勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
743 / 885
第八章 真なる聖剣

848 聖剣の依頼 1

しおりを挟む
 アドミニス殿が手づから淹れてくれた茶と、手作り菓子は、大変美味しかった。
 しかも、どちらも俺の知らないものだった。
 気になって尋ねたら、茶は大森林にある野草を干して、その後火に掛けた鍋で炙ったもの。
 焼き菓子は、アクが酷いのであまり人間は食べない木の実をよく水に晒して、中身を丁寧につぶしてこれも水に晒し、布でこしたものを乾燥させて、卵とハチミツとを練り込んで焼いたものらしい。
 とんでもない手間を掛けてるな。
 だが、俺がそう感想を言ったら。

「わしが生まれた頃は、食べるものにそのぐらい手間を掛けるのは当たり前のことだったぞ。今は恵まれているからわしが特別なように感じるだけであろう。まぁそれだけ今がいい時代ということだな」

 と、微笑んで言われてしまった。
 しかし、そう言われてしまえばそうかもしれない。
 今は市場に行けば、食材を手間なしに買うことが出来るし、小麦だって既に粉に挽いたものを粉もの屋で買える。
 金があればたいていのものは、手間なしに手に入れることが出来るのだ。
 なんなら自分で食事を作らずに、食堂の飯だけで生活することも可能ですらある。

 千年も前なら、まだ教会も各地に出来ていなかったはずだし、流通もほぼ徒歩、食料の栽培方法も未熟で、人々は自作半分、採取半分程度の生活だったのだろう。
 そう言えば、貨幣による取り引きもなかった時代もあるような話も聞いたな。
 ほぼ物々交換だったとか。

 なるほど、アドミニス殿はその時代に生きた御方だから、なんでもかんでも自分で出来るようになったのか……。
 いやいや、騙されるな俺。
 アドミニス殿のような人間ばっかりとか、どんな超人揃いの世界だよ。
 千年でどんだけ人類は衰えたんだ?
 絶対どっかに変な思い込みがあるぞ。

 まぁ昔は今よりも、全てに手間がかかったというのは、本当だろうけどな。

「どうしたダスター殿、なにやら難しい顔をされておるぞ」
「いや、変に考えすぎてしまっただけだ。気にしないでください。あ、そうそうつい、茶や菓子に気を取られてしまったが、今回お伺いしたのは、残念ながら気楽に遊びに来た訳ではないんです。二つほどお願いがあって」
「ほう? このわしに願いとな?」

 う……。
 なんか願いを言ったら代わりに魂でも取られそうな気持ちになるな。
 変な迫力がありすぎるんだよ、この方。

 俺は内心ため息を吐きながら、勇者に視線を送った。

「一つ目は俺からの、仕事の依頼になる」
「ほほう、仕事、ね。それはその二本の剣についてか?」

 アドミニス殿は、勇者が携えた剣に視線を向ける。
 
「っ、そうであるともそうではないとも言える。というかお前、話の先を読むのをやめろ。話しにくい!」

 勇者がぴしゃりと言った。
 アドミニス殿をお前呼ばわりとか、偉そうに注意するとか、もはやさすが勇者だなとしか言えない。

「それはすまなかった」

 クククと独特の笑い方で勇者の注意を受け入れるアドミニス殿。
 案外楽しそうだ。

 そう言えば、実物を見たことがあるはずのアドミニス殿が、初代勇者と似ていると言うぐらいだから、やはり本当に初代に似ていたんだな。
 性格は全く違うらしいが。
 アドミニス殿はどんな気持ちで、昔戦った相手とそっくりな勇者と話しているのだろう?

「依頼というのは、勇者の聖剣だ。実は勇者の聖剣が、ある事情で失われた。失われたままだと、絶対に問題になるんで、その代わりとなる聖剣を見つけたというていでごまかしたが、実は見つけたときには剣身部分は砕けてしまって、柄のみが残っただけだったのだ。そこで、現地の鍛冶師に剣身を急ごしらえで作ってもらってごまかした。それがこれだ」

 勇者が片方の剣を茶や菓子の入れ物をどけたテーブルに置いた。

「ふむ。拝見してもいいかね?」
「そうしてくれないと困るって話だろうが」

 勇者よ、なんでもないことに噛み付くな。
 自分で自分の格を落としてるぞ。

 アドミニス殿は、吠えかかる勇者など気にすることもなく、置かれた剣を手にすると、鞘から抜いた。
 う、ヤバい、この人が抜身の剣を持つと、危機感で肌がピリピリする。
 全員とんでもないプレッシャーをかけられているって感じだな。
 ヤバすぎる。
 これは、ルフにはフォルテをつけたほうがいいな。
 フォルテ、ルフを頼むぞ。

「クルル」

 フォルテは、任せろと言って、ルフの頭に止まった。
 その瞬間、真っ青になってゼイゼイ言っていたルフの呼吸が普通に戻る。
 頭に手をやって、フォルテの存在を理解すると、ホッとしたようだ。
 お、アドミニス殿がこっちを見てる。
 気にしないでください。

「この柄は、確か大地の剣と言ったか。……そうか、このような剣でも砕けるものなのだな。素晴らしい聖剣であったが。……知っているか? 我が領地に亀裂を入れたのが正にこの剣よ」
「なん……だ、と?」

 勇者が心底から驚いたという顔をしている。

「その剣は、迷宮の最奥で、古代の守護者が変質したようなリッチを長い間封印していたものだ。封印が解けた途端に砕けた」

 俺はそうなった事情を話した。

「なるほど。勇者の聖剣らしい最期であったということか。ふむ、しかし……この仮の剣身を打った鍛冶師はなかなか悪くない。技術は少々ゆらぎがあるが、魂がある。さすがに聖剣の柄とは釣り合わぬが、それは仕方なかろう」
「ほ、本当ですか!」

 ルフが、興奮したように声を上げた。
 ルフには、聖剣の事情は話してある。
 アドミニス殿に弟子入りに来る以上、結局は知ることだったからだ。
 ルフは、父が聖剣と言えども贋作を打ったということが引っかかっていたようだったが、だからこそ、アドミニス殿に父親の仕事を褒められたのが、よほど嬉しかったのだろう。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる

グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。 『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。 2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。  主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。