勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第七章 幻の都

710 美味しいものを食べながら話し合いをすると混沌が生じる

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 最初に来たときも思ったんだが、この、カーンが使っている屋敷の、一つ一つの部屋は、やたら広い。
 私室の、扉を開けてすぐのところは、部屋というよりも、それぞれの部屋へとつながる空間という役割を持っているものだが、毛皮を使ったラグの上に、ソファーと、クッションがバラバラに並べられていて、勇者達全員が適当に座っても、まだまだただっぴろい。

 聞いたら、ソファーやクッションは、メイサーが別の部屋から持って来たとのことだった。
 部屋を出るのに、扉を何枚も経由しなければならないという状態を、メイサーが嫌った結果だ。

「この領主館、ごっつい造りだな」
「馬鹿な先代が贅沢して、無駄な空間をいっぱい作ったせいだな。装飾品とかは俺が就任したときに全部売っぱらったし、隠し部屋は解体した。……もちろん全部じゃないぞ? 客間などに、不自然に出入り出来る場所とかがあってな」
「うへえ、趣味が悪いな」
「客の弱みを握ろうと思ったか……好みの女を招いて、夜這いをかけていたか」
「師匠達は何の話をしているんだ?」

 部屋の隅のほうでこそこそと、カーンと話をしていたら、勇者が肉で野菜を包みながら、不審そうに呼びかけて来た。
 む、大人しくメシを食っていると思っていたら、それなりに満足したら気が散り出したな。

「このお肉を薄く焼いて、お野菜と一緒に食べるのは、素敵ですね。お肉に味がついていて、不思議です」
「それは、腐った肉を食べやすくするために、濃いタレに漬け込んでいるからだぞ」
「腐った……お肉?」

 メイサーの説明に、聖女がびっくりしたように自分が手にした肉を見た。
 手づかみでものを食うのはもう慣れたもんだな。じゃない……。

「メイサー、いじわるはよせ。ミュリア、それはこの料理法が産まれた経緯であって、今使われている肉はちゃんとしたものだ」
「濃いタレだとうじ虫が死ぬんで……」
「メイサー……」
「なんだ、軽い冗談じゃないか。聖女さまだって、旅の途中ヤバいもん食ったことぐらい、あるでしょう?」
「え? ええっと……」

 あいつなんで聖女にやたら絡んでるんだ? あー、お嬢様っぽい女の子だからか。
 昔っからああいうところは変わってないな。

「ミュリア、気にするな。こいつの悪い癖なんだ。純粋そうな女の子を見ると、じゃれつく癖があるんで、勘弁してやってくれ」
「え? いえ、とてもよくしていただいています」

 うん。まぁ聖女は聖女で、わりと天然だから、メイサーの話を何やら面白いお話し程度に聞いているっぽいな。
 案外相性は悪くないのか?

「聖女さまは可愛いなぁ。そうそう、うちの名無しの女の子に名前つけてくれて、指も動くようにしてくれたんだって? 遅くなったけど、ありがとうな」
「え? いえ、わたくしのほうこそ、リクスにはとても助けてもらいました。わたくし達お友達なのですよ」

