勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
124 / 885
第三章 神と魔と

229 聖者の結界

しおりを挟む
「魔王の力はあまりにも強力でした。彼は神の魔法を全て弾いてしまうのです。そこで、焦りに駆られた当時の導師は禁忌に手を出しました。それが、異世界召喚です」
「異世界召喚?」

 聖者がこくりとうなずく。
 いや、うなずかれても全く意味がわからないぞ。
 そもそも異世界とはなんだ?

「異世界とはなんだ?」

 わからないので聞いてみることにした。

「人にさまざまな人がいるように、世界にもさまざまな世界があります。そしてこことは別の世界にも人間に近い者が棲んでいるのです」
「……驚いたな」

 こことは別の世界か。
 考えたこともなかった。
 それはいったいどういう世界なのだろう。
 魔物に脅かされない平和な世界もあるのだろうか?

「賢者と導師は幼い魔人の少年に異世界から召喚した魂を入れました」
「おいおい。ちょっと待て。その少年はどうなった」
「異世界の魂が定着すると同時に元の魂は消滅したとのことです」
「うそだろ! なんでそんなことをしたんだ? 体ごと召喚すればよかったんじゃないか?」
「肉体は世界の壁を超えることが出来ないのです。魂は軽いので世界の壁をすり抜けることが出来ます。それと、世界は多層に重なっていますが、上から下に魂を引っ張ることは出来るのですが、下から上に持って行くことは出来ません。その魂は私たちの世界よりも上位の世界から導師たちの魔法によって引っ張り落とされたものでした」

 俺は頭を抱えた。
 そうか、勇者はこのことをどっかで調べたんだな。
 そりゃあ教会に不審を抱くはずだ。

「ただ、弁解させていただけるなら、召喚に使った子どもは、当時の導師の実子であったとのことです」
「いや、それ、何の言い訳にもならないからな。本人がどうしてもと希望したならともかく、親に逆らえない幼い子どもって時点でもう全然ダメだ」

 俺だったら逃げ出してるな。
 俺はガキの頃から行動力だけはあったからな。
 あまりに酷い話に俺は憤りのあまり怒鳴り散らしたい気持ちになったが、この目の前の女性に文句を言ったところで始まらない。
 千年も前の話なんだから。

「ふう、それで」
「申し訳ありません」
「いや、あんたが謝ってどうすんだよ。それに俺に謝ってもなんにもならないぞ」

 聖者はそれでも俺に頭を下げると話を続けた。

「召喚された魂は、名をアカガネと言いました。周囲が光に埋まるほどに強い力を持っていたとのことです」

 俺は違和感を覚えて言葉を挟む。

「ちょっとおかしくないか? その魂はさ、突然知らない世界の肉体に入っちまったんだろ? 唯々諾々と相手の言うことを聞くもんかね?」
「それは、伝え聞くところでは、勇者さまはおやさしい方で、自分のために犠牲になった導師さまの子どものために世界を救うとおっしゃられたとか」

 絶対嘘だな。
 脅したかなんかしたに違いない。
 ほんと腹立つな。
 もし俺が勇者だったら魔王と組んで教会をぶっ潰しているところだ。

「まぁ終わったことだから仕方ないが。同じようなことがあったらまたやるのか?」
「いいえ、絶対に。このことは聖者にだけ口伝として伝えられていて、もし禁忌が再び犯されるようなことがあれば、命を賭してでも止めるべしと魔法を使って約束させられるのです。当時の聖者は事態が取り返しがつかなくなるまで知らなかったようです」

 この聖者さまもあの賢者の行いを長く放置してたよな。
 それぞれの在り方を信じるとか言っているが、神の影響で野心が高まるなら、もっとこまめに対処するべきなんじゃないか?
 そりゃあ、教義ってもんがあるんだろうけどさ。

「あのさ。外部の俺が言うのもなんだけど。あんたたちずっと後手後手に回っているじゃないか。もっと、下の者と交流するべきなんじゃないか?」

 俺がそう言うと、聖者は肩を落として小さくなった。
 その姿はしょげてしまった小さな子どものようで、ひどく罪悪感を刺激する。

「聖者は神の盟約からあまり離れることが出来ないのです。私たちが離れてしまうと、神の影響が大きく広がりすぎます。常に祈りによって封印を施している状態なのです」
「もうそれ、神だか災いだかわからないんじゃないか?」
「それでも……」

 聖者は俺の顔をまっすぐに見た。

「それでも私共は選んだのです。人の世を安らかにするにはこれしかないと」
「わかった、わかった。俺も全部が間違っているとは言わないさ。確かに魔力持ちが多いおかげで人が魔物の地で暮らして行けている事実もあるしな。しかし、貴族連中は魔物と戦おうしないぞ」
「それは本当に困ったことです。ですが私たちは国の決めごとに口出しは出来ません」

 ため息と共に聖者さまは眉を潜めた。
 ああ、うん。
 教会が国の政治に口を出すようになったら大混乱に陥るだろうしな。
 それは仕方ないか。

「で、魔王はなんで生きてるんだ?」
「……それもご承知なんですね。ふふっ、あなたは本当に不思議な方です」
「よせ。ミュリアに紹介してもらっただけだ」

 やたら褒めて来る聖者さまを警戒しながら、俺は先を促す。

「魔王は死なないのです。勇者がいくら倒しても魔王は死にませんでした。それで仕方なく、彼をあの土地に封じたのです」

 封じたという言葉で熱の山にいた火喰いの魔物のことを思い出す。
 ああいう風に閉じ込められているのだろうか?

「それに、彼の子孫を教会が欲していたということもあります」
「純粋な魔人か」
「はい」
「で、教会のやって来たことや歴史なんかの知りたくなかったことを俺に教えて、何をさせようってんだ?」
「はい。実は、神の盟約の深くへと潜って欲しいのです」

 俺は聖者の話に首をかしげた。
 潜るってなんだ?

「神の盟約は迷宮みたいなものなのか?」
「いえ、違いますが、ある意味似たようなものかもしれません」
「どっちだ」
「迷宮のような場所はありません。ただ魂を導き、神の意思と結びつけるのです。それは私たちからすると、潜ると表現するのが一番近いものになります」
「よくわからん」
「申し訳ありません」
「いい。ともかく時間が惜しい。案内してくれ」
「はい。ありがとうございます」

 聖者は深々と礼をした。
 もうそういうのはいいから。
 聖者は、部屋の奥の古びた扉を開き、俺を招く。
 そこは階段になっていた。
 聖者は光球の魔法を使い、ふわふわと浮かぶ光と共に階段を下りていく。

「お、おおっ!」

 階段の終点に到着した俺は思わず声を上げてしまった。
 そこには、光り輝く魔力で編まれたベールのようなものが幾重にもかかっていた。
 細い魔力の糸で編まれたそれは、まるで繊細なレースのように見える。

「なんだ、これは?」

 それは美しすぎる蜘蛛の巣のようにも、たなびく霧のベールのようにも見える。

「もしかして、あなたさまは魔法が見えるのですか?」
「いや、魔力は見えるが魔法は見えないぞ」
「普通の魔法は発動と同時に結果を残して消え去ります。ここに展開されているのは、発動し続ける魔法です」

 世の中には理解出来ないことが山程あるものだな。
 俺は目前の光景を見ながらそう考えたのだった。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。