勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

479 みんなでボードン道場へ

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 呑気に寝ていたフォルテが起きて食べ物の気配を感じて騒ぎ出す。
 俺はこうなるだろうと見越して半分取っておいた砂糖菓子を食わせてやった。
 放っておくと出店を荒らして頭を下げて回る羽目になるからな。
 以前の厄除けの飾りの件を忘れちゃいないぞ。

 祭りの気配の濃い場所にいると何かやらかしそうな子どもの心を持つ者達がいるので、さっさと道場に向かうことにした。
 ボードンの町道場は表通りから行くと、わかりやすい場所にある。
 最初に裏から訪れたときにはわからなかったが、その道場の場所はボードンが人気と実力を兼ね揃えた道場主ということを示していた。
 門前町では全てのものが大聖堂の正面入り口からどれだけ近いかというのが場所の格となっている。
 大聖堂の大橋へと続く表通りに近いということはそれだけ格が高いということなのだ。

「うむ、相変わらずデカい」

 正面の開かれた門から家を見る。
 家は年代を重ねた風格があり、騎士道場というごつい名前から予想される無骨さはない。
 見た目は瀟洒な屋敷という感じだ。

「調和している家」

 メルリルが尻尾をふわふわと動かしながらそう言った。

「調和?」
「精霊が生まれている」
「精霊が、生まれる?」
「本来は命が宿ってなかった石やただ生きているだけの植物にたまに精霊が宿ることがあるの。それは周囲との調和で意思が生まれるから」
「そうなんだ。……ん? ということは家の精霊というのもいるのか」
「もちろんいる。ダスターのお家にもいた」
「え? そうなのか」
「そう。ただ、私はそういう精霊とは交流出来ないから何か働きかけ出来る訳じゃないけど」

 だいぶメルリルのことはわかって来ていると思っていたが、まだまだ初めて知ることもあるんだな。

「え? それっておばけ? 先生の家におばけがいるってこと?」

 ミハルがちょっと怯えたように言った。
 ん? ミハル、お前おばけが怖いとか言わないよな?

「精霊はおばけとは違うぞ。意思を持つ魔力だ。成長しないから生物でもないが」
「え? 魔力が意思を持つの? やっぱりおばけじゃないの?」
「おばけというのは幽霊のことだろ? 幽霊は人間の意思が肉体がなくなっても残ったものだ。そういうのとは違う」
「えっ! ダスターさん、幽霊が実在するようなことを言って脅かさないで!」

 ど、どうしたミハル。
 なんだか視線がぐるぐるしているし、落ち着かないぞ。

「幽霊が実在するなんて常識だろう。どうしたんだ? ミハル」
「えっ、えっ……」
「ダスター殿、どうかその辺りで勘弁してやってください」

 なぜか聖騎士に止められてしまった。
 顔に苦笑が浮かんでいる。

「東方では魔力や目に見えないものは悪いものだという教育をされているのですよ。だから東方の子どもたちの大部分は幽霊を信じてしませんし怖がるのです」
「そうだったのか」

 これは俺が悪かったな。
 自分の常識の範囲で話をしてしまった。

「悪かった、ミハル。もう幽霊やおばけの話はしない。ただメルリルは精霊と交流する巫女メッセリなんで、あまり精霊を怖がらないでやってくれ」
「怖がらせてごめんなさい」

 俺が謝ると、メルリルもしゅんとして頭を下げた。
 するとミハルは慌てて両手を振り回し始めた。

「ち、違うんです。ダスターさんやメルリルさんは何も悪くないんです。私が怖がりなのが悪いだけなんです。そうなんだ、メルリルさんは精霊と仲がいいんですね。それなら私、精霊は怖くないです」
「ありがとう、ミハル」

 にっこりとメルリルが笑う。
 ふんわりとした耳がぴこっと動いた。
 心あたたまる光景だ。

「ん? 何やら玄関先が騒がしいと思って来てみれば、お前たちか」

 どうやら俺たちは騒ぎすぎたらしく、道場主であるボードンが庭を回って姿を現した。
 また外の鍛錬場で門下生たちを鍛えていたようだ。

「やあ、ボードン先生。ミハルによくしてくれたみたいでうれしいです」

 聖騎士が大きく手を広げてボードンの肩を抱くと背中を叩いた。

「ふふん、お前の弟子ならわしの弟子も同然だからな。ミハルはなかなか筋がいいぞ。魔力操作がいまいちだが、剣の型が出来上がっているし、姿勢がいい。なにより背中の筋力があるのがいいな。貴族の騎士は魔力はあっても筋力が足りないのが多いからな。さすがはお前の弟子だよ」
「私が指導したのはわずかばかりですよ。もともとミハルはがんばって自分を鍛えていたのです。その下積みが今の彼女を作っている」
「うむうむ、お前らしい評価だな」

 ボードンはガハハと笑って同じように聖騎士の背中を叩く。
 あれは騎士の挨拶なのかもしれない。
 当の師匠たちに話題にされていたミハルは首まで顔を真っ赤にしているが、うれしそうではある。
 自分の努力が師匠たちに認められてうれしくない訳がない。
 俺は自分が師匠に学んでいた時代を思い出した。
 師匠は全くと言っていいほど俺を褒めたりしなかったが、諦めないで修行を続けて「断絶の剣」を習得したときにだけごちそうを振る舞って祝ってくれたっけな。

「ん、そっちの新顔は噂の勇者さま方か、キラキラしていて眩しいわい」
「名乗りが遅れて失礼しました。勇者をやっているアルフレッドです」
「あ、あの、ミュリアと申します」
「私はテスタだ。よろしくね、ミハルの先生」

 勇者と聖女とモンクが挨拶をする。
 勇者をやっているって、皮肉か? アルフの奴。

「あの、はじめまして。ダスターのパーティメンバーのメルリルと申します」
「ピャッ!」

 メルリルがぺこりと頭を下げて挨拶する。
 俺の肩に乗ったフォルテも偉そうに自己紹介をした。
 でも、おそらく相手には伝わってないけどな。

「おお~、いやいや以前は遠目で見ただけであったが、やはり実に美しいな。森人というのはみんなこのように美しい者たちなのか?」

 ボードンがメルリルをしげしげと見て言った。
 おっさん、メルリルが戸惑っているぞ。

「あ、あの?」
「おお、すまなんだ。以前、飛蝗の災いがあったときにあなたの歌を聞いた一人なのだよ。わしはボードン、この道場の主だ」
「あ、あのときの。あのとき、私達はすぐに出立してしまいましたが、みなさんご無事でしたか?」
「ありがとう。うむ、あなた方のおかげで大きなケガを負った者もいなかったし、ここは何しろ大聖堂のお膝元だからの。ケガでどうこうという心配はない。ちょっとだけ壊れた家があったが、その辺は直せばいいだけだからな」
「そうでしたか。よかった」

 あのときはほんと、バタバタ出立したからな。
 まぁ聖女がいたからけが人はほとんど問題なかったし、メルリルがすぐに甲冑イナゴを退治したんで大きな被害もなかった。
 そのせいですっかりメルリルも有名人になったんだよなぁ。
 ここまで来る間も、勇者たちだけでなく、メルリルにも手を振っている人がたくさんいたし。
 メルリルはあんまり気にしてないようだったが。

「あなた。お客様をいつまで玄関先に立たせておくの?」

 玄関のドアが開き、奥さんが呆れたようにボードンに言う。
 途端に強面のボードンの顔がふにゃりと崩れたのがおかしすぎた。
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