勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第三章 神と魔と

224 神の盟約と魔人

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「始めまして、冒険者さま」

 聖者は俺の前へと来ると、そんな挨拶から入った。

「始めまして、聖者さま」

 俺がそう応じると、壁際の神殿騎士共から殺気が放たれる。
 いやいや、挨拶しただけだろう? 意味がわからんぞ。
 ふと、聖者は振り向き、そこにいた大聖堂の聖騎士に何かを告げる。
 すると、その聖騎士は、部屋にいた神殿騎士に声をかけて外に連れ出した。
 そして、俺たちの世話役をしていたノルフェイデさんも一礼して外に出る。
 ええっと、聖者さまだけ部屋にお残しになってよろしいんで?
 俺は不安を覚えながら、向かい合う聖者さまを観察した。
 フードからこぼれ落ちる真っ白な髪には、膨大な魔力が宿っているし、真っ白な目の奥にはなにやら不思議な文様が浮かんでいる。これって、もしかして教会の使う魔法の紋章なのだろうか?

「あなたは、盟約に依らない純粋な魔人なのですね」
「……魔人?」

 おいおい、俺は人間以外のものになった覚えはないぞ。

「ごめんなさい、変な言い方をして。魔力を持った人のことです」
「ああ、なるほど」

 魔力持ちの動物が魔物で、魔力持ちの人間が魔人ね。聞いてみればしっくりくるな。ほかでは全く聞いたことがない呼び方だが。

「聖者さま」

 突然聖女はなにやら焦ったように聖者さまに声を掛けた。
 それへ聖者さまはにっこりと安心させるように微笑みかける。

「大丈夫。悪いお話しではないの。あの方とは関係のないことよ」
「わかりました」

 聖者の言葉に、納得したように聖女は引き下がった。
 俺をチラチラ見て心配そうなので、笑い掛けてやる。

「本来、純粋な魔人はとても少ないの。ご存知かしら、東の地のことを」
「ええっと、魔法使いがいないんですよね」
「そう。東の国々は私たちの盟約を受け入れることがなかった。だから魔力持ちは少なく、迫害されていると聞くわ」

 東の国々には魔法使いがいないとは聞いていたが、まさか魔力持ちが迫害されているとは知らなかった。

「では、魔物にはどう対処しているんでしょう?」
「強力なエンジンと火薬を使った武器があるそうよ。それでだいたいの魔物は退けているみたいね。そして忌み嫌う魔物と同じということで魔人が嫌われてしまっているの」

 エンジン? 火薬? ええっと、エンジンは少し聞いた覚えがあるぞ。確かあの保養施設にあったような機械というカラクリに使われている蒸気機関とかいうやつだ。あの保養施設のやつは魔宝石で動いているようだったが。
 火薬はちょっとわからないな。

「なるほど。全く文化が違いますね」
「そうなの。私たち盟約の民は、盟約の力で魔力を人々に刻んで、代々その身に宿せるように工夫して来たのだけど、その違いが、国と国の間の距離以上に人の心を隔ててしまったの。悲しいことだわ」

 なるほどな。
 しかし、この聖者さまはなんでそんな話を俺にしているんだろうか?

「あなたに、一度盟約の印を見ていただきたいのだけど、どうかしら?」
「え?」
「ドラゴンの盟約を持つあなたなら、神の盟約に染まることはないわ。純粋な魔人であるあなたになら、何かを感じ取ることが出来るかもしれないと思うから」

 おおっと、ドラゴンの盟約がバレてる。
 そういえばさっきフォルテが俺のなかに入ったっけ。そりゃあバレるか。

「それは冒険者である俺に対する依頼ですか?」
「ええ、そう考えていただいてもよくってよ。あと……」

 聖者はすっと腰を落とすと、かわいらしく礼をした。
 農村のおかみさんが丁寧に礼をするときのやり方だ。

「子どもたちを、勇者と聖女を守ってくださってありがとうございます。あの子たちの命を救ってくださったのでしょう?」
「あ、その」

 俺は助けを求めるように勇者と聖女のほう見た。
 二人共ふるふると首を横に振っている。
 何も言っていないという意味か、何も出来ないという意味かわからないが、ともかく二人共当てに出来ないことだけはわかった。

「いえ、その、俺は勇者パーティのサポーターでしたから」
「最高のサポーターですわ」
「ありがとうございます」
「お礼を言うのはこちらのほうなのに。ふふっ、でもよかったらこれからも助けてあげてくださいね。あの子たちには大変な役割を背負わせてしまって、ずっと心配していたの。あなたのような方がいらっしゃるなら安心だわ」
「はい、必ず」

 その返事に迷いはなかった。
 俺は勇者たちの力になると既に決めていたからだ。

「あなたさまも、見守ってあげてくださいね」

 聖者は俺の頭の上のフォルテに微笑みかけた。

「キュウ」

 フォルテは何やら煮え切らない言葉を返していたが、聖者は、それでも満足したように俺から離れる。
 そしてメルリルの前へと移動した。
 メルリルが硬直している。大丈夫か?

「ようこそ、賢き森の民よ」
「あ、あの」
「あなた方の選んだ道と、私たちの選んだ道は違うわ。でも、それはとても大切なこと。私たちはよりよく生きる道を探してそれぞれの道を選んだの。だから違う道を選んだ方たちを私は尊敬しているし、尊重したいと思っています。だけど、お互いが交わるなら、それに勝る喜びもないわ。分かたれて、再び一つになる。それは川のように、種のように、命のように、万物のことわりの裡にあること。あなたはあなたの魂に従って道を選んでいいの」

 よくわからない聖者の言葉に、しかしメルリルはハッとしたようにうなずいていた。

「みんなをよろしくお願いします」
「私は、みなさんと巡り会えてとても幸せです。力の及ぶ限り、みんなを支えて行きます」

 メルリルの耳と尻尾が決意を表すようにピンと伸びる。

「ありがとう。森の友よ」
「こちらこそ、平野の友」

 二人がそっと手を重ねる。
 その重ねた手と手の間から淡い緑色の光が生まれた。
 聖者の手が離れると、メルリルの手の平の上に小さな宝石で出来た花のようなものが残っていた。

「それは二つの盟約の交わりし証。きっとあなたを助けてくれるはずです」
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