勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
368 / 885
第六章 その祈り、届かなくとも……

473 運命を選ぶのに年齢は関係ない

しおりを挟む
「あのお二人がミハルを養女に迎えたいということですか。そうですか。よかった。ミハルは気に入られたようですね」

 ん? その言い方は。

「予想していたということか?」
「そうですね。そうなればいいという意味では期待していました。あのご夫婦は才能がありながら環境に恵まれない子どもたちを引き取って育てているのです。とても子沢山と有名ですよ」
「そうだったのか。どうしてそのことを事前にミハルに言わなかったんだ?」
「言ったらミハルはあの道場での修行を受け入れなかったでしょう。あの娘はおそらく自分を罰したいのだと思います」
「自分を罰したい、か。俺は途中で抜けてしまったからその後の話については概要を聞いただけで詳しい情報が抜けているんだが、結局のところ、他の子どもたちはどうなったんだ? 行き場のない子どもたちはアンリカ・デベッセが引き受けてくれるという話だったよな」
「それでは一人一人の選んだ道を話しておきましょう」

 俺の問いに、聖騎士はうなずいて話し始めた。
 選んだ道、か。

「ヌマシダ、イチカ、エイエイ三人の北冠の子どもたちは、最初から家に戻るのは諦めていたようです。ただ、ヌマシダは南海国に征服された後の北冠に一度戻っています」
「イチカとエイエイは八歳、ヌマシダだけ十六歳だったな」
「ええ。私たちはダスター殿方のこともあり、自分たちのことで手一杯でしたから、一緒について行ってやることは出来ませんでしたが、一週間ほどでアンリカ・デベッセに戻って来たヌマシダは酷く、憔悴していました。人づてに聞いた話ですが、南国の軍に入って出世したいと言っていたようです」
「……そうか」
「赤ん坊と引き離されていたネスさんが無事自分の子どもを取り戻した話は聞いたと思います」
「ああ。アカネとサギリの姉弟を引き取ってアンリカ・デベッセで一緒に暮らしているんだよな」
「はい。収容所から逃げた人たちのなかでは最も落ち着いた暮らしを選んだと言えるでしょう」
「それはよかった」

 アカネとサギリは一度は魔物もどきにされていた姉弟だ。
 その影響か少々年齢にしては幼い状態になっていたが、ネスさんのような愛情深い人と一緒なら幸せになってくれるだろう。

「南海生まれのローエンスは無事に家に戻りました。家族関係にも支障はないようです」
「南海は差別意識が薄いという話だったからな」
天杜あめもり生まれのブッカも無事に家に戻りました。彼の実家はヤギ飼いで、子どもは神様の御用で連れて行かれたという認識だったようです。普通に子どもが戻ったことを喜んでいたとのことでした」
「あそこの人間は神様が死んだことについてはどう思っているんだ?」
「さあ。でも、南海の方針では、天杜の一般の人たちには、お山で悪い神様といい神様の戦いがあっていい神様が勝ったみたいな話を広めるようです」
「うへえ、詭弁だな」
「まぁそういうものですよ。政治というものは」
「それから黄金里の生まれの二人、カウロとヒシニアですが、ヒシニアについては実家と和解したようです」
「へ? 追い出したんだろ、ヒシニアを」
「そうなんですけど、情勢が変わりましたから。ヒシニアが海王のイズー商会とつながりがあると知って、慌てて和解を申し入れたようですね。さすがにヒシニアは家には戻りませんでしたが、和解は受け入れました」
「ヒシニアはまだ九歳だよな。……家族はクソだな」

 俺の言葉に聖騎士が笑った。

「クソですね」

 普段礼儀正しい聖騎士が汚い隠語を真似たので俺はぎょっとした。
 育ちのいい人間の前で悪い言葉を使うもんじゃないな。

「それで、癒やしの力を持ったカウロですが、実家から引取要求が来て……」
「引き渡したのか?」
「本人も戻りたいということだったので、仕方なく。しかし、そこにヒシニアが同行しました」
「ほう!」
「ヒシニアはアンリカ・デベッセと南海国、そして海王のイズー商会のウルス会長それぞれから名誉称号をもらって、鳴り物入りでカウロの代理交渉人に就任したようです」

 俺は思わずバカみたいに口を開けて驚いた。

「九歳だよな?」
「どっちも九歳です。カウロがお師匠さまによろしくと言っていましたよ。自分の力が誰かを助けることが出来るならやれるだけやってみたいということです」
「あの二人、大物になるな」
「まさに」

 しばし笑い合って、そう言えばと聖騎士が言った。

「ウルスからダスター殿に伝言がありました」

 俺は嫌な予感がして顔をしかめた。

「それはいらん」
「最後にドジを踏んだな。締まらねえ野郎だぜ。悔しかったらいつか無事な顔を見せろとのことです」

 聖騎士が微笑みながらいらんというのに教えてくれた。

「クソが」

 あ、また言っちまった。

「まぁあの野郎のことはもういい。それで、ミハルの話に戻る訳だが。家族が全員自死してたってのはどういう流れでそうなったんだ?」
「どうやら職を失って、近所からも相手にされなくなっていたようで、他の親族も仕事や縁談が無くなり、周囲からいろいろ言われたようですね」
「追い詰められた挙げ句に一家心中したってことか?」
「対外的には名誉を守るために自死を選んだとなっています」

 これだから地位の高い奴らの考えることは。
 俺はまた悪態をつきそうになって我慢した。

「ミハルはその話を聞いたときに酷く泣いてな。本当の正しさというものを見定めたいと俺たちに同行を頼み込んだんだ」

 後ろでじっと話を聞いていた勇者がポツリと言う。

「それからクルスとの訓練に一層打ち込むようになった」
「なるほどなぁ」

 思うに、ミハルのなかでは家族のことがまだ整理出来ていないんだな。
 だからいきなり新しい家族のことを考えろと言われて戸惑っている。
 そりゃあ無理もないよな。

「で、師匠としてはどうするつもりだ?」
「どうもしません」
「へ?」

 聖騎士は、静かに言った。

「あの娘は騎士になると誓って、私の弟子になったのです。その時点で迷うことは許されません。あの道場で修行を続けて神殿騎士になるか、私と共に旅を続けて野良の騎士となり、自分の主を求めるか。どちらにしても騎士になることには違いありません。あの娘はもう未来を選んでいるのです」
「なるほど。確かにそうかもな」

 厳しいようだが、ミハルにはすでに確固たる居場所があるということでもある。
 養女になるかどうかを考えるのはまだ早いかもしれないが、とりあえず心配せずに見守ってやればいいってことか。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる

グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。 『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。 2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。  主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。