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第八章 真なる聖剣

821 欲に踊る者達

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「おおっ、ウヨウヨいるな!」

 勇者が嬉しそうにそう言うと、周囲の船員達が苦笑する。
 海賊諸島とやらに近づくと、俺達の船を囲んでいた船以外にも、そこいら中にいろいろな形の船が漂っていた。
 なかには半分沈没して、船首や船尾だけが見えているものもある。
 海賊を討伐しに来た船か、ここまで引っ張って来られて結局沈められた船か、もしかしたら、仲間同士で争った結果なのかもしれない。

 おかげで、俺達の乗っている船が通れるような隙間があまりなく、見習いではない正式な航海士が、汗だくになりながら、進行方向を指示していた。
 俺達をここまで連れて来た海賊船はと言うと、早く行けとばかりに後ろから火矢を射掛けたりし始めていて、まともに案内する気はないらしい。

「師匠。もうこの辺の船を全部沈めてしまえばいいんじゃないかな? そうすれば、陸地に上がっている連中も出て来るだろ」

 航海士や船長の苦心惨憺する様子を見て、気の毒になったのか、はたまた、周囲にいる海賊を単に一掃したくなったのか、勇者がそんなことを言い始めた。

「いや、もしあの島に、誘拐された人達がいたら、確実に人質にされてしまうぞ?」
「っ、そうか。くそっ、さすが海賊だ。卑怯者め!」

 別に勇者に対する盾にするために人を誘拐した訳じゃないだろうから、さすがにそれは言いがかりだろう。

「フォルテに先行させよう」
「ダスター、私も行く」

 俺がフォルテに斥候役をさせようと提案すると、メルリルが名乗りを上げた。

「私ならフォルテよりも誰にも気づかれず様子を見ることが出来る」
「う、しかし……おそらく海賊の本拠地は屋内だぞ。ああいう悪党は、隠れるのが好きだからな」
『僕行く!』
「うひゃあ!」

 頭に響く若葉の声に、こういう現象に慣れていない船員達が飛び上がって驚いた。
 一瞬、船長が舵を切りそこねたらしく、近くをうろうろしていた海賊船を押しつぶしそうになる。
 下から何やら怒鳴り声と、爆発音が聞こえて来たが、聖女が結界を張っているので、とりあえず問題ないだろう。

「あ?」

 勇者が不機嫌そうに若葉を睨む。
 今までマントの裏に隠れていた若葉だったが、ちょろっと顔を出していた。
 それを勇者が素早く掴む。

「お前、海の魔物の腹にでも入ってろ」

 勇者が若葉をまた、投擲しようとしたが、するりと手から抜け出した若葉がチョロチョロと腕を伝って、勇者の肩に乗り、バサバサと羽を広げてアピールをした。

『僕なら、どこでも入り込めるし、絶対役に立つと思うなぁ』
「若葉! 意識のレベルを下げろ! 耳元で怒鳴ってるように聞こえるぞ!」

 俺は一応若葉にそう注意する。
 フォルテを通して話をするときには、言葉とは違う何かで、考えが伝わって来るので楽だが、こうやって周囲に人間にわかる言葉を飛ばすときには、音ではない思念で飛ばして来るので、ものすごく頭が痛いのだ。

『あ、ごめん』

 若葉はケロリとした様子で謝る。
 勇者が、怒りのあまりその場で、若葉相手に戦いを始めそうな形相だ。

「い、今のはなんだ!」
「おい!デケェ声で怒鳴ったのはどいつだ!」

 周囲の海賊らしき声が遠くから少し聞こえて来た。
 勇者が再び若葉を捕まえて、ぎゅうぎゅうと締め上げる。

「お前、いい加減にしろよ。敵にまで聞こえるような大声出しやがって!」
「ガフン……」『声を出さずにこっそり伝えようとしたんだよ?』

 どうやら若葉は、ああやって声を出しながら意識を伝えたほうが範囲を絞れるようだ。
 自分でも、自分の出来ることをまだ把握していない感じなんだろう。
 ん?

「そうだ! その能力、逆に利用してみたらどうだ?」
「え? どういうことだ? 師匠?」

 俺は考えついた計画を、仲間達に提案した。
 船長も俺達の話し合いに混ざって、案を修正して、即興で、海賊達を隠れ家から引き離す計画をでっち上げたのだった。

 ◇◇◇

 海賊達の頭領とされているロゥジャーは、この日、日課のお宝の飾り付けを楽しんでいた。
 配下の海賊達から、海洋公の船が網にかかったとの知らせが入り、ロゥジャーは、最近の海洋公による裏組織への粛清と、自分達に情報を渡していた重要な役人の捕縛に対する報復を、あれこれ想像しつつ、思わずニンマリとする。
 
「何が海洋公だ。陸地で威張ってるだけの豚野郎のくせしやがって。船員と船の身代金として、同じ重さの分の黄金を要求してやる。船はもらっておくとして、船員は一応返してやるかな。バラバラの死体でも重さは同じだからな」

 そう呟きながら黄金の装飾品をあちこちに配置して行く。
 その時だった。
 耳元で神々しい声が聞こえたのは。

『ワレは海の精霊王である。精霊の宝を授ける者を選定しようと思う。最初にワレの元に辿り着いた者に、この宝を与えよう』
「な、なんだと!」

 ロゥジャーは、キョロキョロと周囲を見た。
 しかし、近くには誰もいない。
 宝の部屋には誰もいれないのだから当たり前である。

「まさか、本物、か?」

 慌てて部屋を飛び出したロゥジャーは、我先に外へと駆け出して行く部下達の姿を見た。

「貴様ら! まさかワシの宝を狙っているのか!」
「へっ、早いもの勝ちでさぁ! いくら頭領でも、譲れませんぜ!」

 どうやら全員が同じ声を聞いたらしい。

「馬鹿共が、宝はワシのもんじゃあ!」

 砦の外へと飛び出したロゥジャーは、海の上に光輝く何かがあるのを見つけた。
 太陽は逆側なので、太陽ではない。
 何よりも、太陽よりも神々しい光だった。

「船を出せ! てめえら、抜け駆けしやがったらぶっ殺すぞ!」


 ◇◇◇

「すごい光景だな」
「壮観ですねぇ」

 大小様々な船がぶつかりあったり、競り合ったりしながら、金色の光の柱の元へと向かって行く。
 あの光を発しているのは若葉だ。
 元の大きさに戻った若葉は、何かの魔法で、あの光を発しているらしい。
 詳しいことはわからないが、勇者が喜ぶと言って、精霊王のフリをさせたのだ。

 それにしたって、こんなに効果的とは思わなかったな。

「欲の皮の突っ張った連中の醜さを感じるな」
「少し、怖いです」

 勇者と聖女すら引いている。
 
「おっと、どうやら誘拐された人達の居場所を見つけたようだ。あいつら扉という扉を開けっ放しで飛び出したから、簡単だったぞ」

 メルリルとフォルテで手分けして探してもらったのだが、どうやら先にフォルテが発見したらしい。

「まずは攫われていた人達を救出しよう」
「はい!」

 聖女が元気よく返事する。
 俺達は、今は船が一艘もいなくなった、海賊が船着き場に使っている入り江へと、悠々と船を進めたのだった。
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