勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

520 大連合の大巫女

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 盗賊に囚われていた男が受付で話をしてしばらくすると、体に入れ墨を入れた屈強な男たちと杖を持った娘が一人、盗賊に囚われていた男と一緒にやって来た。
 娘は藍色がかった黒い瞳と赤みのある黒い髪をしている。
 色合いがミャアを思わせるが、すらっと上背があり、しっかりとした骨格をしていて、ミャアに感じた儚さは感じない。
 彼女の歩くリズムに合わせて手に持つ杖がシャラと軽い音を立てた。

「そなたたちが盗賊堕ち共を捕らえたという西の人間か?」
「そうだ」

 対応を勇者に任せようとしたのだが、むっつりとして口を開く様子がなかったので、仕方なく俺が対応した。
 ちょっと偉そうな態度をされるとへそを曲げるのはどうにかならんのか?

「そうか。精霊の民を代表して礼を言おう。その馬の背にくくられている男は悪名高き白骨の牙から抜けた牙か」

 嫌な名前を聞いたぞ。
 なんとなくそういう雰囲気だと思ったらやっぱりあの部族出身だったのかこの男。

「残りの盗賊は連中の本拠地にそのまま閉じ込めてある。よかったら案内するが」
「ありがたい。お願いする」

 杖を持つ娘、おそらくは巫女だろうが、彼女が共にいる戦士らしき者たちに命じて馬から盗賊の首領を下ろす。
 グルグル巻きにされた縄を少し解くときにその異形にやや及び腰になるのがわかった。

「こいつ堕落しておるぞ」
「汚らわしい、邪悪なる者め!」

 そのとき、盗賊の首領の猿ぐつわが落ちた。

「ダマレ! ヨワキモノドモ! オレハ、チカラヲ、タダシクツカッタダケヨ」

 ヘビの口は言葉をしゃべるのに向いてないのか、ものすごく言葉が聞き取りづらい。

「罪なき人を襲い、自らの快楽を求めた者よ。おぬしの精霊は苦しんでおるぞ」

 巫女らしき娘が杖を地面に打ち付けてシャンシャンと音を立てると、ヘビのような姿をしていた盗賊の首領が人間の姿に戻る。
 まるで体から色が抜けて行くように変化は起こり、同時に男の体から水分が抜けたかのように枯れた姿に変わった。

「ギャアアア! お、俺の精霊が!」

 見ると体に刻まれていた入れ墨も溶け崩れたように元の模様が判別出来ないようなグシャグシャなものとなっている。
 男の足元に白い小さなヘビが姿を現す。

「きゃああ!」

 モンクが悲鳴を上げた。
 お前、こんな小さなヘビも駄目なのか?
 その小さなヘビは気の所為だとは思うが俺を見て頭を下げたように見えた。
 そしてすうっと消えて行く。

「連れて行くがいい」
「はっ、大巫女様」

 まるで魂が抜けてしまったようになった盗賊の首領を屈強な男たちが引きずって行く。

「それと、遠征用の戦士を手配せよ。罪人を乗せる大籠も必要であろう」
「はっ!」

 彼女は戦士たちに指示を飛ばすと、改めてこちらに向き直る。

「見苦しいところをお見せした。本来精霊とは人の営みを助けてくれる存在なのだ。あのような我欲に使われるものではない。西の方、誤解なきようお願いする」
「いえ、大丈夫です。どのような場所にもああいった自分の欲のために他人を苦しめる輩はいますからね」
「ありがたい」

 ふむ。
 年齢的にはメルリルに近いぐらいかな?
 二十を少し越えたぐらいか。
 それにしてはだいぶ権威ある立場のようだ。
 よく考えたらメルリルだって集落を代表する巫女だったんだからおかしい話ではないか。

「あの、実は相談があるのですが」
「何であろう? ああ、報奨は西の方は金銭を求めるのであったな。常には使わぬので用意するのに少し手間がかかるがお待ちいただけるだろうか?」
「ありがとうございます。実は盗賊のところから救出した人たちがいるのですが」
「安心せよ。我らが責任を持って引き受けるぞ」
「助かります。……ええっとそれでですね。別口もあるのです」
「別口とは?」

 俺は視線をピャラウとフォウに向けた。
 二人はキョトンとしていたが、ピャラウはすぐに気づいて首を横に振って助けは必要ないということを伝えて来た。
 そうか。
 しかしそれはそれとして関わった者として伝えるべきことは伝えておかないとな。

「こっちの二人は、実は西方の人さらいに捕まっていた者たちなのです。俺たちもその人さらい共に襲われたもので倒したのです。その際に彼女たちを開放しました。その後縁あって市場バザールで出会いまして、暮らしづらそうだったのでオアシスまで同行したのです」
「なんと! よほど悪人と縁があるのだな、そなたら」

 そう言われてしまうとつらいものがあるが、まぁ勇者の祝福の影響もあるからな。
 そうだ、ここで勇者たちの正体を明かしておいたほうが後々面倒がないだろう。

「実はこちらのお二人は勇者さまと聖女さまなのです」
「ほう。西の神の盟約とやらの……我らは違う存在を信奉する者ではあるが、別段神に敵対などはしておらぬ。歓迎しよう。それに、我らの民を救っていただき、改めて感謝する」

 丁寧に礼をされて、さすがの勇者も正式に礼を返した。
 聖女やモンク、そして聖騎士も勇者に倣うように礼をする。
 もちろん俺とメルリルもそれぞれのやり方で礼をした。

「それでは、そなたら」
「はいっ!」

 突然話しかけられてピャラウは裏返った声で返事をした。
 フォウに至っては大きく口を開けてポカーンとした表情になっている。

「部族の者とのつなぎが必要であるか?」
「……部族の者はもう残っていないと……」
「むう。なんと。……ならばしばし習い場で仕事を探すのがよかろう。そちらの娘。そなた、精霊耳であるな?」
「はうっ!」

 フォウが素っ頓狂な声を上げた。
 おいおい。まぁ子供だし大丈夫か。
 しかし精霊耳とはなんだ?

「巫女となることが出来るかもしれぬぞ。よく学べ」
「ひゃい!」

 フォウが飛び上がるように返事をする。
 フォウ、いつもは勇者にすら傍若無人に振る舞っているくせに、そんなに挙動がおかしくなるとは。
 やはり巫女の才能がある者にはこの娘の凄さがわかるということか。

 ん? と思った俺はメルリルをチラ見した。
 案の定硬直している。
 尻尾が足に巻き付いているぞ。
 そういう姿は初めて見るな。
 かわいい。
 少し得した気分になり、心のなかでこの巫女様に礼を重ねたのであった。
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