勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
541 / 885
第七章 幻の都

646 残光

しおりを挟む
「どういうことだ! 説明しろ!」

 俺はすっかり立場も忘れて大声を上げる。
 州公となって、俺の無礼な態度をたやすく罰することの出来るはずのホーリーカーンは、俺を咎めることはせずにあえて罵声を受け止めた。
 その不動な姿に俺の激高も急激に冷める。
 
 いついかなるときでも沈着冷静なパーティリーダー。
 昔のままの姿だ。
 だが、その動じぬ様子が今の俺には不実な態度のようにすら思えて来る。
 そんな自分の感情を必死で押し殺した。
 くそったれのカーンは、いつだって言い訳をしない男だった。
 汚名を被ったときでも堂々と仲間の罵声を浴びたものだ。

 しかし、いつだってこの男は不正義を行いはしなかった。
 見た目は沈着冷静で、何も感じていない冷血漢に見えるが、その実は単に不器用な男なのだ。

「何があったんだ」
「お前には俺を責める権利がある。あいつにぞっこんだったろ?」
「よせやい。それを言うならギルドの男連中はみんな揃って彼女にぞっこんだった。俺だけじゃない。だが、みんなわかっていたさ。彼女がお前以外を男として見てはいなかったことぐらい」
「……凄い女だったよな」

 そうだ。凄い女だった。
 だからこそ、彼女が死んだと言われても簡単には信じられない。

「で?」

 俺がうながすと、ホーリーカーン、いや、昔の仲間のカーンは、強い酒を一気に煽った。

「ディクネスが死んで、ギルドが解散し、お前もこの街を出て、全員がバラバラになった後も、俺達はこの街で探索者を続けた。所属するギルドを失ったせいで、面倒事は増えたが、まぁなんとかやっていた。そんな生活が五年ぐらい続いたかな? ある日、親父が破滅した」
「は?」
「最悪な男がとうとう手を出しちゃいけないところに手を出したのさ。なんと大公陛下暗殺未遂を起こして、部下の全てが処分され、自分自身も地位を追われた。愚かなことにあいつの子ども達もことごとく計画に関わっていて、連座で断罪されることとなり、血族がいなくなった」
「……あきれた話だな」
「全くだ」

 まさか大公陛下の家族を襲撃した犯人がこいつの親父だったとはな。
 まぁこいつから聞いた話でも最悪だったし、俺がこの街に住んでいたときに伝え聞いた話でも碌な噂は聞かなかったが。
 だいぶバカだったんだな。

「このままではこの国の根幹に関わる名家が失われる。それを恐れた連中が俺を探し当てた」
「迷惑な話だな」
「全くだ。俺は当然断った。そうしたら脅しをかけて来てな。逃げ出すことも出来ずに跡を継がさせられたという訳だ。それに一つだけいいことがあったし」

 カーンの目が昏い光を浮かべた。
 ぞくりと冷気を感じる。

「それで?」
「……奴隷の子と州公とが結ばれることはない」
「おい!」

 押し殺したはずの激高がまた沸き上がり、思わずカーンの胸倉を掴む。
 そして相手の目を見て、その手を離した。

「っち、お前、その偽悪的なところを直せ」
「いや、実際俺のせいなんだ。俺は彼女をなんとか迎え入れるために手を回していたが、その間に彼女は姿を消した」
「なら、死んだ訳じゃ……」

 俺の言葉をカーンは首を振って否定する。

「八方手を尽くして調べた結果、彼女は武器も防具も装備せずに迷宮に潜ったことがわかった。そして二度と迷宮から出て来なかった」
「そんな……まさか、あの誇り高い女が自殺したって言うのか?」
「本人は自殺のつもりじゃなかったのかもしれない。運試しをしたのかもな。ほら、探索者の間でささやかれてただろ。死神の裏をかくことが出来たら、全ての望みが叶う、と」
「運試しをして負けたと?」
「ああ、兄貴のようにな」

 カーンの言葉に、俺は今もなお、鮮明な記憶を蘇らせた。
 当時俺達が所属していたギルドのトップは、女神のような女の兄で、軍神のような男だった。
 そんな男でも、迷宮のなかで死んだのだ。
 両足を失い、動けなくなった彼に止めを刺したのは、その妹である彼女だと聞いている。
 運命を呪って兄と同じ死に場所を望んだのか?

 だが、その考えはどこかしっくり来なかった。
 あの女なら運命を笑い飛ばし、片足で踏んづけそうな気がする。
 とは言え、彼女だって人間だ。
 間違いも犯すし、死ぬことだってあるだろう。

「いいことって?」
「ん?」
「州公になってよかったことが一つあったと言ってただろ」
「ああ。……親父はな、身分が高すぎたんで処刑はされなかった。引退して軟禁生活を送ることとなったんだ。そして、その具体的な処分は、俺に一任されたのさ」

 闇のなかにほのかに揺れる光を受けたカーンは、この日初めて心からの笑みを見せた。
 諦めていた復讐を果たした男の、ひどく昏い笑みではあったが、俺は前州公にカケラも同情する気にはなれなかった。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。