿轡?何が、起きている?真っ先に浮かんだのは強盗か何かに寝込みを襲われて縛り上げられている情景だった。背後に回された手を動かそうとしてやっぱり感じる引き攣れ。これはどうやら決定らしい、今俺は誰かに拘束されている。
アイツは?アイツは無事なんだろうか?声を出しても大丈夫なのか?俺が覚醒していることに気づかれたらアイツの命が危ない、なんてことになったら。もどかしい、恐ろしい、気持ちが昂っている。腰が重い。
ああ、そうだった。腰が、と思い出した瞬間、何か生温かいものに包まれてぬめる感触に背中がエビのように反った。
夜気を感じる剥き出しの下半身が粟立つ。素肌に当たるシーツの感触に血の気が引く。え?なんで。何が起こってるの。
くちゅり、と厭らしい水音が耳に届く。そして急速に始まる強烈な刺激。咥えているのは口なのか、温かな空洞に迎え入れられる度に添わされる舌の動きに思わず呻いた。内股に力が入って閉じようとするのを、強い力でこじ開けられている。なんで、まさか、違うよな、だって。
「抵抗、してみる?」
足下から流れてきた声は、聞き間違えるわけがない。
アイツの声だった。
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