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第六章 その祈り、届かなくとも……
582 魔法の火
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砦の攻防戦では、当初入り口付近で乱戦となり、敵味方が近距離で戦ってしまったため、砦側の迎撃がうまくいかなかったらしい。
それだけでなく、本来砦に詰めているはずの兵士の大半が北で発生した戦と、西で発生した魔物の氾濫に投入されていて、かなりの戦力減となっていた。
なんで大公国の従者がそれを知っているかと言うと、そういう状況に追い込んだのが彼らだからだ。
つまり戦う前から術策によって砦は攻められていたということになる。
「なかなか作戦としちゃあよく出来てるでしょう?」
協力的な従者が砦のなかへと案内しながらまるで誇るように言った。
今の状況でそんなことを言うとは、この男もだいぶ変な奴だな。
ちなみにいつまでも従者呼びでは勝手が悪いので、名前を聞いたらバルジ・ネクトと名乗った。
砦に立てこもっている生き残りがいるということを聞いた俺達は、とりあえず大公国の者達を全員縛り上げておくことにする。
大公国の兵のなかで協力的な者達に手伝わせて、最後にはその者達も縛るという、何か、ちょっと気の毒なことになったが、こっちは三人しかいないので彼らを自由にしておいて目を離す訳にはいかなかったのだ。
案内役の従者、バルジだけは今も自由にしているが。
「俺ぜってえ後であいつらに恨まれてあることないことチクられて処刑されそうな気がする。旦那方、責任持って俺を逃がしてくださいよ」
本人はそういう本気とも冗談ともつかないことを口にしつつ、内部情報を俺達に垂れ流している状態だ。
「俺は口が軽い者を信じない。ましてや仲間を裏切るような奴は」
「うわっ、勇者さま、さすがの潔癖症だな。ダスターの旦那、うまく口利きしてくださいよ。これじゃあ俺、協力損じゃないですか」
「師匠になれなれしい口を利くな!」
「……アルフ」
勇者は天然なので、すぐにボロが出る。
敵認定した相手だと余計なことは言わないのだが、そう嫌いじゃない相手の場合はうっかり口を滑らせるのだと最近気づいた。
ということは勇者はこのバルジという男がわりと嫌いじゃないらしい。
「おお、ダスターの旦那が勇者さまの師匠なのか。身分にとらわれずに人を見る目があるのはさすがっすね」
「ぬ、そうか」
いや、勇者お前、そこでなにまんざらでもなさそうな顔をしているんだ?
早々に俺の立場をバラしたことについては後でたっぷり問い詰めさせてもらうからな。
「オホン、バルジ、もう一回確認だが、砦の兵士たちは状況が不利とみて取ると、砦の奥の大扉の向こうに撤退して、そこで籠城戦の様相となったんだな」
俺は仕切りなおそうと、砦の兵士が立てこもった経緯を確認した。
「そうなんでさ、ダスターの旦那。んでうちの大将が、ああ、あのお姫さまじゃなくってうちの指揮官ですよ。あのお人が、砦の前を逆に塞いで、閉じ込めちまったって訳です。どうせこの砦は短い間しか使わないんで、用が済んだら砦ごと焼いてしまえばいいってことで」
「っ、戦とはいえやりすぎなんじゃないか? 俺は貴族じゃないからよくわからんが、普通の戦ってのは雑兵以外はあんまり殺し合わないと聞いたぞ」
俺の言葉に聖騎士がうなずいた。
「そうです。位の高い貴族を捕まえればかなりの身代金が稼げますからね。変に恨みを買うよりはそっちのほうが得なんです」
聖騎士の説明に納得する。
戦は金がかかるというから、金にもならない死体を増やすよりは、身代金をふんだくったほうがいいというのは合理的な判断だと思う。
「今回の場合は魔物を操ったり街に火をかけたり、平民は見逃しているとはいえ、兵士や騎士は身分の上下を問わず殺しつくしたり、おかしくないか?」
「それは俺達の部隊が偽装しているからですよ。ダスターの旦那がおっしゃった通り、魔物を使ったり、街に火を放ったりするのは騎士がやっちゃいけないことでしょう? つまりあの街とこの砦を襲ったのは、大公国の正規軍ではなくって、戦に便乗した盗賊ということにするつもりだった訳です。まぁ勇者さま方のおかげでその計画もおじゃんですがね」
「いや、その場合お前達は賊として正規軍に討たれるんじゃないのか?」
