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第三章 神と魔と
161 大聖堂への誘い
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神殿騎士たちを穏便に追い返した後、俺は宿の者に礼を言って小銭を握らせた。
こんなことをしても何の口止めにもならないだろうが、まぁなんというか迷惑料だ。
そして料理を部屋へと運んでくれるように頼む。
その後、宿となっている上階へと続く階段の上り口で他人の邪魔になりながら待っていた勇者と共に、宿の部屋へと戻った。
前回の反省と共にメルリルに何が出来るか確認したところ判明した、精霊の力を借りて部屋の外の音を大きめに室内に伝えるという方法を、今回は取ってもらうことにした。
聖女の結界でも、メルリルの精霊を使った音封じでも、この場には合わないと思ったからだ。
外から聞こえて来る音が大きければ、早めに人が近づくのがわかるだろう。
「で、なんで大聖堂が出てくんだ? ミホムからの騎士が迎えに来たんならまだしも。これってドラゴンの件だよな?」
「前々から噂はあったが、やっぱりなという感じだ」
俺の質問に勇者が意味不明の言葉を返した。
「どういう意味だ?」
「そもそもミホムの国は大聖堂の肝いりで勇者が興したものだという話は前にしたよな」
「ああ」
「どうも城には大聖堂に直接連絡出来る魔道具があるようだ」
「ははぁ、って、おいおい、それって傀儡国家ってことか?」
「さすがにそこまでは酷くないとは思いたいが」
「大聖堂は政治に口を出さないのが大前提です。もしそんなことをしているのがわかったら諸国が大聖堂とミホムを煙たがるでしょうね」
聖女が眉根を寄せてそう口にした。
まだ幼いのに難しいことがわかるのは、さすがに貴族の子女ということなのだろうか。
「ん~、でもミホム一国のことだから他国は関係ないんじゃ?」
「国と国との間には複雑な関係がある。ミホムは勇者の国ということで少し特殊で、周辺国家からの婚姻の申し込みも多い。軍事でも生産物でも力関係だとミホムは諸国のなかでは上位に位置するんだ」
「ややっこしいな」
勇者の説明に俺は頭を掻いた。
こういう政がらみのことは俺にはさっぱりわからない。
めんどくさいとしか言いようがなかった。
「まぁいい。ミホムが大聖堂と繋がっていることは誰でも知っていることだし、それがもうちょっと親密だったって話だからな。それはともかくだ、俺たちのことだ」
「ん、ああ。神殿騎士が何人で来ているか知らんが、蹴散らせない訳じゃないぞ?」
「いやいや、それやったらマズいだろ。別に敵対したい訳じゃないんだし」
「だが、あいつらに付いて行くとしたら大聖堂まで行かなきゃならんぞ。その場合、今回問題を起こしたタシテを通り抜けることになるし面倒だ」
「う、い、いや、今回は勇者が関わっていることは表に出てないし平気だろう」
「そうだとしても、今は他勢力に対する警戒心は高くなっていると思ったほうがいい。それに俺がアンデルにいたことはやつらも知っていて利用しようとしていた訳だしな」
「ううむ」
言われてみれば確かに二国を統一しようとして失敗した形のタシテは今や追い詰められた形だろう。
もちろん表立って戦をした訳じゃないから、消耗自体は小さなものだが、信用問題というものがある。
二翼と呼ばれるほどに親密な同盟国を裏切ったんだ、今頃上層部はさぞや揉めているだろう。
「でも神殿騎士と同行しているんだ。まさか手出しをしては来ないだろう」
「まぁそれはそうだろうな、正気なら」
「そこまでやぶれかぶれになっていないことを祈ろう」
「ということは、師匠は神殿騎士に従って大聖堂に行くつもりなのか?」
「いや、俺がじゃなくてお前たちの話だろ」
「えっ!」
俺の返事に今まで全く動揺していなかった勇者がひどくうろたえた。
だって、呼ばれてるのお前だろ?
「い、いや、師匠。だって、ドラゴンとの契約は師匠が!」
「それは秘密だって言ったよな。お前がやったことにするって」
「だが、大聖堂ではそれは通らないかもしれない」
「なんだと」
俺は思わず声を荒げてしまった。
勇者がびくっと身をすくませる。
いや、お前を叱った訳じゃないから。てか、そういう反応されると俺がお前をいじめているようじゃねぇか。
俺が今まで一度たりともお前を不当に虐げたことがあったか?
