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第八章 真なる聖剣
864 晩餐会 4
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「わかりました。しかしそのお話は、この晩餐会が終わった後にいたしましょう。この度は我が家の料理人が腕によりをかけて作った料理の数々をお楽しみください」
勇者と聖女の言葉に、しばし沈黙していたロスト辺境伯だったが、やがて疲れたような表情でそう告げた。
これはさすがにもっともな話だったので、勇者もうなずく。
「わかった。確かに食事を楽しむ前にする話でもないな。せっかく歓迎してくれようとしていたのに、場を荒らして悪かった」
「いえ、元はと言えば我が家に連なる者の失態から勇者殿の気が逸れてしまわれたのでしょう。こちらこそ申し訳なかった」
ロスト辺境伯の言葉に、聖女の兄君家族が申し訳なさそうに目を伏せた。
これでは到底楽しい雰囲気で食事とはなるまい。
「このような内々の晩餐会で失態もなにもないと思うが。そもそも幼い子どものやったことにいちいち目くじらなど立てない。俺はそんな狭量な人間ではないぞ」
「それは、……そうでしょうな」
勇者の言葉が意外だったのか、ロスト辺境伯は目をパチクリとさせた。
「俺も気が急いて、大事な話をこんなに早い段階でしてしまったのは悪かった。まぁとりあえず、あの、ルフ少年を城主殿に紹介しておきたかったんでな。よかったら客人として覚えておいて欲しい」
「それはもちろん」
「ところで、内々というからには、こちらの従者達も一緒に晩餐会に参加させてもらってもいいか? 旅の間は共に分け隔てなくやって来たので、ああやって壁際に立たれていると、気になってならない」
「もちろんですとも。しかし勇者殿は、私の思っていた感じとは違っていました」
「ほう? 傲慢で、冷酷な男とでも思っていたか? ミュリアに無理をさせて苦しめるような」
「……いえ、そこまでは」
あ、勇者の奴、どさくさに紛れて俺達を巻き込みやがった。
まぁ、許可を受けた以上は仕方ないな。
さっそく給仕が、俺とメルリルの元に、飲み物と取皿を運んで来たし。
「せっかくだ。何か食うか、メルリル」
「美味しそうな料理がいっぱい。あの、スープのないシチューのようなの、似たものをハルンさんから教わったことがある」
「ハルン婆さんか、懐かしいな。まだ生きてるといいな」
「ダスター、そういうこと言わない」
メルリルにポカリとぶたれつつ、料理の並んだテーブルへと近づいた。
いろいろあって、まだ誰も料理に手をつけておらず、せっかくの手がかかる品々がどんどん冷めていっている。
「ルフ、クリスさまを呼んで来てくれないか? 二人共テーブルに手が届かないだろうから、美味そうなものを取り分けてやろう」
「あ、はい」
勇者とは違った方向で素直なルフは、場所柄、騒々しくならないようにと配慮してか、走らずに、少し早足で聖女の兄家族の元へと向かった。
「あの、失礼いたします。僕、先程勇者さまからご紹介にあずかったルフと申します。平民の身でその、失礼かもしれませんが、クリスさまとお話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「まぁ、ご丁寧な挨拶ありがとうございます。この度の晩餐会は、内々のもので、あなた方の歓迎の意味があるのですよ。ですから、あなた方が遠慮なさる必要はありませんわ」
丁寧に話す平民の少年に好感を覚えたのか、ロスト辺境伯の長男の奥方がにっこりと笑って応じた。
その夫で、ロスト辺境伯の長男マーシアスは、重々しくうなずくとルフに尋ねる。
「先程、クリスが危険な行いをしてしまったが、君は怖くはないのかね?」
「聖女さまが危険のないようにしてくださったのでしょう? それなら大丈夫ですよ」
明快な答えに、夫妻の顔が明るくなった。