 ふふふ、と、自慢げに聖女は言った。
 
「へー、奴隷の娘と聖女さまが友達……ね。ふーん、本気なんだ。うふふ、おねーさん、ますます、聖女さまが好きになっちゃったなぁ」
「きゃっ!」

 とうとう、メイサーの奴、聖女に飛びかかりやがった。
 
「おい、やめろ!」
「なに? 勇者さまは聖女さまとデキてんの?」
「は? 何言ってる?」

 ダメだこれは。

「おい、カーン。メイサーの暴走を止めろ」
「あー、わかった。メイサーほら、真面目な話があるんだろうが。ちょっと大人しくしておれ」

 カーンが重々しく言うと、メイサーはパッと聖女を離し、素早くカーンの隣に潜り込む。

「あたしがいなくて寂しかった?」
「当たり前だろうが。今さら何を聞いている」

 あーこれはこれできっついな。

「師匠、なんなんだ、あの女は!」

 勇者がカンカンである。
 だが、お前はもっと女に耐性を持ったほうがいいぞ。
 メイサーなんて、夜の花々に比べれば、大人しいもんだ。

「まぁ気にするな。悪気はないんだ。それよりも、食い物を摘まみながらでいいから、話を聞いてくれ」

 俺の言葉に、全員の意識がこっちに集中するのを感じる。
 しかし、ここの飯は美味いな。
 みんな食べるのに夢中になるのはわかる。

「実はだ。この二人、カーンとメイサーは、知っての通り、俺の昔の仲間なんだが、カーンに貴族の当主の座が降ってわいたせいで、まともな方法で一緒になるのが困難になった。メイサーは見た目は普通の貴族よりもよっぽど貴族的だが、元は奴隷の子どもだ。この国では、奴隷とその子どもに正式の身分が与えられることはない。モノ扱いなんだ」
「腐ってるな」
「お肉は腐っていませんけどね」

 勇者の言葉に聖女がなぜかツッコミを入れた。
 さっきのメイサーの話が面白かったのだろうか?

「モノと人は結婚出来ない。身分差あれこれ以前の話だ」
「なるほど。師匠が言ってた問題はそこか」

 勇者が理解したようにうなずいた。
 ミホムでは基本的に奴隷は禁止なので、制度自体がない。それでミホムの貴族だった勇者も、ピンと来ていなかったのだろう。

「それでは、リクスもそうなんですね」
「……そうだな」

 聖女は友達のリクスが気になるようだ。
 そっちも一緒になんとかしてしまうのがいいだろうな。

「リクスに関してはやりようがある。ミュリアが祝福を施したことで、ミュリア付きの奉仕者みたいな扱いにすることが出来るんじゃないかと思っている」
「確かに、奉仕者になればそもそも身分はなくなるからね。元奴隷でも関係ない」

 モンクが理解してうなずいた。

「その方法をその女にも使うのか?」
「いや、メイサーの場合は、それだと時間がかかってしまう。最低でも一年は実際の奉仕が必要だろ? そこから貴族籍に入れたりなんたりする必要があるしな」
「そんな悠長なことをするぐらいなら、二人でどっか遠くへ行くよ」

 勇者の問いに俺が答えると、メイサーがぶっちゃけた。
 そうだろうとも、お前待つの嫌いだし。

「そこでだ。これから迷宮で発見する勇者の剣を、メイサーが天啓によって見い出し、勇者に捧げたということにする」
「師匠らしくないな。まだ見つかってない剣を計算に入れるのか?」
「もし見つからなかったときには、いっそその魔法剣を元に、アドミニスに何か作ってもらってもいい」
「まぁ、おじいさまを頼るのですね」

 聖女がウキウキと言った。

「いざというときだけだぞ? 一応、迷宮で伝説の剣を探すのが目的だからな」

 釘を刺しておこう。
 期待だけして、がっかりするとかわいそうだからな。

「その、伝説の剣っていうのは何?」

 メイサーが肝心なところを聞いて来た。
 そう言えば詳しいことは話してなかったか。

「その昔、ここの迷宮に潜ったまま、戻らなかった勇者がいるという伝説があるだろ? その剣があるんじゃないかという話だ」
「あー、あの伝説ね。何? ダスターったら信じちゃってるの? いい歳になったのに変わってないわね」
「うるさいな、ディクネスだって言ってただろうが。伝説にも一片の真実はあるはずだって」
「あんた兄さんと仲がよかったもんね。一緒に資料室にこもっちゃったりして。一回心配して見に行ったら、きったない石を二人でつつき回して、金鉱がどうのとか馬鹿みたいなこと言ってて」
「あんときは、結果的に鉄砲水が起こるのを事前に察知して、小さな村を救ったじゃないか!」

 何気ないものからヒントを得て、その先にあるものを導き出すというのは冒険者として大切なことなんだぞ。

「ダスター楽しそう」

 メルリルがニコニコと笑いながら俺達のやりとりを見ていた。
 思わず赤くなって、咳払いする。
 うっかり若い時代に気持ちが引っ張られていたようだ。
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