勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

854 プレゼント

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「とは言え、わしが弟子を取るとなると、わしだけの問題ではなくなるな。ルフの滞在許可が必要であろう」

 アドミニス殿が、相変わらず鋭いところにツッコんでくれる。
 そうなんだよな、ルフはディスタス大公国の人間だから、国を移った際の住人証明の登録と、その土地を治める者の許可が必要だ。
 本来問題になるような話ではないんだが、ここで、その理由が引っかかる可能性が高い。

 なにしろ、ここの城の主である、現ロスト辺境伯は、アドミニス殿の存在を認めていないのだ。
 どうも幽鬼のたぐいと思い込んでいる節がある。
 そんな相手の弟子になるとか言ってしまうと、絶対に問題が発生するだろう。
 人の思い込みという奴は、時間の経過と共に強固になる場合が多い。
 うまいこと、ロスト辺境伯の認識を変えられるといいんだが。

「お父さまは、優秀な鍛冶師の弟子を喜んで受け入れると思います。この領地は、財源になるものが少ないので、優秀な鍛冶師が居着いてくだされば、ありがたいはずですから」

 聖女が明るく受け合う。
 どうも聖女は、父親の、アドミニス殿に対する認識について、わりと楽観的なようだ。
 確かに、ロスト辺境伯の、娘である聖女に対する愛情を思えば、彼女の言葉なら聞き入れる可能性は高いだろう。
 逆に言えば、聖女の言葉すら聞き入れないようなら、もはや打つ手がないということでもある。

「まぁそうだな。とりあえず話してみるしかあるまい」

 俺もうなずいた。
 当人がいないところで何を話しても意味はない。
 話をしてみて、その反応によって、やるべきことも決まるだろう。

「それでは、二つの頼みの両方をお引き受けくださるということだな」

 勇者が、丁寧に確認をした。
 いかにウマが合わない相手でも、頼みごとをする立場なので、最後ぐらいは丁寧に確認したようだ。
 いや、最後だけ丁寧にしても、意味がないような気もするが。

「ああ。喜んで、と、言ってもいい。どちらもわしにとっても、喜ばしい話だからな。ときにその炎の魔剣だが、少し調整をしようか? お主に合わせて、魔力の余剰分で少々面白い挙動を加えることも可能だぞ」
「う……」

 勇者はしばしの葛藤の末、「頼む」と炎の魔剣を差し出した。
 製作者であるアドミニス殿が調整するのなら、間違いはないはずだ。
 いかに気に食わない相手でも、手札を増やせる魅力には抗えなかったのだろう。
 うんうん、アドミニス殿に転がされている感じがするが、結果としていい方向に行くなら全然問題はない。
 ちなみに勇者は現在丸腰になってしまったな。
 まぁ魔法だけあればたいがいのことは問題ないだろうけど。

「あ、あの。僕は今からここに?」

 ルフがさっきまでのシャッキリしたモードから、へにゃりとしたモードに戻って、おどおどと尋ねる。
 いやいや、さすがにそこまで俺達も無責任じゃないし、今ここにルフを残して置けない理由もあった。

「いや、まだ手続きとかがあるからな。一度上に戻って、領主さまとの会食を待とう。直接話し合いが出来るのは、その席で、となるだろうし、そこで領主殿から許可をもらえたとしても、手続き自体に少し時間がかかるはずだ。本当はその間は通わせてやりたいんだが、ここへの扉を開けられるのが、俺達のなかではミュリアだけなんだ。ミュリアはご両親との時間があるから、そうそう無理は言えない」
「そ、そうですか」

 ルフは、喜びつつも、残念そうな表情もする。
 気持ち的には複雑なんだろう。
 俺なんか自分の師匠として心に決めた相手に、猛アタックを繰り返した人間だから、なんとなく心情は理解出来る。
 自分をよりよく育てたいと思っている人間にとって、生涯の規範となるべき師の存在は重い。
 出来るだけ早めに弟子入りして、師から多くを学ぶべきだと、焦る気持ちも生まれるだろう。

「と、言うことで、アドミニス殿ご自身も言われたように、ルフの弟子入りについては、もう少し待って欲しい」
「もちろん。わしは待つことには慣れているからな。いつでも、気が向いたときに訪れるがいい。お、そうだ。師匠として、ルフに初めての贈り物をくれてやろう」
「お、贈り物、ですか」

 ルフは戸惑いと、ちょっとうれしそうな様子を見せる。
 パチン、と、アドミニス殿が指を鳴らすと、ふわっと光の玉が浮かんだ。
 明かりの魔法として勇者や聖女がよく使う光の玉があるが、あれよりもずっと小さい。
 手のひらにすっぽりと隠れるぐらいのサイズだ。

「その、ダスター殿の鳥を羨ましそうにしていたからな。そなたの従魔だ」
「えっ!」

 従魔と言われて、改めてよく見ると、光の玉、と見えたのは、透き通った蝶のような、不思議な虫のような何かだった。
 それがふわふわとルフに近づいて、その肩にちょこんと乗る。

「わわっ、か、かわいい……」

 ルフの言うように、それは可愛い見かけと言えるだろう。
 虫が苦手というモンクですら、微笑みを浮かべて見ている。
 あまり虫っぽい部分がないからだろうな。

 その虫のような光は、チリリリリリ……と、小さな鈴のような音を発して、ルフの周りを飛び回り、まるでじゃれつくようにその手元にふわふわと浮かぶ。

「言葉を発することは出来ないが、言葉を理解することは出来る。なかなか賢いぞ。いろいろ便利に使いこなしてみせろ」
「は、はい! ありがとうございます」

 ルフは、深々と頭を下げる。
 その頭の上で跳ねている光の玉の姿は微笑ましいが、こんな魔物の存在、俺は知らないんだよな。
 もしかして、作ったのかな?
 そうだとすると、とんでもない話だ。
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