勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

584 砦主の感謝

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 勇者のかなり強引な封鎖解除により、障害物のなくなった扉は開くことが出来るようになった。
 内側から閂かなにかで閉じられている懸念もあったが、どうやらなかの人間も扉の外の障害物に気づいていたようで、内側に扉を留めるものはない。
 勇者の無茶のせいで片方の扉がガリガリと床を削って開かれるのを拒んだが、力づくでどうにかなる範囲だ。
 なにしろ勇者はバカ魔力持ちだからな。

「む、無茶苦茶だ!」

 ここまで案内してくれた従者のバルジが尻もちをついた状態から勇者の無茶を指摘した。
 それに関しては同意だが、いまさらどうにもならない。
 ものごとはやってしまった後になかったことには出来ないものだ。
 まぁ勇者自身にはやっちまったという意識はないだろうが。

「勇者だからな」

 俺がそう言うと、聖騎士が「苦労をおかけしています」と謝った。
 いや、そういうのは本人が謝るべきだ。
 そうやって甘やかすからああなんだぞ、あいつ。

 さて、止める間もなく、ずんずんと開いた扉の奥へと歩を進める勇者。
 せめて先に声をかけてからにしろ。
 万が一にもお前に危険は及ばないとは思うが、聖騎士が心配して、すっと傍らに身を滑り込ませたじゃないか。

「おい、生きてるか?」

 だから、敵味方をまずはっきりと示せ!
 俺は慌てて聖騎士とは逆の勇者の隣に並んだ。

「この方は勇者だ。この地域の異変を知ってその原因を探りにここまで来た」

 と、遅まきながらフォローを入れる。
 扉の奥は真っ暗で、灯り一つない。
 人の気配はあるので、籠城していたということは本当なのだろうが、あまりにもシンとしているので、だんだん不安になって来た。

「……あの」

 お、やっと声が聞こえたぞ。

「もしかして、助け、でしょうか?」

 勇者の掲げた炎の灯りに照らし出されたのは、すらりとした貴公子然とした騎士だった。
 いかにもいいところのぼっちゃんという感じだ。
 人がよさげな雰囲気があるな。

「一応な。だが別にお前の味方でもない。勇者は戦に関わらないからな」

 勇者が今となってはむなしい気もする建前を述べる。
 いや、建前は大事だ。
 隣にいるバルジが肩をすくめているが、気持ちはわかる。
 でもな、俺達にも俺達の都合ってもんがあるんだ。
 実際は戦に関わる気満々でここまで来たとしても、偶然を装う必要がある。

「あ、ありがとうございます。ここにいるのは大半が兵士ではなく、兵士や騎士の家族と使用人です。見習いも何人か……その者達だけでもお救いいただけるなら。私の身はどうなろうと……」
「話を聞いていたのか、一応だが、助けに来たと言っただろうが。とにかく砦を占拠していた者達は既に捕らえてあるので安心しろ」
「えっ? 既に去ったとかではなく、捕らえた? もしやミホムの騎士団とご一緒ですか?」
「わからない奴だな。俺は勇者だ。戦には関わらない!」

 うん、何かかみ合わない会話をしているな。
 こんな押し問答している場合じゃないのは確かなので、横から声を掛けさせてもらうか。

「ええっと、貴方さまはこの砦の責任者の方ですか?」

 俺の言葉に、勇者と問答を続けていた青年が俺を見た。
 少し首をかしげる仕草をする。

「そう、だが。貴公は?」
「貴公とか呼ばれるような貴人じゃないですよ。俺はただの冒険者でダスターと言います。この勇者さまの従者みたいなことをしているんです。俺達は魔物の氾濫の原因を確認するためにこの砦を襲った連中にちょいと聞きたいことがあっただけなんですが、抵抗されたので勇者さま方が話を聞くためにひねってやったんですよ」
「ええーっ」

 横にいるバルジが嘘だろって顔をして声を上げたが、あえて無視する。
 事実だからな!

「そうであったか。いや、だからと言って我らが受けた恩がなくなる訳ではありません。我ら一同命を救っていただいた御恩に報いる所存です。いかようにもお使いください。魔物のことは砦の外に出た者達が調べているはずです」
「そいつらには会った。……ん、ということはまだこの砦には戻ってないのか?」

 砦主の言葉に、勇者が俺の代わりに答える。
 あの街道で頑張ってた騎士団だな。

「はい。伝令を出したので、不用意に戻って来ることはないかと」
「そうか。ならば生きている可能性が高いな。よかった」

 勇者の言葉に砦主の青年は涙を流してひざまずく。

「我が部下の命をそこまで気にかけていただけるとは、感激の至り」

 いや、誤解だ。
 今の勇者のよかったは、聖女が悲しまなくてよかったということだから。
 まぁ部外者にわかるようなことじゃないが。
 それに誤解されていたほうが、勇者らしさが出ていいかもしれない。
 訂正するのはやめておこう。

 とにかく立てこもっていた本来の砦の主たちと共に中庭に戻り、捕らえてあった大公国の連中を引き渡すことにした。

「旦那、俺のことを頼むよ!」

 バルジがペコペコと頭を下げながら必死で俺にすがり付いた。
 元の仲間と同じ牢に入れられてしまったら裏切り者として私刑リンチされるのは間違いないだろうからな。

「待て、ちょっと話を通して来るから」

 俺は勇者と砦主の話が終わるのを待って、従者のバルジのことを切り出す。
 バルジは印象を出来るだけよくしようとしてか、ずっと後ろのほうで控えて頭を下げていた。
 だが、砦主の反応はかなり悪い。

「味方を売り渡すような輩を伴うのは危険すぎます」
「だが、あいつには聞きたいことを教えてもらった。引き換えに自由を約束したんだ。勇者が約束を破る訳にはいかんだろ?」

 砦主は眉間にシワを寄せていたが、それ以上ごねることはなかった。

「この手柄の全ては勇者さま方のものです。私に捕虜をどうするのかという権利は本来ないのです。勇者さまのお心のままになさってください。私はただ、大恩あるお方の傍にそのような卑しい心根の者を置きたくないというだけのことなのですから」
「大丈夫だ。小悪党にどうこうされるような勇者さまじゃないさ」
「ダスター殿、小心者というのは恐ろしいですよ。彼らには悪意はないのです。ただ自分が生き残るために何でもやる。本人は全く自分が悪いとは思いもしません。くれぐれも心を許したりなさらないように」
「……わかった」

 まだ若いのに砦主の言葉には含蓄があった。
 もしかして身勝手者に振り回されて苦労した経験があるのかもしれない。

 とりあえずバルジの身柄を預かって、俺達は外のメルリル達と合流することにしたのだった。
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