どうしてそう叱られた犬のような反応をするのか。
「お師匠さま、勇者さまを叱らないであげてください。別に勇者さまがお師匠さまのことを話してしまうという意味ではないのです。大聖堂には真偽を判定する魔道具があるのです」
「うわあ、なんでもあるな。さすが魔法の本家本元だぜ」
俺は頭を抱えた。
いや待て。ドラゴンとの契約の際に勇者たちがその場にいたことは事実だ。
単に真偽を計るというだけなら、ごまかしようもあるか。
「わかった。俺も付いて行く」
「そうか! やっぱり弟子としては師匠と一緒に行動するのが筋だからな」
こいつめ。
「わ、私。場違いじゃないでしょうか?」
メルリルが困ったように言う。
メルリルたち森人は神に帰依していない。
そういう意味では確かに大聖堂はメルリルにとって場違いだろう。
「う~ん。今回の招集はドラゴンとの契約の確認だけだろう。気にすることはないんじゃないか? 大聖堂が他の種族を迫害するという話も聞かないし」
「そういう話はわたしも聞かないね。どっちかっていうと貧乏人を迫害しているからねあの連中は」
「テスタ……」
モンクが言うと、聖女がしゅんとしたような申し訳なさそうな声を出す。
モンクは慌てて、聖女に笑顔を向けた。
「い、いや、なにもわたしだって大聖堂の全部が悪いとか言ってないよ。そもそもわたしが今生きていられるのも大聖堂のおかげと言えばおかげだしね」
そうは言ったが、その言葉を言っているときのモンクの表情は酷く獰猛なものだった。
前々からモンクは大聖堂に対して思うところがありそうだとは感じていたが、何やら複雑な事情があるらしい。
そもそもいわゆる雇われに近い神殿騎士と違い、戦闘僧は子どもの頃から大聖堂のために戦いを仕込まれた生え抜きの戦士だと聞いていた。
そのほとんどは孤児という話だ。
それぞれの思惑はありながらも、結局俺たちは神殿騎士に従って大聖堂に行く方針を固めた。
ちなみに食事が届くのがやけに遅いので下を覗きに行ったら、村中の人間が集まったかのような大混雑となっていて、「勇者さまが……」などという単語が聞こえたので、そっとその場を離れることにした。
食事、早めに来るといいな。
こんなことをしても何の口止めにもならないだろうが、まぁなんというか迷惑料だ。
そして料理を部屋へと運んでくれるように頼む。
その後、宿となっている上階へと続く階段の上り口で他人の邪魔になりながら待っていた勇者と共に、宿の部屋へと戻った。
前回の反省と共にメルリルに何が出来るか確認したところ判明した、精霊の力を借りて部屋の外の音を大きめに室内に伝えるという方法を、今回は取ってもらうことにした。
聖女の結界でも、メルリルの精霊を使った音封じでも、この場には合わないと思ったからだ。
外から聞こえて来る音が大きければ、早めに人が近づくのがわかるだろう。
「で、なんで大聖堂が出てくんだ? ミホムからの騎士が迎えに来たんならまだしも。これってドラゴンの件だよな?」
「前々から噂はあったが、やっぱりなという感じだ」
俺の質問に勇者が意味不明の言葉を返した。
「どういう意味だ?」
「そもそもミホムの国は大聖堂の肝いりで勇者が興したものだという話は前にしたよな」
「ああ」
「どうも城には大聖堂に直接連絡出来る魔道具があるようだ」
「ははぁ、って、おいおい、それって傀儡国家ってことか?」
「さすがにそこまでは酷くないとは思いたいが」
「大聖堂は政治に口を出さないのが大前提です。もしそんなことをしているのがわかったら諸国が大聖堂とミホムを煙たがるでしょうね」
聖女が眉根を寄せてそう口にした。
まだ幼いのに難しいことがわかるのは、さすがに貴族の子女ということなのだろうか。
「ん~、でもミホム一国のことだから他国は関係ないんじゃ?」
「国と国との間には複雑な関係がある。ミホムは勇者の国ということで少し特殊で、周辺国家からの婚姻の申し込みも多い。軍事でも生産物でも力関係だとミホムは諸国のなかでは上位に位置するんだ」
「ややっこしいな」
勇者の説明に俺は頭を掻いた。
こういう政がらみのことは俺にはさっぱりわからない。
めんどくさいとしか言いようがなかった。
「まぁいい。ミホムが大聖堂と繋がっていることは誰でも知っていることだし、それがもうちょっと親密だったって話だからな。それはともかくだ、俺たちのことだ」
