勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
840 / 885
第八章 真なる聖剣

945 魔犬との戦い 3

しおりを挟む
 勇者の光球の光も届かない真の暗闇のなか、暗視に頼った視界だが、俺はその巨大な魔犬が、ニヤリと笑ったのを確かに見た。
 鼻のいい魔犬相手に血を流した状態では、身を隠すことも逃げることも出来ない。
 それを知っているのだろう。
 まぁこっちは元々身を隠す気もないけどな。

 護衛の魔犬三頭が、ボスの指示で別々の場所と高さから襲って来る。

「なるほど、お前ら本当に狩りが巧みだな。だがな、なら、こんな人里近くまで来る必要なかっただろうが!」

 森の奥には丘陵地帯があり、そこには高低差に強い大角が大きな群れを作っているはずだ。
 大角は冬場は特に頻繁に移動していて、魔犬はその群れを襲って餌とすることが多い。
 若い群れならともかく、こんな優秀なボスが率いる群れがそうそう飢えるとは考えにくいのだ。

 それなのに森の奥で何かあったのか、単なる気まぐれか、愚かにも人里近くに来るという判断をしたボスによって、率いる群れの末路は定まってしまった。

 魔犬のボスは、俺の言葉など鼻で笑うように牙を剥いて見せる。

 俺はケガをした左肩をだらりと下げ、誘いをかけた。
 案の定、護衛のうち二頭までが、左から襲って来る。
 下手に賢いおかげで、こっちとしては誘導しやすい。
 すかさず右前方へと走り、そっちから大きくジャンプをして飛びかかって来た一頭を斬り捨てる。

「ギャンッ!」
「グルルルルルッ!」

 仲間がやられたのを見て、ボスが怒りを露わに唸り声を響かせた。
 そうだ、余裕ぶっていると、全ての護衛を剥がされるぞ。

「ガウガウッ!」

 ボスの指令と共に、残った護衛の大型魔犬が姿を消す。
 隠れたのではなく、襲撃現場のほうへと向かったようだ。
 どうやらボスは、餌の確保を優先して、俺とは一対一で決着をつける気になったらしい。
 いや、もしかすると向こうの群れも崩れたのか?
 勇者達がうまくやっているようだな。

 下手な木よりもデカい魔犬のボスは、油断なくこちらを覗いつつ低く構える。
 だが、それこそが俺の待っていた場面だ。
 断絶の剣は未だほんのわずかな溜めが必要なのである。

「お前の毛皮はちゃんと有効に使わせてもらうぞ」

 星降りが闇夜に銀の光を散らす。
 そして、ゴトリ、と鈍い音と共に、魔犬のボスの頭が落ちる。
 あっけない幕切れとなった。

 転がった巨大な魔犬のボスの頭は、俺の背と同じぐらいの大きさだ。
 その口は、何かを叫ぼうとするかのように大きく開かれ、その目は最期まで憎々しげに俺を睨みつけていた。

「すまんな。だが、人里に来たら死ぬ。そう思ってくれないと困るんでね」

 魔物達に、人が狩りやすい獲物と思われてしまったら終わりなのだから。
  
「さて、と。あっちはどうなってるかな?」

 魔犬は吠え声だけでなく、群れの仲間同士は意識の共有が出来て、大雑把な指示はそれで行うことが出来る。
 つまり、魔犬の群れは、ボスを失ったことに気づいたはずだ。

「キャウン!」
「ギャワン!」
「なんだこいつら、急に及び腰になりやがって!」

 木々を掻き分けて騒がしい方向に進むと、勇者達が戦っている現場に出た。
 領民の木樵きこり達は、ケガ人を輪の中心に入れ、無事だった三人がモンクと共に魔犬と対峙している。
 彼等は防衛に徹しているようだった。
 動き回る魔犬達を攻撃しているのは勇者と聖騎士だ。
 一人馬から下りた勇者と、馬上から槍を振るう聖騎士が、それぞれ低い位置と高い位置をカバーして戦っていた。

「群れのボスを倒した! 残った魔犬達では連携した動きは出来ないはずだ。一頭ずつ確実に仕留めて行こう」
「あ、師匠……師匠ッ?」

 勇者がこっちを見たと思ったら驚いたような顔になり、手元がおろそかになる。

「何してんだ! 食われるぞ!」

 いかにボスを倒して連携が出来なくなったとは言え、魔犬個々の戦闘能力は一般的な兵士以上とされているのだ。
 決して油断していい相手ではない。

「師匠、凄い血が! 返り血か?」
「あ、ああっ!」

 しまった、出血しているのを忘れていた。
 かなり動いた上に魔力まで減らしたから、血がうまく止まらないぞ。

「こっちが大丈夫そうなら、ミュリアにケガを治してもらって来る。任せていいか?」
「はい。お任せください」

 聖騎士がコクリと頷きを返した。
 ここは勇者の光球があって明るいので、下手に魔力を使わなくても様子がちゃんと見えるのがいいな。

「えっ、師匠が、ケガ? えっ?」
「勇者、集中してください!」

 いきなり動揺し始めた勇者を聖騎士が叱りつける。
 勇者め、気を抜くのが早いぞ。

 聖女とメルリルのいる方向はどっちかな? と思って見回していると、「ピャウ!」というフォルテの声が聞こえた。
 ホッとして呼びかける。
 
「お、フォルテ、丁度いい……うわっ!」
「ダスター! 大丈夫なの? フォルテが、ダスターがケガしたって知らせて来て!」

 いきなりメルリルが飛びついて来た。
 危ない。
 もう少しで剣を抜くところだった。

「血が、こんなに……」
「おわっ!」

 メルリルの両目に涙が溢れ、ボロボロとこぼれ落ちる。

「ほ、ほら、平気だ、大丈夫だから」

 俺は咄嗟に、ケガをしているほうの腕を振り回してしまった。
 いてえっ! しかし、耐えるのだ俺。
 メルリルが泣いてるんだぞ!

「だ、駄目、無茶をしちゃ。こっち、早く! ミュリア! 助けて!」
「平気だ、平気だって」

 俺は間抜けにも、そう繰り返すことしか出来ないまま、メルリルに引っ張られて行ったのだった。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。