勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
653 / 885
第八章 真なる聖剣

758 聖者の到着

しおりを挟む
 ロボリスの作業場を後にした俺達は、今回は街に寄ることもなく、まっすぐ領主館に戻ることにした。
 祭典が近いので、ほとんど余裕がないのだ。
 そんなときだった。

「わああああああっ!」

 という、まるで悲鳴にも聞こえるような歓喜の声が響いたのだ。

「なんだ?」
「また、七家の誰かが到着したんじゃないか?」

 俺の疑問に、勇者が答える。
 最近は毎日のように七家の代表が到着しているので、もはや、誰が来ていて、誰が来ていないかよくわからない状態になっていた。

 精鋭の伝令部隊は城のなかを飛び回っているので、俺達のほうには、遅れた情報が入って来る程度。
 街の噂を聞いたほうが、正確な情報が手に入るんじゃないか? という状態だ。
 カーンが勇者達を出し惜しみして、七家との対面を引き伸ばしているので、面倒な挨拶回りが無いだけ、マシと言えた。

 街の大通りのほうから人が走って来ては、家に飛び込み、家族を連れ出して、大通りの方へと戻って行く。

「いや、これは……」
「お師匠さま、聖者さまですわ」

 貴族相手に、家族を連れ出す平民などいない。
 何か粗相でもあったら、命すら取られかねないのだ。
 平民にとって、貴族は尊敬する相手であると同時に、恐ろしい怪物であり、出来れば日常の場面で出会いたくない存在と言える。
 だから、貴族ではないかもしれない。
 そう、言おうとした俺の言葉に被せるように、聖女が答えを口にした。

 見れば、人々は、手に花や、果物などを持ち、必死で走っている。
 大公国は、昔から大聖堂の守護者を自認するお国柄で、その誇りも相まって、神の盟約の使徒への敬愛は深い。
 なかでも聖女、聖人、聖者と、聖を冠した役職は、神の代理人とされていて、その体の一部に触れるだけで、魂が清められると信じられていた。

 つまり、彼らは聖者に贈り物を捧げることで、あわよくば、その手に触れようと考えている訳である。
 警護の神殿騎士の苦労が、目に浮かぶようだ。

「なんでわかるんだ?」

 そんな人々の様子から、聖女の言葉が正しいだろうと思いはしたが、聖女に聖者が来ていることがすぐにわかった理由が知りたかった。

「ほら、耳を澄ませると、澄んだ、鐘のような音がするでしょう? あれは祝福の鐘ホーリーベルの音です」
「なるほどなぁ」

 ぼんやりと聞いていると、人々の喧騒に、ほかの音など聞こえなくなってしまうが、慎重に音を聞き分けると、なるほど、リィィイイン! というような、鐘の音が響いている。
 あれが、かの有名な祝福の鐘ホーリーベルか。
 初めて本物の音を聴いたぜ。
 確か、聖者の巡行のときに、先触れが鳴らすんだったよな。

「と言うことは、大通りはまずいな。裏を回って戻ろう。フォルテ、先導頼む」
「ピャッ!」

 久々なので、張り切ったフォルテが空高く舞い上がる。
 おい、お前目立つんだから、低く飛べ!

 フォルテのおかげで、人の少ない、領主館までの道を知ることが出来たので、俺達は熱狂を背にして、ひっそりと、館に戻ったのだった。

 最近、地方からやって来た警備兵達にも顔を覚えてもらい、今は顔パスで気軽に出入りすることが出来る。

「おかえりなさい!」

 ただこっちは、未だに憧れの籠もった目で俺達を見る兵士達には、慣れない。
 田舎の貴族ほど、信仰には純真なようで、勇者や聖女、そしてその仲間に対する、物語の登場人物を見るような高揚があるようなのだ。

 おおう、俺にまでそのキラッキラした目を向けないで欲しい。
 若者はまだいいとして、歴戦の強者そのものの、いかつい風貌の連中までがそんな感じなので、大変疲れるのだ。

 俺達は適当に挨拶を返しながら、さっそく部屋に引きこもった。
 
「おかえりー!」

 勇者の部屋に戻ったはずが、なぜかメイサーがくつろいでいた。
 ……わかった。
 寂しいんだな。
 ほんと、素直じゃない奴だ。

「はぁ? なんであんたがいるんだよ、おばさん!」

 よくも悪くも全くブレない勇者が、さっそく噛み付く。

「あら? ここはあたしの家なんだから、どこにいたっていいでしょ?」
「まだ結婚してねえだろうが」
「手続きの問題なんて、他人に知らせるためのものに過ぎないわ。大事なのは事実よ」
「事実だと?」
「ええ。私とカーンは、お互いの体の形を隅々まで知っている仲なのよ」
「おいこら!」

 何言い出すんだ、こいつ。

「うちには純粋な若いのが多いんだから、妙に刺激的な話をするのはやめろ」

 俺がそう言うと、メイサーははぁ、とわざとらしいため息を吐いてみせた。

「童貞野郎はこれだから。女に対する理想とか、夢をこじらせて、現実から遠い、幻想を女に求めているんでしょ? ね、メルリル。こういう奴はヘタレだから、ちゃんと引っ張ってやらないと大変よ」

 口が汚い。

「ありがとうございます。がんばります!」

 メルリル、なんでそこでありがとうになるんだ?
 俺はちょっと悲しいぞ。

「メイサーお前さ、もうすぐ領主夫人、それどころか、七家の当主の奥方になるんだぞ? その口の悪さは直しておかないと、いざってときに出るぞ」
「いいじゃない。表面を取り繕ったって、あたしはあたしなんだから、頑張っただけボロが出るもんなのよ。なら、最初から、こういう女だって、周囲にわからせておけばいいのさ。そもそも、なんであたし達がほかの連中と同じことをしなきゃならないんだ? 偉いんなら、自分の好きなように生きていいじゃない」

 はぁ。
 メイサーは、ほんと自分の生き方に迷わない女だよな。
 素直と言えば聞こえがいいが、赤裸々すぎて、周囲が困惑する。
 あのホルスがビシビシやってこれなんだから、もう諦めるしかないのかもしれないな。

 実際、食事のときなどは、完璧にマナー通りに食べられていると、勇者が保証してくれたので、安心していたが、根本的なところが、貴族向きじゃないんだ。

「そんな、ことよりさ。出来たんでしょ? 詐欺道具」
「詐欺道具とか言うな、失礼だろ、ロボリスに。あいつかなりがんばってくれたんだぞ」
「わかった。訂正する。ロボリスはさ、あたしもちょっと見直した男なんだよ。探索者なんて明日をも知れない仕事をさっさと引退して、家族のために手に職をつけるなんて、ちょっと感動ものじゃない? あんなマトモな男がうちにいたなんて、快挙だと思わない?」
「それは、思う。あいつはすごいよな。普通さ、あの年頃から、修行を始めようとか思わない。技能を習得するのが難しいのもあるが、何よりも年下に馬鹿にされるのはきついもんだ。偉いよ、あいつは」

 俺の言葉にうなずくと、メイサーがおあずけを食らった子どものような目で勇者の腰を眺める。
 その目つきをやめろ。
 他人が誤解するだろうが。
 まぁ今は身内しかいないからいいけど。

 メイサーはこれで、意外と武器マニアで、いろんな武器を眺めるのが好きな女なのだ。
 変な奴だよな、ほんと。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる

グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。 『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。 2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。  主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。