俺が疑問を感じてツッコむと、バルジはチッチッと舌を鳴らした。
「その賊を討った正規軍が俺達で、賊を討伐したついでに、アンデルの首都へ駆けつけて、正規軍と合流するという建前になる予定だったんですよ」
「うわぁ……悪辣だな」
偉いさんの考えることって、ちょっと俺にはついていけないな。
盗賊なんかかわいらしい存在にすら感じる。
「なるほど。それであの主家の姫君が加わっていた訳ですね」
聖騎士が何かに納得したように言った。
俺は理解出来ずに説明を求めて視線を送る。
「彼らの指揮官は愚か者ではないように見えました。この作戦はダスター殿がおっしゃった通り、一つ間違えば作戦を行った別動隊を切り捨てなければならなくなるものです。だからそうではないという保証に、主家の跡継ぎとして大切にされている姫君を軍に加えたのでしょう。最初から切り捨てられると思って行動していては、士気が上がりませんからね」
「なるほどね。俺が見たところ、逆にあの女騎士がいたせいで士気が下がっているようにも感じたが」
聖騎士の説明を受けてそう言った俺に、バルジがうんうんと同意した。
「実際、あの姫さん高慢ちきなんで、部隊のみんなに嫌われていたんですよ。序盤は潜入任務なのに贅沢をしたがるし、とんだお荷物を押し付けられたってみんなで愚痴ってました」
そんな彼らの内実の暴露話をしているうちに、砦の兵士が逃げ込んだという大扉の前に到着した。
「これはまた……」
そこには樽やら机やらイスやら、ありとあらゆる動かせる家具や備品がうずたかく積み上げられていた。
「これをどけるのか」
うんざりする。
「燃やそう」
「へっ?」
止める間もなく、勇者は魔法を放ち、扉前に積まれていた物を炎で包んだ。
「ちょ、バカ、砦自体が燃えちまうぞ! それにこんな奥のほうで火を使ったら空気が薄くなるんだぞ!」
「大丈夫だ師匠。魔法の火だからその辺はコントロール出来る」
「マジか? すごいな魔法」
感心しているうちにたちまち扉前にあったもろもろが灰になった。
なかには金属のものもあったんだが、魔法、半端ないな。
ふと気づくと、傍らにいたバルジの姿がない。
あわてて見回した俺の目に、腰を抜かして汗をダラダラ流しているバルジの姿が映ったのだった。
それだけでなく、本来砦に詰めているはずの兵士の大半が北で発生した戦と、西で発生した魔物の氾濫に投入されていて、かなりの戦力減となっていた。
なんで大公国の従者がそれを知っているかと言うと、そういう状況に追い込んだのが彼らだからだ。
つまり戦う前から術策によって砦は攻められていたということになる。
「なかなか作戦としちゃあよく出来てるでしょう?」
協力的な従者が砦のなかへと案内しながらまるで誇るように言った。
今の状況でそんなことを言うとは、この男もだいぶ変な奴だな。
ちなみにいつまでも従者呼びでは勝手が悪いので、名前を聞いたらバルジ・ネクトと名乗った。
砦に立てこもっている生き残りがいるということを聞いた俺達は、とりあえず大公国の者達を全員縛り上げておくことにする。
大公国の兵のなかで協力的な者達に手伝わせて、最後にはその者達も縛るという、何か、ちょっと気の毒なことになったが、こっちは三人しかいないので彼らを自由にしておいて目を離す訳にはいかなかったのだ。
案内役の従者、バルジだけは今も自由にしているが。
「俺ぜってえ後であいつらに恨まれてあることないことチクられて処刑されそうな気がする。旦那方、責任持って俺を逃がしてくださいよ」
本人はそういう本気とも冗談ともつかないことを口にしつつ、内部情報を俺達に垂れ流している状態だ。
「俺は口が軽い者を信じない。ましてや仲間を裏切るような奴は」
「うわっ、勇者さま、さすがの潔癖症だな。ダスターの旦那、うまく口利きしてくださいよ。これじゃあ俺、協力損じゃないですか」
「師匠になれなれしい口を利くな!」
「……アルフ」
勇者は天然なので、すぐにボロが出る。
敵認定した相手だと余計なことは言わないのだが、そう嫌いじゃない相手の場合はうっかり口を滑らせるのだと最近気づいた。
ということは勇者はこのバルジという男がわりと嫌いじゃないらしい。
「おお、ダスターの旦那が勇者さまの師匠なのか。身分にとらわれずに人を見る目があるのはさすがっすね」
「ぬ、そうか」
いや、勇者お前、そこでなにまんざらでもなさそうな顔をしているんだ?
