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20.白銀の刃のように
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「フィーエ!」
男性が叫ぶと、鉄のカマキリは鈍重な動きで壁を張って天井へと張り付いた。
出口を塞がれてしまった。
あんなにノロいのならば下をすり抜けて脱出できたかもしれない。
でも。
絶えず回転するチェーンソーの両手を持つ相手に、そんな危険は冒せなかった。
相変わらず鈍い足取り、そしてけたたましくチェーンソーを鳴らしながら静夜たちに迫り寄る。
静夜は再びピストルをフィーエに向けて引鉄を引いた。
が、すでに弾切れを起こしていた。
「3発!」
声を上げて男性へと向き直る。
「はぁ!?3発しか装填していなかったの?アナタ」
「映画じゃあるまいし、派手に撃ちまくる機会なんて、そうそう無いよ。それと申し遅れました。僕の名前はスノー。あの世への土産にするといいよ」
この男、私たちを生かしておくつもりは無いらしい。
「スノー。訊いて良いかしら」
お伺いを立てる。も、その前に。
「ちょっと、そのチェーンソー、止めてくれない?これじゃあ、うるさくて話ができないわ」
スノーが頷くとフィーエの両手が止まった。
チェーンソーが止まったので理解したが、惨劇の正体はコイツで間違い無い。大量の血液に天井へと飛び散る高速飛沫痕(通常は銃器によるもの)。高速回転する刃が凶器ならではの芸当だ。
「どうして、ここの人たちを殺害したの?」
「キナコという女の子の母親だけで良かったんだけどね。だけどお仕事中だったから、ひとり殺しちゃうと大騒ぎになってね。それで」
静夜は近くにあるデスクの上にある物をなぎ落して「そんな事を訊いているんじゃない!理由を言いなさい!」声を荒げた。
「お姉さんが『ここの人たち』て訊いたから答えてあげたのに」
肩をすくめて。
「大声出さないで下さいよ。表にまで聞こえちゃうでしょ」
とことん胸糞の悪くなる男だ。
「キナコという僕が放った猟犬がね、探し人を見つけたと報告を入れて来たんだけど、そのあと全く連絡を入れてこないんだ。だから、彼女の母親に電話してもらおうとしたら断られて、それで」
「それで?それだけの理由で?」
人の命を何だと思っているのか?
でも、怒りに任せてこの男に手を上げてしまえば、この男と同じになってしまう。
フィーエへと向き直り弾なしのピストルを投げつけた。
するとフィーエは血溜まりへと頭を下げて血をすすり始めた。
「何をやっているの?アイツ」
怒りを抑え切れぬまま訊ねる。
「鉄分を補給しているのさ。彼、鉄を摂らないとだんだん動きが鈍くなって軋み音も大きくなるんだよ」
フィーエが顔を上げた。
彼の言う通りだとすれば…。
「理依!奥へ!」
一斉に走り出した。
ガシガシという機械音を響かせて駆けてくる。
さっきとは打って変わって動きが俊敏だ。
さらに再びチェーンソーまでも作動させた。
昆虫の歩行速度は人間サイズに換算すると、自転車の速度どころではない。
あっという間に追い付かれてしまった。
振り回すチェーンソーが理依の背中を掠めて、彼女の羽織っている上着が切り裂かれた。
「理依!」
先を走っていた静夜がクッションを拾い上げるとフィーエ目がけて投げつけた。
払いのけるフィーエ。クッションは無残にもズタズタに切り裂かれ、しかし、宙に散った破片は雪のように舞い視界を妨げる。
その隙に理依はデスクの影へと隠れた。
「逃げるわよ!理依!」
「ハイ!先生!」
再び二人は入口へと走り出した。
静夜がデスクを回り込んでいる間に理依は真っ直ぐに入口へ。
その背後にフィーエが迫っていた。
フィーエの魔の手が理依の首元へと伸びる。
チェーンソーの無機質な狂気音が迫る中、理依が目にしたものは―。
銀髪、銀眼の青年が頭上を飛び越えて行く姿。
そして。
静夜は見た!
あのエイジが頭頂へと伸ばした右脚を振り下ろすのを。
しかも途中で足を捩じって。
それは踵落としでは無く。
足の甲による蹴撃!
