勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
406 / 885
第六章 その祈り、届かなくとも……

511 未知を選ぶ者たち

しおりを挟む
 勇者は自分の財産を持てない。
 鎧や剣やマントは王国の所有物だ。
 何かを行った際に報酬を受け取ってはならない。
 政治に関わってはならない。
 表から見える華やかさとは裏腹に、勇者は王国と大聖堂によって完全にコントロールされた存在だ。
 というか、そうなるように作られている。

 まぁ強大な力を神から与えられた個人を野放しにしたくないという気持ちがあるのだろうなとは思うのだが、人生これからの若者に対する仕打ちとしてはなかなか厳しいものがあるだろう。
 とは言え、これまでの勇者が唯々諾々とそういう支配に従って真面目にやっていたかというと、その辺はちょっと怪しいところがある。
 なぜかというと、初代以外の歴代の勇者のなかには他国の要職に就いた者やどっかの塔に引きこもった者や魔物討伐の旅の途中に行方知れずになった者もいたからだ。

 上が押さえつけようとしてもそのときそのときの勇者は案外うまいことやっていたんじゃないかと思われる。

「師匠、準備は完璧に整ったぜ!」
「うかつに完璧という言葉を使うもんじゃないぞ。というか準備には完璧というものはない。ある程度柔軟に対応出来るように余裕を持って準備するのが大切だ。完璧は目指すな」
「お、おう、なかなか難しいな」
「そういう部分は経験だからだんだんわかるようになる。慌てて全てを学ぼうとする必要はないさ」
「わかった!」

 ただ、こいつはどうも危なっかしいんだよな。
 素直というか、直情的というか、腹が立ったら怒る、嫌いな者は無視する。
 こうもあからさまだと上に嫌われてどうにかされてしまうんじゃないかという不安がある。
 もっと柔軟な人間になるべきなんだろうが、人々の希望の勇者としては今の姿が正しい気がするのも確かだ。

 まぁもう子どもじゃないんだから、自分で学んで対応するだろう。
 誰だって自分のことは自分で面倒みるしかないからな。

「じゃあとりあえずオアシスに行くという目的だけで何か当てがある訳じゃないんだ」
「ええ、この子も私も身内はもう誰も生きてないと思うので」
「そっか、辛いね。実は私も身内はみんな死んじゃっててさ、天涯孤独なんだよ」
「まぁ!」

 別の場所ではピャラウとフォウを囲んでうちの女性たちが荷物の仕分けをしていた。
 なかでもモンクは二人の身の上に何か感じるところがあったのだろう。
 親身になって世話をしていた。

「でも、それ、では、大変ではない、ですか?」

 久々に人見知り状態に陥った聖女ががんばって気遣いを見せている。

「大変だけど、それはここでも一緒だし。なによりも西方人がいないのが大きいかな。……あ、みなさんには感謝しているので、その、偏見はないつもりなんですけど、体が硬直してしまって、こればっかりはどうしようも……」
「いえ、大丈夫ですよ。そうだ、よかったら心が落ち着く魔法をかけますよ」
「そ、それ、痛くない?」

 聖女の提案にフォウがびくびくしながら聞いた。
 大連合では魔法があまり信用されてないようなんだよな。

「全然痛くありませんよ。試しに自分にかけてみますね」

 ふんわりと柔らかい光が見え、どこからともなく花のようないい香りが漂って来た。

「ふわぁ、なんだかきれい?」
「うふふ、じゃあ、かけますね」
「あったかい……」
「気持ちいい!」

 どうやら聖女の魔法で二人の気力をアップしたようだ。
 そう言えば聖女も最初に会ったときからすると格段に積極的になったな。
 初対面に近い相手にああやって積極的に関わるとか、以前では考えられないことだ。

「こんな風だけど、ミュリアはもう十六なんだよ」
「えっ、それじゃあ私と同い年なんですか? ふわぁ」
「……こんな風。テスタは酷いです」
「あははごめんごめん」

 さてさて、和気あいあいとやっているところに割り込むのはちょっと勇気がいるが、そろそろ頃合いだ。

「すまない。仕分けは終わったか? そろそろ積み込みたいんだが」
「は、はい、終わりました」
「終わったよ!」

 二人共元気だな。
 この分なら荒野を歩くのもなんとかなるだろう。
 聖女様の魔法もあることだしな。

 使う場面ごとに仕分けた荷物をそれぞれリンたち山岳馬リャマに積み込んで行く。
 いったん荷物が降ろされてさぞやせいせいしていただろうと思っていたリンたちだったが、どうも荷物が背中にないほうが落ち着かないらしい。
 荷物を持つと早く積めと言うように手を引っ張って来る。
 なんというか、俺たちにとってはありがたいが、それでいいのか?

「さて、出発するぞ」
「はーい!」「おう!」「はい!」

 元気な声を聞きながら俺たちは常設の市場バザールを出立した。
 ちなみに市場バザールにもいろいろあって、俺たち西方人が市場バザールと呼んでいるのは主に常設のこの場所だけだが、大連合の人々は季節ごとにいろいろな場所で開かれる交易の場バザールも同じように呼んでいるとのことだった。

 そっちのバザールにも一度寄ってみたいものだ。
 だがもしかすると余所者は禁止かもしれないな。

 市場バザールに流れ込んでいる川を辿れば聖地には辿り着くのだが、オアシスに行くには遠回りになるらしい。
 
「案内しますね!」

 と言うピャラウに従ってオアシスまでの直通ルートを取ることにした。
 当然フォルテを斥候に出している。
 ピャラウを信じない訳じゃないが、荒野は未知の世界だ。用心に越したことはないからな。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。