勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第四章 世界の片隅で生きる者たち

330 封印を破る

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 あまりにも険しい道に、休憩までの時間が短くなる。
 森歩きに慣れている俺やメルリルですら息が上がっているのだから、ほかの連中は言うに及ばずだ。
 そんな苦労の果てに、疲れをいや増す光景を見ることとなった。

「いやいや、これはないだろ」
「崖、ですよね」

 そりゃあな、三百年も前の記録だからある程度地形が変わっているのは仕方がないと思うぞ。
 しかし、道だったはずのところが切り立った崖になっているのはきっついな。
 聖騎士が用心深く短槍で崖の端にある木をつついた。
 グラグラしている。

「これは崖崩れが起きてこうなったんだろうな。木の根がはみ出している」

 俺は崖に寄って下の状態を確認してみた。
 草や木の根が露出して、その周囲にさらに草花が生えている。
 崖下には盛り上がった地面があるが、様子から見て、ここが崖になってから数年は経っているだろう。
 俺は仕方なくしっかりと根を張っている木を探すと、引っ掛け鈎のついたロープを取り出して木に鈎を引っ掛け、ロープを崖下に垂らしてみた。
 俺の背丈の半分ぐらいロープが足りないが、あの高さならなんとかなるだろう。

「ロープを使って降りるが、ミュリアは俺が背負おう。メルリルは風に乗って先に下に降りておいてくれ。誰か落ちそうになったら風を使って支えてもらえるか?」
「うん、まかせて!」

 メルリルの返事が頼もしい。

「ミュリア、背中にしがみつけ。ただし首は締めるなよ?」
「うん、わかった」
「体重の軽い順に降りよう。まずはテスタかな」
「わかったよ」

 小さく歌が聴こえたかと思うと、ふわっと風が吹き、メルリルの姿が消える。
 崖下を覗き込むと、既に下にいて手を振っていた。

「よっと」

 モンクは全く危なげなく半分落ちるように崖下に降り立つ。
 さすがは体術に優れたモンクだ。

「次はアルフ」
「おう」

 勇者は降り始めは腰が引けていたが、途中からはロープから手を離し、崖を蹴るとクルッと回って地面に降り立った。
 あいつ最初からロープなんかいらなかったんじゃないか?

「師匠~!」

 手振っているがそれを無視して聖騎士に向き合う。

「装備の関係で一番心配なんだが、慎重にな」
「わかりました」

 聖騎士は以前竜の砂浴び場へと向かったときに爪痕と呼ばれる地面の裂け目でロープを使った降下は経験している。
 ロープがギシギシと不安な音を立てるなか、意外と安定して降り、最後のロープが途切れているところで手を離して無事に下の地面に到着した。

「じゃあ、行くぞ」
「はい」

 聖女がかなり緊張しているが、捕まっている手を離さずにいてくれさえいればいいからな。
 ロープを降りる途中にところどころに貴重な薬草を発見したが、無視する。
 こういう採れないところにいいものは残っているんだよなぁ。
 バランスに苦労しながらも、なんとか俺も到着。
 俺が落ちるのはともかく、聖女を危険に晒す訳にはいかなかったのでなかなか緊張した。
 ロープを回収して荷物に詰め込む。
 そんな俺たちの苦労も知らぬげにフォルテが頭上でクアッとあくびをした。
 こいつ、さっき降りるときもずっと頭にいてすやすや眠っていやがった。
 まぁ最近は頭や肩にフォルテがいてもあまり気にならなくなって来ている俺も俺だがな。

「ここからどっちだ?」

 勇者が聞いて来る。

「地形が変わっているからわかりにくいが、もうすぐのはずだぞ」

 迷宮の入り口は緩やかな谷間のようになっている。
 崖崩れのせいで切り立った崖となってしまっていたが、このまま下っていけば入り口に到着するはずだ。

「ちょっと、フォルテ見て来てくれ」
「ピャ!」

 機嫌がよかったのか、フォルテは軽く引き受けて飛び立った。
 この辺りは虫の声も小鳥や小動物の気配もない。
 迷宮のせいか、何か魔物が巣食っているのかわからないが、注意が必要だろう。
 フォルテはしばらく旋回すると、茂みのある地面がえぐれたようになっている場所に向かった。
 そこには大きな岩があり、その岩の表面に何やら文様が彫られているのが見える。
 あれが封印か?

「入り口が見つかったようだ。行ってみよう」

 足元は少しぬかるんでいる。
 もしかすると雨が多い時期には川になる場所なのかもしれない。

「師匠、蛇だ」

 勇者の言葉に、モンクが飛び上がって悲鳴を上げた。

「ど、どこっ!」
「落ち着けテスタ」

 勇者の指さしたほうを見ると、ほっそりとした金属のような光沢のある蛇が、のんびりと岩の上でひなたぼっこをしている。
 見たことのない種類の蛇だ。
 俺たちの故国からするとこの辺りはずっと北になるので、生き物の種類も変わっている。

「頭の形を見る限りでは毒は持ってなさそうだが」
「はやく、はやくどかして!」

 モンクが涙目で言うので、仕方なく、攻撃の意思を持っていなさそうな蛇をつまみ上げた。

「はぅ!」
「きゃあ!」
「ん?」

 モンク以外にも悲鳴が上がり、ちらっと見ると、メルリルが慌てて口を押さえていた。
 メルリルも蛇が苦手なのだろうか?
 つまみ上げられた蛇は特に怒ることもなく大人しくぶら下がっている。
 こいつこれまでよく野生で無事に生きて来たな。

「きれいだな」

 勇者がじっと見ながら言った。

「そうだな」

 緑と青の中間ぐらいの色合いだが、光の当たり具合で少し色味が変わる。
 小さめだし、かわいらしいと言えばかわいらしい蛇だった。

「すまないな。うちのお嬢様方が苦手なんでな。見えないところにいてくれ」

 少し離れた草むらに下ろすと、ペロペロと舌を出して首をかしげていたが、やがて日当たりのよさそうな場所へと移動して行った。

「蛇は大丈夫だぞ。ところで封印のほうはどうだ?」
「あまり見ない術式です。これは山岳の民のものかも?」

 俺の問いに聖女が困ったように言った。

「解けないのか?」
「解けなくはないのですが、穏やかな方法は無理ですね。この岩を割るしかありません」
「乱暴だな」
「すみません」

 聖女がしょんぼりとする。
 俺は慌ててフォローした。

「いや、ミュリアのせいじゃないし、仕方ないさ」
「力づくなら俺がやろう」

 と、勇者が一歩踏み出す。

「待った。その前に確認だが、この封印を解いた後、封印し直せるんだよな?」
「はい。わたくしなりの方法なので、少しやり方は違いますが」
「ならいいか。たのむアルフ」
「おう」

 勇者はすうっと深く息を吸い込むと、剣を抜いて両手で構えた。
 やがて剣に青白い光がまとわりつく。

「神の光よ、顕現せよ!」

 勇者が剣を振り下ろす。
 パリパリッ! と、意外なほどに軽い音と共に、光がほとばしる。
 カツンと、何かがぶつかる音がして、岩がゴロリと二つに割れ、割れた岩はボロボロと崩れ果てたのだった。
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