「ん、ああ。神殿騎士が何人で来ているか知らんが、蹴散らせない訳じゃないぞ?」
「いやいや、それやったらマズいだろ。別に敵対したい訳じゃないんだし」
「だが、あいつらに付いて行くとしたら大聖堂まで行かなきゃならんぞ。その場合、今回問題を起こしたタシテを通り抜けることになるし面倒だ」
「う、い、いや、今回は勇者が関わっていることは表に出てないし平気だろう」
「そうだとしても、今は他勢力に対する警戒心は高くなっていると思ったほうがいい。それに俺がアンデルにいたことはやつらも知っていて利用しようとしていた訳だしな」
「ううむ」
言われてみれば確かに二国を統一しようとして失敗した形のタシテは今や追い詰められた形だろう。
もちろん表立って戦をした訳じゃないから、消耗自体は小さなものだが、信用問題というものがある。
二翼と呼ばれるほどに親密な同盟国を裏切ったんだ、今頃上層部はさぞや揉めているだろう。
「でも神殿騎士と同行しているんだ。まさか手出しをしては来ないだろう」
「まぁそれはそうだろうな、正気なら」
「そこまでやぶれかぶれになっていないことを祈ろう」
「ということは、師匠は神殿騎士に従って大聖堂に行くつもりなのか?」
「いや、俺がじゃなくてお前たちの話だろ」
「えっ!」
俺の返事に今まで全く動揺していなかった勇者がひどくうろたえた。
だって、呼ばれてるのお前だろ?
「い、いや、師匠。だって、ドラゴンとの契約は師匠が!」
「それは秘密だって言ったよな。お前がやったことにするって」
「だが、大聖堂ではそれは通らないかもしれない」
「なんだと」
俺は思わず声を荒げてしまった。
勇者がびくっと身をすくませる。
いや、お前を叱った訳じゃないから。てか、そういう反応されると俺がお前をいじめているようじゃねぇか。
俺が今まで一度たりともお前を不当に虐げたことがあったか?
どうしてそう叱られた犬のような反応をするのか。
「お師匠さま、勇者さまを叱らないであげてください。別に勇者さまがお師匠さまのことを話してしまうという意味ではないのです。大聖堂には真偽を判定する魔道具があるのです」
「うわあ、なんでもあるな。さすが魔法の本家本元だぜ」
俺は頭を抱えた。
いや待て。ドラゴンとの契約の際に勇者たちがその場にいたことは事実だ。
単に真偽を計るというだけなら、ごまかしようもあるか。
「わかった。俺も付いて行く」
「そうか! やっぱり弟子としては師匠と一緒に行動するのが筋だからな」
こいつめ。
「わ、私。場違いじゃないでしょうか?」
メルリルが困ったように言う。
メルリルたち森人は神に帰依していない。
そういう意味では確かに大聖堂はメルリルにとって場違いだろう。
「う~ん。今回の招集はドラゴンとの契約の確認だけだろう。気にすることはないんじゃないか? 大聖堂が他の種族を迫害するという話も聞かないし」
「そういう話はわたしも聞かないね。どっちかっていうと貧乏人を迫害しているからねあの連中は」
「テスタ……」
モンクが言うと、聖女がしゅんとしたような申し訳なさそうな声を出す。
モンクは慌てて、聖女に笑顔を向けた。
「い、いや、なにもわたしだって大聖堂の全部が悪いとか言ってないよ。そもそもわたしが今生きていられるのも大聖堂のおかげと言えばおかげだしね」
そうは言ったが、その言葉を言っているときのモンクの表情は酷く獰猛なものだった。
前々からモンクは大聖堂に対して思うところがありそうだとは感じていたが、何やら複雑な事情があるらしい。
そもそもいわゆる雇われに近い神殿騎士と違い、戦闘僧は子どもの頃から大聖堂のために戦いを仕込まれた生え抜きの戦士だと聞いていた。
そのほとんどは孤児という話だ。
それぞれの思惑はありながらも、結局俺たちは神殿騎士に従って大聖堂に行く方針を固めた。
ちなみに食事が届くのがやけに遅いので下を覗きに行ったら、村中の人間が集まったかのような大混雑となっていて、「勇者さまが……」などという単語が聞こえたので、そっとその場を離れることにした。
食事、早めに来るといいな。
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