勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

890 光の道しるべ

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 俺達がアドミニス殿のところへ行くと決めた途端、ルフの肩に小さな光が浮かんだ。
 
「あいつからもらった、例の使い魔とかいう奴か。今までどこにいたんだ?」

 勇者がうさんくさそうな視線を、その小さな光に向ける。
 すると、その小さな光は、まるで勇者を嫌がるように、さっとルフの後ろに逃げ込んだ。

「あ、はい。実は目立つと問題になると思って、見えないように出来ないかと聞いたら、姿を隠してくれていたんです。お父さんに会えると思って、つい姿を現したんでしょう。まだ子どもなんです」
「お父さん? 子ども、ね」
「アルフ、やめろ。ルフに絡む必要はないだろ? 自分の従魔とうまくいってないからって、他人の従魔まで嫌うのはおかしいだろ」

 勇者はどうもアドミニス殿とあまり相性がよくない上に、半ば無理やり自分の従魔となった若葉のことを苛立たしく思っているせいで、ルフの連れている、アドミニス殿の作った従魔が気に食わないようだった。
 まぁ、あのちっこい光の玉は、使い魔というらしいが。
 それにしたって、ルフからすれば、完全にとばっちりである。

「べ、別にルフに絡んでる訳じゃないぞ! 子どもの傍に危険なものがいるのが不安なだけだ」
「だ、大丈夫です! リンは、優しい子なんです!」

 ルフは光の玉を庇うように両手で守った。
 その様子に、さすがに自分が大人げなかったと気づいたのか、勇者も絡むのを止める。

「お前がいいならいいんだけどな」

 ルフに嫌われても知らないからな。
 勇者は意外と子ども好きなので、ルフぐらいの年頃の子に拒絶されるのは、それなりにこたえるはずだ。

「その子に名前をつけたのか?」

 仕方がないので、俺は話題を変えるためにルフに話しかけた。
 ルフは、パッと顔を輝かせて俺に答える。

「はい! この子が何かを伝えようとするときに、リンリンという音がするので、リンと名付けました」
「いい名前だな」
「えへへ」

 ルフは、勇者の言動は特に気にしていないようで、俺の言葉に照れてみせた。
 勇者が変な絡み方をするのはいつものことなので、慣れたのかもしれない。

「とりあえず、地下の工房に行く前に、今回は城主殿に話を通しておこう。事情はもう説明してあるんだし、自分の城のなかで訳のわからないことをされるのも嫌だろうからな」
「それでは、わたくしがお伝えしてまいります。帰還の挨拶もまだですし、丁度いいでしょう」

 聖女が申し出る。
 積極的になって来たな。
 ありがたい話だ。

「ああ、お願いする。それ以上の人選は有り得ないぐらいだ」
「ふふっ」

 俺の言葉にちょっと笑って、聖女は元気よく部屋を出て行った。
 地下工房には、昼食を終えてから行くとして、どうせあのアドミニス殿のことだから、何かお茶の用意をしているのだろう。
 あまり昼は食べすぎないようにしないとな。
 厨房に控えめにするようにひとこと断りを告げて来るか。

「俺はちょっと厨房に顔を出して来る。昼は少なめでいいだろう?」
「あの客好きが何も出さない訳がないもんな。さすが師匠、俺はそこまで気が回らなかった」

 勇者がまたさすがと言って来たが、今回の褒め言葉は、まぁ悪くはない。

「そりゃあそうだ。俺は勇者さまの従者だからな」
「師匠~」

 情けない顔になる勇者を残し、俺は厨房に昼を軽くするように言いに行ったのだった。

 ――◇◇◇――

 焼いたパンに炙った肉を乗せて食べるという軽い昼食を取った後、アドミニス殿の地下工房を再訪する。
 聖女はロスト辺境伯殿と会って、ちゃんと許可を取ったとのことだった。

「でも、しつこいぐらい、安全を確認されました。私は聖女なので呪いのたぐいは効かないと説明して、ようやく安心したようです。おじいさまに失礼ですよね」

 と、それでも少し揉めたらしく、聖女は少し怒っているようだった。
 長年、危険な呪いのかたまりが地下に存在すると思っていたんだから、そんなに急に切替えは出来ないのだろう。
 それに、親としては当然の心配だと思うぞ?

 とは言え、過保護な親が子どもから嫌がられるのは、貴族も平民も同じだな、と、少し微笑ましい気持ちにもなった。
 次に会うときには、ロスト辺境伯に対して、今まで以上に親しみを感じられるだろう。

 明らかに通常の通路ではない狭い通路を上がったり下がったりした挙げ句、階段の途中に出現する封印紋章ロックによって隠された扉。
 五歳程度の幼い頃に発見して、その上親に報告もせずに侵入してしまったという聖女は、実は本来はお転婆な性格だったのではないだろうか?
 地下への扉を見ると、ふとそんな気持ちになる。

 普通、小さい女の子が一人で潜り込むだろうか?
 うーん、いや、やるかもな。
 何人かの知り合いの女冒険者の顔を思い浮かべた俺は、女の子が大人しいという既成概念を捨て去ることにした。

 通路に入ると、勇者が魔法で光の玉を発現させる前に、ルフの使い魔であるリンが、見た目は小さいのに、通路をはっきりと照らす光を灯してくれる。

「ありがとう、リン」

 ルフがお礼を言うと、嬉しそうにクルクル回るのが意外に可愛らしい。
 まぁ可愛らしいと言っても、見た目には、ただの光にしか見えない感じなんだが。
 一応目をぐっと細めて見ると、薄い蝶の羽根のようなものが見えるので、ただの光ではなく、姿を有してはいるのだろう。
 普通に見ていると全然わからないが。

 名前の由来通り、ルフの言葉に答えるようにチリリンと、小さな鈴のような音を発している。
 あの音がコミュニケーション手段なんだろうな。
 地下にこもりっきりのアドミニス殿に弟子入りするルフには、暗闇を払い、明るい気分にしてくれるリンは、とてもありがたい存在に違いない。

 俺は、かつて魔王だったアドミニス殿の、意外な細やかな気づかいに、心が温かくなるのを感じたのだった。
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