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虚空に呻く者
地上探索型ポッド〈ゲンブ型〉 降下
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――ツクモ軌道上、標準時刻04:22。
地上探索型ポッド〈ゲンブ型〉は、ゆっくりと惑星の引力に引き込まれつつあった。
外殻を覆う耐熱シールドが薄い橙光を放ち、機体の表面を流れるプラズマが、まるで神の御衣の裾のようにたなびく。
コックピットの内部は静寂そのものだった。
ただ、制御装置の光が淡く点滅し、心拍数や酸素濃度を映すモニターの音が一定のリズムで響いている。
ナギ・アマサトは操縦席に座り、両手で静かにレバーを握っていた。
彼の指は節が太く、しかし動きは信じられないほど滑らかだった。
モニターに流れる数値を見つめるその眼差しは、訓練で鍛え上げられた冷静さと、何かを押し殺したような深い光を湛えている。
ヘルメットの内側で、ナギの吐息が曇り、すぐに消えた。
外部センサーのノイズが断続的に響く。
「気圧層通過、、、反応安定。放射線値、許容範囲」
彼は淡々とヘルメットに内蔵されたマイクに向け報告を口にした。
その声は低く、抑揚が少ない。だが、どこか芯のある響きがあった。
冷静。
だが、異常なほどに。
ヘルメットを軽く傾けた瞬間、照明が頬を照らす。
整ったナギの顔立ちが覗く。
瞼の形は鋭く、それでいて長い睫毛が陰影を柔らかく包む。
唇は薄く引き結ばれ、口角には一切の感情が浮かばない。
だが、黙して語らぬその表情に、見る者は必ず“何かを抱えている”と感じた。
首筋から肩にかけて、スーツ越しでも分かる厚みがあった。
ラボ勤務の研究官にしては異様なほどの体幹。
それもそのはずだ。
ラボに移動になる前には軍の最前線で、兵士として、兵器の開発、整備に携わっていた。
訓練も他の戦闘員と同様のものを受けている。
上官からはその身体能力を買われていたが、技術者としての腕が高く、後方での支援を行なっていた。
胸郭は広く、呼吸に合わせてゆっくりと上下し、
鎖骨から肩にかけてのラインが機能美そのもののように流れている。
重力調整装置が作動するたび、筋肉がわずかに震えた。
その震えが、まるで装甲の内側で心臓が脈打つような生々しさを伴う。
指先を伸ばせば、硬質な金属の冷たさが掌を包み、その感覚が彼の神経を研ぎ澄ませる。
「機体姿勢、修正……角度マイナス八度。エンジン出力、維持。」
ナギの報告の声が静かに響く。
まるで呼吸の一部のように、完璧に制御された音。
だが、ほんの一瞬、、、
彼の視線が遠くの一点に止まった。
モニターに映るツクモの表面。
無数の赤黒い丘陵、流れるような粘質の反射。
まるで、惑星そのものが“生きている”ように見える。
「生体反応、なし。だが、、、」
わずかに眉をひそめる。
ノイズ混じりの計測値が、微かに波打っていた。
呼吸のように、周期的に。
ナギは無言のまま、右手のスイッチを押した。
機体の姿勢が滑らかに傾き、ツクモの地平線がゆっくりと窓いっぱいに広がる。
赤。
灰。
そして――黒。
それは、炎の消えた戦場のような色だった。
不気味なまでに静かで、どこまでも広い。
「まるで、海底みたいだ、、、」
独り言のように呟く。
その声の調子には、わずかに人間らしい驚きが混じった。
ここで調査を行うのか、、、
一人で、、、
なぜ、最前線の基地で技術をふるっていた自分が、こんな辺境の地の調査ををしなければならないのだ、、、
“和”を尊ぶアマツ軍で、己の我を通すのは御法度だ。
だから、ラボ勤務の辞令に異議を唱えず、従った。
しかし、内心では、格下のラボ勤務に移動になったことには納得がいかなかった。
しかも、移動してすぐの任務が、辺境惑星“ツクモ”の地上探索。
無人ドローンでも可能な任務だ。
そんなつまらない任務を何故俺に、、、
感情に息が荒くなり、心拍が違ったようだ。
小さく警告音が鳴る。
ナギは、深呼吸し息を整え、再び冷静な顔に戻る。
そうだ。
今は、観測だ。
与えられたミッションをこなすだけ。
感情は不要。
ナギは、内心の感情を静かに押し殺す。
感情を封じること、それがアマツ軍の“呼吸法”だった。
彼は再び無表情に戻り、操縦桿を握る。
ポッドは滑らかに高度を下げ、赤黒い雲の層を突き抜けていく。
薄い霞が機体の装甲に絡み、そのたびに青白い光が一瞬だけ閃く。
「着陸まで、あと四十秒」
ナギの声が、通信ログに自動で記録される。
