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第六章 その祈り、届かなくとも……
499 なかなかのんびりは出来ない
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これが秋だったらもっと収穫があったのだろうが、春先、しかもやっと寒さがやわらいで来た時期なので、実がなっている食べられそうなものはほとんどなかった。
ただ、やわらかな新芽で美味いものがいくつか見つかったので、本体を枯らさない程度に収穫する。
「お、あっさりとした味の黄花山芋があるな……火がない今は無理か。お、小白尾花の新芽か」
やはりそのまま食べるという条件ではあまり量が見つからないな。
「ピャ!」
「水場があったか? ありがたい」
フォルテの案内に従って草地をかき分けて行くと、岩を伝うように湧き水が流れ落ちている場所が見つかった。
もしかすると湖の水源かもしれない。
「さて、飲めるかな」
水に触れると僅かにぬめりがある。
それに触れた指先が熱くなるような感じがした。
「やめておいたほうがよさそうか」
仕方ない。
今集めたものを噛んでいるだけでもそれなりに水分は補給出来る。
いくらなんでも数日放置されるということはないだろうしな。
小さな丸い玉のような淡い緑の新芽を口に放り込む。
青臭さが少なく、ほんのり甘味がある。
煮込んだら美味そうなシダの新芽もあるが、こっちはアク抜きをしなければエグみがきつくてちょっと無理だしな。
さっき採った小白尾花の鞘のなかの穂はふわふわの食感で甘い。
腹にはたまらないが、口寂しさは紛れるだろう。
「師匠! 助けてくれ!」
湖を一周して戻ると、なにやら勇者が暴れていた。
一瞬ぎょっとしたが、緊急性がなさそうなのでゆっくりと近づく。
『美味しいの漏れてる。いらないなら僕が食べる』
「やめろ、噛むな、舐めるな!」
「ガウッ!」
いつの間にか若葉がやって来て勇者を襲ったらしい。
本体を食べているようならさすがに助けたが、若葉が食べているらしいのはどうも勇者の魔力のようだ。
あれだな、魔力暴走寸前になって、コントロールされずに放出されている魔力に惹かれて来たんだろう。
「ししょ~」
「俺から見るとじゃれ合っているようにしか見えんのだが」
「こいつ少しだけど噛み付いてるぞ! 人間に危害を加えるドラゴンなど害悪だ! 排除しよう!」
「フンッ!」
勇者ががっしりと若葉を掴んで引き剥がそうとしているが、うまくいかないようだ。
力が強いということもあるが、目に見えない何かが勇者を絡め取っている。
魔力とも違うな。透明でわずかに発光している触手のようにも見える。
手で触れるが掴めない。
『くすぐったいからヤメテ』
「感覚があるのか? これ」
『僕の体の一部』
「縮めた分の体ってことか?」
『そうそう』
ふーむ、ドラゴンにはまだまだ謎が多いな。
「ししょ~」
あ、泣きそうだ。
「若葉、やめてやれ。さっきまで戦っていて疲れているんだ」
『魔力のバランスが乱れているからその乱れている分を僕が食べてやってるんだぞ! 感謝しろ』
「なんだと?」
慌てて目に魔力を通して本格的に勇者の魔力の流れを見る。
っ、眩しい! 確かにこれはなんというか氾濫した川のようだな。
なるほど、若葉が食っている部分が余分に力が入っているところか。
「アルフ、さっきよりも体が楽になってないか?」
「え? そんなこと言って。……あ、本当にちょっと楽になった」
「よかったじゃないか」
「いや、でも! って、イテェッ! てめぇ、若葉、今のはわざとだな! このっ!」
勇者の全身に魔力で作られた炎が巡る。
無茶しやがって。
『あつーい』
「この野郎!」
わざとらしく言いながら一応離れる若葉。
勇者はすかさずその体に蹴りを叩き込もうとするが、あっさりと躱された。
「ピッ! ルルルル?」
「いや、俺はもう若くないからあんな過激な遊びはやらん」
「クルル……」
「なんで残念そうなんだ? お前も勇者に遊んでもらえばいいだろ?」
「師匠! どさくさに紛れてフォルテまでけしかけようとするな!」
うんうん、すっかり元気になって。
よかったなぁ。
俺は採ってきた新芽や若木の皮の一部を口にしながら、のんびりと若者たちの戯れを見ていたのだった。
背後にデカくて臭い飛竜の死体がなければ、もうちょっとくつろげたんだがな。
飛竜の死体は首を斬ったのである程度血抜きは出来ているんだが、巨体すぎて完全には無理だろう。
それに内臓はすぐに腐るから早めに処理をしたほうがいい。
俺は重い腰を上げて嫌な作業に取り掛かった。
「師匠、解体するのか?」
「いや、内臓を抜くだけだ。さすがに本格的な解体は無理だな。山岳の民がどの部分を欲しがるかわからないし。本当は内臓もいくつか使えるものがあるんだが、この環境ではどうにもならん。捨てるしかないだろう。……若葉、食うか?」
『今はそういう味の濃いものは欲しくない』
全部を食われては困るが、内臓だけでも食わないかと聞いてみるが、あえなく断られた。
それにしても美食家か!
