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第八章 真なる聖剣
848 聖剣の依頼 1
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アドミニス殿が手づから淹れてくれた茶と、手作り菓子は、大変美味しかった。
しかも、どちらも俺の知らないものだった。
気になって尋ねたら、茶は大森林にある野草を干して、その後火に掛けた鍋で炙ったもの。
焼き菓子は、アクが酷いのであまり人間は食べない木の実をよく水に晒して、中身を丁寧につぶしてこれも水に晒し、布でこしたものを乾燥させて、卵とハチミツとを練り込んで焼いたものらしい。
とんでもない手間を掛けてるな。
だが、俺がそう感想を言ったら。
「わしが生まれた頃は、食べるものにそのぐらい手間を掛けるのは当たり前のことだったぞ。今は恵まれているからわしが特別なように感じるだけであろう。まぁそれだけ今がいい時代ということだな」
と、微笑んで言われてしまった。
しかし、そう言われてしまえばそうかもしれない。
今は市場に行けば、食材を手間なしに買うことが出来るし、小麦だって既に粉に挽いたものを粉もの屋で買える。
金があればたいていのものは、手間なしに手に入れることが出来るのだ。
なんなら自分で食事を作らずに、食堂の飯だけで生活することも可能ですらある。
千年も前なら、まだ教会も各地に出来ていなかったはずだし、流通もほぼ徒歩、食料の栽培方法も未熟で、人々は自作半分、採取半分程度の生活だったのだろう。
そう言えば、貨幣による取り引きもなかった時代もあるような話も聞いたな。
ほぼ物々交換だったとか。
なるほど、アドミニス殿はその時代に生きた御方だから、なんでもかんでも自分で出来るようになったのか……。
いやいや、騙されるな俺。
アドミニス殿のような人間ばっかりとか、どんな超人揃いの世界だよ。
千年でどんだけ人類は衰えたんだ?
絶対どっかに変な思い込みがあるぞ。
まぁ昔は今よりも、全てに手間がかかったというのは、本当だろうけどな。
「どうしたダスター殿、なにやら難しい顔をされておるぞ」
「いや、変に考えすぎてしまっただけだ。気にしないでください。あ、そうそうつい、茶や菓子に気を取られてしまったが、今回お伺いしたのは、残念ながら気楽に遊びに来た訳ではないんです。二つほどお願いがあって」
「ほう? このわしに願いとな?」
う……。
なんか願いを言ったら代わりに魂でも取られそうな気持ちになるな。
変な迫力がありすぎるんだよ、この方。
俺は内心ため息を吐きながら、勇者に視線を送った。
「一つ目は俺からの、仕事の依頼になる」
「ほほう、仕事、ね。それはその二本の剣についてか?」
アドミニス殿は、勇者が携えた剣に視線を向ける。
「っ、そうであるともそうではないとも言える。というかお前、話の先を読むのをやめろ。話しにくい!」
勇者がぴしゃりと言った。
アドミニス殿をお前呼ばわりとか、偉そうに注意するとか、もはやさすが勇者だなとしか言えない。
「それはすまなかった」
クククと独特の笑い方で勇者の注意を受け入れるアドミニス殿。
案外楽しそうだ。
そう言えば、実物を見たことがあるはずのアドミニス殿が、初代勇者と似ていると言うぐらいだから、やはり本当に初代に似ていたんだな。
性格は全く違うらしいが。
アドミニス殿はどんな気持ちで、昔戦った相手とそっくりな勇者と話しているのだろう?