その声は、落ち着き、感情はない。
だが、その瞳の奥では、何かが僅かに揺れていた。
地上探索型ポッド〈ゲンブ型〉は、ゆっくりと惑星の引力に引き込まれつつあった。
外殻を覆う耐熱シールドが薄い橙光を放ち、機体の表面を流れるプラズマが、まるで神の御衣の裾のようにたなびく。
コックピットの内部は静寂そのものだった。
ただ、制御装置の光が淡く点滅し、心拍数や酸素濃度を映すモニターの音が一定のリズムで響いている。
ナギ・アマサトは操縦席に座り、両手で静かにレバーを握っていた。
彼の指は節が太く、しかし動きは信じられないほど滑らかだった。
モニターに流れる数値を見つめるその眼差しは、訓練で鍛え上げられた冷静さと、何かを押し殺したような深い光を湛えている。
ヘルメットの内側で、ナギの吐息が曇り、すぐに消えた。
外部センサーのノイズが断続的に響く。
「気圧層通過、、、反応安定。放射線値、許容範囲」
彼は淡々とヘルメットに内蔵されたマイクに向け報告を口にした。
その声は低く、抑揚が少ない。だが、どこか芯のある響きがあった。
冷静。
だが、異常なほどに。
ヘルメットを軽く傾けた瞬間、照明が頬を照らす。
整ったナギの顔立ちが覗く。
瞼の形は鋭く、それでいて長い睫毛が陰影を柔らかく包む。
唇は薄く引き結ばれ、口角には一切の感情が浮かばない。
だが、黙して語らぬその表情に、見る者は必ず“何かを抱えている”と感じた。
首筋から肩にかけて、スーツ越しでも分かる厚みがあった。
ラボ勤務の研究官にしては異様なほどの体幹。
それもそのはずだ。
ラボに移動になる前には軍の最前線で、兵士として、兵器の開発、整備に携わっていた。
訓練も他の戦闘員と同様のものを受けている。
上官からはその身体能力を買われていたが、技術者としての腕が高く、後方での支援を行なっていた。
胸郭は広く、呼吸に合わせてゆっくりと上下し、
鎖骨から肩にかけてのラインが機能美そのもののように流れている。
重力調整装置が作動するたび、筋肉がわずかに震えた。
その震えが、まるで装甲の内側で心臓が脈打つような生々しさを伴う。
指先を伸ばせば、硬質な金属の冷たさが掌を包み、その感覚が彼の神経を研ぎ澄ませる。
「機体姿勢、修正……角度マイナス八度。エンジン出力、維持。」
ナギの報告の声が静かに響く。
まるで呼吸の一部のように、完璧に制御された音。
だが、ほんの一瞬、、、
彼の視線が遠くの一点に止まった。
モニターに映るツクモの表面。
無数の赤黒い丘陵、流れるような粘質の反射。
まるで、惑星そのものが“生きている”ように見える。
「生体反応、なし。だが、、、」
わずかに眉をひそめる。
ノイズ混じりの計測値が、微かに波打っていた。
呼吸のように、周期的に。
ナギは無言のまま、右手のスイッチを押した。
機体の姿勢が滑らかに傾き、ツクモの地平線がゆっくりと窓いっぱいに広がる。
赤。
灰。
そして――黒。
それは、炎の消えた戦場のような色だった。
不気味なまでに静かで、どこまでも広い。
「まるで、海底みたいだ、、、」
独り言のように呟く。
その声の調子には、わずかに人間らしい驚きが混じった。
ここで調査を行うのか、、、
一人で、、、
なぜ、最前線の基地で技術をふるっていた自分が、こんな辺境の地の調査ををしなければならないのだ、、、
“和”を尊ぶアマツ軍で、己の我を通すのは御法度だ。
だから、ラボ勤務の辞令に異議を唱えず、従った。
しかし、内心では、格下のラボ勤務に移動になったことには納得がいかなかった。
しかも、移動してすぐの任務が、辺境惑星“ツクモ”の地上探索。
無人ドローンでも可能な任務だ。
そんなつまらない任務を何故俺に、、、
感情に息が荒くなり、心拍が違ったようだ。
小さく警告音が鳴る。
ナギは、深呼吸し息を整え、再び冷静な顔に戻る。
そうだ。
今は、観測だ。
与えられたミッションをこなすだけ。
感情は不要。
ナギは、内心の感情を静かに押し殺す。
感情を封じること、それがアマツ軍の“呼吸法”だった。
彼は再び無表情に戻り、操縦桿を握る。
ポッドは滑らかに高度を下げ、赤黒い雲の層を突き抜けていく。
薄い霞が機体の装甲に絡み、そのたびに青白い光が一瞬だけ閃く。
「着陸まで、あと四十秒」
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だが、その瞳の奥では、何かが僅かに揺れていた。
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