Trisphere 〜三界紀の黎明

NAYUTA

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虚空に呻く者

ヒルコ・アメノマナカ(HIR-TKM-00 “Ame-no-Manaka”) ―通称:“ツクモ原生体”

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外縁宙域第九航路に浮かぶアマツ宇宙拠点《リュウジン》、、、

正式名称をRyujin Station(リュウジン・ステーション)と言い、アマツ連邦宇宙軍第六宙域管轄に所属する。

この近辺はアマツが独占しており、戦闘ではなく、周辺宙域の探索を主たる任務としている。

巨大な八角環状構造の中心に白金色の「瞑想塔(Meditation Spire)」がそびえ、塔の上部には光輪状のアンテナ群が展開している。

瞑想塔の上部にある上官用の司令室。

吸音処理された壁が音を飲み込み、漂うのは僅かな香木の煙と冷えた金属の匂いだけ。

アマツ宇宙軍・上級幹部補佐ユイチ・サイジョウは白銀の袈裟型制服を正し、中央の円形モニターの前に座っている。

知的で冷徹そうな外見、そして、内面は権勢欲とプライドに満ち満ちていた。

地球本部からの映像が投影されている円形モニターには、ユイチの上官である東方審問院の僧将たちの姿が浮かんでいる。

彼らは光の向こうで、祈るように手を組んでいた。

“和合”のための祈りを聖なるものとするアマツ連邦。

その手の組み方は、限られた僧将のみに許されたものだ。

その横の資料投影モニターには黒色の単細胞生物の顕微鏡写真と凶暴な表情を浮かべて口から涎を流す囚人の画像。

ヒルコ・アメノマナカ(HIR-TKM-00 “Ame-no-Manaka”)―通称:“ツクモ原生体”“アメノマナカ”の本体とそれに罹患した囚人だ。

同じ画像を地球上の僧将たちも見ているはずだ。

「報告を受けた新発見のヒルコ、アメノマナカは、予想以上の成果を出している」

「ほお、、、」

ユイチは驚きの表情を浮かべる。

「予想以上の成果ですと?ということは、もう実戦に投入されたのですか、、、」

「ああ、そうだ」

僧将は愉快そうに笑った。

「君からの十体の検体プレゼント、、、冷凍睡眠から目覚めさせた後、しばらくは見飽きなかったが、すぐに三体くらい壊れてしまってね、、、僧たちからも気味悪いとか、世話が面倒とか苦情が殺到したんで、実地検証に移らせてもらったよ、、、」

「実地検証ですか、、、しかし、あんな未知のものをどうやって、、、」

「南極大陸へ経由で、南米のトナティウカン領に放ったよ、、、中継映像を送るカメラ付きドローンと共にね。いやぁ、なかなかの働きぶりだった。すぐに壊れるが、代わりが着実に増える。そして、トナティウカンの筋肉頭どもは、原因には気付かず右往左往している。もう、村が5~6個、滅したはずだ、、、ジワジワと都市部に近づいておるよ、、、」

通信の向こう、僧たちの笑い声が重なった。

深い祈りの間と呼ばれる高僧の集う部屋に響く乾いた笑い。

“精神”と“和”を標榜するもの達の真の姿。

「それで“アメノマナカ”の調査、研究は進んでおるのかね、、、」

問われたユイチは静かに頷いた。

「はい。ツクモ原生群の適応実験は継続中です。寄生の速度、同調率、いずれも過去データを順調に上回る結果を上げております」

「だが脆い、、、」

別の僧が口を挟む。

その声はまるで説法の一節のように柔らかい。

「宿主は短期間で崩壊する、、、そうだな?」

ユイチは目を伏せた。

「はい。現状では、宿主の神経構造が長期支配に耐えられません。身体は保持されても、精神が先に壊れ、結果、滅びを向かえます」

映像の中、上座の僧がゆるやかに笑った。

「壊れても構わん。新たに増えるのだからな」

ユイチの眉が微かに動く。

だが彼は言葉を挟まなかった。

「だが、恒常的な局地戦に投入するには脆い。放った後は神々の思し召しに任せることになるのだから、、、」

「その辺りの対策は、“リュウジン”で立案しているのかね」

僧のひとりが、冷たい声で言った。

「生物兵器への補強の研究は着々と進めております」

「ほぉ、、、具体的には?」

「ツクモで採取した寄生体、群体を基に、適合条件を探っております。本日、サンプル候補を一名“ツクモ”へと送り込みました」

「サンプル候補?」

「遺伝構造と精神耐性を照合し、最も適合率の高い者を数パターン選び、生体実験を開始します」

「今までの正体実験とはどう違うのかね」

「これまでは、捕虜を使って闇雲に実験を行っておりましたが、捕虜達から取ったデータに基づき、アマツ兵から候補を選んでおります。これまでの検体実験から、オリュンポス、トナティウカンのDNA型よりも、我がアマツの民のDNA型の方が精神的制御が効くことは明白なので、、、」

「我がアマツの民を実験体に?」

一人の僧が不快そうに言う。

「いや、その者も、我がアマツの繁栄のためにその身を捧げるのであれば、本望でしょう」

「アマツのために命を捧げれば、“ゴクラクジョウド”への道は確約されるでしょうからな、、、」

「ユイチ、期待しておるぞ、、、」

そして、通信に設定されていた時間が終わる。

円形モニターの光が消える。

ふう、、、

ユイチは小さくため息を吐く。

今日も無駄な会議に付き合わされた、、、いや、無駄どころか不快な会議だった。

前回、“リュウジン”での研究成果の報告をした時に、“アメノマナカ”の検体が増え、制御方法も見つかっていることを話したのがまずかった。

画像だけではわからぬ、検体の現物を地球に送れと僧将じいさま達が言い出した。

大事な検体の中から泣く泣く送った十体だと言うのに、見せ物程度にしか扱わず、扱いに困って敵地に放つとは、、、

その十体があれば、もう少し研究が進んだものを、、、

ユイチはイラつきを隠せない。

だが、アマツの民を検体に使ったことに関し、“ゴクラクジョウド”を持ち出し、正当化してくれたのは、良かった。

卓上のモニターを押す。

“ツクモ”に向かっている地上探索型ポッド〈ゲンブ型〉 のコクピットの映像が粗い粒子で投影される。

ナギが着陸に向けての操作をしている様子が映る。

ユイチの顔に冷笑が浮かぶ。

ナギ、、、何も知らずに、、、

ククッと笑う。

ナギ、、、私からリュウを奪った罪は重いのだよ、、、

適合値の高いアマツ兵のリストの中に、ナギ・アマサトの名を見つけた時に、天啓と感じた。

成果を上げてくれよ、ナギ、、、

粘液のように蠢く大地を有する赤黒い惑星“ツクモ”の不気味な光景を脳裏に浮かべ、ユイチは満足そうな笑みを浮かべた。


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