「依頼というのは、勇者の聖剣だ。実は勇者の聖剣が、ある事情で失われた。失われたままだと、絶対に問題になるんで、その代わりとなる聖剣を見つけたという体でごまかしたが、実は見つけたときには剣身部分は砕けてしまって、柄のみが残っただけだったのだ。そこで、現地の鍛冶師に剣身を急ごしらえで作ってもらってごまかした。それがこれだ」
勇者が片方の剣を茶や菓子の入れ物をどけたテーブルに置いた。
「ふむ。拝見してもいいかね?」
「そうしてくれないと困るって話だろうが」
勇者よ、なんでもないことに噛み付くな。
自分で自分の格を落としてるぞ。
アドミニス殿は、吠えかかる勇者など気にすることもなく、置かれた剣を手にすると、鞘から抜いた。
う、ヤバい、この人が抜身の剣を持つと、危機感で肌がピリピリする。
全員とんでもないプレッシャーをかけられているって感じだな。
ヤバすぎる。
これは、ルフにはフォルテをつけたほうがいいな。
フォルテ、ルフを頼むぞ。
「クルル」
フォルテは、任せろと言って、ルフの頭に止まった。
その瞬間、真っ青になってゼイゼイ言っていたルフの呼吸が普通に戻る。
頭に手をやって、フォルテの存在を理解すると、ホッとしたようだ。
お、アドミニス殿がこっちを見てる。
気にしないでください。
「この柄は、確か大地の剣と言ったか。……そうか、このような剣でも砕けるものなのだな。素晴らしい聖剣であったが。……知っているか? 我が領地に亀裂を入れたのが正にこの剣よ」
「なん……だ、と?」
勇者が心底から驚いたという顔をしている。
「その剣は、迷宮の最奥で、古代の守護者が変質したようなリッチを長い間封印していたものだ。封印が解けた途端に砕けた」
俺はそうなった事情を話した。
「なるほど。勇者の聖剣らしい最期であったということか。ふむ、しかし……この仮の剣身を打った鍛冶師はなかなか悪くない。技術は少々ゆらぎがあるが、魂がある。さすがに聖剣の柄とは釣り合わぬが、それは仕方なかろう」
「ほ、本当ですか!」
ルフが、興奮したように声を上げた。
ルフには、聖剣の事情は話してある。
アドミニス殿に弟子入りに来る以上、結局は知ることだったからだ。
ルフは、父が聖剣と言えども贋作を打ったということが引っかかっていたようだったが、だからこそ、アドミニス殿に父親の仕事を褒められたのが、よほど嬉しかったのだろう。
しかも、どちらも俺の知らないものだった。
気になって尋ねたら、茶は大森林にある野草を干して、その後火に掛けた鍋で炙ったもの。
焼き菓子は、アクが酷いのであまり人間は食べない木の実をよく水に晒して、中身を丁寧につぶしてこれも水に晒し、布でこしたものを乾燥させて、卵とハチミツとを練り込んで焼いたものらしい。
とんでもない手間を掛けてるな。
だが、俺がそう感想を言ったら。
「わしが生まれた頃は、食べるものにそのぐらい手間を掛けるのは当たり前のことだったぞ。今は恵まれているからわしが特別なように感じるだけであろう。まぁそれだけ今がいい時代ということだな」
と、微笑んで言われてしまった。
しかし、そう言われてしまえばそうかもしれない。
今は市場に行けば、食材を手間なしに買うことが出来るし、小麦だって既に粉に挽いたものを粉もの屋で買える。
金があればたいていのものは、手間なしに手に入れることが出来るのだ。
なんなら自分で食事を作らずに、食堂の飯だけで生活することも可能ですらある。
千年も前なら、まだ教会も各地に出来ていなかったはずだし、流通もほぼ徒歩、食料の栽培方法も未熟で、人々は自作半分、採取半分程度の生活だったのだろう。
そう言えば、貨幣による取り引きもなかった時代もあるような話も聞いたな。
ほぼ物々交換だったとか。
なるほど、アドミニス殿はその時代に生きた御方だから、なんでもかんでも自分で出来るようになったのか……。
いやいや、騙されるな俺。
アドミニス殿のような人間ばっかりとか、どんな超人揃いの世界だよ。
千年でどんだけ人類は衰えたんだ?