こいつけっこう味にうるさいな。
そう言えば、以前会った白いドラゴンも食い物にこだわりがありそうだったよなぁ。
なるほど、とすると、若葉の今の気分に勇者の魔力がちょうどよかったという訳か。
勇者の魔力は若葉にとって、デザートとかうちのフォルテが時々要求する果物感覚なのかもしれんな。
勇者は背中にへばりついた若葉にギリギリと歯噛みして苛立ちを見せている。
もしかしたら一生の付き合いになったりしてな。
勇者にとって冗談ではないことをちらりと思い、にんまりと笑った。
勇者なんだからそれぐらいの苦労はあったほうがいいだろう。
ただ、やわらかな新芽で美味いものがいくつか見つかったので、本体を枯らさない程度に収穫する。
「お、あっさりとした味の黄花山芋があるな……火がない今は無理か。お、小白尾花の新芽か」
やはりそのまま食べるという条件ではあまり量が見つからないな。
「ピャ!」
「水場があったか? ありがたい」
フォルテの案内に従って草地をかき分けて行くと、岩を伝うように湧き水が流れ落ちている場所が見つかった。
もしかすると湖の水源かもしれない。
「さて、飲めるかな」
水に触れると僅かにぬめりがある。
それに触れた指先が熱くなるような感じがした。
「やめておいたほうがよさそうか」
仕方ない。
今集めたものを噛んでいるだけでもそれなりに水分は補給出来る。
いくらなんでも数日放置されるということはないだろうしな。
小さな丸い玉のような淡い緑の新芽を口に放り込む。
青臭さが少なく、ほんのり甘味がある。
煮込んだら美味そうなシダの新芽もあるが、こっちはアク抜きをしなければエグみがきつくてちょっと無理だしな。
さっき採った小白尾花の鞘のなかの穂はふわふわの食感で甘い。
腹にはたまらないが、口寂しさは紛れるだろう。
「師匠! 助けてくれ!」
湖を一周して戻ると、なにやら勇者が暴れていた。
一瞬ぎょっとしたが、緊急性がなさそうなのでゆっくりと近づく。
『美味しいの漏れてる。いらないなら僕が食べる』
「やめろ、噛むな、舐めるな!」
「ガウッ!」
いつの間にか若葉がやって来て勇者を襲ったらしい。
本体を食べているようならさすがに助けたが、若葉が食べているらしいのはどうも勇者の魔力のようだ。
あれだな、魔力暴走寸前になって、コントロールされずに放出されている魔力に惹かれて来たんだろう。
「ししょ~」
「俺から見るとじゃれ合っているようにしか見えんのだが」
「こいつ少しだけど噛み付いてるぞ! 人間に危害を加えるドラゴンなど害悪だ! 排除しよう!」
「フンッ!」
勇者ががっしりと若葉を掴んで引き剥がそうとしているが、うまくいかないようだ。
力が強いということもあるが、目に見えない何かが勇者を絡め取っている。
魔力とも違うな。透明でわずかに発光している触手のようにも見える。
手で触れるが掴めない。
『くすぐったいからヤメテ』
「感覚があるのか? これ」
『僕の体の一部』
「縮めた分の体ってことか?」
『そうそう』
ふーむ、ドラゴンにはまだまだ謎が多いな。
「ししょ~」
あ、泣きそうだ。
「若葉、やめてやれ。さっきまで戦っていて疲れているんだ」
『魔力のバランスが乱れているからその乱れている分を僕が食べてやってるんだぞ! 感謝しろ』
「なんだと?」
慌てて目に魔力を通して本格的に勇者の魔力の流れを見る。
っ、眩しい! 確かにこれはなんというか氾濫した川のようだな。
なるほど、若葉が食っている部分が余分に力が入っているところか。
「アルフ、さっきよりも体が楽になってないか?」
「え? そんなこと言って。……あ、本当にちょっと楽になった」
「よかったじゃないか」
「いや、でも! って、イテェッ! てめぇ、若葉、今のはわざとだな! このっ!」
勇者の全身に魔力で作られた炎が巡る。
無茶しやがって。
『あつーい』
「この野郎!」
わざとらしく言いながら一応離れる若葉。
勇者はすかさずその体に蹴りを叩き込もうとするが、あっさりと躱された。
「ピッ! ルルルル?」
「いや、俺はもう若くないからあんな過激な遊びはやらん」
「クルル……」
「なんで残念そうなんだ? お前も勇者に遊んでもらえばいいだろ?」
「師匠! どさくさに紛れてフォルテまでけしかけようとするな!」
うんうん、すっかり元気になって。
よかったなぁ。
俺は採ってきた新芽や若木の皮の一部を口にしながら、のんびりと若者たちの戯れを見ていたのだった。
背後にデカくて臭い飛竜の死体がなければ、もうちょっとくつろげたんだがな。
飛竜の死体は首を斬ったのである程度血抜きは出来ているんだが、巨体すぎて完全には無理だろう。
それに内臓はすぐに腐るから早めに処理をしたほうがいい。
俺は重い腰を上げて嫌な作業に取り掛かった。
「師匠、解体するのか?」
「いや、内臓を抜くだけだ。さすがに本格的な解体は無理だな。山岳の民がどの部分を欲しがるかわからないし。本当は内臓もいくつか使えるものがあるんだが、この環境ではどうにもならん。捨てるしかないだろう。……若葉、食うか?」
『今はそういう味の濃いものは欲しくない』
全部を食われては困るが、内臓だけでも食わないかと聞いてみるが、あえなく断られた。
それにしても美食家か!
こいつけっこう味にうるさいな。
そう言えば、以前会った白いドラゴンも食い物にこだわりがありそうだったよなぁ。
なるほど、とすると、若葉の今の気分に勇者の魔力がちょうどよかったという訳か。
勇者の魔力は若葉にとって、デザートとかうちのフォルテが時々要求する果物感覚なのかもしれんな。
勇者は背中にへばりついた若葉にギリギリと歯噛みして苛立ちを見せている。
もしかしたら一生の付き合いになったりしてな。
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勇者なんだからそれぐらいの苦労はあったほうがいいだろう。
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