板の剣は相手の頭を叩き割るためのもの

ひるま(マテチ)

文字の大きさ
7 / 9
新たな力

生きるための知識を得る

しおりを挟む
 うのていで港湾都市ブロントから逃げてきたウル。

 丘を越えて、ようやく山道へと入った。

 ここまで来れば、もう追手は来ないだろう。

 ウルは山から港湾都市ブロントを眺めた。


 山から見下ろす港湾都市は。


 生まれ育ったガンムとは似ても似つかない、多くの人で賑わっている。まさに都市。

 建物も林立しているし、山手には大きな屋敷がたくさん建っている。おそらく大金持ちや商人が住んでいるのだろう。

 港へと目をやると、奴隷商船は沖へと流されることなく、無事に港へと戻っている。

 人を騙して売り飛ばそうとしてくれた“人でなし”ではあったが、彼らの船に乗せてもらわなければ、大陸には渡れなかったし、とりあえずは感謝の意を込めて、港にお辞儀をした。

 さらばだ。

 船から降りるためのタラップのように、ただ通り過ぎただけの港湾都市よ。


 さてと。


 街道を通れば、迷うことなく皇都のソレイユへと辿り着けるだろう。

 ウルは歩き出した。

 ギュルル。お腹が鳴った。

 思えば、船に乗ってから2日間とはいえ1日1食の日々。

 しかも、時間を無駄に過ごしたくないから、ずっと立ったまま波の揺れと戦って過ごしていた。おかげで、身体は鈍らなかったけれど、出発前よりも痩せてしまった。

 単純に食事を半分にして過ごしてきた訳だから、お腹も減ってくるのは当然。

「しっかし、山の中で食べる所なんて、あるのかねぇ」
 いっその事、ブロントで食事を済ませておけば良かったと後悔すらする。

 道はあれども、山の中。

 何か、食べられるものはあるのかな?

 探しながら、ひたすら街道を進む。

 しばらくして。

 やはり、脚がフラついてきた。

 おまけに喉も乾いてきた。

「ヤベッ。水筒を忘れてきた」
 今になって思い出した。

 無いのは水筒だけではない。

 火を起こす道具すら持ってきていない。

 バックパックを背負ってはいるが、中には何も入っていない。

 今頃になって、旅の無計画さを嘆いても仕方がない。

 雀の涙ほどとはいえ、路銀もあるにはある事だし、当分は何とかなるだろう。

 しかし。

 お金はあっても、ここはすっかりと山の中。

 空腹が過ぎて、足取りも重い。とはいえ、お金を口にしたところで腹の足しにもなりはしない。むしろ体を壊すのがオチだ。

 それでもなお、歩き続ける。

 だって、それしか、しようがない。

 少し荷物を軽くして負担を減らそう。

 考えても、バックパックの中身は空っぽ。

 今現在、デッドウェイトとなっているのは“板の剣”のみ。

 ウルは首を強く横に振った。

 これが無ければ、何のために皇都ソレイユを目指しているのか?

 これだけは絶対に手放してはならない。

 捨てるなど以ての外。

 根拠の無い自信を支える唯一の武器。それが板の剣。

 もはや足を引きずるようにして、ようやく山をひとつ越えた。

 と、またもや峠。

 すると、今度は道が二股に分かれており、片方には足跡が幾つも残っている。

 それは人の往来が盛んだという証し。

 少しだけど、希望が湧いてきたぁーッ!

 人の往来があるという事は。


 お食事処もしくは宿屋があるかもしれない。いや!あるに違いないと思いたい。


 希望が満ちるという事は、人にとって、それは原動力となる。

 原動力は、時に冒険心をくすぐるもの。

 ウルは道端に生えている草を引き千切ると、それを口に運んだ。

 と、すぐさま。ペッ!ペッ!と吐き出した。

 やはり、とてもじゃないけど、食べられたものではない。しかも喉を潤すどころか、苦すぎて、返って喉が渇きそう。

 教訓:その①
 むやみやたらと、その辺の草を食べてはならない。

 とりあえず、ウルは今さっき口にした植物を、もう一度手に取り観察した。

 形と匂いを覚えておこう。

 数日も経てば、忘れてしまうかもしれないけれど、経験を積むという事は、拾って捨てての繰り返しだとウルは考える。

 何度も何度も失敗を繰り返しては成功に近づける。

 現在のところ、未だ成功を導き出せた試しは何一つ無いけれど。

 文字通り、道草を食ってしまったが、おかげで“生きている”実感を取り戻せたような気がする。

 ウルは再び歩き出した。

 すると、なにやら遠くに立ち上る一筋の煙が。

 人がいる。

 体力温存なんて、この際、どうでもいい。ウルは走り出した。

「あった!」
 目指す方向には、小さな小屋が。


 峠の茶屋を発見した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】アル中の俺、転生して断酒したのに毒杯を賜る

堀 和三盆
ファンタジー
 前世、俺はいわゆるアル中だった。色んな言い訳はあるが、ただ単に俺の心が弱かった。酒に逃げた。朝も昼も夜も酒を飲み、周囲や家族に迷惑をかけた。だから。転生した俺は決意した。今世では決して酒は飲まない、と。  それなのに、まさか無実の罪で毒杯を賜るなんて。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...