勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第四章 世界の片隅で生きる者たち

252 駅舎にて

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 馬は領主さまに預かってもらうことにして、俺たちは手配してもらった蒸気機関列車に乗るために車で移動していた。必要のない荷物は売り払い、必要な荷物のなかで街では使わない野営道具とかもまた、領主さまに預かってもらう。
 いろいろと面倒くさい人だったが、勇者に好意的なおかげでかなり便宜を図ってもらえたのは助かった。
 本来蒸気機関列車に乗車するには大金を必要とするのだが、公務枠で半額ほどにしてもらえたのだ。
 それでも一人金貨一枚するのだから、完全に庶民には縁のない乗り物なのだろう。
 しかしこの国はやたらと何かするのに金がかかるな。

 蒸気機関列車は固定した線路の上を走るものなので、乗り降りする場所も固定されている。
 乗り降りする場所には駅舎という立派な建物が建てられ、長時間列車を待つための施設も付随しているらしい。
 つまり宿や食堂、遊技場や、社交場、なんと賭け事が出来る場所もあるのだそうだ。
 俺たちの乗車予定の蒸気機関列車は本日中には到着予定となっているが、天候や故障などによって数日遅れることもあるらしい。
 その場合は乗車券を見せることで、駅舎の施設が割安で利用出来るようになっているとのことだった。
 金持ちが利用する乗り物らしく、いたれりつくせりである。

「なんだか心許ないな」

 勇者が手元の剣に視線を落として呟いた。
 気持ちはわかる。
 この街以外では武器をすぐに使える状態で持ち歩くことは禁じられているとかで、全員の武器が封印されてしまったのだ。
 封印を許可なく破ると罰金が課せられ、さらにそれで破壊や戦闘を行うと罪に処せられる。
 それだけ平和だと考えることも出来るが、常に武器と共に在った身としては不安になるのは仕方ないだろう。

「まぁ魔物が出なということだからな。人間相手に武器を使うのはやりすぎだし、仕方ないさ」

 ちなみに、メルリルの笛は封じられたりはしなかった。
 俺たちの剣よりも危険なんだけどな。
 そのメルリルだが、この街に滞在してからどうもあまり具合がよくないらしい。
 両耳がペタンと前に倒れている。スカートのなかの尻尾は覗いようもないが、見えていたら力なく垂れていただろう。

「大丈夫か? メルリル」
精霊メイスの力が弱いのでなんだか不安なだけです。皆の武器と同じですね」
「そうなのか」

 どうやら精霊メイスの力が乱れていて、まともに声を聞き取れない状態らしい。
 これではメルリルも力を封じられたも同然だな。

「クァー」

 俺の肩でうとうとしていたフォルテが大きくあくびをする。
 お前はのんきだなぁ。
 そう言えば、蒸気機関列車にペットの持ち込みは別料金とか言われたんだが、ペットではなく従魔だと言いはったら、人間一人分の料金を払わされた。
 まぁ一人前のパーティメンバーとして扱うと言ったのは俺だからいいんだけどな。

「列車とかいう乗り物の料金も領主さまが払ってくれるって言ってたんだから払ってもらえばよかったのに」

 テスタが呆れたように言うのだが、そこまで世話になるのはさすがに不安だった。

「バカ言え、そんなに借りばっかり作れるか」

 勇者の意見も俺と同じようだ。
 相手の好意に乗っかるというのは安易なようで危険でもある。
 その借りの分、相手の欲求に出来る限り応えなければならない気持ちになるし、何かを頼まれたら断りにくい。
 実際もう借りすぎるほど借りがあるのだ。
 これ以上借りを作るのは、一番の被害者である勇者の精神状態によくないだろう。
 そんな話をしている内に車が駅舎に到着して、俺たちはこの国に来て、何度目かわからない驚きを味わった。

「迎賓館か何かのようだな」
「これが単に乗り物に乗るためだけの建物、ですか」

 勇者と聖騎士の感想に完全に同意見だ。
 乗り物に乗るためだけの建物にしては立派すぎる。
 説明で聞いた施設がいろいろ入っているということを考えれば当然の規模なのかもしれないが。
 駅舎の入り口で受付の人に乗車券を見せると、列車がまだ到着していないこと、到着したときにどこから乗ればいいのか、時間まで駅舎内なら自由にしていていいなどということを説明してもらった。

「乗り場は階段を上がったところにあるらしい」
「乗り物に乗るのに上がるのか? 意味がわからないな」

 俺は首をかしげる勇者たちを引き連れて、説明された乗り場へとまずは向かった。
 立派な階段には、手すりの下に荷物を引っ掛けて楽に運べる工夫がしてあり、感心する。
 それなりに階段を上がった先には開けた場所があり、真ん中が切り取られたようなホール状になっていた。
 その開いている空間を覗き込んで見ると、そこには二本のレールが敷かれている。

「ここを列車が走るんだな」
「なんでこんな鉄の棒の上を車が走るんだ?」

 今更ながらに勇者が不思議そうに言った。
 ほかの連中も同じような感じだ。

「鉱山のトロッコを見たことないのか?」
「ああ、知識としては知っているが見たことはない」
「そうか」

 よく考えてみれば、俺たちの母国であるミホム王国にはほとんど鉱山がない。
 見たことがないのはむしろ当然かもしれないな。

「車には車輪が付いているだろう」
「ああ」
「あの車輪の真ん中をへこませて、レールに嵌まるように加工してあるんだ。そうすることで御者が操らなくても車はレールに沿って走る。同じルートを何度も荷物を運んで往復する鉱山ではかなり便利に使われているぞ」
「なるほどな。同じ場所を何度も通るならルートを固定しておけば御者が必要ないし、その分手間が省けるということか」
「動かしたり止めたりする人間は必要だろうけどな」

 全員が納得して改めてしげしげとレールを覗き込んだ。

「ここでレールを眺めていても列車はまだ来ないようだし、施設とやらを見学してみるか?」
「列車が来たらわかるのか?」
「構内放送があるらしい」
「構内放送とはなんだ?」
「ほら、拡声器という魔道具があるだろ、あれを使って建物のなかに声を拡散して、お知らせをするんだ」
「ああ、砦とかで使っているあれか」

 説明に納得して、勇者はレールから視線を移した。
 乗り降り用のホールには小さな店などもあり、ここで簡易的に食事をしたりも出来るようだ。
 何人か列車待ちらしい人たちがいるが、全員身なりがよく、明らかに貴族階級だと思われる。
 チラチラと場違い感のある俺たちを見ている者も多い。

「確かにここはうざったいな。移動しよう」

 勇者の言葉を受けて、俺たちは施設見学としゃれこんだ。
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