勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第三章 神と魔と

174 下準備

 本格的な調査のための準備に二日をかけた。
 見知らぬ土地ということを考えると少ない日数だが、緊急性がある可能性もある。
 慎重さと迅速さの間を取ってこの日数になったのだ。
 そしてこの下準備に勇者を付き合わせた。
 目立つ装備を脱ぎ去って従者が被るような頭巾を被った勇者にズベッグの人びとが気づくことはなかった。

「何か気づいたか?」

 俺は勇者に質問してみた。
 同じものを見聞きしたのだから同じように情報を取得しているはずと思うのは間違いである。
 人は見たいものを見るし、聞きたいことを聞く。
 そのため複数人で調査してすり合わせをすることもときには大切なのだ。

「野菜って種類が多いんだな」
「……いや、そこじゃなくて今回の調査に関することだ」
「ああ、んっと、山に入って行方不明になっている人間が増えている」
「という噂があるんだな」

 勇者の言葉に俺が付け足す。

「噂?」
「今までその情報を聞いた相手に、知っている人間が行方不明になった者がいなかった。つまり他人に聞いた話を俺たちに話しているということだ」
「なるほど。話の信憑性が大事ってことだな」

 勇者が納得したので次に進める。

「他に気づいたことは?」
「ん、あ、花の季節の終わりなのにもうずいぶん暑いとか言ってたな。知らん場所だから普段がどうとかわからんが」
「俺もそこは気になった」
「やっぱり!」

 俺が同意すると勇者は嬉しそうに笑った。
 俺は実のところ勇者の指導方針に悩んでいる。
 下手に褒めるとつけあがりそうだし、かと言って叱ると必要以上に落ち込む。難しい奴である。

「あ、あと、なんか凄い強い奴が来てるとか」
「ほう?」

 俺の知らない情報が出て来た。
 四六時中一緒に行動していた訳ではないので、離れたときに聞いたのだろう。

「お前のことじゃないのか? もしくはクルスのこととか」
「まぁ、俺もクルスも強いけどな!」
「おう」

 事実だから肯定したが、いきなり勇者が真っ赤になって照れ始めた。
 お前のツボがわからないよ。

「ごほん、いや俺たちのことじゃなくって、なんでもディスタスの冒険者だとか」
「ディスタス大公国か!」

 ディスタス大公国は恐ろしく歴史の古い国家だ。
 プライドが高く、他国人を見下す傾向にあることで知られているが、魔法の技術ではおそらく世界一だろう。
 今世界に存在する魔道具のほとんどがディスタス大公国産と言われているほどだ。

「なんでも英雄と呼ばれているとか」
「ほう」

 俺は目を細めた。
 冒険者でありながら英雄となれば、必ず冒険者の間で噂になっているはずだ。
 
「ディスタス大公国の英雄……」

 俺は記憶を引っ張り出した。
 そう言えば五年ほど前に大公一家を悪漢から救った英雄が冒険者から誕生したとか聞いたことがある。
 確か「炎の貴公子」とかなんとか呼ばれていたな。

「噂は聞いたことがあるな。五年前噂になったときはまだ若いという話だったが、今の年齢はわからん。炎の魔法使いらしいと聞いた」
「ふーん。魔法使いか」

 勇者は興味なさそうにしながらも、かなり気になっている風だった。
 
「まぁどの噂もまだ調査の件と結びつけるのは早計だな。頭には入れておいてくれ。あとは、購入したものだが、俺が言った通り、三日分の食料と一日分の水、水分の豊富な野菜をちゃんと買ったな」
「おう、今度はちゃんと買った」

 今度はというところを見ると、前回の死にかけた反省はしているらしい。
 反省してそれを次に活かせるなら失敗もまた冒険の糧と、師匠も言っていたし、勇者もいつまでも子どもっぽいようでちゃんと成長しているようだ。

「あとは宿に戻って荷物の収納の仕方を覚えるんだ。基本的に俺たちは自分の命をつなぐために大荷物を背負うことになるんだが、できるだけ重さを感じないようにしなきゃならん。機動性の問題もあるし、疲れやすさも違うからな」
「はい!」

 返事はいつもいいんだよな。
 さっき金貨で、しかもミホムの金貨で支払いをしようとしていたのにはまいった。変なやつに目をつけられていなければいいんだが。
 忘れがちだが、こいつは元高位の貴族。常識が足りないということを理解していろいろ教えていかないとな。俺では予想も出来ない部分が常識が違ったりするし、やっぱ勇者の師匠なんて荷が重いぜ。
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