他人の言葉を勘ぐってしまいがちなときには、素直な子どもの言葉に救われることがあるものだ。
さきほどまで強張っていた長男夫婦の様子が柔らかくなったのがわかる。
子どもというだけじゃない。
ルフには人の心を解きほぐす才能があるな。
「クリス、さ、この方とご一緒していらっしゃい」
「は、はい」
叱られて落ち込んでいたクリス君だったが、両親がもう怒ってない様子だと理解したのか、緊張しながらも、そう返事をする。
「クリスさまとお呼びしてもいいですか?」
「うん。お兄ちゃんのおなまえは?」
「僕はルフと言います。よろしくお願いしますね」
「よ、よろしく、です!」
ずっと泣きそうな様子でいたクリス君は、大人達よりはずっと年頃が近いが、それなりにお兄ちゃんなルフに興味津々のようだった。
さっきまでの様子が嘘のように表情が明るくなる。
そして、二人が連れ立ってこっちにやって来た。
俺はテーブルの上の料理の数々を確認しながら尋ねる。
「クリスさま、腸詰めはお好きですか?」
「大好き!」
「お野菜は?」
「……カブのつぼづけは嫌いです」
この年頃でけっこう好き嫌いがはっきりしているんだな。
俺は感心しながら、子どもの好きそうなものを二人分取り分けた。
クリス君は酸っぱいものが苦手っと。
「ではこっちのテーブルに座って楽しんでください」
立食形式でも、疲れたときに座って食べられるように、小さなテーブルセットは用意してある。
子ども達にはちと椅子が低いのだが、すかさず給仕が厚みのあるクッションを持って来てくれた。
「ありがとう。助かったよ」
「いえ」
よく教育されている給仕は、言葉少なにさっと下がる。
俺はクッションの上に二人を座らせると、改めて二人の前に料理の皿を並べなおす。
その間に、先程の給仕が、素早く子ども用にハチミツ水を持って来てくれた。
こいつ出来るな。
「じゃ、俺は俺で何か食って来るから、ルフはクリスさまに旅の話でもしてあげてくれ。椅子から下りたくなったら、俺を呼ぶか、さっきの給仕の人に頼むかすれば大丈夫だから。間違っても飛び降りるなよ?」
「わかった」
「わ、わかりました!」
うんうん、子どもは元気が一番。
子どもが泣いてる席で食事なんか楽しめないもんな。
勇者と聖女の言葉に、しばし沈黙していたロスト辺境伯だったが、やがて疲れたような表情でそう告げた。
これはさすがにもっともな話だったので、勇者もうなずく。
「わかった。確かに食事を楽しむ前にする話でもないな。せっかく歓迎してくれようとしていたのに、場を荒らして悪かった」
「いえ、元はと言えば我が家に連なる者の失態から勇者殿の気が逸れてしまわれたのでしょう。こちらこそ申し訳なかった」
ロスト辺境伯の言葉に、聖女の兄君家族が申し訳なさそうに目を伏せた。
これでは到底楽しい雰囲気で食事とはなるまい。
「このような内々の晩餐会で失態もなにもないと思うが。そもそも幼い子どものやったことにいちいち目くじらなど立てない。俺はそんな狭量な人間ではないぞ」
「それは、……そうでしょうな」
勇者の言葉が意外だったのか、ロスト辺境伯は目をパチクリとさせた。
「俺も気が急いて、大事な話をこんなに早い段階でしてしまったのは悪かった。まぁとりあえず、あの、ルフ少年を城主殿に紹介しておきたかったんでな。よかったら客人として覚えておいて欲しい」
「それはもちろん」
「ところで、内々というからには、こちらの従者達も一緒に晩餐会に参加させてもらってもいいか? 旅の間は共に分け隔てなくやって来たので、ああやって壁際に立たれていると、気になってならない」
「もちろんですとも。しかし勇者殿は、私の思っていた感じとは違っていました」
「ほう? 傲慢で、冷酷な男とでも思っていたか? ミュリアに無理をさせて苦しめるような」
「……いえ、そこまでは」
あ、勇者の奴、どさくさに紛れて俺達を巻き込みやがった。
まぁ、許可を受けた以上は仕方ないな。
さっそく給仕が、俺とメルリルの元に、飲み物と取皿を運んで来たし。
