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【星ワタリ篇】~第1章~(題2部)
夢現十時
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「なんで……? ナイト、どうしてそんなこと言うの……?」
ミュウは驚いてナイトに聞き返した。
「聞こえませんでしたか?
ワタクシをここに捨てて行ってくださいと言ったのデスよ」
倒れるようにして座り込んでいるナイトの体はボロボロに壊れていて、
もうまともに動かすことができなかった。
「そんな……ナイトを置いていくなんて、できないよ……」
「見ればわかるでしょう?
ワタクシにはもう歩く力すら残っていないのデスよ」
「一緒に行こうよ。
ミュウが支えるから……」
一瞬の沈黙の後。
「貴女の【答え】はこういうことなのでしょう?」
「答えって……」
ナイトが何を言いたいのか解らない。
ただただ驚いて、もう一度聞き返した。
「先ほどの戦いの最中に、貴女はワタクシのことを絶望の瞳で見つめていましたよね」
「……」
「ワタクシと貴女はもう運命共同体なのです。
貴女がワタクシを拒絶するということは、貴女にとってワタクシは要らない存在だというのも同然デス」
「え……っ」
「つまり、あの時ワタクシがマスター・アンジェラに殺されていても構わなかったということ、デス」
「――そんなことないよ!!」
「じゃあ何故、ワタクシを拒絶したのデスか?
ワタクシがこうなると分かっていたのに?」
「……ちがうよ!!
ただ、あの時はびっくりして……」
「貴女はワタクシよりも、マスター・アンジェラを選んだ」
「ちがう……」
ミュウはただ震えることしかできなかった。
「もうよいので、ワタクシを捨ててください」
「そんなこと言わないで!!」
「――わからないヒトですねぇぇ」
痺れを切らせたナイトがギリギリと歯を鳴らして、チッと吐き捨てるように言い放った。
「ワタクシ……はなぁ、ずっと貴女のことがムカついてしょうがないのデスよ!」
――!!
「ずっと、一緒になんていたくなかった。これっぽっちも。
大嫌いで、憎くて憎くて仕方がなかった……。
貴女がワタクシを拾ったりなんかするから――」
あまりにも突然すぎるショックな言葉に、ミュウは言葉を失ってしまった。
ナイトはそれに気がついて、ふっとため息をついた。
「王子様とお姫様ごっこに付き合わされて、何年も……。
こんな遊び、疲れたのデスよ! わかったら解放してくださいよ! もう十分でしょう……」
――。
……そんな風に思われていたなんて。
気がつかなかった。
ミュウの瞳が悲しみに染まっていく。
泣いては駄目だ、と思うのに涙が溢れて止まらない。
ショックな言葉を言われたことよりも、
知らないうちに傷つけて苦しめていたことが悲しかった。
「ごめんなさい、ナイト……」
それ以上の言葉が出せずに、ミュウはその場から走り去ってしまった。
……ずっと一緒にいられると思ってた。
ずっと一緒にいたかった。
ただそれだけでよかったのに……。
倒れ込んだままナイトは、ミュウの遠くなっていく足音を聞いていた。
「……本当に行ってしまいましたか」
ナイトの口元は笑みを浮かべている。
そして少しだけ安堵したように、ため息をついた。
「でもこれでよかったのデスよね」
だけど、頬からは涙がつたっていた。
――どこまで走ってきたのだろうか。
息が苦しくなってミュウは足を止めた。
ナイトがいる場所からはそんなに離れてはいないだろう。
けれど、ふたりの心がとても遠くに離れてしまった気がした。
傍の壁に手をつく。
それは、レンガで模られたゴシック様式の小さなお家だった。
どこかミュウの家と似ている気がした。
ふと出窓に目が行き、指で涙を拭う。
白いうさぎと黒いうさぎの縫いぐるみが、仲良く並んで飾られていた。
どこかナイトとメアリの姿を思い起こして、
思わずそれに手を伸ばそうとする。
が、窓ガラスに映った自分の姿が揺らめいた気がした。
「え……?」
伸ばした指の先から、ぷつりと触れる感触。
空間が歪に割れて、白い穴のようなものができた。
その中から、まるで鏡の向こうの幻のように、少女が現れた――。
ミュウは驚いてナイトに聞き返した。
「聞こえませんでしたか?
