悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。

蒼衣翼

文字の大きさ
2 / 4

旅立ちは突然に

しおりを挟む
 アレリは、家に伝わる精霊種という存在の話を、おとぎ話のように聞いて育った。
 もちろん、自分がそんな存在だとは思わなかったが、世界と語らい、人と世界との橋渡しをしていたという精霊種には、憧れがある。

「ワフッワフッ」

 アレリが同行を認めると、ルーンは嬉しそうにふさふさの尾を振った。
 そうしていると、ただの大きな犬のようだ。
 白銀の、誰も触れていない雪のような毛皮がとても美しいルーンは、アレリが物心付く前から、ずっと一緒にいたため、家族のようなものだった。
 本当の家族とはもう会えず、もはや戻る術はない。
 そんなアレリにとって、ルーンの存在は大きかった。

 頼もしい仲間の出現に、アレリは萎えた膝に力を入れて、立ち上がる。

「頑張らないと、一人じゃないんだし」

 次代の王の妻となるための教育を受けていたアレリには、今、自分がいる場所がだいたい把握出来た。
 ここは、他国との境にある緩衝地帯の荒れ地、不毛の地ダートである。
 とすると、陽の昇る方向へ歩けば、精霊信仰が盛んなことで有名な国、アンジュールに到着するはずだ。
 途中いくつかの国を通過するが、ルーンの持って来た荷物のなかに、平民としての出自証明があったため、旅人として通行することが出来る。
 アンジュールは、子どもの頃からの、アレリの憧れだった。
 精霊を愛し、共に生きる国とはどんなところだろう?
 全てのしがらみから解き放たれた今こそ、憧れの地へ行ってみるべきかもしれないと、アレリは心に決めたのだ。

「行こうか、ルーン」
「ワフン!」
「え? 背中に乗っていいって? ふふっ、ありがとう」

 ルーンは霊獣なので、普通の野の獣とは違い、見た目以上に力があった。
 自分の身体よりも巨大な魔獣を、体当たりで弾き飛ばしたこともある。
 アレリは、ルーンの言葉に甘えて、その背に横座りで乗った。
 普通なら不安定な体勢だが、不思議なことに、ルーンの背では落ちる心配などする必要がない。

「ふふっ、子どもの頃みたいだね」
「ワフッ!」

 一人と一頭は、不毛の大地を軽やかに走り抜けたのだった。

 やがて辿り着いた、精霊の国アンジュールの国境の街は、街自体の印象は、素朴な木材とレンガ造りの建物が立ち並ぶ、のどかな街である。
 しかし、街の周辺には、街を囲むように、五つの塔があり、その塔のてっぺんには、神獣と呼ばれる獣の姿をかたどった像があった。
 それだけではない。
 それぞれの像の口に咥えられている宝珠は、途方も無い力を秘めたものだと、なぜかアレリにはわかった。
 それは、悪しきものを監視する、精霊の目であるらしい。

「さすがに精霊の国だね。国境の街なのに、もうほかの国と全然違うわ」

 アレリは、ルーンの肩から横腹辺りを撫でながら、そんな風に言った。
 これまで、街に入るときには、ルーンは姿を人の目から見えなくしていたのだが、精霊の目がある以上、すぐに露見してしまうだろう。
 仕方ないので、アレリとルーンはそのまま街へと入ることにした。
 実のところ、この国に辿り着くまでに、父から餞別としてもらったお金は底をついていて、入国するためのお金すら怪しい状態なのだ。
 場合によっては、何かお金の代わりになるものを提出する必要があるだろう。

「狩りの獲物とかで大丈夫かな?」
「クーン」

 不安そうにしながらも、とりあえず入国の列に並ぶ。
 現在時間は、すでに午後となっていて、入国の列もそう多くはない。
 一般的に、入国する人が多いのは早朝である。
 物売りの人達が、街で商売をするために朝一番に押し寄せるのだ。
 そういった常識を、旅の途中で学んだアレリは、国境の街へ入る場合には、昼過ぎに訪れるようにしていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

追放された令嬢は英雄となって帰還する

影茸
恋愛
代々聖女を輩出して来た家系、リースブルク家。 だがその1人娘であるラストは聖女と認められるだけの才能が無く、彼女は冤罪を被せられ、婚約者である王子にも婚約破棄されて国を追放されることになる。 ーーー そしてその時彼女はその国で唯一自分を助けようとしてくれた青年に恋をした。 そしてそれから数年後、最強と呼ばれる魔女に弟子入りして英雄と呼ばれるようになったラストは、恋心を胸に国へと帰還する…… ※この作品は最初のプロローグだけを現段階だけで短編として投稿する予定です!

冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜

影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。 けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。 そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。 ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。 ※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。

私が消えたその後で(完結)

ありがとうございました。さようなら
恋愛
シビルは、代々聖女を輩出しているヘンウッド家の娘だ。 シビルは生まれながらに不吉な外見をしていたために、幼少期は辺境で生活することになる。 皇太子との婚約のために家族から呼び戻されることになる。 シビルの王都での生活は地獄そのものだった。 なぜなら、ヘンウッド家の血縁そのものの外見をした異母妹のルシンダが、家族としてそこに溶け込んでいたから。 家族はルシンダ可愛さに、シビルを身代わりにしたのだ。

召喚聖女が来たのでお前は用済みだと追放されましたが、今更帰って来いと言われても無理ですから

神崎 ルナ
恋愛
 アイリーンは聖女のお役目を10年以上してきた。    だが、今回とても強い力を持った聖女を異世界から召喚できた、ということでアイリーンは婚約破棄され、さらに冤罪を着せられ、国外追放されてしまう。  その後、異世界から召喚された聖女は能力は高いがさぼり癖がひどく、これならばアイリーンの方が何倍もマシ、と迎えが来るが既にアイリーンは新しい生活を手に入れていた。  

ここに聖女はいない

こもろう
恋愛
数百年ぶりに復活した魔王を討伐するために、少数精鋭のパーティーが魔王のいる《冬夜の大陸》へと向かう。 勇者をはじめとするメンバーは皆優秀だが、聖女だけが問題児。 どうしてこんな奴がここにいる? かなり王道ど真ん中かつ、ゆるゆるファンタジー。

リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します

青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。 キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。 結界が消えた王国はいかに?

侯爵令嬢セリーナ・マクギリウスは冷徹な鬼公爵に溺愛される。 わたくしが古の大聖女の生まれ変わり? そんなの聞いてません!!

友坂 悠
恋愛
「セリーナ・マクギリウス。貴女の魔法省への入省を許可します」 婚約破棄され修道院に入れられかけたあたしがなんとか採用されたのは国家の魔法を一手に司る魔法省。 そこであたしの前に現れたのは冷徹公爵と噂のオルファリド・グラキエスト様でした。 「君はバカか?」 あたしの話を聞いてくれた彼は開口一番そうのたまって。 ってちょっと待って。 いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないですか!!? ⭐︎⭐︎⭐︎ 「セリーナ嬢、君のこれまでの悪行、これ以上は見過ごすことはできない!」 貴族院の卒業記念パーティの会場で、茶番は起きました。 あたしの婚約者であったコーネリアス殿下。会場の真ん中をスタスタと進みあたしの前に立つと、彼はそう言い放ったのです。 「レミリア・マーベル男爵令嬢に対する数々の陰湿ないじめ。とても君は国母となるに相応しいとは思えない!」 「私、コーネリアス・ライネックの名においてここに宣言する! セリーナ・マクギリウス侯爵令嬢との婚約を破棄することを!!」 と、声を張り上げたのです。 「殿下! 待ってください! わたくしには何がなんだか。身に覚えがありません!」 周囲を見渡してみると、今まで仲良くしてくれていたはずのお友達たちも、良くしてくれていたコーネリアス殿下のお付きの人たちも、仲が良かった従兄弟のマクリアンまでもが殿下の横に立ち、あたしに非難めいた視線を送ってきているのに気がついて。 「言い逃れなど見苦しい! 証拠があるのだ。そして、ここにいる皆がそう証言をしているのだぞ!」 え? どういうこと? 二人っきりの時に嫌味を言っただの、お茶会の場で彼女のドレスに飲み物をわざとかけただの。 彼女の私物を隠しただの、人を使って階段の踊り場から彼女を突き落とそうとしただの。 とそんな濡れ衣を着せられたあたし。 漂う黒い陰湿な気配。 そんな黒いもやが見え。 ふんわり歩いてきて殿下の横に縋り付くようにくっついて、そしてこちらを見て笑うレミリア。 「私は真実の愛を見つけた。これからはこのレミリア嬢と添い遂げてゆこうと思う」 あたしのことなんかもう忘れたかのようにレミリアに微笑むコーネリアス殿下。 背中にじっとりとつめたいものが走り、尋常でない様子に気分が悪くなったあたし。 ほんと、この先どうなっちゃうの?

処理中です...