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第五章 破滅を招くもの

426 洞窟探索

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 その洞窟は入り口のところは洞窟というよりも亀裂と言ったほうがいいもので、上の裂け目から光が差しているのでそれなりに明るかった。
 植物も洞窟によくあるコケ類以外が育っている。
 おそらく何度が崩れているのだろう。
 地面にはゴロゴロとした崩れやすい土砂が溜まっていた。

 上が狭くて下が広い構造なので、それなりに幅があるが、歩きにくい場所だ。
 先に飛び込んだ勇者はぴょんぴょん跳ねるように進んでいるが、常人に出来ることではない。
 フォルテは上に飛んで地上の様子を見て来てくれた。

「ここの上は典型的な崖だな。この洞窟になっている亀裂のほかにも浅い亀裂や深い亀裂が幾筋も走っている。上に植物が少ないところを見ると、崖として残っているのが硬い岩盤で、崩れたのが柔らかい土砂の部分なんだろう」
「師匠はときどき学者のようなことを言うな」
「学者先生と仕事をすることが多かったからな」

 調査同行や護衛の仕事というのは、腕っぷしの強さだけでは決まらない。
 相性が大事な仕事なのだ。
 幸い俺は学者や調査の人間と相性がよかったので、何度か指名で依頼を請けたことがあった。
 ごく若い頃に騎士ソピアーズのような学者肌の人間と長期間付き合ったおかげだろう。

 崩れやすい足場には硬い瓦礫も混ざっていて、尖った部分を踏むと足が痛い。
 冒険者の使う靴は部分的に金属を入れてあり頑丈だが、長距離を歩くのですぐに駄目になってしまう。
 手入れをケチっていると、まず底が抜けるか穴が開く。
 まだ大丈夫と思っていても底は薄くなっているのでこういう場所では痛いのだ。

 戻ったら革を購入して縫い直しておかないとな。

 それにしても勇者達の靴は丈夫だな。
 何か魔法的な付与をしているのかもしれない。
 教会風に言うと祝福か。

「師匠こっから暗くなってるぞ」

 天井の亀裂がなくなり、本格的な洞窟になっている部分に到着した。

「ミュリア、光球の魔法を頼む」
「はい!」

 聖女がうれしそうに応じた。
 魔法で明かりを灯してくれと頼まれてこんなに嬉しそうなのはおそらくこの聖女様だけだろう。

「光球なら俺が出すのに」

 勇者様がなぜか抗議をする。

「お前は緊急時に咄嗟の判断で魔法を使う必要があるだろうが、継続的な魔法なぞ使うな」
「むむっ、わかった。その代わり先行するぞ」
「ピッピッ!」
「は? お前よりも俺のほうが速いね」

 何がどうその代わりなのかわからないが、フォルテと勇者は謎の張り合いをしながらこっちの明かりが届かない場所へと先行する。

「大丈夫でしょうか?」

 聖騎士が不安そうだ。

「フォルテがついてるから、迷子になってもすぐ発見出来る。何か鬱憤が溜まっているっぽいから好きにやらせておこう」

 俺がそう言うと、聖騎士はわずかに笑い声を上げて「よく見てますね」と言った。
 いや、あいついつもつきまとっているから見てるとか見てないとかいう段階じゃないからな。
 覚えたくなくても性格やら体調やらを理解してしまうだろ。

 洞窟はしばらく進むと、細い空間が下へと続いている場所に出た。
 その場所の手前で勇者とフォルテが待っている。
 
「下りか、ガス溜まりが怖いな」

 以前通り抜けたという漁師の証言を疑う訳じゃないが、さすがに五十年単位で変化がないとかありえないしな。

「私が調べます」

 メルリルが申し出た。

「洞窟の地形はわからないけど、風の流れや空気の重さが違う場所はわかるから」
「助かる」

 俺の言葉に微笑んで、メルリルは笛を取り出し、ゆっくりと音を奏で始める。
 音は遠くで聴こえたり、近くで聴こえたりと、不思議な聴こえ方を繰り返して、止んだ。

「風は通り抜けている。特に動かない重い空気もないみたい」
「よし、じゃあここから俺が先頭で行く。……いや、アルフ、別にお前が先頭だと不安とかそういうんじゃなくて、俺がこのなかじゃ一番肩幅が広いだろ? つまり俺が通れる場所はみんなが通れるってことだ」

 俺の言葉に異議を挟もうとしていた勇者を牽制し、理由を説明する。
 それにうっかり分断されても俺には「断絶の剣」があるから、いざとなったら文字通り切り拓くことが出来るという利点もあった。

 もちろん道が狭いからとどこにでも技を使って洞窟を広げたりはしないが。
 それをやると微妙なバランスが崩れて洞窟が押し潰される可能性もあるしな。

「わかった。師匠の後について行く」
「お前は中央だ。前に決めたフォーメーションで行こう」
「ん」

 探索の際の集団行動では、どういう順番で行動するのかということはかなり重要だ。
 そのため、俺たちはいくつかのフォーメーションを作って、出来るだけ隙のないように行動する訓練をしている。
 地道な訓練だが、こういうときにあうんの呼吸でスムーズに行動出来るから有用だ。

 水が流れ込んで磨かれたような硬い下りの坂をほとんど滑るように下りるというか落ちて到着した先は、地下の川が流れるかなり広い鍾乳洞だった。

「下は広い、一人ずつ降りて来い」
「わかった」

 まずメルリルが、次に勇者が、そして聖女とモンクが続いて最後は聖騎士だ。
 全員ケガなく到着する。

「何かキラキラしていますね」

 確かに、聖女の掲げた光球が天井近くを照らすと、チカチカと輝くものがあった。

「……マズい。この辺に魔物がいるぞ」

 天井や壁の一部が魔鉱石に変質している。
 魔物が巣食っている証拠だった。
 全員が緊張して周囲を見回すが、今のところ特に変わったものは見えない。
 あちこちに槍のように伸びている白く輝く石があるが、これは魔鉱石ではなかった。
 魔物の牙を思わせて不気味だが、自然の造形した柱なのだろう。

「師匠、今のところ特に危険な気配はないみたいだ」
「そう、だな。だが、なかには小さくても危険な魔物もいるので油断するなよ」
「ひいっ!」

 俺の言葉にモンクが反応する。
 虫とか言ってないからな、俺は。
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