その光景は、まさに“白銀の刃”が振り下ろされるよう…。
男性が叫ぶと、鉄のカマキリは鈍重な動きで壁を張って天井へと張り付いた。
出口を塞がれてしまった。
あんなにノロいのならば下をすり抜けて脱出できたかもしれない。
でも。
絶えず回転するチェーンソーの両手を持つ相手に、そんな危険は冒せなかった。
相変わらず鈍い足取り、そしてけたたましくチェーンソーを鳴らしながら静夜たちに迫り寄る。
静夜は再びピストルをフィーエに向けて引鉄を引いた。
が、すでに弾切れを起こしていた。
「3発!」
声を上げて男性へと向き直る。
「はぁ!?3発しか装填していなかったの?アナタ」
「映画じゃあるまいし、派手に撃ちまくる機会なんて、そうそう無いよ。それと申し遅れました。僕の名前はスノー。あの世への土産にするといいよ」
この男、私たちを生かしておくつもりは無いらしい。
「スノー。訊いて良いかしら」
お伺いを立てる。も、その前に。
「ちょっと、そのチェーンソー、止めてくれない?これじゃあ、うるさくて話ができないわ」
スノーが頷くとフィーエの両手が止まった。
チェーンソーが止まったので理解したが、惨劇の正体はコイツで間違い無い。大量の血液に天井へと飛び散る高速飛沫痕(通常は銃器によるもの)。高速回転する刃が凶器ならではの芸当だ。
「どうして、ここの人たちを殺害したの?」
「キナコという女の子の母親だけで良かったんだけどね。だけどお仕事中だったから、ひとり殺しちゃうと大騒ぎになってね。それで」
静夜は近くにあるデスクの上にある物をなぎ落して「そんな事を訊いているんじゃない!理由を言いなさい!」声を荒げた。
「お姉さんが『ここの人たち』て訊いたから答えてあげたのに」
肩をすくめて。
「大声出さないで下さいよ。表にまで聞こえちゃうでしょ」
とことん胸糞の悪くなる男だ。
「キナコという僕が放った猟犬がね、探し人を見つけたと報告を入れて来たんだけど、そのあと全く連絡を入れてこないんだ。だから、彼女の母親に電話してもらおうとしたら断られて、それで」
「それで?それだけの理由で?」
人の命を何だと思っているのか?
でも、怒りに任せてこの男に手を上げてしまえば、この男と同じになってしまう。
フィーエへと向き直り弾なしのピストルを投げつけた。
するとフィーエは血溜まりへと頭を下げて血をすすり始めた。
「何をやっているの?アイツ」
怒りを抑え切れぬまま訊ねる。
「鉄分を補給しているのさ。彼、鉄を摂らないとだんだん動きが鈍くなって軋み音も大きくなるんだよ」
フィーエが顔を上げた。
彼の言う通りだとすれば…。
「理依!奥へ!」
一斉に走り出した。
ガシガシという機械音を響かせて駆けてくる。
さっきとは打って変わって動きが俊敏だ。
さらに再びチェーンソーまでも作動させた。
昆虫の歩行速度は人間サイズに換算すると、自転車の速度どころではない。
あっという間に追い付かれてしまった。
振り回すチェーンソーが理依の背中を掠めて、彼女の羽織っている上着が切り裂かれた。
「理依!」
先を走っていた静夜がクッションを拾い上げるとフィーエ目がけて投げつけた。
払いのけるフィーエ。クッションは無残にもズタズタに切り裂かれ、しかし、宙に散った破片は雪のように舞い視界を妨げる。
その隙に理依はデスクの影へと隠れた。
「逃げるわよ!理依!」
「ハイ!先生!」
再び二人は入口へと走り出した。
静夜がデスクを回り込んでいる間に理依は真っ直ぐに入口へ。
その背後にフィーエが迫っていた。
フィーエの魔の手が理依の首元へと伸びる。
チェーンソーの無機質な狂気音が迫る中、理依が目にしたものは―。
銀髪、銀眼の青年が頭上を飛び越えて行く姿。
そして。
静夜は見た!
あのエイジが頭頂へと伸ばした右脚を振り下ろすのを。
しかも途中で足を捩じって。
それは踵落としでは無く。
足の甲による蹴撃!
その光景は、まさに“白銀の刃”が振り下ろされるよう…。
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