ワタクシをここに捨てて行ってくださいと言ったのデスよ」
倒れるようにして座り込んでいるナイトの体はボロボロに壊れていて、
もうまともに動かすことができなかった。
「そんな……ナイトを置いていくなんて、できないよ……」
「見ればわかるでしょう?
ワタクシにはもう歩く力すら残っていないのデスよ」
「一緒に行こうよ。
ミュウが支えるから……」
一瞬の沈黙の後。
「貴女の【答え】はこういうことなのでしょう?」
「答えって……」
ナイトが何を言いたいのか解らない。
ただただ驚いて、もう一度聞き返した。
「先ほどの戦いの最中に、貴女はワタクシのことを絶望の瞳で見つめていましたよね」
「……」
「ワタクシと貴女はもう運命共同体なのです。
貴女がワタクシを拒絶するということは、貴女にとってワタクシは要らない存在だというのも同然デス」
「え……っ」
「つまり、あの時ワタクシがマスター・アンジェラに殺されていても構わなかったということ、デス」
「――そんなことないよ!!」
「じゃあ何故、ワタクシを拒絶したのデスか?
ワタクシがこうなると分かっていたのに?」
「……ちがうよ!!
ただ、あの時はびっくりして……」
「貴女はワタクシよりも、マスター・アンジェラを選んだ」
「ちがう……」
ミュウはただ震えることしかできなかった。
「もうよいので、ワタクシを捨ててください」
「そんなこと言わないで!!」
「――わからないヒトですねぇぇ」
痺れを切らせたナイトがギリギリと歯を鳴らして、チッと吐き捨てるように言い放った。
「ワタクシ……はなぁ、ずっと貴女のことがムカついてしょうがないのデスよ!」
――!!
「ずっと、一緒になんていたくなかった。これっぽっちも。
大嫌いで、憎くて憎くて仕方がなかった……。
貴女がワタクシを拾ったりなんかするから――」
あまりにも突然すぎるショックな言葉に、ミュウは言葉を失ってしまった。
ナイトはそれに気がついて、ふっとため息をついた。
「王子様とお姫様ごっこに付き合わされて、何年も……。
こんな遊び、疲れたのデスよ! わかったら解放してくださいよ! もう十分でしょう……」
――。
……そんな風に思われていたなんて。
気がつかなかった。
ミュウの瞳が悲しみに染まっていく。
泣いては駄目だ、と思うのに涙が溢れて止まらない。
ショックな言葉を言われたことよりも、
知らないうちに傷つけて苦しめていたことが悲しかった。
「ごめんなさい、ナイト……」
それ以上の言葉が出せずに、ミュウはその場から走り去ってしまった。
……ずっと一緒にいられると思ってた。
ずっと一緒にいたかった。
ただそれだけでよかったのに……。
倒れ込んだままナイトは、ミュウの遠くなっていく足音を聞いていた。
「……本当に行ってしまいましたか」
ナイトの口元は笑みを浮かべている。
そして少しだけ安堵したように、ため息をついた。
「でもこれでよかったのデスよね」
だけど、頬からは涙がつたっていた。
――どこまで走ってきたのだろうか。
息が苦しくなってミュウは足を止めた。
ナイトがいる場所からはそんなに離れてはいないだろう。
けれど、ふたりの心がとても遠くに離れてしまった気がした。
傍の壁に手をつく。
それは、レンガで模られたゴシック様式の小さなお家だった。
どこかミュウの家と似ている気がした。
ふと出窓に目が行き、指で涙を拭う。
白いうさぎと黒いうさぎの縫いぐるみが、仲良く並んで飾られていた。
どこかナイトとメアリの姿を思い起こして、
思わずそれに手を伸ばそうとする。
が、窓ガラスに映った自分の姿が揺らめいた気がした。
「え……?」
伸ばした指の先から、ぷつりと触れる感触。
空間が歪に割れて、白い穴のようなものができた。
その中から、まるで鏡の向こうの幻のように、少女が現れた――。
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