勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
203 / 885
第四章 世界の片隅で生きる者たち

308 時を越えた冒険者の記録

しおりを挟む
 平らな板の上に広げた昔の冒険者の記録を、一つ一つ確認して分類していく。
 なかにはもう文字も記号もかすれて見えないものもあり、そういったものは残念ながら箱に戻しておいた。
 分類したなかでもっとも多いものは地図らしきものだった。
 とは言え、断片なのでそれだけだと何が何やらわからない。

「この切れ端の隅に小さい記号が書いてあるだろ」

 俺は地図の断片の一つを持って全員に示した。
 見えにくいのでとりあえず手渡しで回してそれぞれ手元で確認させる。

「小さな黒点とか白点とかが数違いで描いてありますね」

 聖女が丁寧にぐるりと切れ端を回し見て言った。

「それぞれの端に描かれた記号と同じものが描かれている切れ端同士を繋いで行くことで、全体の地図が完成するようになっているんだ。ということで、全員探して組み合わせよう」
「おお、面白いな」
「古いものなので丁寧に扱わないといけませんね」

 勇者がひょいと別の切れ端を拾って見比べて面白がる。
 聖騎士はおっかなびっくりといった感じで緊張しながら切れ端を手にした。

「クルル?」
「ん~、お前は身が軽いから風を起こさないように全体の繋がりを確認してくれ」

 フォルテもやりたそうだったので、役割を与える。
 上から全部を見渡せば違う人間に渡った同じ記号もわかりやすいだろう。
 しばし全員が布や紙の切れ端とにらめっこしながら組み合わせて行く。
 冒険者が書いたものだからある程度歪みもあるので、うまく繋がらない部分もあるし、欠損もあった。
 とりあえず手元にある分で繋げられるものは繋げ終わると、それでもかなりの大きさになる。

「かなり長い迷宮ね。それにいろんなところに走り書きがあるけど、私には読めない」

 メルリルがその地図を把握しようとして諦めたように首をかしげた。
 勇者は立ち上がって地図の周りをぐるぐる回ったが、やがて悩ましげに唸る。

「いや、この文字は俺にも読めないぞ。なんというか文章になっていないな」
「そうでうすね。冒険者が使う特殊な言葉でしょうか」

 勇者の言葉に聖騎士が同意した。
 聖女はやたら静かだと思ったら、いつの間にかモンクの膝の上で寝てしまったようだ。

「隅に板を敷いてそこに寝せて来る」
「ああ。頼んだ」

 俺はモンクに聖女を任せると、荷物から巻いた一枚布を取り出す。
 この国は紙が安価で俺も紙束を購入してあるのだが、この地図を写すには紙ではまた分割するしかない。
 そこで布地に直接描いて行くことにしたのだ。
 この国で買ったペンではなく、長く愛用している携帯筆を取り出す。
 皿に出した塗料を水の魔具で出した水で練って溶き、筆に含ませ、布に地図を写して行く。

「師匠凄いな、正確に写してるぞ。複製師になれるんじゃないか?」

 勇者が覗き込んで感心したように言った。

地図作成マッピングは冒険者の必須技能なんだぞ。まぁなかにはパーティメンバーに地図師マッパーを入れてそいつに任せるという冒険者もいるが、ソロでやって行くには自分で出来ないと仕事にならんからな」

 答えながら黙々と写す。
 意識を地図から離すと繋がりがわからなくなってしまうので集中力が必要だ。
 段々周囲の言葉が聞こえなくなり、地図だけが見えるようになって来る。
 この状態の間に完成させてしまわないとな。
 やがて、細部まで見直し、見えなくなっている部分以外の写し忘れがないことを確認して一息つく。

「ふう。終わったぞ」
「ご苦労さまです。お水をどうぞ」
「あ、ありがとう」

 メルリルが隣にいて、水の入ったカップを差し出してくれた。
 ぐっと飲み干し、緊張をほぐす。

「師匠大丈夫か? ざっと二つ鐘程度の時間書き続けてたぞ」

 勇者が心配そうに言った。
 そうか、と言うことはもう深夜だな。
 しまったな、ほかの連中を先に寝せておけばよかった。

「悪かったな付き合わせて」
「大丈夫です。私は適度に休みました。勇者とメルリル殿は寝ませんでしたけどね」

 俺の言葉に聖騎士が少し苦笑しながら答えた。
 見ればモンクは聖女と一緒に隅で寝ている。
 なるほど、眠さを感じさせない聖騎士も少しは休んだようだ。
 
「メルリルとアルフももう寝ろ。俺も今日はもう寝る。クルス、悪いが明け方前に起こしてもらっていいか?」
「……わかった」

 勇者はそう言うなり、その場でうずくまるようにして丸くなって寝てしまった。
 お前そこ、板敷いてないじゃねえか。明日体が痛くなるぞ?
 まぁ寝たものはしょうがないか。
 メルリルはどこか安心したような顔で、俺にもたれてうとうとはじめている。

「おまかせください」

 聖騎士が頼もしい落ち着いた声で答えた。
 俺はその声に対する信頼ゆえか、道具を片付けてメルリルと一緒に毛布を被ると、久々に完全な眠りに就いた。

「ダスター殿」

 目を閉じたと思ったら呼び声に目が覚める。
 だが空気は鋭い冷たさに満ちていて、夜明け前の気配があった。
 寝た気はしないが、少しは熟睡出来たらしい。

「ああ、おはよう」
「寝起きがいいですね。起こした私のほうが驚きました」
「そりゃあ、寝起きが悪い冒険者は死ぬからな」

 俺の言った冗談に笑っていいのかどうかわからないという顔になった聖騎士に笑いかけてやりながら、毛布をメルリルだけに渡して、そっと体を起こす。
 広げたままだった冒険者の記録の地図の部分をまた小さい切れ端をまとめたものとして箱にしまう。
 後に残ったのは走り書きの数々だ。
 それを拾いあげて一枚一枚じっくりと読んでいく。
 この冒険者は自分なりの暗号文字を使っていて、他人には自分の記録が簡単に読み取れないように工夫していた。
 なにしろ冒険者にとって自分の仕事の情報は命綱であり、飯のタネだ。
 しかも三百年も前ならギルドに所属する冒険者はまだ少なかっただろう。
 自分の身は自分で守るしかないのだから他人に簡単に情報を盗み見される訳にはいかないのは当たり前、暗号化は当然の自衛手段なのだ。
 だが完全にノーヒントという訳ではない。
 万が一自分が解き方を忘れてしまった場合のために、あるいは自分のパーティメンバーや家族に財産として情報を残すために、読み解くヒントをどこかに記しているものだ。
 俺はそれを見つけるために書かれた文字を確認していたのである。

「うん。だいたいわかったかな」

 それほど複雑な暗号ではなかったので、簡単なヒントで読み方が理解出来た。
 一番よく使われる文字の入れ替えによる暗号のようだった。
 俺は迷宮についてのメモ書きだけを残して、ほかの全ての記録を箱にしまい込み、背負袋のなかに押し込んだ。

「とりあえず、今日には帝都を出立するか」
「そうですね。夜が明けたらで出ますか?」

 聖騎士も不穏な気配に気づいているのか、急ぎの出立に賛成したのだった。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる

グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。 『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。 2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。  主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。