勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
78 / 885
第三章 神と魔と

183 巨大スライムを倒せ! 1

しおりを挟む
「とにかく削るしかないだろ。それで再生力を上回れば倒せる!」

 勇者が果敢に巨大なスライムに斬りかかった。
 
「ぬうっ」

 うなずいたディスタスの特権騎士ホーリーアイ、サーサム卿もまた、剣を抜く。
 抜き放つと同時に剣に炎をまとわせた。
 おおすごい、魔法剣だ。さすがはディスタスの騎士といったところか。
 勇者の剣とサーサム卿の剣がほぼ同時にスライムの巨体を斬り飛ばす。恐るべき速度と鋭さだ。
 特にサーサム卿の斬った切り口は、ジュウジュウと煙を上げて縮んでいる。
 スライムの斬られた断片はしばしフルフルと震えていたが、次の瞬間吸い込まれるように本体に合わさった。

「なんと!」
「チィッ!」

 二人の声が重なる。
 その様子を見て、俺は以前学者先生の言っていたことを思い出した。
 本来スライムという魔物はそれほど危険視されていない。
 虫や植物を食べる手のひら大の不定形の魔物であり、もし倒したいなら火を押し付けて縮んだところを殴るだけ。
 倒したところで何かある訳でもない。
 食べることも加工することも出来ない魔物であり、人間にとっては役立たずの魔物でしかないのだ。

 だが、学者先生に言わせると、スライムは非常にユニークな生態をしていると言う。
 スライムのあの姿は一個の生物ではない。小さなスライムの元とも言える生物が寄り集まった姿なのだ。
 そして、全ての群れに司令を出す個体が存在する。

「スライムを倒すには司令を出す部位を破壊するしかない。しかし、今の状態では特定出来ない。今はとにかく意味がなくとも削るしかないぞ。斬ったら焼くようにすれば少しは違うだろう」
「わかった」
「了解した!」

 俺はスライムの体の魔力の流れを見ているのだが、まるで巨大な黒い渦巻きのようで中心がはっきりしない。
 なるほど空から見えていた渦巻き状の魔力はこのスライムだったのかと思った。
 それにしても封印されている魔物を見るとはフォルテの能力はさすがにドラゴン譲りである。

「フォルテ、お前も攻撃出来るか?」
「キュウ!」

 小さな鳥の力でも無いよりはマシと声をかけると、フォルテは楽しげに返事をした。
 こいつ遊んでもらえるとか思っているっぽいぞ。
 フォルテの言葉に含まれているワクワク感を言葉にするとそうなる。
 次の瞬間、上空から風が吹き下ろした。
 ゴウッ! という音と共に、スライムの体の数箇所が切り刻まれる。

「おおっ、やるなぁフォルテ」
「ピ!」

 すごく誇らしげだ。
 と、スライムの本体がプルプルと震え出す。魔力が天頂部に集中するのが見えた。

「フォルテ! 何かして来るぞ、避けろ!」

 叫ぶとほぼ同時に、スライムの頭頂部が沸き立つようにボコボコッと膨れ、細く長い針のような形で天高く立ち上がった。その速度は恐ろしく早く、細剣使いの達人が繰り出す剣先を思わせる。

「フォルテッ!」

 目標にされたフォルテの姿がかき消える。
 同時に俺の頭にいつもの重みが出現した。

「お前、転移とか出来るのか。すげえな」

 思わず感心したが、それどころではない。あんな攻撃が出来るなら、勇者もサーサム卿も危険だ。

「二人共、盾を使ったほうがいい」
「そのようだな」
「いらん、剣で弾く、動きが阻害される」

 サーサム卿は背負っていた盾を片手に装備したが、勇者は盾を持たないスタイルだ。まぁ好きにやらせるか。
 しかしこれではジリ貧でしかない。というか相手の増殖の速度のほうが遥かに早いし、攻撃範囲が広い。
 俺はこの前アドミニス殿から作っていただいた星降りの剣の柄に手を置く。
 俺の腕はこの剣に相応しいほど優れてはいない。普通に戦うには問題ないが、こんな超常の戦いに混ざれるほどの腕前はないのだ。
 ただし、断絶の剣なら場所さえわかればスライムの司令を出す部位を斬れるかもしれない。

 いや待て、斬ることばかりに囚われるな。ようはこの魔物を倒せばいいのだ。
 スライムの弱点は火だ。その理由は昆虫と同じで外皮が薄く、中身を守る力がない上に、その体のほとんどは水で出来ているためだ。
 水という言葉でそう言えばと温泉のことを思い出す。
 温泉に異常に魔力が混ざった原因として考えられるのは、あの温泉の源泉の流れがこの人工迷宮を通っていた為だろうか。水は魔力をよく溶かし込むので迷宮の魔力が溶け出したのだろう。

「ん? いや待てよ」

 確か迷宮を作る魔道具は周囲の土地から魔力を吸い上げて放出すると言っていたはずだ。
 ということは当然温泉からも吸い上げるはず。魔力は減らなければおかしい。
 そう言えば、源泉を管理している小屋のなかのお湯はとても触れられないほど熱かったな。
 俺はハッとした。もしかしたらという思いがある。

 俺はスライムに攻撃を加え続けている二人に声を掛けた。

「どっちでもいい、迷宮の周りにしばらく消えない火を出せるか?」
「俺がやれる」

 勇者がスライムの無数の針をかいくぐりながら応えた。

「サーサム卿、十分な魔宝石があればもう一度封印が出来るか?」
「可能だが、魔物がはみ出した状態では無理だぞ」

 ディスタスの騎士殿は盾でスライムの針を弾き返しながら答える。
 どうやらあの針、それほど硬くはないようだ。

「よし。二人共、少し聞いてくれ。まずスライムを出来るだけ切り刻み、小さくなったところに勇者が迷宮の周りに炎を展開する。その後サーサム卿は炎ごと迷宮を封印してくれ」
「元に戻す訳か?」
「いや、やってみたいことがある。賭けになるが、失敗しても封印すればいいからさほど危険はない」
「師匠に任せる」
「わかった任せよう」

 同意を得て、行動を開始する。さて、上手くいけばいいが。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。