anonymous - 短編集 -

帯刀通

文字の大きさ
13 / 15
短いバタフライ

01

しおりを挟む
パタパタと、今日も胸の中に蝶が飛ぶ。
鮮やかな青。空よりも深く、海よりも淡い。
縁取りは闇の色。
パタパタと群れになった無数の蝶が、亜熱帯の森林の隙間をぬって上空へと羽ばたいていくイメージ。

それを僕は地面に寝転んで見上げている。
ハァハァと息は弾んで、肌には玉のような汗が後から後から流れて、暑くて仕方ない。全力で走りきった後に力尽きて倒れ込んだ地面は、じっとりと湿っていて柔らかくて僕を受け止めている。

ああ、いつもと同じ夢だ。

なぜか、彼に会った日いつも、この夢を見る。

鱗粉を撒き散らしながら連なって、渦巻きが空に飲まれるように、くるくると螺旋を描きながら飛び去っていく。

ぽっかりと空いた穴みたいな空は、白くくすんでいて、木々の影は墨のようにコントラストを描く。

行ったこともないのに、ジャングルなんて。
縁もゆかりもないこの場所で倒れ込んで空を見上げているだけの夢だけれど、やけに生々しくて、荒い息遣いや姿の見えない動物の高い鳴き声が、妙に真に迫っていて。

不思議と惹きつけられる夢だった。

*****

彼は、遠くから見るもの。
クラスの一番後ろが定位置なのは、身長がとても高いから。今は窓際の角に座っている。

それを見る僕は、教壇の上。
教卓にのせられたのは辞書と、ノートと、筆箱と。

眼鏡越しに見回す小さな教室は、数十人入ればいっぱいで、人気のない人文の講義なんて片手で足りるくらいしか出席者はいない。必修でもない宗教心理学なんて、いかにも頭数あわせの講義に毎回出てくる物好きが数人でもいることに、逆に驚いたほどだ。

講師になりたてで、授業を持ちたての新任講師は舐められて当然だ。学生たちと十も変わらない年、それに加えて小柄な身体は、いまだに高校生に間違えられることもあるほどで、三十路直前の貫禄とやらは永久に僕に訪れることはないらしい。

学生たちも程よい距離感で接してくる。かえって気楽でやりやすいとは思いつつも、複雑な気持ちがしないでもない。まあ、淡々とノルマをこなして研究が出来れば文句もない底辺研究者としては、授業というのはメシのタネ以上でも以下でもなかった。

そこに現れたのが、彼だった。
第一印象は、『大きい』
ーーーそれ以外は思い浮かばないほど、見上げる首の角度が鈍すぎて後頭部がぺたりと肩についた。

男性としては小柄な僕だが、一般女性の平均身長は越えている。その僕をして30センチはありそうな身長差。何だかガリバーみたい子だなと思った。

女の子たちは彼の胸元あたりまで、男の子たちは肩くらい、稀にそれを越す子達もいたがやはり彼だけ群を抜いている。

伝え聞いたところでは、モデルなどしているらしかった。道理で顔立ちが精悍で整っていると思った。雑誌の表紙を飾ってそうな美形。俗にいうイケメンだった。

そんな彼が、一二年生を対象にした僕の授業に現れた時は驚いた。威圧感というか、空間に対して占める割合が他よりもひどく多くて、見る気がなくとも視界に入ってしまう。たぶん、この教室にいる誰からしても同じ感想だろう。

そんな視線が鬱陶しいのか、彼は常に最後列を陣取っていた。そのために、人より早く教室に来るようだった。注目を浴びるのもなかなか大変だな、と思った覚えがある。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

先輩、可愛がってください

ゆもたに
BL
棒アイスを頬張ってる先輩を見て、「あー……ち◯ぽぶち込みてぇ」とつい言ってしまった天然な後輩の話

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...