「せっかくだ。何か食うか、メルリル」
「美味しそうな料理がいっぱい。あの、スープのないシチューのようなの、似たものをハルンさんから教わったことがある」
「ハルン婆さんか、懐かしいな。まだ生きてるといいな」
「ダスター、そういうこと言わない」
メルリルにポカリとぶたれつつ、料理の並んだテーブルへと近づいた。
いろいろあって、まだ誰も料理に手をつけておらず、せっかくの手がかかる品々がどんどん冷めていっている。
「ルフ、クリスさまを呼んで来てくれないか? 二人共テーブルに手が届かないだろうから、美味そうなものを取り分けてやろう」
「あ、はい」
勇者とは違った方向で素直なルフは、場所柄、騒々しくならないようにと配慮してか、走らずに、少し早足で聖女の兄家族の元へと向かった。
「あの、失礼いたします。僕、先程勇者さまからご紹介にあずかったルフと申します。平民の身でその、失礼かもしれませんが、クリスさまとお話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「まぁ、ご丁寧な挨拶ありがとうございます。この度の晩餐会は、内々のもので、あなた方の歓迎の意味があるのですよ。ですから、あなた方が遠慮なさる必要はありませんわ」
丁寧に話す平民の少年に好感を覚えたのか、ロスト辺境伯の長男の奥方がにっこりと笑って応じた。
その夫で、ロスト辺境伯の長男マーシアスは、重々しくうなずくとルフに尋ねる。
「先程、クリスが危険な行いをしてしまったが、君は怖くはないのかね?」
「聖女さまが危険のないようにしてくださったのでしょう? それなら大丈夫ですよ」
明快な答えに、夫妻の顔が明るくなった。
他人の言葉を勘ぐってしまいがちなときには、素直な子どもの言葉に救われることがあるものだ。
さきほどまで強張っていた長男夫婦の様子が柔らかくなったのがわかる。
子どもというだけじゃない。
ルフには人の心を解きほぐす才能があるな。
「クリス、さ、この方とご一緒していらっしゃい」
「は、はい」
叱られて落ち込んでいたクリス君だったが、両親がもう怒ってない様子だと理解したのか、緊張しながらも、そう返事をする。
「クリスさまとお呼びしてもいいですか?」
「うん。お兄ちゃんのおなまえは?」
「僕はルフと言います。よろしくお願いしますね」
「よ、よろしく、です!」
ずっと泣きそうな様子でいたクリス君は、大人達よりはずっと年頃が近いが、それなりにお兄ちゃんなルフに興味津々のようだった。
さっきまでの様子が嘘のように表情が明るくなる。
そして、二人が連れ立ってこっちにやって来た。
俺はテーブルの上の料理の数々を確認しながら尋ねる。
「クリスさま、腸詰めはお好きですか?」
「大好き!」
「お野菜は?」
「……カブのつぼづけは嫌いです」
この年頃でけっこう好き嫌いがはっきりしているんだな。
俺は感心しながら、子どもの好きそうなものを二人分取り分けた。
クリス君は酸っぱいものが苦手っと。
「ではこっちのテーブルに座って楽しんでください」
立食形式でも、疲れたときに座って食べられるように、小さなテーブルセットは用意してある。
子ども達にはちと椅子が低いのだが、すかさず給仕が厚みのあるクッションを持って来てくれた。
「ありがとう。助かったよ」
「いえ」
よく教育されている給仕は、言葉少なにさっと下がる。
俺はクッションの上に二人を座らせると、改めて二人の前に料理の皿を並べなおす。
その間に、先程の給仕が、素早く子ども用にハチミツ水を持って来てくれた。
こいつ出来るな。
「じゃ、俺は俺で何か食って来るから、ルフはクリスさまに旅の話でもしてあげてくれ。椅子から下りたくなったら、俺を呼ぶか、さっきの給仕の人に頼むかすれば大丈夫だから。間違っても飛び降りるなよ?」
「わかった」
「わ、わかりました!」
うんうん、子どもは元気が一番。
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