絶対どっかに変な思い込みがあるぞ。
まぁ昔は今よりも、全てに手間がかかったというのは、本当だろうけどな。
「どうしたダスター殿、なにやら難しい顔をされておるぞ」
「いや、変に考えすぎてしまっただけだ。気にしないでください。あ、そうそうつい、茶や菓子に気を取られてしまったが、今回お伺いしたのは、残念ながら気楽に遊びに来た訳ではないんです。二つほどお願いがあって」
「ほう? このわしに願いとな?」
う……。
なんか願いを言ったら代わりに魂でも取られそうな気持ちになるな。
変な迫力がありすぎるんだよ、この方。
俺は内心ため息を吐きながら、勇者に視線を送った。
「一つ目は俺からの、仕事の依頼になる」
「ほほう、仕事、ね。それはその二本の剣についてか?」
アドミニス殿は、勇者が携えた剣に視線を向ける。
「っ、そうであるともそうではないとも言える。というかお前、話の先を読むのをやめろ。話しにくい!」
勇者がぴしゃりと言った。
アドミニス殿をお前呼ばわりとか、偉そうに注意するとか、もはやさすが勇者だなとしか言えない。
「それはすまなかった」
クククと独特の笑い方で勇者の注意を受け入れるアドミニス殿。
案外楽しそうだ。
そう言えば、実物を見たことがあるはずのアドミニス殿が、初代勇者と似ていると言うぐらいだから、やはり本当に初代に似ていたんだな。
性格は全く違うらしいが。
アドミニス殿はどんな気持ちで、昔戦った相手とそっくりな勇者と話しているのだろう?
「依頼というのは、勇者の聖剣だ。実は勇者の聖剣が、ある事情で失われた。失われたままだと、絶対に問題になるんで、その代わりとなる聖剣を見つけたという体でごまかしたが、実は見つけたときには剣身部分は砕けてしまって、柄のみが残っただけだったのだ。そこで、現地の鍛冶師に剣身を急ごしらえで作ってもらってごまかした。それがこれだ」
勇者が片方の剣を茶や菓子の入れ物をどけたテーブルに置いた。
「ふむ。拝見してもいいかね?」
「そうしてくれないと困るって話だろうが」
勇者よ、なんでもないことに噛み付くな。
自分で自分の格を落としてるぞ。
アドミニス殿は、吠えかかる勇者など気にすることもなく、置かれた剣を手にすると、鞘から抜いた。
う、ヤバい、この人が抜身の剣を持つと、危機感で肌がピリピリする。
全員とんでもないプレッシャーをかけられているって感じだな。
ヤバすぎる。
これは、ルフにはフォルテをつけたほうがいいな。
フォルテ、ルフを頼むぞ。
「クルル」
フォルテは、任せろと言って、ルフの頭に止まった。
その瞬間、真っ青になってゼイゼイ言っていたルフの呼吸が普通に戻る。
頭に手をやって、フォルテの存在を理解すると、ホッとしたようだ。
お、アドミニス殿がこっちを見てる。
気にしないでください。
「この柄は、確か大地の剣と言ったか。……そうか、このような剣でも砕けるものなのだな。素晴らしい聖剣であったが。……知っているか? 我が領地に亀裂を入れたのが正にこの剣よ」
「なん……だ、と?」
勇者が心底から驚いたという顔をしている。
「その剣は、迷宮の最奥で、古代の守護者が変質したようなリッチを長い間封印していたものだ。封印が解けた途端に砕けた」
俺はそうなった事情を話した。
「なるほど。勇者の聖剣らしい最期であったということか。ふむ、しかし……この仮の剣身を打った鍛冶師はなかなか悪くない。技術は少々ゆらぎがあるが、魂がある。さすがに聖剣の柄とは釣り合わぬが、それは仕方なかろう」
「ほ、本当ですか!」
ルフが、興奮したように声を上げた。
ルフには、聖剣の事情は話してある。
アドミニス殿に弟子入りに来る以上、結局は知ることだったからだ。
ルフは、父が聖剣と言えども贋作を打ったということが引っかかっていたようだったが、だからこそ、アドミニス殿に父親の仕事を褒められたのが、よほど嬉しかったのだろう。
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