早々に俺の立場をバラしたことについては後でたっぷり問い詰めさせてもらうからな。
「オホン、バルジ、もう一回確認だが、砦の兵士たちは状況が不利とみて取ると、砦の奥の大扉の向こうに撤退して、そこで籠城戦の様相となったんだな」
俺は仕切りなおそうと、砦の兵士が立てこもった経緯を確認した。
「そうなんでさ、ダスターの旦那。んでうちの大将が、ああ、あのお姫さまじゃなくってうちの指揮官ですよ。あのお人が、砦の前を逆に塞いで、閉じ込めちまったって訳です。どうせこの砦は短い間しか使わないんで、用が済んだら砦ごと焼いてしまえばいいってことで」
「っ、戦とはいえやりすぎなんじゃないか? 俺は貴族じゃないからよくわからんが、普通の戦ってのは雑兵以外はあんまり殺し合わないと聞いたぞ」
俺の言葉に聖騎士がうなずいた。
「そうです。位の高い貴族を捕まえればかなりの身代金が稼げますからね。変に恨みを買うよりはそっちのほうが得なんです」
聖騎士の説明に納得する。
戦は金がかかるというから、金にもならない死体を増やすよりは、身代金をふんだくったほうがいいというのは合理的な判断だと思う。
「今回の場合は魔物を操ったり街に火をかけたり、平民は見逃しているとはいえ、兵士や騎士は身分の上下を問わず殺しつくしたり、おかしくないか?」
「それは俺達の部隊が偽装しているからですよ。ダスターの旦那がおっしゃった通り、魔物を使ったり、街に火を放ったりするのは騎士がやっちゃいけないことでしょう? つまりあの街とこの砦を襲ったのは、大公国の正規軍ではなくって、戦に便乗した盗賊ということにするつもりだった訳です。まぁ勇者さま方のおかげでその計画もおじゃんですがね」
「いや、その場合お前達は賊として正規軍に討たれるんじゃないのか?」
俺が疑問を感じてツッコむと、バルジはチッチッと舌を鳴らした。
「その賊を討った正規軍が俺達で、賊を討伐したついでに、アンデルの首都へ駆けつけて、正規軍と合流するという建前になる予定だったんですよ」
「うわぁ……悪辣だな」
偉いさんの考えることって、ちょっと俺にはついていけないな。
盗賊なんかかわいらしい存在にすら感じる。
「なるほど。それであの主家の姫君が加わっていた訳ですね」
聖騎士が何かに納得したように言った。
俺は理解出来ずに説明を求めて視線を送る。
「彼らの指揮官は愚か者ではないように見えました。この作戦はダスター殿がおっしゃった通り、一つ間違えば作戦を行った別動隊を切り捨てなければならなくなるものです。だからそうではないという保証に、主家の跡継ぎとして大切にされている姫君を軍に加えたのでしょう。最初から切り捨てられると思って行動していては、士気が上がりませんからね」
「なるほどね。俺が見たところ、逆にあの女騎士がいたせいで士気が下がっているようにも感じたが」
聖騎士の説明を受けてそう言った俺に、バルジがうんうんと同意した。
「実際、あの姫さん高慢ちきなんで、部隊のみんなに嫌われていたんですよ。序盤は潜入任務なのに贅沢をしたがるし、とんだお荷物を押し付けられたってみんなで愚痴ってました」
そんな彼らの内実の暴露話をしているうちに、砦の兵士が逃げ込んだという大扉の前に到着した。
「これはまた……」
そこには樽やら机やらイスやら、ありとあらゆる動かせる家具や備品がうずたかく積み上げられていた。
「これをどけるのか」
うんざりする。
「燃やそう」
「へっ?」
止める間もなく、勇者は魔法を放ち、扉前に積まれていた物を炎で包んだ。
「ちょ、バカ、砦自体が燃えちまうぞ! それにこんな奥のほうで火を使ったら空気が薄くなるんだぞ!」
「大丈夫だ師匠。魔法の火だからその辺はコントロール出来る」
「マジか? すごいな魔法」
感心しているうちにたちまち扉前にあったもろもろが灰になった。
なかには金属のものもあったんだが、魔法、半端ないな。
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